1. 動物実験
1) 急性実験
ウサギにDDVP, バミドチオン, MBCPを急性投与し, 皮質ならびに深部脳波, 心電図の変化を観察した。
DDVP投与では, 投与後きわめて早期に心電図上いちじるしい徐脈, 不整脈が出現, 少量投与時はこれが回復するとともに, 脳波に覚醒波形出現し長時間続いた。大量投与時では徐脈は回復せず, 次第に脳波は平坦となり, 脳死が心臓死に先行してあらわれた。
バミドチオン投与でも, DDVPとほぼ同様の反応様式をしめした。
MBCP投与では, 投与後長時間たってから, 脳波上皮質運動領に発作性異常波の間歇性出現をみた。一部の例では, これと並行して, 海馬, 扁桃核にも同様異常波の出現をみた。
2) 亜急性実験
あらかじめ皮質電極を装置したサルに, スミチオン, MBCPの少量を10日おきに10回にわたって経口投与し, 脳波, コリンエステラーゼ値また一般状態の変化を観察した。
スミチオン投与では, 脳波は毎回とも, 投与3時間後から1日後まで徐波の出現がみられ, 2日目以降回復の傾向をしめした。しかし8回投与頃から, 徐波の出現は持続的にみられた。血液コリンエステラーゼ値も, 1日後まで減少, 2日目からは回復傾向をしめした。しかし5回投与頃から, 投与前でも1回投与前の値まで回復しなかった。一般状態の変化は, 投与直後流涎, 下痢, 嘔吐などがみられ, 餌の摂取も悪かったが, 2日目以降は回復していった。
MBCP投与では, 脳波は遅発性 (72日以後) に発作性異常波の出現がみられ, 固定化する傾向であった。血液コリンエステラーゼ値は, ほぼスミチナン投与時と同様の経過をしめした。一般状態は投与直後でもあまり変化しなかった。
2. 農薬使用者に対する神経学的検索
長年農薬の散布に従事している農民を対象に, 脳波, 血液コリンエステラーゼ値, 神経学的検査などを4年間にわたって追跡調査を行った。
脳波所見は, 男性において閉眼安静時記録で, θ波をふくむslow α activityの中等量以上の出現がかなり高率にみられ, 年々増加の傾向をしめした。女性では, 男性よりもこの出現率は少なかったが, これも年々増加傾向であった。
血液コリンエステラーゼ値は, 各年とも, また男女とも, 低下をしめすものが高率にみられた。
神経学的理学所見は, ほとんど異常をみとめなかった。
抄録全体を表示