日本消化器外科学会雑誌
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29 巻, 9 号
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  • 安富 正幸
    1996 年 29 巻 9 号 p. 1857-1867
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    約35年間に経験した大腸癌治療の変遷をのべた.1961年以前の直腸癌手術は直腸切断術のみであったが, その後の標準手術はpull-through (陣内) から前方切除術と変容した.器械による超低位吻合の機能改善に結腸J-pouchが有用である.拡大郭清と臓器の機能温存は相反する.そこで術後機能評価とclearing法によるリンパ節の検索と生存率から拡大郭清は下部直腸と肛門管のT3とT4の癌に限るべきである.また骨盤リンパ節転移例は郭清によっても26%の5生率にすぎないので癌の局所制御のために補助療法が必要なことが示された.神経温存のうち全温存によって排尿と勃起機能はよく保たれるが, 射精機能は不十分であった.部分温存では排尿は良好であったが性機能は不良であった.肝転移は患者の予後を決定する最大の因子である.肝臓が骨髄外造血臓器であることに着目し, 切除不能肝転移に対しIL-2, MMC, 5-FUの肝動注を行い, 76%の奏効率と28%の5生率を得た.
  • 野村 勝俊, 野口 芳一, 大島 貴, 吉川 貴己, 福沢 邦康, 牧野 達郎, 円谷 彰, 松本 昭彦
    1996 年 29 巻 9 号 p. 1868-1872
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    X胃切除後, vitamin B12 (以下, Vit.B12) や葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血の出現は広く知られているが, 両者とも正常でありながら大球性貧血を呈する症例も少なくない. これらVit. B12, 葉酸欠乏だけでは説明し得ない大球性貧血の原因の一部を明らかにするために, 胃切除後におけるVit. B12結合蛋白の変化につき検討した. 対象の胃切除症例151例中105例に貧血が認められ, うち35例は大球性貧血を呈した. 大球性貧血症例中結合蛋白量を測定し得た15例において結合蛋白総量はコントロールに比し増加しており, この傾向は血中B12濃度の正常な症例においても認められた. またVit. B12を組織中に移行させ得る唯一の蛋白であるtranscobalamin II (以下, Tc II) は胃切除群において変化を認めなかったが, Vit. B12と結合しているholo-Tc IIは減少する傾向にあった. これらの結果から胃切除後に血中濃度には反映されなくとも, 体内のVit. B12欠乏が進行している可能性が考えられた.
  • 大多和 哲, 宮崎 勝, 尾形 章, 林 伸一, 中島 伸之
    1996 年 29 巻 9 号 p. 1873-1880
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    雑種成犬36頭を用いて70%の拡大肝切除 (70% HTX) を行い, 脾動静脈シャントによる門脈の部分動脈血化を試み, 残存肝機能および肝再生にあたえる影響を, 肝切除 (1群), 肝切除+脾摘 (II群), 肝切除+脾摘+シャント (III群) の3群を作製し検討した. 動脈血中ケトン体比は, III群がほかの2群に比べ, 1PODにおいて有意に高値を示し (p<0.05), ヘパプラスチン値では, 4および7PODにおいて, III群で高値を示した (p<0.05). 肝DNA合成能は, 4, 7PODともにIII群で最も強い亢進を認め (p<0.05), 再生肝のMIB-1免疫組織染色でもIII群が最も強いlabelling indexを示した. 大量肝切除時の門脈の部分動脈血化は, 残存肝のエネルギー供給を増加させることにより残存肝の肝再生を促進させ肝機能回復を速めることが示唆された.
  • 平原 典幸, 仁尾 義則, 三成 善光, 佐藤 仁俊, 角 昭一郎, 田村 勝洋
    1996 年 29 巻 9 号 p. 1881-1890
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    Fibronectin (以下, FN) の発現, および局在を膵癌原発巣53例 (うち, 粘液産生膵癌9例), 転移巣26例, および膵良性疾患22例において免疫組織学的に検索し, 臨床病理学的因子や予後との関連から検討した. 基底膜FNの陽性率は原発巣11%, 転移巣8%, 良性疾患22%で, 差はなかったが, 粘液産生膵癌では56%で, 通常の浸潤性膵管癌に比べ有意に高かった. また, 周囲間質FNの陽性率は, 原発巣36%, 転移巣27%, 良性疾患100%で, 良性疾患では他の2群に比べ有意に高かった. 臨床病理学的因子との関係では, 基底膜FNの陽性率はT1群33%, T2以上群7%であり, またN (-) 群25%, N (+) 群5%と, T因子, N因子の進行に伴い有意に低下した. さらに, 基底膜FN陽性例は, 予後良好であった. 以上, 膵癌におけるFNの発現性低下は予後不良を示唆し, 生物学的悪性度を反映していると考えられた.
  • 遺伝子組換え型ヒトエリスロポエチンの有用性
    加藤 正久, 脇本 信博, 安達 実樹, 横畠 徳行, 福島 亮治, 安齋 光昭, 栄 和子, 杉山 美雪, 沖永 功太
    1996 年 29 巻 9 号 p. 1891-1899
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    消化器癌患者19例に対し, 術前貯血式血己血輸血を行った. 対象患者は, 胃癌全摘7例, 直腸癌8例, 食道癌4例で, 初期Hb値が13.0g/dl未満の患者 (I群) ではr-HuEPO (KRN5702) 24,000単位を週1回皮下投与のうえ800mlの貯血を行い, 13.0g/dl以上 (II群) ではr-HuEPOを併用せずに貯血を行った. II群では貯血に伴いヘモグロビン値は有意に低下したが, I群では低下を認めず, 貯血量は両群に差はなかった. また, 同種血輪血併用例はII群の1例のみであった. 網状赤血球数, 血漿エリスロポエチン濃度, 貧血回復率はI群が有意に高値であった. 貯血に伴う鉄代謝の変化では, 癌患者における鉄の利用障害が示唆された. また, 貯血によって血清蛋白および凝固能の軽度低下が認められたが, 貯血およびr-HuEPO投与による重篤な合併症は認められなかった.消化器癌患者における自己血輸血は安全に施行でき, 軽度貧血例においてはr-HuEPOの併用が有効であると考えられた.
  • 上平 裕樹
    1996 年 29 巻 9 号 p. 1900-1910
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    Biological response modifiers (BMR) によるサイトカイン誘導機序を解明する目的で, ヒト末梢血単核球をOK-432あるいはpolysaccharide K (PSK) で刺激し, サイトカインmRNAの発現をreverse transcription-polymerase chain reaction (RT-PCR) を用いて経時的に解析した. IL-1β, IL-6, TNF-αmRNAは1時間以内に発現が増強した. IL-2, IFN-γmRNAはOK-432では3時間後より誘導されたが, PSKでは24時間まで誘導されなかった. サイトカイン蛋白はmRNA誘導より1~3時間のタイムラグをもって産生された. 次にBRMに対する感受性の個体差を検討するため, 臨床症例にOK-432を投与し, 末梢血単核球におけるサイトカインmRNAの発現を解析した. 皮内投与では多種のサイトカカインmRNAが強く誘導される症例 (high responder) が34例中4例あり, このような症例がBMR療法奏効例になるものと推察された.
  • 松本 敏文, 古田 斗志也, 原口 勝, 勝田 猛, 江口 哲, 森井 雄治, 竹内 裕昭, 穴井 秀明
    1996 年 29 巻 9 号 p. 1911-1915
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    肝内胆管癌の診断にて手術を施行したが, 腫瘤を形成せずに胆管内のみに発育増強した1例を経験したので報告した. 症例は62歳の女性で心窩部痛を主訴に近医を受診し, 肝内胆管癌の診断を得て手術を目的に当院を紹介された. 腹部超音波検査およびCT検査にて肝右葉に径約4cmの腫瘤を認め内部に肝内胆管の拡張を認めた. 術中超音波検査を用い腫瘍を確認し肝右葉切除術を施行したが, 腫瘤形成はなく肝内胆管の拡張とその内腔に多数の腫瘍栓を認めるのみであった. 組織学的には胆管壁および腫瘍栓とも高分化型腺癌であった. 腫瘤を形成せず肝内胆管の内腔のみに発育する肉眼形態像は, 現在, 分類上一定の見解がない. また術前に胆管内発育型の肝内胆管癌を診断することは難しく, さらには進展範囲の確認が困難で切除範囲の決定に際しても慎重を有すると考えられた.
  • 原 章二, 徳村 弘実, 佐藤 敬文, 今岡 洋一, 大内 明夫, 山本 協二, 松代 隆
    1996 年 29 巻 9 号 p. 1916-1920
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は75歳の女性. 腹部手術の既往はない-腹痛と嘔吐が突然出現し, 腸閉塞の診断で近医入院. 保存的治療後, 当院に転院した. イレウスチューブにより症状改善したため経口摂取開始したが, 右股関節痛そして発熱, 右大腿の発赤腫脹が出現. 皮下膿瘍をみたため, 右大腿部の切開排膿を行った. しかし, 切開口より便臭を伴う膿の排出が続き, 周辺は皮膚から筋膜まで壊死に陥った. 瘻孔造影にて小腸内腔に造影剤の流入が認められた. 右大腿ヘルニアの小腸嵌頓による腸閉塞および小腸壊死による大腿管からの小腸瘻と診断し, 手術を施行した. 回腸壁の一部が, 大腿管に嵌頓し, 穿孔を起こしており, 回腸部分切除術を行った. 右大腿部は壊死性筋膜炎の状態でデブリードマンを行った. 以上, 大腿ヘルニアのRichterヘルニアは局所所見が乏しいため診断が遅れやすく, 腹部手術既往のない腸閉塞には考慮すべき疾患と考えられた.
  • 谷藤 公紀, 池田 史仁, 片柳 創, 粕谷 和彦, 谷藤 和弘, 小柳 泰久
    1996 年 29 巻 9 号 p. 1921-1925
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    人工肛門や絶食により長期間空置された消化管は萎縮性変化をきたすことが知られている. 今回我々は, 回腸瘻のため50年間食物の通過のなかった空置回腸と結腸と再使用後の結腸粘膜を組織学的に検討した. 症例は73歳の女性. 卵巣疾患の手術後の回腸瘻に対し, 瘻孔を含め盲腸から回腸末端部を約1m切除した. 肉眼的に瘻孔肛門側の回腸筋層の著しい萎縮がみられ, 組織学的には腺管密度と絨毛の丈の低下による回腸粘膜の表面積の減少がみられた. また刷子縁・微絨毛は保たれており, 吸収上皮としての形態はみられた. 完全絶食は刷子縁・微絨毛を消失させるとの報告を考慮すると, 自験例のように消化管を使った消化活動の継続は空置腸管の吸収機能 (刷子縁・微絨毛) の維持に必要であると考えられた. また空置結腸には非特異性慢性炎症細胞浸潤がみられ, 再使用1年後の生検組織像ではそれらが消失したことから, 水分吸収障害の原因と考えられた.
  • 山中 達彦, 岡田 和也, 高橋 護, 竹本 将彦, 田村 泰三
    1996 年 29 巻 9 号 p. 1926-1930
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    右側結腸に穿孔性多発潰瘍を認めた腸型ベーチェット病疑診の1手術例を経験したので報告する. 症例は46歳の女性で, 既往歴に口腔内アフタ性潰瘍を認めた. 入院後汎発性腹膜炎の診断で緊急開腹し, 右側結腸に多発性穿孔を認め, 右側結腸広範切除術を施行した. 切除標本では結腸の随所に大小不同の紡錘形を呈する境界明瞭な強い打ち抜き状の潰瘍およびびらんを認め, 少なくとも15か所以上で穿孔していた, 術後外陰部アフタを認め, human leucocyte antigen (HLA) B5, B51が陽性であることより腸型ベーチェットが疑われた. 今回のごとく特徴的な潰瘍形態を呈した結腸型べーチェット多発穿孔例は文献的に非常にまれと考えられた.
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