日本消化器外科学会雑誌
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51 巻, 12 号
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症例報告
  • 梅木 祐介, 柴崎 晋, 戸松 真琴, 中村 謙一, 中内 雅也, 中村 哲也, 菊地 健司, 角谷 慎一, 稲葉 一樹, 宇山 一朗
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 12 号 p. 731-738
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/29
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    食道切除後に心タンポナーデを発症することは非常にまれである.今回,食道胃接合部癌根治術後に心タンポナーデを発症した1例を経験したので報告する.症例は64歳の女性で,健診にて異常を指摘され当院紹介となり,精査にて食道胃接合部腺癌(E=G,cStage IA)と診断された.経裂孔的下部食道切除を伴う腹腔鏡下噴門側胃切除術,観音開き法による縦隔内食道残胃吻合を施行した.術中偶発症は認めなかった.術翌日の夕方より酸素飽和度の低下,低血圧,ならびに頻脈を来した.UCG,CTにて心囊液貯留を認め,心タンポナーデと診断した.直ちに心囊穿刺ドレナージを行い,約250 mlの淡血性排液がひけるとともに速やかにバイタルサインは改善した.その後の経過は良好で,術後20日目に退院となった.原因は特定できなかったが,術中の運針による心囊の微小損傷が心タンポナーデ発症要因の一つと考えられた.

  • 三木 明寛, 石川 順英, 長尾 美奈, 甲田 祐介, 池田 温至, 大谷 剛, 小森 淳二, 荻野 哲朗
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 12 号 p. 739-747
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/29
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    症例は77歳の女性で,3年8か月前に幽門前庭部に生じた3か所の早期胃癌を内視鏡的粘膜下層剥離術(以下,ESDと略記)で一括切除され,いずれも治癒切除と診断された.今回,3か月ほど続く心窩部痛で受診した.CEA 6.0 ng/mlと上昇し,CTで小彎リンパ節が20 mm大に腫大しFDG-PETでSUV max 7.80と高集積を認めた.ESD後のリンパ節転移を疑い,D2郭清を伴う幽門側胃切除術を施行した.病理組織学的検査で結節は中分化管状腺癌だったが,リンパ節構造のない壁外非連続性癌進展病巣のtumor noduleと診断された.ESD標本の追加切片で脈管侵襲像を認め早期胃癌の再発と診断した.ESD治癒切除診断後の再発例は非常にまれであり,非治癒因子や病理組織学的特徴を明らかにするには,さらなる症例の蓄積が必要と考えられた.

  • 材木 良輔, 林 泰寛, 杉本 優弥, 久野 貴広, 大畠 慶直, 中沼 伸一, 宮下 知治, 田島 秀浩, 高村 博之, 池田 博子, 太 ...
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 12 号 p. 748-756
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/29
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    症例は50歳の女性で,統合失調症で通院加療中であった.右季肋部痛を主訴に近医受診し,腹部腫瘤を指摘され精査目的で当科紹介となった.血液検査では貧血と黄疸を認めた.CT,MRIでは,肝右葉に直径16 cm大の腫瘍を認め,多房性の囊胞成分と淡く造影される隔壁,充実成分と,一部に出血を認めた.また,腫瘍により,門脈本幹,総胆管,下大静脈の圧排を認めた.経過で貧血の進行があり,腫瘍内出血が疑われた.血管造影では,腫瘍内に3か所の血管外漏出像を認め,塞栓術を行った.内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage;ENBD)を留置し減黄したうえで,右肝切除を施行した.病理組織学的検査所見から,肝未分化肉腫と診断された.術後17か月経過した現在,無再発生存中である.肝未分化肉腫は主に小児に発生する肝原発間葉系悪性腫瘍で,成人に発症する例は極めてまれである.予後不良な疾患であり,その改善には化学療法を含めた集学的治療法の確立が望まれる.

  • 余語 覚匡, 廣瀬 哲朗, 阿部 由督, 伊藤 孝, 中村 直人, 松林 潤, 大江 秀明, 奥野 知子, 土井 隆一郎
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 12 号 p. 757-766
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/29
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    症例は56歳の女性で,9年前に右浸潤性乳管癌に対して右乳房切除術および腋窩リンパ節郭清を施行され,術後3年目までに肝・骨転移を認めたが集学的加療を行うことでそれぞれ完全・部分奏効を得ていた.術後6年目に胆囊に小隆起性病変を認め,術後9年目にはそれ以前に認めなかった急峻なCEAの上昇(45.6 ng/ml)とPETで強い集積を認め,胆囊体部の2.5 cm大の広基性隆起性病変への増大が指摘された.穿刺生検は腫瘍播種の危険性を考慮し施行せず,胆囊ならびに胆囊床部切除を行い,病理組織学的検査では胆囊壁全層に胞巣状・索状の腺癌の病変と,肝浸潤・リンパ節転移を認めた.ホルモン受容体およびHER2サブタイプは乳癌病変と一致した.乳癌胆囊転移の症例は他に28例を認めるが,うち浸潤性乳管癌では6例とまれである.術後長期を経た浸潤性乳管癌であっても,胆囊の腫瘍性病変の鑑別には乳癌転移を考える必要がある.

  • 檜山 和寛, 寺島 秀夫, 角 勇作, 中野 順隆, 今村 史人, 間瀬 憲多朗, 丸森 健司, 神賀 正博, 堀口 尚
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 12 号 p. 767-774
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/29
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    症例は64歳の女性で,腹部圧迫感を自覚し,前医で後腹膜腫瘍と診断され,精査加療目的に当科を受診した.腹部CTで,左後腹膜に膵尾部との境界が不明瞭な28 cm大の腫瘤が指摘された.腫瘤による腹部圧迫症状が強いことから手術の方針となった.手術所見では膵尾部と連続して腫瘤が存在し,膵原発腫瘍と判断した.一括切除を目的とし,膵体尾部切除術(脾臓合併切除)を施行した.切除標本の免疫組織化学染色検査で孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor;以下,SFTと略記)と診断された.過去の報告と比較して非常に巨大であったが,核分裂像は少数で,MIB-1 indexは5%未満であった.術後30か月が経過した現在,無再発で経過観察中である.膵原発SFTは非常にまれであり,本症例を含め29例の報告しか存在せず,文献的考察を加えたところ,腫瘍径と悪性度は必ずしも相関しない可能性が示唆された.

  • 小峰 竜二, 南村 圭亮, 清水 篤志, 森 和彦, 平田 泰, 小林 隆, 長内 享, 三浦 純男
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 12 号 p. 775-783
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/29
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    腹部内臓動脈瘤はまれな疾患であるが,破裂した場合の致死率は依然として高く,極めて重篤な疾患である.今回緊急開腹手術で救命しえた脾動脈瘤破裂の4例を報告する.4例中2例は膵仮性囊胞を伴う瘤の破裂で,1例はhemosuccus pancreaticusによる消化管内出血,1例は孤立性特発性腹腔動脈解離に続発した瘤の破裂であり,それぞれ発症過程と出血様式が異なった.術式は2例で膵体尾部・脾臓合併切除を要し,2例は脾動脈結紮のみで脾臓を温存しえた.瘤破裂時は下血や腹痛など多彩な症状を呈すが,迅速な診断と適切な処置が予後を左右する.Interventional radiologyによる血管内治療も重要な治療戦略であるが,開腹手術は破裂時も確実に有効な手段であり,双方を行える体制で治療を行うことが望ましいと考えられる.

  • 佐々木 寛文, 池内 浩基, 皆川 知洋, 桑原 隆一, 堀尾 勇規, 蝶野 晃弘, 坂東 俊宏, 井出 良浩, 廣田 誠一, 内野 基
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 12 号 p. 784-790
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/29
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    症例は63歳の男性で,32歳時に潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;以下,UCと略記)と診断された.33歳時に難治のため,大腸全摘・J型回腸囊肛門吻合術(ileal pouch-anal anastomosis)を受けた.初回手術から25年経過し,58歳頃より下痢・下血・肛門部痛を認め,回腸囊炎と診断され,症状増悪時に抗生剤投与が行われていた.63歳時に,肛門部痛の増強を生じ,精査で,回腸囊炎の増悪と吻合部の瘻孔形成が認められた.絶食・点滴・抗生剤加療で,回腸囊炎は改善傾向であったが,内視鏡検査時に指摘された回腸囊内の隆起性病変からの生検で,low grade dysplasiaを認めた.回腸囊炎はその後も再燃を繰り返していた.6か月後の下部消化管内視鏡検査では,同部位の生検でhigh grade dysplasia(以下,HGDと略記)と診断された.肛門部の瘻孔も合併することよりJ型回腸囊切除術・永久回腸人工肛門造設術を行った.UC術後30年でJ型回腸囊にHGDを合併した,極めてまれな1例を経験したので報告する.

  • 油木 純一, 園田 寛道, 三宅 亨, 植木 智之, 太田 裕之, 清水 智治, 米丸 隼平, 森谷 鈴子, 谷 眞至
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 12 号 p. 791-799
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/29
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    症例1は58歳の男性で,下血を主訴に来院し,精囊・前立腺浸潤を伴う直腸扁平上皮癌と診断した.治療は術前化学放射線療法(neoadjuvant chemoradiotherapy;以下,NACRTと略記)(骨盤4門照射:50.4 Gy(1.8 Gy×28回)併用化学療法:5-FU(1,000 mg/m2,Day 1–4,29–32)+MMC(10 mg/m2,Day 1,29))後に骨盤内臓全摘術を行い,病理学的完全奏効(complete response;以下,CRと略記)と診断された.症例2は65歳の男性で,糞尿を主訴に当院泌尿器科を受診し,膀胱浸潤を伴う直腸扁平上皮癌と診断した.症例1と同様にNACRT後骨盤内臓全摘術を行い,病理学的CRと診断された.直腸扁平上皮癌は非常にまれな疾患であり,確立された治療法はなく,今後の治療法の選択に示唆に富む症例と考えられた.

  • 鳥谷 建一郎, 石部 敦士, 諏訪 雄亮, 樅山 将士, 渡邉 純, 松山 隆生, 秋山 浩利, 大田 貢由, 遠藤 格, 大橋 健一
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 12 号 p. 800-805
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/29
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    症例1は32歳の女性で,便秘と腹部膨満感を自覚し近医を受診し,仙骨前面腫瘍の診断で手術目的に当院を受診した.家族歴として姉に仙骨欠損,直腸脊髄間瘻孔を認めた.経仙骨的骨盤内腫瘍切除術を施行し,腫瘍は完全切除した.病理組織診でtailgut cystと診断した.症例2は64歳の男性で,症例1の父だった.PSA高値の精査で仙骨前面腫瘍を指摘され当院を紹介受診した.腹腔鏡下経腹経仙骨的骨盤内腫瘍切除術を施行し,腫瘍を完全切除した.病理組織診でtailgut cystと診断した.Tailgut cystは胎生初期に存在するtailgutの遺残物が囊胞形成したものである.約10万人に1人と比較的まれな疾患であり,家族内での発生は極めてまれである.本症例は仙骨奇形,肛門奇形を伴っており家族内発生のtailgut cyst症例はCurrarino症候群と関与している可能性がある.

臨床経験
  • 田嶋 哲也, 春木 茂男, 小貫 琢哉, 稲垣 雅春, 有田 カイダ, 薄井 信介, 伊東 浩次, 松本 日洋, 滝口 典聡
    原稿種別: 臨床経験
    2018 年 51 巻 12 号 p. 806-814
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/29
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    横隔膜損傷の治療においては,胸腹部外傷であることを念頭に置いた治療戦略が必要である.当院で経験した左外傷性横隔膜損傷9例と報告例50例の検討から,特に手術アプローチに関して考察する.手術アプローチは,開腹先行46例(2例に開胸追加),開胸先行11例(6例に開腹追加),開胸開腹同時2例であった.予後は合併損傷に影響され,開腹先行で40例生存,6例死亡,開胸先行で6例生存,5例死亡,開胸開腹同時は2例生存であった.循環動態の安定した左横隔膜損傷では手術アプローチを考慮する余地があるが,腹腔内臓器損傷への迅速な対応が予後に影響する可能性もあるため,開腹先行アプローチが推奨される.体位は胸腹部ともにアプローチ可能な右半側臥位が有用であり,開腹+胸腔鏡観察は合理的なアプローチの一つである.

編集後記
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