日本消化器外科学会雑誌
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51 巻, 1 号
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会告
原著
  • 上原 拓明, 薮崎 裕, 松木 淳, 會澤 雅樹, 番場 竹生, 丸山 聡, 野村 達也, 中川 悟, 瀧井 康公, 土屋 嘉昭
    原稿種別: 原著
    2018 年 51 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/01/31
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    目的:残胃の癌の初回胃切除の影響とリンパ節(lymph node;以下,LNと略記)郭清範囲について検討する.方法:当科で経験した幽門側胃切除術後の残胃の癌に対し残胃全摘術を施行した179例を対象とし(初回手術悪性群:M群129例,良性群:B群50例),臨床病理学的因子,生存率,LN転移率,郭清効果指数を評価した.結果:M群はB群と比べ,初回再建法はBillroth-I法が多く(78.3% vs 42.0%,P<0.001),診断までの期間は短かった(86(3~530)か月vs 276.5(14~408)か月,P<0.001).腫瘍最大径は小さく(3.5(0.5~18.8)cm vs 4.15(0.6~15.5)cm,P=0.025),壁深達度は早期癌の割合が多かった(49.6% vs 28%,P=0.014).LN転移例の割合はM群20.2%,B群46%であった(P<0.001).遠隔転移や進行度に有意差を認めなかった.5年生存率はM群で55.5%,B群で60.5%(P=0.862)であった.LN転移率はNo. 1,3,4sb,4d,6,7で,M群と比べB群において高い傾向があった.LN郭清効果指数はM群でNo. 1,2,4sa,11pで高く,B群でNo. 1,2,3,4sa,4sb,10,11p,11d,J1で高かった.結語:初回手術で郭清されていないLN領域で郭清効果が高く,Billroth-II法再建後の症例では,No. J1の郭清効果も高い可能性が示唆された.

症例報告
  • 西田 良介, 田中 寿明, 的野 吾, 森 直樹, 日野 東洋, 門屋 一貴, 最所 公平, 赤木 由人
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 1 号 p. 12-19
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/01/31
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    症例は50歳の男性で,十二指腸潰瘍にて幽門側胃切除(Billroth-I法再建)の既往があった.5年前より食道憩室を指摘されていた.1年前より,通過障害・逆流症状が出現し,症状の増悪を認めたため,当院紹介受診となった.横隔膜上憩室を合併した食道アカラシア(直線型,I度)と診断し,憩室切除,Heller-Dor手術を予定した.幽門側胃切除後だったが,残胃の可動性は良好で,Dor法による噴門形成が可能だった.憩室が大きく癒着が強固だったため,憩室切除は経裂孔的アプローチから開胸アプローチに移行して行った.術後経過は良好で,合併症なく退院した.幽門側胃切除後の食道アカラシアに横隔膜上憩室を合併した症例に対する手術経験について,術式を中心に文献的考察を加えて報告する.

  • 木村 泰生, 藤田 博文, 山川 純一, 前田 暁行, 荻野 和功
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 1 号 p. 20-28
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/01/31
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    症例は61歳の女性で,胸部のつかえ感を自覚し当院を受診した.上部消化管内視鏡検査にて,胸部下部食道に全周性3型腫瘍を認め,生検でmucinous adenocarcinomaと診断された.胸部単純X線検査で右側大動脈弓を認め,3D-CTにてEdwards III A1型の右側大動脈弓と診断した.精査の結果,LtAe,3型食道癌,cT3,cN1,cM0,cStage IIIと診断し,術前化学療法(FP療法2クール)を行った後に,胸腔鏡補助下食道亜全摘術を施行した.胸部操作は腹臥位で左胸腔鏡下にアプローチした.再建は胸骨後経路で胃管を用いて行った.右側大動脈弓を合併した食道癌手術症例では術前の3D-CTを中心とした血管走行および特徴的な解剖学的構造物の把握が重要である.また,胸腔鏡を用いることでその拡大視効果により,特徴的な解剖学的構造物の把握および手術を安全に行ううえでの一助となりうると考えられた.

  • 横溝 和晃, 根本 洋, 楯 玄秀, 櫻庭 一馬, 松原 猛人, 田中 淳一
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 1 号 p. 29-39
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/01/31
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    我々は下部食道癌に対し化学療法を施行した後,その一部より短期間に発生したAFP産生癌というまれな1例を経験した.また,新規幹細胞マーカーSal-like protein 4(以下,SALL4と略記)染色がAFPと解離していたことも大変興味深い.食道におけるAFP産生癌は本例を含め22例目であり,この領域のAFP産生癌の発症については,Barrett食道→食道腺癌→AFP産生癌のシークエンスが推察された.症例は64歳の男性で,食道癌(LtAe,2型,cStage III)と診断した.術前化学療法が奏効したが,5コース終了後に病巣部の下端にtype 1の腫瘤が発生した.手術標本では下部食道に2型癌と,胃側に赤色の1型癌を認めた.両病変は腺癌であったが,1型部分はAFP染色陽性であった.また,SALL4染色では1型部分はAFPと一致し陽性だが,AFP陰性であった口側の領域にも陽性部分があった.

  • 砂川 秀樹, 高橋 進一郎, 海藤 章郎, 布施 望, 桑田 健, 木下 敬弘
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 1 号 p. 40-49
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/01/31
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    症例は60歳の男性で,心窩部痛精査の上部消化管内視鏡にて,胃体上部小彎に約70 mm大の腫瘍性病変を認め,生検で内分泌細胞癌と診断された.造影CTにて多発肝転移および肝外門脈腫瘍栓を認め,全身化学療法(CDDP+CPT-11)を6コース施行した.化学療法後の各種検査にて,原発巣・肝転移巣の縮小および門脈腫瘍栓の消失を認め,部分奏効と診断し,根治切除術(開腹胃全摘・D2 − No. 10郭清,肝S6部分切除)を施行した.病理検査にて,原発巣には内分泌細胞への分化を伴う癌細胞の残存を認めたが,切除肝には腫瘍細胞を認めず,ypT2,N0,M0,Stage IB,薬物治療の組織学的効果判定基準:Grade 2と診断された.術後化学療法は患者が希望しなかったため施行しなかった.現在,術後5年4か月経過し無再発生存中である.このように肝転移・肝外門脈腫瘍栓を伴う胃内分泌細胞癌に対しても,化学療法が奏効し非治癒切除因子が消失した場合には,外科的切除を含む集学的治療により長期生存が得られる可能性があると考えられた.

  • 光岡 英世, 藤本 康二, 小松原 隆司, 太田 彩貴子, 山田 元, 東山 洋
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 1 号 p. 50-56
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/01/31
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    症例は69歳の女性で,小児期より完全内臓逆位を指摘されている.今回総胆管結石による急性胆管炎で入院となり,採石のためERCPを行うも,乳頭が憩室内に開口しており胆管挿入が困難であった.胆管炎は抗生剤治療にて軽快したが,下部胆管に遺残結石があり,胆囊結石とともに外科的治療を行うこととした.総胆管結石症に対して,より侵襲の少ない腹腔鏡下でのランデブー法による内視鏡的採石術を選択した.腹腔鏡下に胆囊管からガイドワイヤーを透視下で十二指腸まで挿入し,それをガイドとして内視鏡的乳頭切開術,採石を行った.その後腹腔鏡下で胆囊摘出を行った.今回のような完全内臓逆位の症例において,内視鏡的治療困難な総胆管結石症に対して,腹腔鏡下内視鏡併用ランデブー法は侵襲の少ない有効な治療法であると考えられた.

  • 堀 佑太郎, 波多野 悦朗, 増井 俊彦, 穴澤 貴行, 瀬尾 智, 徳家 敦夫, 上本 伸二
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/01/31
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    症例は47歳の女性で,黄疸を主訴に肝門部胆管癌の診断で当院紹介受診された.腹部造影CTやERCP,step biopsyで内側区域胆管から左右肝管合流部での胆管閉塞所見を認め,また前・後区域胆管の閉塞は見られなかったものの後区域胆管への浸潤所見が見られ肝右三区域切除術を予定した.予定残肝量が21.4%であったため,門脈塞栓術を計3回施行した結果,予想残肝indocyanine green消失率0.035へ増加したため手術可能と判断した.術中門脈圧が18mmHgで,切除後門脈圧亢進症が予想された.術後門脈圧の亢進による肝不全を危惧して,脾摘術を追加して門脈圧調節を行い,重篤な合併症なく退院した.脾摘術による門脈圧のコントロールが致死的な肝不全を回避しえた可能性を示唆する症例を経験した.

  • 小林 龍太朗, 平松 和洋, 加藤 岳人, 柴田 佳久, 吉原 基, 青葉 太郎, 山口 直哉, 神谷 忠宏
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 1 号 p. 65-71
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/01/31
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    症例は71歳の女性で,1999年に子宮頸癌に対して広汎子宮全摘+リンパ節廓清を行い術後は放射線治療も行った.その後腸閉塞を繰り返し,2009年に小腸-横行結腸側々バイパス術を施行した.2014年に右鼠径部痛を主訴に当院受診しCT上,バイパス吻合部より肛門側の小腸内にpress through package(以下,PTPと略記)を確認し,その周囲に膿瘍を認めた.放射線性腸炎により外科的にPTP除去は困難で,PTPは回腸末端から50 cm以上あり大腸内視鏡下での摘出も困難と判断し,穿刺ドレナージを行いドレーンを留置した.瘻孔形成を待ち経瘻孔的に内視鏡を挿入すると,PTPを除去できた.瘻孔の自然閉鎖を期待したが,小腸-横行結腸バイパスの機能不全が判明した.小腸-横行結腸バイパスの肛門側の小腸を切断し,口側を閉鎖して完全バイパスとし,肛門側を粘液瘻とした.経過は良好で術後20日目に退院となった.

  • 小畠 誉也, 落合 亮二, 小林 成行, 御厨 美洋, 羽藤 慎二, 大田 耕司, 野崎 功雄, 棚田 稔, 高畑 浩之, 栗田 啓
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 1 号 p. 72-80
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/01/31
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    症例は62歳の男性で,便潜血反応陽性にて近医を受診し,下部内視鏡検査にて直腸粘膜下腫瘍を指摘された.神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;以下,NETと略記)G1と診断され,当院へESD目的に紹介となった.下部内視鏡・超音波内視鏡検査にて肛門縁から4 cmに内部に高エコースポットを伴う5 mm大の粘膜下腫瘍と,CT・MRIにて左側方リンパ節の腫大を認めた.側方リンパ節転移を伴う直腸NETと診断し,括約筋間直腸切除術・両側側方郭清を施行した.病理組織学的検査で9 mm大の直腸NET G1,v(−),ly(+),左側方リンパ節転移を3個認めた.術後補助療法は施行せず19か月を経過し,無再発生存中である.直腸NETのリンパ節転移は直腸間膜内の報告がほとんどで,側方リンパ節転移は非常にまれであるが留意すべきと思われた.本邦の側方リンパ節転移報告例をまとめて考察・報告する.

  • 嵯峨 謙一, 岡部 道雄, 河本 和幸
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 51 巻 1 号 p. 81-85
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル フリー HTML

    症例は89歳の女性で,2日前から嘔吐で前医に入院していた.イレウスと診断され,イレウス管を留置したが,状態改善なく撮影したCTで右上腹部にloop状の小腸を認め当院に緊急搬送となった.右横隔膜ヘルニアの囊内に拡張小腸を認め,右横隔膜ヘルニア嵌頓と判断し同日緊急手術を行った.腹腔鏡下で観察したところ,肝鎌状間膜の異常裂孔に小腸が嵌頓し,その嵌頓小腸が右横隔膜ヘルニア内に納まっている状態であった.嵌頓していた小腸はviabilityがあり切除を要しなかった.腹腔鏡下で異常裂孔を開放し,右横隔膜ヘルニアをメッシュ留置し修復した.肝鎌状間膜ヘルニアの場合は,異常裂孔の開放が基本となっており手術手技は比較的簡便である.特に本症例のように,手術歴のない症例では腹腔鏡下手術は有用であると考えられた.

臨床経験
  • 須田 竜一郎, 枝元 良広, 徳原 真, 橋本 政典, 清水 利夫
    原稿種別: 臨床経験
    2018 年 51 巻 1 号 p. 86-94
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2018/01/31
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    循環動態の安定している成人IIIb型膵体尾部鈍的損傷の患者に対して,膵体尾部切除を回避する膵温存治療を行った4例について検討した.年齢は22~37歳,男性2例,女性2例であった.閉鎖式持続陰圧ドレナージ(closed suction drainage;以下,CSDと略記)・胆囊外瘻・腸瘻造設を行った症例2例,Bracey法による胃膵吻合に加え,CSD・胆囊外瘻・腸瘻造設を行った症例1例,経皮的CSD留置を行った症例1例であった.術後合併症として,3例に仮性膵囊胞,1例に術後膵液瘻,1例に手術創感染を認めたが,いずれも保存的治療および経胃内視鏡的ドレナージにより改善をみた.全例生存退院可能となり,在院日数中央値は50.5日であった.長期経過観察が不能であった1例を除き,術後遠隔期に膵内外分泌能障害を示唆する所見は認めなかった.従来は膵体尾部切除の適応とされたIIIb型膵損傷においても,適切な症例選択を行うことで,膵温存治療も一つの選択肢となりうる.

特別寄稿
編集後記
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