症例は47歳の男性で,自殺企図で酸性洗剤を服用して前医へ搬送され,腐食性食道炎および胃炎と診断された.食道入口部から胃の前庭部まで広範囲に瘢痕狭窄を来し,内科的加療を行ったが改善されず,外科的加療目的に当科へ紹介となった.食道亜全摘および胃全摘,食道瘻造設を行い,食道入口狭窄部に対し食道用ステントを留置した.初回手術の2か月後に有茎空腸を用いた再建術を行い,再建術後33日目より経口摂取を開始し,54日目に退院された.術後1年8か月現在,明らかな狭窄症状の再燃は認めていない.食道入口部狭窄を伴う腐食性食道炎患者は再建術前に狭窄部の拡張を行うことが望まれるが,ステント留置術は咽頭側からの粘膜伸展が期待でき,食道瘻側からの位置調整が行えるため安全に管理が可能であった.食道ステント留置を併用した二期分割手術は咽頭喉頭を温存した再建術を考慮するうえで有用な選択肢となりうると考えられた.
症例は55歳の女性で,腹部膨満感を主訴に受診し,精査で肝S8に15 mm大の結節を認めた.同病変は造影CT,MRIでリング状の濃染を示し,FDG-PETで強い集積を認めたが他の原発病変および遠隔転移は認めなかった.混合型肝癌の診断で手術の方針となり腹腔鏡下肝S8部分切除術を施行した.病理組織所見では核・細胞質比の高い小円形の異型細胞が充実性~集塊性に増殖しており,間葉系細胞マーカーvimentinが陽性のため肝原発肉腫と診断された.各種マーカーについて免疫染色検査を行った結果,既存の肉腫の分類のいずれにも当てはまらず分類は困難であった.術後経過は良好で,術後15か月の現在無再発生存中である.肝原発肉腫は非常にまれな疾患である.組織型は免疫染色検査所見によって分類されるが,今回,我々は既存の分類のいずれにも該当しない肝原発肉腫の1切除例を経験したので報告する.
症例は21歳の女性で,新生児期に肝臓脱出を伴う臍帯ヘルニアの既往があった.心窩部痛を主訴に前医を受診し,胆石症と診断され加療目的に当科紹介となった.腹部CTで臍帯ヘルニア術後の影響による肝臓の変位を認めた.腹側前方へ約90°,時計回りに90°,肝右葉が頭側,左葉が尾側に位置し,胆囊は背側に位置していた.体位やアプローチを工夫すれば,鏡視下手術の方が良好な視野の確保が可能と判断し,腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy;以下,Lap-Cと略記)を施行した.手術は左側臥位で,まず体表超音波で腹腔内の癒着,臓器位置関係を確認し,右下腹部に第1ポートを置き,5ポートで行った.胆囊壁や胆道の損傷なく手術は終了し,術後経過も良好であった.臍帯ヘルニア術後の臓器位置異常を伴う症例に対しても,術前の検討と術中の工夫を行うことで,安全にLap-Cを完遂することができた.
症例は78歳の女性で,吐血を主訴に近医へ救急搬送された.造影CTで十二指腸下行脚乳頭側に辺縁濃染,内部低吸収を示す長径約50 mmの腫瘍を認め,十二指腸と腫瘍内部が交通していた.上部消化管内視鏡検査では同部位に自壊した腫瘍からの活動性出血を認め,内視鏡的止血が困難で当院へ転院搬送となった.来院時バイタルは保たれていたものの,吐血および貧血を認め,緊急でTAEを施行した.施行後は状態が安定し,吐血も消失した.上記所見から,十二指腸原発の粘膜下腫瘍の出血を疑った.貧血が緩徐に進行し,閉塞性黄疸も増悪したため,第5病日に亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.摘出標本では境界明瞭な腫瘍であり,内部に出血壊死を認めた.病理組織学的検査の結果,破骨型多核巨細胞を伴う退形成性膵管癌と診断した.消化管出血で発症する退形成性膵管癌はまれであり,本邦で報告された退形成性膵管癌102例の検討を含めて報告する.
腹腔の臓器外血管腫としては,腸間膜,大網あるいは小網原発の血管腫は散見されるが,腹膜原発の血管腫はこれまで報告されていない.我々は腹膜原発の海綿状血管腫の1切除例を経験したので報告する.症例は79歳の男性で,便秘精査の単純CTで臍直下に腫瘤を指摘され,当科を紹介された.腫瘤は4×3 cm大で前腹壁に接しており,内部に小石灰化が散在していた.造影CTでは,軽度造影される辺縁不整の腫瘤で,周囲脂肪織濃度の上昇はなく腫瘍性病変と考えられた.MRIではT1W1で筋肉と等信号,T2W1で高信号を呈したが,in phaseとopposed phaseの対比から内部に脂肪の存在が示唆された.腹腔内腫瘍性病変を疑い,切除の方針とした.腫瘍は前腹壁に連続していたが,周囲臓器との癒着はなく,前腹壁,腹直筋,皮膚とともに切除した.褐色で軟らかく,割面はスポンジ状であった.病理組織学的には海綿状血管腫と診断された.腫瘤は腹膜とは強固に癒着していたが腹直筋や腹膜前脂肪などの腹膜外組織には腫瘍性病変はなく,腹膜由来と考えられた.
症例は70歳の女性で,54歳時に潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;以下,UCと略記)と診断された.5アミノサリチル酸製剤の投与のみで寛解が維持されていた.2021年6月に下痢の精査目的に下部消化管内視鏡検査を行ったところS状結腸に腫瘍性病変を認めた.病理組織学的検査でS状結腸癌と診断されたため当科紹介となった.同年8月,腹腔鏡補助下大腸全摘J型回腸囊肛門管吻合術を施行した.病理結果で癌成分と肉腫成分の混在を認め,carcinosarcoma,type 2,35×30 mm,pT3(SS),INFb,Ly1a,V1b,Pn1b,pN2a,pStage IIIb(大腸癌取扱い規約第9版)であった.術後1か月目のCTで術前には認めなかった多発肝腫瘤を指摘された.多発肝転移の診断で同年9月より化学療法(mFOLFOX+panitubumab)を開始したが,術後6か月目に永眠となった.癌肉腫を伴ったUCの報告は極めてまれであり報告する.
症例は56歳の女性で,主訴は右季肋部痛であった.造影CTで囊胞部分を伴う10 cm大の大網あるいは腸間膜の腫瘍を認めた.充実性部分が早期濃染を示したため消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor;以下,GISTと略記)の可能性が示唆された.囊胞成分が多く穿刺による組織診断が不可能であり,確定診断および治療目的に腫瘤切除術を施行した.開腹すると10 cm×7.5 cmの腫瘤を認め,囊胞部分は周囲と境界明瞭,充実性部分は大網と癒着,横行結腸間膜前葉への浸潤なく大網由来の腫瘤と考えた.囊胞損傷なきよう腫瘤を摘出し,病理組織学的検査でGISTと診断した.GISTの頻度は10万人に1~2人とされ,なかでも大網原発GISTは極めてまれである.過去の報告例では3割以上が囊胞を伴い,大網や腸間膜に存在する囊胞を伴う多血性腫瘤はGISTを念頭に置く必要がある.