毎年,委員の交代はあるものの本誌の基本理念である『和文誌の最高峰』,『若手消化器外科医の登竜門』を堅持すべく,投稿論文の査読・審査を続けている.投稿論文数は減少傾向ではあるが,キラリと光るものがある論文は大切に査読し,著者と査読者の共同作業によって素晴らしい論文になっている.ぜひ不採用を恐れて躊躇することなく,積極的に投稿していただきたい.本誌のPDFのダウンロード数は右肩上がりの増加を続けており,学会の貴重な財産であるだけでなく,大きな社会貢献となっている.今後は,さらに論文・雑誌の質の向上を目指し,原著論文の増加,招待論文としてレビュー論文を掲載するなど新企画を立てていきたい.
切除不能局所進行食道癌に対する化学放射線療法は,長期生存が見込める治療であるが,穿孔や穿通などの致死的合併症発症の可能性がある.今回,大動脈浸潤食道癌に対する化学放射線療法中に発症した大動脈食道瘻に対して,大動脈ステントグラフトで止血した症例を経験した.症例は67歳の男性で,2011年8月に嚥下困難で発症し,大動脈浸潤食道癌と診断された.2011年9月から化学放射線療法を施行し,部分奏効した.2012年1月に吐血によるショック状態となり,大動脈食道瘻と診断し,大動脈ステントグラフトで止血した.食道狭窄症状を認めたため,2012年4月食道カバードステントを挿入した.経口摂取が可能になり,自宅退院した.2012年5月,原疾患が進行し死亡した.大動脈食道瘻は致死的であるが,大動脈ステントグラフトによって急性期救命され,経口摂取が可能になったため,低侵襲で効果的な姑息的治療であると思われた.
高度進行胃癌に対する術前化学療法は有用と考えられるが,確固たるエビデンスはなく開発途上にある.当院では高度進行胃癌に対し臨床試験に登録後,術前化学療法S-1+oxaliplatin(以下,SOXと略記)を行ってきた.1例で,化学療法中に穿孔を来した症例を経験した.症例は76歳の男性で,体上部後壁の3型進行胃癌cT4aN1M0 cStage IIIA(胃癌取扱い規約第14版)の診断で,術前SOX療法2コースを予定した.1コース終了後腹痛を訴え救急受診した.汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.胃癌穿孔に対し根治的胃全摘術を施行した.病理:穿孔部には繊維結合組織の増生と炎症細胞浸潤を伴うものの腫瘍細胞はわずかであった.化学療法中の胃癌穿孔の報告は少ない.本症例ではSOX療法の抗腫瘍効果により胃癌潰瘍底の穿孔を来したと推測され,深い潰瘍を伴う胃癌に対する化学療法では穿孔に留意する必要があることが示唆された.
症例は77歳の女性で,食事摂取不能となり当科を受診した.食道胃接合部癌の診断となり,下部食道胃全摘術(結腸前,Roux-en-Y再建)を施行した.第9病日に胆囊炎を発症するも保存的に軽快した.第34病日に腹痛・嘔気・嘔吐を認め,腹部全体の膨満と圧痛を認めた.腹部単純X線検査では多量の腸管ガス像と横行結腸左側でのガス像の途絶を認めた.注腸造影検査では脾彎曲付近にbird beak signを認めた.腹部単純CTでは横行結腸が挙上空腸間膜付近で屈曲・捻転していると思われた.横行結腸軸捻転症の診断となり,第35病日手術を施行した.手術所見では横行結腸は全て挙上空腸の右側に移動し,挙上空腸間膜に癒着した遺残大網を軸に反時計回りに270°捻転し,挙上空腸間膜を軸に180°屈曲していた.食道胃接合部癌術後に発症した横行結腸軸捻転症の1例を経験したので報告する.
1例目は60歳の男性で,これまで上行結腸癌,右腎細胞癌,膀胱癌,前立腺癌,直腸癌の罹患歴がある.第6癌として発症した十二指腸癌に対して膵頭十二指腸切除術を行った.Lynch症候群を疑い遺伝子検索を行ったところMSH2遺伝子に変異を認めた.2例目は75歳の男性で,これまで3回の結腸癌,胃噴門部癌,直腸癌および再発胃癌を経験している.第7癌として発症した十二指腸癌に対して膵頭十二指腸切除術を施行した.遺伝子検索ではMLH1遺伝子に変異を認めた.Lynch症候群はミスマッチ修復遺伝子変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患とされており,そのうち十二指腸癌を含む小腸癌の累積発生率は2.5~4.3%とまれである.遺伝性大腸癌ガイドラインでは,消化管癌においては1~2年毎の内視鏡検査によるサーベイランスが提唱されているが,自験例から十二指腸癌の発症も念頭に置いた,計画的かつ綿密な全身検索を行う重要性が示唆された.
症例は79歳の女性で,黄疸のため近医より紹介となった.造影CTでは,左右肝内胆管の拡張と肝門部領域胆管の壁肥厚による狭窄を認め,胆管狭窄所見は,右側は前後区域胆管合流部まで,左側はB4の合流部近傍まで連続しており,右肝動脈とA4は壁肥厚胆管と接触していた.右側優位の肝門部領域胆管癌と診断し,B2にENBDチューブを挿入し減黄を図った後,肝右3区域尾状葉切除,肝外胆管切除再建術を施行した.術後は合併症なく経過し,14日目に退院となった.切除標本割面では,肝門部胆管は著明に壁肥厚し,内腔は狭窄していた.病理組織学的には,胆管粘膜上皮に異型はなく,胆管壁は線維性間質の増生と胚中心を伴ったリンパ濾胞の形成が著明で,濾胞性胆管炎と診断された.術後4年6か月が経過したが,炎症の再燃はなく良好なQOLのもと外来フォロー中である.濾胞性胆管炎は比較的新しい疾患概念で,報告数はまだ少なく,貴重な症例と考え報告する.
症例は65歳の男性で,肝門部領域胆管癌に対し胆管切除を伴う肝左三区域切除術,胆管空腸吻合術を施行した.術後4か月目に血清総ビリルビン値24.1 mg/dlと上昇を認めたため入院となった.腹部造影CTで手術時に胆管空腸吻合部へ留置したロストステントが肝内胆管へ迷入している所見を認めた.ステント迷入による閉塞性黄疸を疑い,ダブルバルーン内視鏡を用いた内視鏡的逆行性胆道造影および挙上空腸・腸管皮膚瘻からの内視鏡的アプローチを試みたがステント抜去は不成功であった.このため,CTガイド下経皮経肝的アプローチでステント抜去を行ったが,黄疸は改善しなかった.術後の細胆管炎が遷延したことを契機に,肝不全へ移行し感染症が難治化したものと判断した.このため,meropenemおよびciprofloxacinの動注療法を施行し,黄疸は改善した.肝門部領域胆管癌術後の難治性細胆管炎に起因すると思われる肝不全に対し抗菌薬動注療法は治療の選択肢となりうると考えられたため報告する.
続発性アミロイドーシスを合併したクローン病に対し外科的治療を行い,非典型的な合併症を経験したので報告する.症例は36歳の男性で,瘻孔形成状態で15年間内科的治療が行われていたが症状増悪あり,加療目的に紹介となった.入院後に進行性の腎機能障害を認め,腎生検にて腎アミロイドーシスの診断となり血液透析が導入された.消化管には回腸・直腸の狭窄病変あり回盲部切除術・人工肛門造設術,高位前方切除術を施行した.術後経過良好であったが,第11病日に直腸吻合部の出血を伴う離断あり,ハルトマン手術施行した.再手術後も結腸から消化管出血を認めたため,残存結腸全摘術施行した.病理検査では腸管壁の広範にAA型アミロイド沈着を認め,消化管アミロイドーシスの診断であった.長期間の病勢コントロール不良な炎症病態では続発性のアミロイドーシスを併発し,一見正常な粘膜であっても縫合不全や出血のリスクを伴うことに留意が必要である.
症例は36歳の男性で,4年前より潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;以下,UCと略記)(全結腸型)で内服加療されていた.突然の腹痛を主訴に受診し,回盲部の腸重積症の診断で,緊急手術の方針とした.ステロイド,免疫抑制剤を内服中であり,腹腔鏡下に結腸右半切除術と一時的回腸人工肛門造設を施行した.重積先進部は盲腸で,特発性腸重積症であった.術後経過は問題なく,約5か月間の原疾患治療後に腹腔鏡補助下残存大腸全摘術を行い,以後UC再燃は見られていない.成人腸重積症は比較的まれな疾患であり,さらに特発性はまれである.一般的に腸重積症と診断した場合には絞扼による腸管虚血のリスクが高いため速やかな治療が必要である.しかし,患者背景,状態,穿孔の有無,腸重積の程度,部位などにより個々の症例に応じて術式を決定すべきであり,本症例ではリスクを考慮し,原疾患に対しては二期的に手術を行った.
Oxaliplatin(以下,L-OHPと略記)の副作用として肝類洞障害があり,肝類洞障害による門脈圧亢進によって食道・胃静脈瘤を生じた症例が本邦でも報告されているが,異所性静脈瘤の報告は非常にまれである.我々は,L-OHPを含む化学療法中に十二指腸静脈瘤を呈した2例を経験した.両症例ともに十二指腸静脈瘤に対するinterventional radiology治療が奏効し,静脈瘤からの出血を回避しえた.L-OHPは切除不能進行再発大腸癌治療におけるkey drugの一つであるが,門脈圧亢進症状の発症に留意して治療に臨む必要がある.また,L-OHP治療中に併発した静脈瘤に対しては積極的治療が望ましいと考えられた.
肝囊胞に対するインドシアニングリーン(indocyanine green;以下,ICGと略記)蛍光法を用いた腹腔鏡下天蓋切除術を6例に施行した.全例女性で年齢の平均値は63歳(52~82),手術時間は152.3分(103~232),出血量14.6 ml(1~70)で,周術期合併症は認めなかった.手術開始時のICG蛍光法による観察では,全例で囊胞内容液は蛍光を発していなかった.囊胞内容液を吸引後に囊胞壁を切開し囊胞内壁を観察すると,白色光では視認できなかった胆管が明瞭に描出された.切離線にかかる視認された胆管は,クリップまたは結紮後に切離した.残存囊胞内壁に対する凝固において,視認できる脈管や描出される胆管を避けるためには,凝固が可能な範囲は極めて狭く,限局的であった.本法では,肝離断面からの胆汁漏の有無,囊胞内壁に存在する胆管走行の評価などが可能になり,より安全な腹腔鏡下天蓋切除術の施行に貢献しうると考えられた.