日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
53 巻, 8 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
原著
  • 佐藤 直哉, 丸橋 繁, 掛地 吉弘, 武富 紹信, 高田 泰次, 梅下 浩司, 江川 裕人, 大段 秀樹, 瀬戸 泰之, 後藤 満一
    原稿種別: 原著
    2020 年 53 巻 8 号 p. 617-626
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー HTML

    目的:これまでに我々は本邦における肝移植術後合併症・死亡予測モデルを構築し,2018年11月にNational Clinical Databaseのフィードバック機能として実装した.本研究では,予測モデルに基づいた肝移植支援プログラムについて,肝移植を実施する医療現場での感想を明らかにすることを目的とした.方法:2018年度日本肝移植研究会施設会員全121施設における医師・看護師・コーディネーターを対象として,無記名式アンケート郵送調査を行った.結果:37施設(回収率30.6%)より回答が得られ,内訳は医師数64名,看護師5名,コーディネーター10名であった.医師を対象としたアンケートでは,リスクモデルによる術後合併症予測発生率の妥当性について,「そう思う」が65.6%,「どちらでもない」が28.1%であった.また,症例ごとの合併症予測によりグラフト選択,手術適応の判断および周術期管理に影響があると回答した医師は,それぞれ63%,45%,42%と最多であった.また,患者説明や若手の教育に利用可能であるとの回答は,医師でおよそ60%,看護師・コーディネーターでは100%であった.結語:本研究により,肝移植支援プログラムにおける合併症予測の妥当性は広く認識され,最適な術式の検討に加えて,患者への術前説明,医療者の教育ツールなどへの幅広い活用も可能であることが示された.

症例報告
  • 山田 徹, 吉川 智宏, 北上 英彦, 大川 裕貴, 坂下 啓太, 山口 晃司, 久須美 貴哉, 西田 靖仙, 細川 正夫, 平野 聡
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 8 号 p. 627-634
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー HTML

    症例は60歳の男性で,自殺企図でアルカリ性剤を服用して救急搬送された.咽頭から幽門まで腐食性変化を認め,保存的治療を試みたが,吐血を繰り返すため手術適応となった.第30病日に胸腔鏡腹腔鏡下食道亜全摘術・胃全摘術+食道瘻・腸瘻造設術を施行した.術後4か月の経過観察期間を設け,残食道の遅発性狭窄の有無を確認してから二期的再建を行う方針とした.再建前の検査で食道入口部に狭窄を認めたが,喉頭は温存可能と判断し,初回手術後121日目に残食道全摘術+胸壁前遊離空腸再建術+喉頭挙上術を施行した.咽喉頭・吻合部の浮腫により食事摂取までに時間を要したが保存的に改善し,再建術後78日目に退院した.アルカリ性剤による腐食性食道炎・胃炎は遅発性狭窄を来すことがあり,二期的再建が妥当であると考えられた.また,炎症の程度によっては胸腔鏡下手術が良い選択肢となりえると考えられた.

  • 桒原 聖実, 杢野 泰司, 松原 秀雄, 金子 博和, 山本 龍生, 弥政 晋輔
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 8 号 p. 635-642
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー HTML

    症例は51歳の女性で,20年前米国にて,十二指腸潰瘍に対し胃空腸吻合術が施行されているが詳細不明である.以前より総胆管,主膵管が膵頭部で狭窄し,その上流が拡張していたが血液生化学検査に異常所見は認めなかった.経過観察中に胃癌を認めたため幽門側胃切除術を施行した.幽門および十二指腸球部は短縮・瘢痕化していたため,十二指腸内腔から十二指腸乳頭を確認しながら瘢痕部のすぐ肛門側で十二指腸を切離した.術後に膵液瘻を認めドレーンから300 ml/day以上の膵液が連日流出した.膵管の減圧が必要と判断し術後10日目に手術治療の方針とした.膵頭上部での総胆管,主膵管の狭窄に加え,膵鉤部にも複数の拡張膵管が認められたことから主膵管の減圧のみでは不十分と考え膵頭十二指腸切除術を施行した.難治性膵液瘻の外科的治療法として,主膵管,総胆管の狭窄を伴う場合は膵頭十二指腸切除術も考慮されうる術式である.

  • 太田 俊介, 小林 宏寿, 菊池 亨, 山下 大和, 北村 圭, 織田 福一郎, 増田 大機, 本橋 英明
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 8 号 p. 643-649
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー HTML

    大動脈腸管瘻(aortoenteric fistula;以下,AEFと略記)で一次性AEF(primary AEF;以下,PAEFと略記)は致命的な病態であるが,救命しえた1例を経験したので報告する.症例は81歳の女性で,吐血後,近医に搬送されHb 3.0 g/dlと出血性ショックの状態だった.精査にて腎動脈下流の腹部大動脈瘤の十二指腸水平脚への穿通による,一次性大動脈十二指腸瘻と診断され,当院心臓血管外科に搬送後にステントグラフト内挿術を施行した.翌日,当科にて緊急手術を行った.手術は,十二指腸を授動し瘻孔を確認後に,瘻孔口側で十二指腸を離断し,十二指腸下行脚と挙上空腸を側々吻合した.また,瘤破裂部より可及的に血栓を除去し,同部を縫合閉鎖した.術後は手術関連合併症を認めず,ステント感染予防の抗菌剤投与を継続し,リハビリ目的に前医転院となった.PAEFは,致死率の高い疾患であるが,ステントグラフト内挿術を先行することで,安全に手術可能と考えた.

  • 石田 潤, 外山 博近, 寺井 祥雄, 椋棒 英世, 山下 博成, 白川 幸代, 田中 基文, 柳本 泰明, 木戸 正浩, 福本 巧
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 8 号 p. 650-656
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー HTML

    膵管癒合不全,門脈輪状膵,重複膵管の膵多重奇形を合併した膵管内乳頭粘液腫瘍に対して膵頭十二指腸切除術を施行した1例を経験した.門脈輪状膵,重複膵管に対しては術前と術中の膵管走行の評価により通常通りの1穴再建が可能であったが,術後に門脈輪状膵の癒合部断端が原因と思われる膵液瘻を発症した.術前CTで腹腔動脈起始部の狭窄は軽度であり,術前には正中弓状靱帯圧迫症候群(median arcuate ligament syndrome;以下,MALSと略記)の診断には至らなかったが,術後に撮影したCTで腹腔動脈起始部の狭窄,肝血流低下を認めた.膵液瘻に伴う仮性動脈瘤破裂,MALSによる肝梗塞などの合併症を発症したが,第74病日に軽快退院した.膵奇形に対して膵切除を行う場合は最適な膵切離位置や膵管再建法を考慮する必要がある.本症例のような膵多重奇形は極めてまれであり,かつ示唆に富む1例と考えられたため報告する.

  • 東 敏弥, 村瀬 勝俊, 荒川 信一郎, 田中 秀治, 松井 聡, 木山 茂, 今井 寿, 土井 潔, 吉田 和弘
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 8 号 p. 657-664
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー HTML

    症例は85歳の女性で,腹部不快感で受診し,CTで横行結腸と連続する70 mm大の膵囊胞性病変と主膵管の拡張を認めた.ERCPで主乳頭開口部の開大と粘液漏出および主膵管内に乳頭状増殖を認めた.超音波内視鏡検査で囊胞性病変内に造影効果のある壁在結節を多数認めた.生検で膵管内乳頭粘液性腺癌(intraductal papillary mucinous carcinoma;以下,IPMCと略記)と診断した.膵実質は造影MRIで遅延性に造影され,拡散強調画像でびまん性に高信号を示したことから,膵実質へのびまん性浸潤が示唆された.大腸内視鏡検査で横行結腸に粘液漏出のある瘻孔を認めた.結腸に穿破した主膵管型IPMCと診断し,膵全摘術と結腸部分切除術を行った.膵管内乳頭粘液性腫瘍はしばしば他臓器に穿破することがあるが,結腸穿破の報告はまれであり,高齢症例での手術適応も含めて考察した.

  • 木村 泰生, 藤田 博文, 北條 真鈴, 西尾 公佑, 丸山 翔子, 原田 仁, 山川 純一, 荻野 和功, 小川 博
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 8 号 p. 665-674
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー HTML

    症例は63歳の男性で,検診のUSで偶発的に前立腺背側に腫瘤性病変を指摘され,MRIで前立腺を圧排する直腸由来の腫瘍と診断された.腫瘍は歯状線より2 cmの直腸前壁左側に約2.5 cmの弾性硬な粘膜下腫瘍として認めた.画像所見から直腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)と診断し切除の方針となった.腫瘍径が比較的小さかったため,機能温存も考慮し,transanal minimally invasive surgery(以下,TAMISと略記)に直腸局所切除術を施行した.肛門に単孔式デバイスを装着し,送気下に直腸壁を全層切除し腫瘍を摘出した.切除欠損部は鏡視下に縫合閉鎖した.直腸GISTは比較的まれな疾患であるが,下部直腸に発生した場合は侵襲の大きな術式を選択せざるをえない場合もある.近年,増加傾向である経肛門的直腸間膜全切除術(transanal total mesorectal excision;TaTME)で得られた知見も参考に,根治性と機能温存の両立を慎重に考慮したうえであれば,直腸GISTに対するはTAMISは安全かつ許容できる術式と考えられる.

特別報告
  • 大村 範幸, 舟山 裕士
    原稿種別: 特別報告
    2020 年 53 巻 8 号 p. 675-680
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー HTML

    診療録における重要な記録の一つである手術記録は,正確に迅速に記載されることが求められる.手術記録にイラストを加えることは,読み手である他者に必要な情報を簡便に伝えるために効果的であり,また修練過程にある外科医にとって自己研鑽や教育のツールとしても,非常に大事なことと思われる.近年,タブレットおよび筆圧検知機能の付いたスタイラスペンなどの優れたヒューマンインターフェースデバイスの登場により,誰でもドローイングをできるようになった.デジタルデータとしてイラストのテンプレートを作成し,個々の手術症例における差異を表現する修正を加えることで,迅速に正確なイラストを作成できるようになったと感じている.これまでのデジタルイラスト作成の経験と考察を述べたい.

  • 亀山 仁史, 若井 俊文
    原稿種別: 特別報告
    2020 年 53 巻 8 号 p. 681-686
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー HTML

    まれな疾患であればなおのこと,定型的な症例であっても何らかの“気づき”が認められる.私が心がけている手術記録のポイントを以下に記載する.(1)手術記録は当日に完成させる.(2)Word入力するとコピー&ペーストを多用しがちになるため,可能なかぎり手書きとする.(3)公式文書であることを意識して記載する.(4)時間短縮を考慮し,下書き(下描き)は行わずに直接記載している(そのためには描き始める前のイメージトレーニングが極めて重要).(5)術前画像と術中所見の整合性が理解できるような手術記録を作成する.(6)手術記録完成時は,疾患に対する理解が最も高い状況であり,症例報告などとして迅速に報告することを意識する.手術記録は綺麗に仕上げることが目的ではないが,公式文書である以上,他人が閲覧することを意識する必要がある.手術記録の作成は術前のシミュレーションから始まっている.

エラータ
編集後記
feedback
Top