日本消化器外科学会雑誌
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25 巻, 10 号
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  • 北村 正次, 荒井 邦佳, 宮下 薫
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2449-2454
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    食道浸潤胃癌111例を対象とした検討では, 縦隔内転移陽性群 (26例) は陰性群 (85例) に比較し腫瘍径が大で, P (+) が11例 (42%) と多く (p<0.01), 肉眼型では3型・4型が多かった.また非治癒切除は20例 (77%) と多く (p<0.01), n3 (+) ・n4 (+) の頻度が高く, 未分化型が多くを占め (p<0.01), ow (+) の率も有意 (p<0.05) に高率であり, 食道浸潤距離も有意に (p<0.05) 長かった.縦隔内への転移率はNo.110: 18/80 (22.5%), No.111: 9/67 (13.4%), No.112: 4/39 (10.3%) であり, 全体では26/111 (23.4%) であった.この率は腫瘍径および食道浸潤長の増加により高くなり, 深達度および腹腔内の転移程度と相関し, とくに縦隔内陽性群は高い16a2 lateroの転移を示した.縦隔内転移 (+) 例の予後は転移 (-) 例に比較し有意に悪かったが, 縦隔内転移 (+) 例でも腹腔内が根治的となる場合は, 系統的な縦隔内のリンパ節郭清, ow (-), 大動脈周囲の郭清により予後が期待出来る.
  • 紀藤 毅, 山村 義孝, 中村 善則, 平井 孝, 坂本 純一, 安井 健三, 森本 剛史, 加藤 知行, 安江 満悟, 宮石 成一, 中里 ...
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2455-2459
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    悪性リンパ腫に対する研究の進歩にともない, 胃悪性リンパ腫に対しても新しい観点での治療法の導入が試みられている.胃悪性リンパ腫のなかでも新しい知見が得られている表層拡大型 (表拡型) リンパ腫を今回研究対象とした.1965年から1990年までに手術した胃悪性リンパ腫102例のうち表拡型リンパ腫は26例であった.26例のうち深達度sm 19例, 腫瘍最大径20cm以上10例, リンパ節転移陽性11例, R2の郭清23例, 全摘術19例であった.10生率は86.8%と高く, 再発死亡は1例のみであった.リンパ節郭清, 切除範囲が適切であれば予後は良好と考えられた.24例の組織型がIsaacsonら1)によるMALTリンパ腫 (mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma) であり, 中村ら2) によるRLH (reactive lymphoreticular hyperplasia) はMALTリンパ腫であると考えられるようになっている.表拡型リンパ腫の認識は胃悪性リンパ腫の理解において重要な意味をもつものと考えられる.
  • 微粒子活性炭CH40の術中漿膜下注入法とリンパ節転移の実態による検討
    中川 登
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2460-2469
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    微粒子活性炭CH40の術中漿膜下注入法 (78例) とリンパ節転移陽性胃癌 (464例) の転移状況から, 大彎側胃癌に対する適切なリンパ節の郭清範囲を検討し, 下記の結果を得た.(1) 胃上部大饗側胃癌: リンパの主流はNo.4sa, 4sbから脾動脈系 (No.10, 11) に至る経路であり, No.2, No.9, No.11からNo.16 (左腎静脈周囲) に向かう流れも豊富で, 胃全摘・膵脾合併切除によるR2郭清にNo.16郭清を加えた術式が根治的である.(2) 胃中部大轡側胃癌: 輸出リンパ流は左右の胃大網動脈に沿う2方向があり, 左胃大網動脈系の転移に対しては, No.10, 11の郭清目的で胃全摘・膵脾合併切除を積極的に行うべきであり, 右胃大網動脈系の転移に対してはNo.8a, 11, 12, 14vの郭清が重要である.(3) 胃下部大彎側胃癌: リンパの主流はNo.4dからNo.6に至り, ここから直接第3群のNo.11, 12, 13, 14vに向かう経路であり, No.6転移陽性症例に対しては, R3郭清を行うべきである.
  • 吉田 寛, 恩田 昌彦, 田尻 孝, 梅原 松臣, 真々田 裕宏, 山下 精彦, 金 徳栄, 鳥羽 昌仁, 足立 幹夫, 西久保 秀紀, 谷 ...
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2470-2474
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    食道静脈瘤に対する手術と塞栓術の治療成績を比較し, 教室の手術適応基準の妥当性について検討した.対象は肝癌非合併食道静脈瘤症例222例 (手術127例, 塞栓術85例, 手術・塞栓術不能10例) で, これらをGroup I (予防・待期でかつChild A, B症例), Group II (緊急またはChild C症例) に, また手術適応基準設定前後で (前期) (後期) に分類し, 比較検討した. [成績] 累積生存率 (%) (術死率, 1生率, 3生率, 5生率).(1) 前期のGroup II症例では,(手術) 30. 0, 46. 7, 26. 7, 20.0 (塞栓術) 14.7, 65.9, 49.4, 49.4.(2) 手術例では,(前期) 22.9, 71.5, 56.4, 53.6 (後期) 2.9, 91.2, 82.9,-,(3) Group II症例では,(前期) 32.4, 49.9, 32.6, 28.8 (後期) 22.2, 72.2, 51.6,-であった.以上の成績から, 手術適応基準を設定し, 手術適応外症例に対しては, 血行動態に応じて各種塞栓術の単独あるいは併用施行が, 治療成績を向上せしめるものと考える.
  • 末永 昌宏, 岡田 喜克, 杉浦 勇人, 国場 良和, 上原 伸一, 久留宮 隆, 森 紀久朗, 山口 茂樹
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2475-2482
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌肝切除耐術例106例の肝再発61例中の15例に再切除を行った.1か月ごとにα-fetoprotein (AFP), 3~4か月ごとに超音波ないしcomputed tomographyによる追跡を行い, AFP陰性で7例の再発を発見した.術式は1区域1例, 亜区域2例, 部分切除12例と初回より少量肝切除が多かった.腫瘍最大径は15例中7例が20mm以下の細小肝癌であった.2例を開胸経横隔膜的に切除した.大部分の症例に対して血行遮断をせず, マイクロ波メス, 超音波吸引破砕装置を用いて肝切除を行った.術中出血量は平均1,160mlで, 術死はなかった.再切除後累積生存率は1年83%, 3, 5年40%で, 初回肝切除後全経過でも3年87%, 5年58%, 7年46%と良好な予後を得た.肝切除後のAFP値および線密な画像診断の追跡により早期に再発を発見し, 種々の工夫のもとで肝再切除を行って, 治療法として肝再発例の25%に肝再切除を行い, 良好な結果を得た.
  • とくに大量負荷試験の有用性について
    熊沢 健一, 大石 俊典, 大東 誠司, 窪田 公一, 浅海 良昭, 大谷 洋一, 芳賀 駿介, 梶原 哲郎
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2483-2488
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    閉塞性黄疸患者におけるindocyanine green (以下ICG) 検査値の特徴を明らかにする目的で過去9年間にICG検査を行った入院患者183例を肝硬変群105例と肝硬変を伴わない胆道疾患群78例に分け, さらに胆道疾患群を黄疸群35例と無黄疸群43例に分け比較検討した.検索項目は0.5および3.0mg/kg負荷時の消失率 (K0.5, K3.0) と最大除去率 (Rmax) とし, それぞれの消失率とRmaxの相関をみた.肝硬変群はK0.5が相関係数0.724, K3.0が0.869とともに強い相関を示した.これに対し黄疸群はK0.5が0.525, K3.0が0.832, 無黄疸群はK0.5が0.524, K3.0が0.791とK3.0では強く相関したが, K0.5ではバラつきを認めた.また, 肝硬変群ではK0.5との相関の回帰直線の傾きが0.799を示したのに対し, 黄疸群は0.392と傾きが緩やかであった.さらに肝2区域以上切除26例中術後総ビリルビンが10mg/dl以上を示した11例の術前RmaxとK3.0は低値を示したが, K0.5はバラつきがあった.したがって, 閉塞性黄疸患者の術前ICG検査としてはRmaxが優れており, 消失率でみるならば負荷量を多くしたK3.0の方が肝予備能を反映していた.
  • 内田 克之, 吉田 奎介, 塚田 一博, 黒崎 功, 白井 良夫, 武藤 輝一, 渡辺 英伸
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2489-2493
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胆嚢癌の治療成績向上に術中診断が有用であったか否かを検討した.胆嚢癌318例のうち63例 (20%) が, 術中診断された.そのうち主病巣が胆嚢内に限局した早期癌 (m, pm癌) とss癌51例を対象とし以下の検討をした.術前診断不能の要因は, 病変の描出不能25例, 急性胆嚢炎, 結石などのために不能16例, 病変精査不十分10例であった.単純胆摘術30例, 準標準的又は標準的胆嚢癌根治術が19例, その他の手術が2例になされた, 早期癌の予後は術式によらず良好であったが, ss癌は術式により有意差を認めた (5生率: 単純胆摘術31%, 準標準的手術又は標準的手術88%).術中診断は有用であったが, 予後向上のためには進展度に応じた術式が施行されなければならない.深達度診断が難しい現時点では標準的胆嚢癌根治術を施行すべきであるが, 場合によっては病理学的検索後に術式を決め再手術をすることも考慮すべきである.
  • 山田 拓, 広瀬 一, 林 勝知, 飯田 辰美, 田辺 博, 鬼束 惇義
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2494-2501
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    膵頭十二指腸切除術 (PD) 術後症例14例および胃切除術術後症例14例において, 栄養学的および免疫学的検討を行った.%標準体重はPD術後および胃切除術後症例で正常下限値, %上腕筋部皮脂厚はPD術後症例では中等度から高度の低値, 胃切除術後症例では軽度から中等度の低値であった.赤血球数, リンパ球比は, PD術後症例が胃切除術後症例に比べ有意に低値であった.総コレステロールは, PD術後症例で低値であった, レチノール結合蛋白は, PD術後症例で著明に低値であった.総アミノ酸は, PD術後経過年数が長くなるほど回復するが, Fischer比は低下する傾向がみられた.免疫グロプリンはPD術後および胃切除術後症例で高値を, 一方補体は低値を示す傾向がみられた.ツベルクリン反応はPD術後症例の28.6%, 胃切除術後症例の35.7%が陰性であった.以上より, PD術後および胃切除術後の栄養障害は, marasmus typeの栄養障害を示す傾向が示唆され, PD術後に強い傾向を認めた.
  • 梁 英樹, 羽生 富士夫, 済陽 高穂, 今泉 俊秀, 中村 光司, 鈴木 寧, 清水 泰, 新井 俊男, 井戸 邦雄, 小川 健二, 小泉 ...
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2502-2506
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    本研究は十二指腸温存膵頭全切除術 (本術式) の血行温存法を確立する一助として, 下部十二指腸の動脈支配と, 切除による同血流への影響を検討した.膵頭病変のない25例に上腸管膜動脈 (SMA) および選択的下膵十二指腸動脈 (IPD) 造影を施行.下部は上腸間膜静脈 (SMV) 右縁から第1空腸動脈 (J1) の最近位反回枝までと定義し, その十二指腸 (D) 枝とIPDを読影, 分類した.D枝は分岐様式から, A) 群IPDとJ1の11例 (44%), B) 群IPDとJ1の吻合枝の6例 (24%), C) 群IPD単独の8例 (32%) に分類, IPDはJ1と形成する共通幹から, あり16例 (64%), なし9例 (36%) に大別した.膵鉤状部の切除線をSMA上に想定すると, A) 群のJ1走行異常とB) 群のD枝偏在の各1例, c) 群の共通幹なしの計6例24%では, 下部の広範な血流障害が危惧された.この血行特性と本術式の適応が主に良性疾患である点を考慮すると, 下部の血行温存には, SMV右縁での切除が安全であり, かつ妥当と思われた.
  • 木村 臣一, 岩垣 博巳, 淵本 定儀, 野中 泰幸, 根津 真司, 日伝 晶夫, 折田 薫三
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2507-2511
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    当科における大腸多発癌は358例中24例, 6.7%であった.男女比は16: 8で対照群と有意差なく, 発病年齢は56.8歳で, 対照群より4.4歳若かった.同時性多発癌では23病変中16病変, 70.0%が第1癌腫の10cm以内に存在し, 10cm以上離れた病変は進行癌が多かった.進行癌-早期癌の組合せが最多であったが, 異時性では後発癌は全例進行癌であった.多発癌群では癌家族歴, 他臓器重複癌の併存が高率の傾向があり, ポリープ併存率は83.3%で対照群より有意に高率であった.同時性症例で術前正診できたのは77.8%であり, 正診不可能であったのは肛門側の癌腫のため, その口側の検索が不十分であったものがほとんどであった.
    現在のところ, 大腸多発癌の予測は困難であり, 大腸癌を診断した場合は多発癌および他臓器重複癌を念頭に置き, 他臓器も含めた十分な術前検査および術後の経過観察が必要であると考えられた.
  • 滝口 伸浩, 更科 広実, 斉藤 典男, 布村 正夫, 井上 育夫, 中山 肇, 三枝 奈芳紀, 大森 敏生, 幸田 圭史, 佐野 隆久, ...
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2512-2519
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    術前照射療法を併用した進行直腸癌34例に対して, 経時的に内視鏡的効果判定を行い, 組織学的効果との関係について検討した.内視鏡的効果判定は, 1) 周堤の平低化.2) 潰瘍底の平坦化, 3) きれいな白苔への変化, 4) 易出血性の軽減, 5) 管腔の開大の各項目について高度 (2点), 中等度 (1点), 軽度 (0点) の3段階に判定し, 各症例のスコアの合計で評価した.その結果, 粘液変性群ではGrade (Gr) 0: 3.3, Grla: 6.5, Gr2: 7.7であり, 非粘液変性群ではGrla: 5.4, Gr1b: 6.3, Gr2: 8.7, Gr3: 10であった.全体でもGrla以下5.4±1.8, Grlb以上8.1±1.6と組織学的効果の大きいものほど内視鏡的効果も大きかった (p<0.01).組織学的効果の同一群における内視鏡的効果は粘液変性群が非粘液変性群よりも小さかった.形態変化を内視鏡的に観察することにより組織学的効果の推定が可能であり, われわれが行っている数値化による内視鏡的効果判定法は臨床的効果判定の方法として有用であると考えられた.
  • 阿部 元, 寺田 信國, 塩見 尚礼, 内藤 弘之, 柴田 純祐, 小玉 正智, 岡部 英俊
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2520-2524
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    所属リンパ節にサルコイド反応を認めた早期胃癌の2例を経験した.症例1は64歳の女性で, 心窩部痛にて近医を受診し, 当科を紹介された.胃体中部小轡側にIIC+III病変を認め, 幽門側胃亜全摘術を施行した.病理組織学的には深達度smの中分化型管状腺癌であった.郭清されたリンパ節21個中15個に類上皮細胞および多核巨細胞からなるサルコイド反応が認められた.症例2は38歳女性で, 不明熱のため検査入院した.胃内視鏡にて胃体中部大轡側にIIC病変を認め, 幽門側胃亜全摘術を施行した.病理組織学的には深達度smの乳頭癌であった.郭清されたリンパ節39個中21個にサルコイド反応を認めた.
    所属リンパ節にサルコイド反応を認める早期胃癌の本邦報告例はわれわれの症例を含めて12例しかなく, それらを臨床病理学的に検討し, 文献的考察を加えた.
  • 今井 直基, 関野 昌宏, 清水 幸雄, 細野 竜司, 後藤 全宏, 加納 宣康, 田辺 博, 福嶋 信夫
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2525-2529
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    Leser-Trélat微候は老人性疣贅が急速に増加・増大するものであり, 主として内臓の悪性腫瘍を合 併することが多い, われわれは, 本微候を契機として発見された早期胃癌の1例を経験したので報告 する.症例: 62歳, 男性.主訴: 皮膚療痒.現病歴: 平成3年2月皮膚療痒あり当院皮膚科を受診.同年5月同科再診時, 背部および腹部に多発する小さな淡褐色~ 黒褐色の丘疹を認めた.皮膚病理組 織では老人性疣贅の所見に一致した.これらが短期間に増加したことよりLeser-Trélat微候と診断し た.内臓悪性腫瘍の検索にて胃幽門前庭部後壁にIIc+IIa様病変を認めたため, 胃亜全摘術+R2を施 行した.胃病理組織ではtub1, m, n0, stage Iであった.現在まで疣贅の増加は認めていない.
    Leser-Trélat微候と悪性腫瘍との病因的関連についての定説はないが, 悪性腫瘍の早期発見・早期 治療の面から, 本症例は臨床的に非常に有意義なものと思われる.
  • 佐埜 勇, 川岸 直樹, 阿部 道夫, 土屋 誉, 里見 孝弘, 新井 元順, 九里 孝雄, 渡部 秀一, 伊藤 順造, 佐々木 幸則, 児 ...
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2530-2534
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌を合併した非常にまれな抗ミトコンドリア抗体陰性の早期の無症候性の原発性胆汁性肝硬変症の1例を報告する.症例は71歳の男性で, 近医で肝細胞癌を指摘され当院に手術目的で紹介入院. 入院時自覚症状なく黄疸, 貧血を認めず.腹部所見で心窩部に手拳大の腫瘤を触知するほか異常所見なし.血清学的検査では胆道系酵素が上昇し, HBs抗原陰性, HCV抗体陽性だった.腫瘍マーカーは正常範囲内だった.免疫学的検査ではIgMのみが軽度高値を示したほか正常であった.腹部超音波検査, コンピューター断層撮影, 血管造影にて肝左葉外側区域の直径7.0cmの肝細胞癌と診断し, 肝左葉外側区域切除術施行.病理学的検査では, 腫瘍部は高分化型のEdmondson II型の肝細胞癌で非腫瘍部には細胆管の増殖と中等大以下の小葉間胆管に炎症像のみられるstage 2の早期の原発性胆汁性肝硬変症と診断.経過順調で現在外来通院中である.
  • 木村 寛伸, 高村 博之, 荒川 元, 前田 基一, 神野 正博, 魚岸 誠, 素谷 宏, 神野 正一
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2535-2539
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    Farrarの基準を満たす原発性胆嚢管癌の1例を経験した.症例は81歳の女性で, 右季肋部腫瘤を主訴に入院, 胆嚢管の腫瘍性病変の診断にて, 胆嚢摘除術を施行した.切除標本の胆嚢管に1.3×0.7cmの隆起性病変を認め, 術中凍結切片では悪性所見は得られなかったが癌の可能性も完全に否定できず, 肝十二指腸間膜内リンパ節郭清を追加した.永久標本の病理組織では, 漿膜下まで浸潤する乳頭状増殖を示す高分化腺癌で, 胆嚢管断端には腫瘍細胞はなく, リンパ節転移も認められなかった.自験例を含む本邦報告16例の検討より, 原発性胆嚢管癌の診断と手術術式について考察した.
  • 木暮 道彦, 寺島 信也, 今野 修, 高野 祥直, 尾形 真光, 寺西 寧, 井上 仁, 元木 良一
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2540-2544
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は62歳の男性で, 下部胆管癌にて膵頭十二指腸切除術後, 膵管空腸吻合部の縫合不全から空腸瘻を形成したため, somatostatin analogue (SMS201-995) を1回100μg, 1日3回14日間皮下注投与した.ドレーンからの総排液量は平均400ml/日から投与1日で200mlと半減し, 投与8日で瘻孔は閉鎖した.本剤投与にて血中glucagonおよびC peptideは軽度, secretinは中等度の値を示したが, 耐糖能に異常は認められなかった.肝機能ではGOT, GPTが一過性に上昇した後すみやかに正常値に復した.本剤はその他の副作用は認められず, 膵空腸縫合不全に対する新しい治療法となりうることが示唆された.
  • 中島 公博, 加藤 紘之, 奥芝 俊一, 下沢 英二, 田辺 達三
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2545-2549
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    脾腫にて発見された巨大脾腎静脈短絡2例の外科治療経験を報告する.症例1は34歳の男性で, 巨大脾腎静脈短絡を有する特発性門脈圧亢進症と診断された.食道静脈瘤は軽度で, 精神症状もなかったが, 経過観察中, アンモニアの上昇を認めたため短絡流量の軽減, 静脈瘤増悪防止のため短絡路の切除と胃壁の血行郭清を伴う選択的遠位脾腎静脈シャント術を施行した.症例2は27歳男性で, アンモニアの上昇はなく, 食道静脈瘤も軽微であったが, 将来的に予想される肝性脳症に対し, 短絡路を利用した選択的脾腎静脈シャントとし, さらに胃大小轡の血行郭清を加えた.
    巨大脾腎静脈短絡を合併した患者では門脈血流量減少に伴う肝機能低下, 肝性脳症の発症が予想される.したがって, 予防的に短絡路離断を行う必要があるが, その際, 静脈瘤増悪に対しては胃壁の血行郭清を行う選択的脾腎静脈シャント術が有効である
  • 平林 邦昭, 松村 千之, 升木 行雄, 中林 洋
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2550-2553
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は50歳の男性.発熱を主訴に来院し, 胸部X線上肺結核を疑われ, 抗結核剤投与後3週間目にイレウスに陥った.注腸造影検査では盲腸にAppleCore像, 内視鏡検査では盲腸の狭窄と炎症性ポリープ, 輪状潰瘍を認め, 生検ではクローン病と診断された.手術所見では, 回盲部に腫瘤触知, 小腸全域に40数箇所にも及ぶ狭窄を認め, かつ3×3cm大の回腸潰瘍が直腸壁に穿通し癒着していた.切除標本では回盲部に帯状潰瘍, 小腸には多数の卵円形潰瘍を腸間膜付着部対側上に認めた.病理学的には非乾酪性肉芽腫が多発しており診断に難渋したが, ごく一部の肉芽腫にLanghans巨細胞を全周に伴う乾酪性肉芽腫を認め, また潰瘍部において粘膜下層の肥厚所見に乏しく, 腸結核と診断した.臨床的にも, 病理学的にも, クローン病との鑑別上, 興味ある病像を呈したまれな腸結核症例と考えられ, 文献的考察を加え報告する.
  • 三竿 貴彦, 池田 敏夫, 林 繁樹
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2554-2558
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    Eosinophilic colitisの1切除例を報告する.症例は74歳の女性で, 右下腹部痛を主訴として来院した.アレルギー疾患の既往はなく, 血液検査にて好酸球増多を認めなかった.急性虫垂炎の診断にて緊急手術を施行したが, 虫垂には異常がみられず, 上行結腸肝彎曲部に硬結を触知し右側結腸は拡張していた.右半結腸切除術を行い, 病理組織所見では粘膜下層の著しい浮腫と結腸壁全層にわたる好酸球浸潤を認めることより, Eosinophilic colitisと診断した.術後4日目に食事開始とともに皮疹が出現し, 血清IgEは高値を示したが, 特定の食品に対するアレルギーは証明されなかった.本邦では本症についての報告は12例ありそのうち3例に開腹術がなされているが, われわれの症例のように急性腹症として緊急手術が行われ治癒した例はなかった.
  • 河内 和宏, 横山 隆, 児玉 節, 竹末 芳生, 沖田 光昭, 中光 篤志, 村上 義昭, 山東 敬弘, 津村 裕昭, 平田 敏明, 松浦 ...
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2559-2563
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    本邦ではきわめてまれな横行結腸軸捻転症の1例を経験したので報告する.症例は30歳の女性で, 腹部膨満を主訴として緊急入院した.既往歴に, 脳性麻痺, 精神遅滞, 慢性便秘症があった.腹部正面X線像では著明に拡張した結腸ループが横隔膜を挙上していた.S状結腸軸捻転症を疑い, 大腸内視鏡を施行したところ, 大腸ファイバーはS状結腸を容易に通過し, 肝門より約90cmの部位に長軸に直角な粘膜の捻れを認めた.以上より横行結腸の捻転と診断し, 手術を施行した.横行結腸間膜を中心として時計回転に180度軸捻転した横行結腸は壊死におちいっていたため, 横行結腸切除術を施行し, 再建は端々吻合により1期的に行った.後天的な成因による慢性の腸管運動障害に発症した症例においては, 捻転解除術により壊死を免れたものにも, 再発防止のために積極的に結腸切除術が行われるべきであると考える.
  • 水本 正剛, 明石 英男, 黒川 英司, 山本 仁, 国府 育英, 岸渕 正典, 金 成弼, 佐々木 昌也, 青木 行俊, 岡野 錦弥, 森 ...
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2564-2568
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腸間膜の充実性腫瘍はまれな疾患であり, ほとんどすべての悪性腫瘍は肉腫か中皮腫である.左下腹部有痛性腫瘤を主訴に来院した42歳女性のS状結腸間膜の乳頭状腺癌の1症例を経験した.腫瘍は手拳大の大きさで, S状結腸間膜内に限局し, 腫瘍とともに左半結腸切除術を施行した.病理組織検査では高分化乳頭状腺癌と未分化癌の混在を認め, 卵巣の表層上皮性腫瘍 (漿液性乳頭状腺癌+類内膜癌) に酷似していた.特殊染色や免疫組織化学的検討にて中皮腫や肉腫的性格は認められず, 婦人科臓器, 消化器臓器の綿密な検索を行ったが, 結腸間膜以外に原発を疑う臓器は認められなかった.欧米および本邦の文献には同様の報告はきわめて少ない.この腫瘍の組織発生について考察を加えた.術後3年の現在, 再発の兆候なく元気に日常生活を営んでいる.
  • 河田 直海, 斉藤 真悟, 鈴木 偉一, 船津 隆, 小林 展章
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2569-2573
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    壊死型虚血性大腸炎 (以下, 本症) はいまだ致命率が高く留意すべき疾患である.最近, 腹会陰式直腸切断術 (Miles手術) 術後30年で本症を発症した肝硬変併存例を経験し, 救命しえたので報告する.
    症例は78歳の女性で, 3日間の便秘の後, 突然左側腹部痛・水様下痢で発症し, ショック状態で緊急入院した.腹部全体に筋性防禦・圧痛・Blumberg徴候あり.急性腹膜炎の診断で, 発症5時間後に緊急手術を行った.消化管穿孔はなく, 脾結腸曲を中心に約25cmが壊死していた.腸間膜動静脈に異常なく本症と診断し, 切除後, 口側断端を人工肛門に, 肛門側断端は閉鎖した.術後人工呼吸などの厳重な管理を要したが回復した.
    本症の原因は定説がなく, 本例ではMiles手術による循環障害, 肝硬変による欝血・凝固線溶障害も一因と考えられた.救命には発症後速やかな手術以外には無く, 切除および人工肛門造設が妥当な術式と考えられた.
  • 田代 亜彦, 山森 秀夫, 西沢 正彦, 真島 吉也, 中島 伸之
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2574-2579
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    侵襲下におけるエネルギーおよび蛋白代謝動態の変動と, 栄養管理がこれに与える影響を検討した.
    食道癌, 胃・大腸手術症例46例にグリセロール代謝回転, 間接熱量測定, 血中FFA, ケトン体を測定したところ, 侵襲下では脂肪の分解・合成・再合成, エネルギー消費量が亢進していた.同じく61例につき15N gly定速静注法で全身蛋白代謝回転を測定したところ合成, 分解とも侵襲が大きくなると増加した.以上エネルギー消費量, 蛋白エネルギー基質の代謝回転は侵襲の大きさと比例して亢進した.
    胃・大腸手術52例をアミノ酸1.0, 1.5, 2.0g/kg/d投与する3群に分け, 同38例を30%および21%BCAAを投与する2群に分け, また食道癌手術12例をヒト成長ホルモン (HGH) 24IU/d投与する群と非投与群に分けて検討したところ, アミノ酸の増量, 高濃度BCAA投与, HGH投与の蛋白代謝改善効果を認め, いずれも蛋白代謝が活発となり特に合成の増加が著明であった.
  • 藤田 哲二, 尾高 真, 松本 美和子, 桜井 健司
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2580-2584
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    消化器外科手術患者43名で手術開始約2時間後に門脈血および末梢静脈血を同時に採取してサイトカイン濃度を測定した.サイトカイン相互の関連を検討するとともに, 血清蛋白の術前値と手術時のサイトカイン濃度との相関の有無を調べた.さらにサイトカイン値の多寡と急性相蛋白の術後変動との関連を検討し, 以下の結論を得た.
    末梢静脈血ではinterleukin1 (IL-1) 値とinterleukin6 (IL-6) 値との間に有意な関係はなかったが, 門脈血では両者間に正の相関関係 (r=0-31, p<0.05) が認められた.補体第3因子の術前値と門脈血IL-6値の間には正の相関があり (r=0.64, p<0.001) があり, 門脈血IL-1値との間にも正の相関 (r=0.35, p<0.05) があった.門脈血IL6値と術後1日目の血清CRP値との間には正の相関関係 (r=0.47, p<0.01) が存在し, 末梢静脈血のIL-6値との間にも正の相関 (r=0.41, p<0.02) が認められた, 以上から術前の栄養状態と侵襲時のサイトカイン産生能の間には密接な関係がある.
  • 齋藤 英昭, 福島 亮治, 橋口 陽二郎, 住田 敏之, 武藤 徹一郎
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2585-2589
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    われわれは侵襲時の生体反応におけるサイトカインの役割について, とくにin vivoでの肝を中心とした生体反応を検討した.実験的検討には意識下雑種成犬を用いinterleukin-1 (IL-1) またはtumor necrosis factor (TNF) 5μg/kg/時を持続静注した.その結果, サイトカイン, とくにIL-1投与はよく知られている肝での生体反応としての糖.乳酸代謝やアミノ酸・蛋白代謝に類似した反応を引き起した.臨床的検討では, 食道亜全摘術, 胃幽門側切除術, 肝硬変併存肝切除術などの術後の肝の急性相蛋白産生と血中IL-6値の密接な関連, さらに肝硬変併存患者でのIL-6による急性相蛋白産生障害が判明した.以上から, サイトカインは生体反応のメジエータで, 糖・乳酸代謝や蛋白・アミノ酸代謝を充進させる.しかし肝障害ではIL-6産生にもかかわらず急性相蛋白合成が障害され, サイトカインによる肝の生体反応は肝の状態に左右される.
  • 酒本 喜与志, 荒川 博文, 箕田 誠司, 石河 隆敏, 杉田 裕樹, 鮫島 浩文, 江上 寛, 池井 聰, 小川 道雄
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2590-2594
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    サイトカインは手術侵襲後に生じる種々の生体防御反応において重要な役割を果たしている.今回, 外科手術後の血中サイトカインの上昇機序と, それが, どのような因子の影響を受けるかを検討した.対象は合併症を有しない, 各種の予定手術を受けた38例である.サイトカインの定量はELISA法, メッセンジャーRNA (mRNA) の測定はNorthern blotting法にて行った.その結果, 1.血中interleu-kin6 (IL-6) 値は術後1日目に最高値を示すこと, 2.ドレーン浸出液中のIL-6, interle Ukin 8 (IL-8) 値は末梢血に比べ著明に高いこと, 3.胸腔, 腹腔ドレーン浸出液中の細胞内に手術当日, 1, 2日目にIL-6, IL-8のmRNAの発現を強く認めるが, 末梢血細胞内には極めて微量であること, 4.食道癌1期的根治術, 肺葉切除術はおのおの, 同程度の手術侵襲を有す膵頭十二指検切除術, 結検・直検切除術よりも高いIL-6値を示すこと, 5.IL-6値は手術時間あるいは出血量との間に有意の相関が有ること, が明らかになった.以上より, サイトカインは主として手術局所にて誘導, 分泌され, 次いで血中に移行して高サイトカイン血症を来たすこと, また, 手術時間, 出血量はともにサイトカイン産生の大きな影響因子であることが示唆された.
  • 杉山 保幸, 佐治 重豊, 古田 智彦, 東 修次, 宮 喜一, 日下部 光彦, 山田 誠
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2595-2600
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    手術侵襲による担癌生体の免疫能低下に対する非特異的免疫療法の有用性について検討した.担癌ラットの末梢血単核球 (PBMC) のPHA幼若化能やNK活性は手術侵襲の程度の増大に伴って低下し, 肺転移も促進されたが, 手術侵襲の加わる前にOK-432を投与しておくと, それらを防止できた.また, 胃癌患者のPBMCのPHA幼若化能やNK活性は, 手術の翌日より免疫療法を開始しても, 術後1~2週目には術前に比べて有意に低下したが, 術前から治療を施行した場合には低下がみられなかった.さらに, 胃切除可能胃癌患者 (ただしstage Iのうちm, n0を除く) 275例を対象とした非特異的免疫療法に関する検討において, stage II症例で術前後免疫療法施行群の生存率が術後免疫療法施行群と比較して有意に優れていた.以上から, 手術侵襲により免疫担当細胞の抗腫瘍活性は低下するものの, 術前から免疫療法を開始することでそれを防止でき, 予後にも好影響を及ぼすことが示唆された.
  • 細胞性免疫能低下の病態とその発生機序を中心に
    小川 健治, 勝部 隆男, 平井 雅倫, 渡辺 俊明, 若杉 慎司, 成高 義彦, 矢川 裕一, 梶原 哲郎
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2601-2605
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    消化器癌治癒切除例を対象とし, 手術侵襲による細胞性免疫能低下の病態や発生機序, さらにはその低下に対するPSK術前投与の効果などについて検討し, 以下の結論をえた.
    1.手術侵襲によって, 担癌患者の細胞性免疫能は確実に低下する.
    2.その免疫学的病態は, 末梢血リンパ球におけるhelper-inducer T, cytotoxic T, NK cellの比率の低下, suppressor T cellの比率の上昇などが主体をなす.
    3.細胞性免疫能低下の発生機序には, カテコールアミン, コルチゾールなど内分泌系ホルモンの増加, interleukin-6, immunosuppressive acidic proteinなど急性相反応物質の増加が関与する.
    4.こうした術中から術後の細胞性免疫能低下を防止することは, 腫瘍増殖や転移形成との関連から重要であるが, BRMの1つであるPSKの術前投与で防止しうることが示唆された.
  • 桑野 博行, 池部 正彦, 馬場 欽也, 北村 薫, 松嶋 哲哉, 藤也 寸志, 安達 洋祐, 杉町 圭蔵
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2606-2611
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胸部食道癌に対する食道切除後の再建術式に関し, 再建経路別に, 根治度と予後, および術後のqualityoflife (QOL) について検討した.対象例239例中, 1群 (胸壁前経路, 152例), II群 (胸骨後経路, 37例), III群 (胸腔内吻合50例) では, 背景因子としてIII群に下部食道の早期癌が多い傾向にあり, 根治度C2~3症例の占める割合は38.3, 51.4, 72.0%で, 予後に関してはII群は最近の例が多く今後の検討を持つ必要があるが, I, III群でC2~3の5生率は, 24.7, 37.1%であり, stage別にも両群に差はみられなかった.一方アンケートを行った最近5年間の症例50例では, ダンピング症候群, 体重減少, P.Sなどに3群間で差はなかったが, 術後の嚥下障害はIII群で5.9%と最も低く, 胸やけもIII群に4.0%にみられたのみであった.以上より胸腔内吻合はQOLからの面から良好で中下部のリンパ節転移のない早期食道癌に限れば術式として考慮されうるものと考えられた.
  • 平山 克, 西平 哲郎, 赤石 隆, 標葉 隆三郎, 実方 一典, 樋口 則男, 森 昌造
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2612-2617
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胸部食道癌に対する頸部上縦隔拡大リンパ節郭清の評価について, 根治性とquality of life (QOL) の両面から評価を行った.
    昭和62年から平成3年までの5年間に教室で切除した胸部食道癌170例の中で, 頸部上縦隔拡大リンパ節郭清の適応基準を満たした42症例を検索対象とした.42例の内訳は, 拡大郭清21例, 通常郭清21例であり, この2群の比較検討を行った.両群の進行度や各種背景因子には有意差はなかった.
    術後の咳嗽反射の減弱は拡大郭清例において明らかに遷延し, 一過性反回神経麻痺発生率, 気管切開施行率も拡大郭清例が有意に高率であった.しかし, 肺合併症発生率, 手術直接死亡率, 在院死亡率はいずれも両群間に差はなかった.さらに, アンケート調査による術後遠隔時期の生活状況の検討でも両群間には驚く程に差がなく, QOLの面からみても頸部上縦隔拡大郭清の評価は良好といえる.
  • 木下 平, 丸山 圭一, 笹子 三津留, 大山 繁和
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2618-2623
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃癌根治術における脾動脈幹周囲リソパ節郭清に関して, 膵脾合併切除による郭清例233例と丸山の提唱する膵温存手術例137例につき比較検討した.ステージ別にその成績を検討するとステージIIIで膵温存群59%に対し膵合併切除群36%と膵温存手術群で有意に良好であった.No.11リンパ節の組織学的転移陽性例の5生率でも膵温存手術群 (n=14) で16.8%と膵合併切除術 (n=59) の10.1%と比較しても決して悪い成績ではなかった.ステージに現れない進行度の差を考慮しても膵温存手術の根治性は充分期待できると考えられた.
    Quality of life (QOL) の面からも, 入院死亡率, 術後の膵関連合併症は膵合併切除群に多く, 術前術後に0-GTTによる耐糖能の検討でも膵合併切除群で術前4例であった糖尿病型の症例が12例と, 膵温存手術群に対し有意に増加していた.膵温存手術は適応を選べぽ根治性, QOLともに優れた術式である.
  • 熊井 浩一郎, 島田 敦, 才川 義朗, 宇山 一朗, 久保田 哲朗, 吉野 肇一, 石引 久弥, 北島 政樹
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2624-2628
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    早期発見例の増加により胃癌の遠隔成績は著しく向上し, 術後のquality of life (QOL) 向上が課題となってきた.しかし, 治癒切除後のQOL評価方法はいまだ確立されていない.
    今回, 術後QOLへの影響因子を探るべく, 外来通院中の患老へのインタビュー調査をおこなった.121名に対する第1次調査の結果, 癌告知は14%程度で少数であった.術後1年未満は, 手術の影響がなお残っていた.患者の満足度からの解析では, 術後の食生活の変化, 便通異常, 治療中・後愁訴が影響因子となっていた.80名に対する第2次調査から食餌摂取量ではなく, 油もの, 肉類などの摂取困難を呈する食餌内容の変化が影響因子であった.術後QOL向上のため検討されている縮小手術の根治性は確認されたが, 標準R2手術と縮小R1手術は, 患者満足度への影響差は認められなかった.内視鏡的治療の評価や進行癌の術後QOLは今後の検討課題である.
  • 石本 喜和男, 谷村 弘, 正木 和人, 湯川 裕史, 内山 和久, 落合 実, 大西 博信, 吹上 理, 永井 祐吾, 瀧藤 克也
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2629-2634
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    直腸癌治癒切除術 (Ra・Rb) 173例を低位前方切除術 (A群) 67例と直腸切断術 (B群) 116例の2群に分け, 根治性とquality of life (QOL) から比較検討した.根治性に関して術後累積5生率で比較すると, 大腸癌取扱い規約のstageI~IIIではA群63.2%, B群70.1%で差はなかったが, 進行したstage IVではA群28.6%, B群50.4%と, B群が良好となった.しかし術後の排尿障害はA群で30.0%, B群で52.6%, 性機能障害は勃起能でA群30.8%, B群77.5%, 射精能ではA群46.2%, B群79.5%と, A群が逆に低率であった.両群とも側方リソパ節郭清の施行により障害の頻度は増加した.すなわちQOLは術式とリソパ節郭清の程度によって影響される.術前に癌の悪性度診断とEUSによる壁深達度診断を試みた結果, 早期癌に対する縮小手術の適応決定には有用であったが, pm癌以上の進行度診断にはまだ問題があり, 現状では進行癌に対してQOLよりも根治性を重視して広範なリソパ節郭清を優先すべきである.
  • 小島 治, 菅沼 泰, 田村 隆朗, 西植 隆, 大西 一嘉, 伊藤 昌彦, 堀江 宏, 沢井 清司, 高橋 俊雄
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2635-2639
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    われわれは直腸癌の局所再発防止, 予後の向上を目的として, 術前治療を行ってきた.これら術前集学的治療5-fluoro-uraci1 (5-FU) 坐薬単独, 照射単独, 照射・5-FU坐薬併用, 照射・温熱併用, 照射・温熱・5-FU坐薬併用) による, 下部直腸癌の根治性とこれら患者の術後のquality of life (QOL) について検討した.partial regression (PR) 例は照射・温熱・5-FU坐薬で最も多く, pathologic-CR (p-CR) も照射・温熱・5-FU坐薬で11% (2/18), 照射・温熱で8% (1/12) であり, 他の群で全く認められなかった.組織学的効果も同様の傾向であった.ewも照射・温熱・5-FU坐薬群で最も長かった.予後, 局所再発率でも, 照射・温熱・5-FU坐薬は良好であった.下部直腸癌に術前照射・温熱・5-FU坐薬を行い, 縮小した7例に超低位前方切除を行ったところ, 術後排便機能も良好であった.下部直腸癌にたいして, 術前照射・温熱・5-FU坐薬と外科治療の併用は根治性と患者のQOLの面で有用であると考えられた.
  • 奥田 康司, 才津 秀樹, 中山 和道
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2640-2646
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝硬変合併肝細胞癌147例において, 術後異時性多中心性発癌と術後quality of life (QOL) を中心として部分切除と系統的切除の比較を行った.5年生存率は部分切除45.0%, 系統的切除42.9%で, 両者に差は認められなかった.再発例24例の再発腫瘍と切除腫瘍の組織学的分化度の比較検討からは14例 (58.3%) が術後異時性多中心性発癌による再発で, 9例 (37.5%) が転移再発と考えられ, また転移再発例においても9例中7例が他区域におよぶ再発であり, 肝硬変合併肝細胞癌においての系統的亜区域, 区域切除の意義は薄いと考えられた.また, 手術入院期間や術後入院・生存期間比からは, 系統的切除より部分切除の方が, また肝硬変の程度の軽いものの方が入院期間が短く, 術後のQOLの点からも部分切除の妥当性が示唆された.しかし, アンケート調査によるQOL評価の試みは術式および硬変程度で一定の傾向が認められず, 客観的評価方法の困難さが指摘された.
  • 近藤 哲, 二村 雄次, 早川 直和, 神谷 順一, 安井 章裕, 梛野 正人, 深田 伸二
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2647-2650
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    1979年から1990年までに肝門部胆管癌に対し合理的肝区域切除で根治手術を施行しえた56例を対象として, 根治性とquality of life (QOL) の両面から本手術法を評価した.詳細な術前進展度診断・肝門部立体解剖診断に基づいた合理的肝区域切除により, 肝門部胆管癌全例の67%に根治切除が可能であった.根治切除例の術後在院死亡率は11%で, 大部分は術後肝不全死であった.根治切除全56例の累積5年生存率は32%, 術後在院死・他病死を除く43例では43%と, 高度進行例が多いことも考慮すると良好な遠隔成績であった.根治切除後1年以上経過して現在無再発生存中の15例のQOLを調査したところ, performance status (PS) 0が14例, PS1が1例で, 復職率100%, 有症状率20% (軽度) と良好な社会生活を営んでいた.癌再発例でも肝門部局所再発は15%と少なく, QOLは比較的良好であった.以上より, 合理的肝区域切除は根治性と安全性・QOLを両立しうる手術法と考えられた.
  • 田中 純次, 有井 滋樹, 藤田 研一, 真辺 忠夫, 戸部 隆吉
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2651-2654
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    教室の過去10年間の手術施行上部胆道癌133例を対象として, 在宅生存率を, stage, 治癒度, 術式別に検討した.在宅生存率は, stageの進行と一致して低下し, stage IVの1年在宅生存率は, 胆嚢癌7%, 胆管癌4%と低かった.治癒度からは, 絶対非治癒群では, 胆管癌0%, 胆嚢癌4%と低いが, 切除により, 前者で30%前後と上昇, 後者では相対非治癒8%, 治癒切除群で65%前後に上昇し.StageIII, IVの進行胆道癌に対する術式別では, 胆管癌, 胆嚢癌の姑息, 縮小, 拡大手術群の1年在宅生存率は, それぞれ, 0%, 25%, 22%;4%, 42%, 22%であった.以上, 切除により, quaiity of life (QOL) の改善は認められるものの, 拡大手術は必ずしも, 現段階では, QOLの改善には結びつかず, 今後, 拡大手術の適応について検討すべきであると考えられた.
  • 坂本 純一, 安江 満悟, 安井 健三, 森本 剛史, 宮石 成一, 中里 博昭
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2655-2660
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    愛知県がんセンターにおける進行膵癌152例 (TNM Stage III58例, StageIV94例) につき生存期間をKaplan-Meier法にて比較した.またQOLをより客観的かつ定量的に評価するための測度として, 在宅生存期間 (hospital free survival: HFS) を算出し, 各群間で比較することを試みた.また手術後の入院期間をTOX (Toxicity), 再燃後の入院期間をRelapse (REL) と考え, それぞれにutility coefficientを乗じてTWiSTに加算して算出したquality-adlusted survival time (QAST) を各群間で比較してみた.その結果Stage IIIでは生存期間, HFS, QASTいずれの評価についても切除群が非切除群に対しlogrank testで有意に良好であった.Stage IVではgeneralized Wilcoxon testで生存期間とHFSについてR群がNR群に対し有意に良好な成績を示したが, QASTでは両群間に差を認めず, StageIVにおいては膵切除がQASTであらわされるQOLの向上に結びついていない可能性が示唆された.
  • 石川 治, 大東 弘明, 今岡 真義, 亀山 雅男, 佐々木 洋, 甲 利幸, 古河 洋, 岩永 剛
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2661-2665
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    1990年までに治癒切除した膵管癌111例を, 標準郭清 (R1: 45例) と拡大郭清 (2群リンパ節および結合織郭清, R2α: 66例) に分け, 根治性とquality of life (QOL) を比較した.耐術例 (R1: 39, R2α: 63例) の背景因子に著差はなかったが, R1群の3, 5年生存率10%, 8%と比べ, R2α 群ではおのおの35% (p<0.05), 23%と改善していた.R1群での3年生存者 (4例) の大半はn (-), rp (-) であったが, R2α 群 (16例) ではn (+), rp (+), 門脈浸潤例にも見られた.しかし, R2α 群でもt3, n2, 両側または1.4cm以上の門脈浸潤例では3年生存が期待できなかった.3年生存例でQOLを比較すると, R2α 群はR1群よりも不良で, 体重やperformance status (PS) が安定するまでには約1年を要し, 半数が栄養管理などの目的で再入院していた.一方, 再発死亡例 (両群とも平均1年生存) では, PS=0/1期間, 全入院期間などからみてR2α 群の方が不良で, QOLの改善しないまま死亡していたと推察された.
  • 郭清度別にみた根治性と術後quality of life
    上野 桂一, 永川 宅和, 太田 哲生, 萱原 正都, 森 和弘, 中野 達夫, 竹田 利弥, 宮崎 逸夫
    1992 年 25 巻 10 号 p. 2666-2670
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    膵頭部領域癌に対する拡大郭清膵切除術式のうち上腸間膜動脈周囲郭清の意義について, 術式の根治性と術後quality of life (QOL) の面から検討した.上腸間膜動脈周囲神経叢浸潤と腸間膜根部リンパ節転移の頻度は膵頭部癌 (61例) で68.9%, 36.1%, 下部胆管癌 (21例) で4.8%, 33.3%, 乳頭部癌 (34例) で0%, 14.7%であり, 根治性向上のうえで上腸間膜動脈周囲郭清の重要性が示唆された.同部位の郭清程度を拡大, 準拡大, 標準の3群に分類すると, 累積生存率では準拡大郭清群が最も良好であつたが, 膵頭部癌, 拡大群の3例を含む7例に5年生存を得た.一方術後QOLは術後入院期間, 在院死亡率, 再入院率, 術前後のperformance statusの変化, 術後糖尿病, 難治性下痢, 脂肪肝の発生率において拡大郭清群で不良であつた.治療成績の現状からみて根治性の向上が急務であり, 術後QOLについては再入院加療を含めた長期の栄養管理により対処している.
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