症例は75歳の男性で,2015年に食道癌に対して胸腔鏡下食道亜全摘,胸骨後経路頸部食道胃管吻合術を施行した.術後吻合部狭窄を認め,内視鏡的拡張術を頻回に施行していた.2017年,吐血で当院救急外来を受診した.左総頸動脈食道胃管吻合部瘻を来しており,一時心肺停止に陥るも,蘇生可能であり,救急外来で出血部位の直接縫合による緊急止血術を施行した.初回緊急手術から第37病日に左総頸動脈仮性瘤破裂による大量出血を来し,緊急手術を施行した.左総頸動脈に被覆ステントグラフトを留置し,食道瘻・胃管瘻を造設した.皮膚欠損部が大きく,大胸筋皮弁を用いて充填した.術後,縦隔膿瘍を来したが経皮的ドレナージおよび抗生剤にて加療し軽快し,初回緊急手術から第195病日に退院した.その後,再出血なく食道癌の再発も認めずに経過し,2018年に遊離空腸再建術を施行した.現在,外来で経過観察中である.
症例は63歳の男性で,30年前にペルーより来日された.腹部膨満を主訴にCTを撮影したところ肝左葉の巨大囊胞を指摘され精査目的で紹介受診された.造影CTおよびMRIで肝外側区に内部に隔壁を伴う造影効果の乏しい直径25 cmの巨大囊胞性病変と肝S5に3 cmの囊胞性病変を認め,いずれも被膜の石灰化を伴い,抗体検査は陰性であったが画像所見と居住歴から囊胞性エキノコックス症と診断して肝外側区域切除,肝S5亜区域切除を施行した.採取した肝外側区の囊胞内容液よりエキノコックスの原頭節を認め,遺伝子検査で単包条虫と確定した.感染経路は明らかではないものの来日前の曝露が疑われた.本邦におけるエキノコックス症は多包条虫が大半を占め,単包条虫はまれとされるが海外では単包条虫が広く分布しており国際化の流れからも今後は囊胞性エキノコックス症に遭遇する可能性が十分にあり肝囊胞性疾患の鑑別の一つに挙げる必要がある.
症例は54歳の男性で,膵・胆管合流異常症に合併する胆囊癌に対して胆囊全層切除,肝外胆管切除,リンパ節郭清,胆管空腸吻合術を施行された.病理組織学的診断は中分化型腺癌,pT2,ly0,v1,pN0,pStage IIであった.術後2年10か月,腹部超音波検査にて膵体部に不整形で遷延性の造影効果を伴う11 mm大の低エコー腫瘤を認めた.超音波内視鏡下穿刺生検を施行し,腺癌の組織診断を得た.膵体部癌cT3N0M0 cStage IIAと診断し,尾側膵切除を施行した.病理組織診断では膵体部に2か所の病変を認め,いずれの病変も低分化から中分化型の腺癌の所見であった.HE染色および免疫染色検査での形態・形質が既往の胆囊癌の病理組織学的検査所見と一致していたため,胆囊癌膵転移と診断した.術後18か月現在,無再発生存中である.転移性膵腫瘍の多くが腎細胞癌,肉腫,大腸癌,悪性黒色腫からの転移であり,胆囊癌の膵転移は極めてまれである.胆囊癌の孤立性膵転移について報告する.
症例は66歳の男性で,膵尾部の神経内分泌腫瘍に対して腹腔鏡下膵尾部切除術を施行した.術後2日目に突然の背部痛が出現し,緊急造影CTにて右前腎傍腔の血腫と前下膵十二指腸動脈瘤を認めた.術前には認めなかった腹腔動脈起始部狭窄(celiac axis stenosis;以下,CASと略記)が出現しており原因と考えられた.腹部血管造影下に上腸間膜動脈からアプローチをして前膵十二指腸動脈に対して選択的にコイル塞栓術を施行した.再出血なく術後33日目に退院となった.術後3か月の造影CTではCASは消失しており急性正中弓状靭帯症候群(acute median arcuate ligament syndrome;以下,AMALSと略記)の発症が疑われた.今回,我々は腹腔鏡下膵尾部切除術後にAMALSが原因と考えられるCASにより前膵十二指腸動脈瘤破裂の1例を経験したため報告する.
症例は37歳の男性で,幼少時にWilliams症候群と診断され近医に定期通院していた.持続する血膿尿と頻尿を主訴に当院泌尿器科を受診した.腹部CTでS状結腸癌による膀胱浸潤が疑われ,当院消化器内科に紹介された.精査の結果,S状結腸憩室炎による回腸S状結腸膀胱瘻の診断で当科に紹介となった.術中所見で下行結腸,S状結腸に多発憩室を認め,開腹左半結腸切除術,小腸部分切除術,膀胱部分切除術を行った.経過良好で術後11日目に退院した.Williams症候群は染色体7q11.23の微小欠失が原因の比較的まれな疾患である.エラスチンの異常に伴い大腸憩室症を発症しやすいが,大腸憩室炎から回腸S状結腸膀胱瘻を生じた報告例はまれである.心血管系の合併症から麻酔リスクがあること,精神発達遅滞や不安障害の頻度が高いことなどが,周術期の管理に留意すべき点と考えられた.
症例は67歳の男性で,血便を主訴に近医を受診した.貧血の進行を認め当院紹介となり,当院精査で切除可能肝転移を伴う直腸癌と診断した.手術待機中に発熱を認め,敗血症の診断で緊急入院となった.第3病日に敗血症の悪化を認め心不全・呼吸不全となり,人工呼吸器管理による集中治療を要した.第6病日の造影CTで,1~2 cm大の多発肝膿瘍を認め,血液培養からはFusobacterium spp.が検出された.抗菌薬治療と集中治療を継続し,全身状態が改善したため第30病日に腹腔鏡下低位前方切除術を施行した.4か月後に腹腔鏡下肝部分切除術を施行し,肝切除から3年1か月経過している現在,無再発生存中である.今回,我々は肝転移を伴う直腸癌術前にFusobacteriumによる肝膿瘍を発症し,集学的治療のうえ根治手術に至った1例を経験したため報告する.