日本消化器外科学会雑誌
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56 巻, 10 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 権田 紘丈, 加藤 健宏, 世古口 英, 菅原 元, 井上 昌也, 南 貴之, 杉浦 孝太, 山口 真和, 久留宮 康浩
    原稿種別: 原著
    2023 年 56 巻 10 号 p. 519-526
    発行日: 2023/10/01
    公開日: 2023/10/26
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    目的:新型コロナウイルス感染症(corona virus disease 2019;以下,COVID-19と略記)のパンデミック(COVID-19 pandemic;以下,CPと略記)による外出規制や医療機関での感染対策は,急性虫垂炎を含めた腹部救急疾患への医療介入の遅れをもたらした可能性がある.今回,CPによる診療の遅れが及ぼす急性虫垂炎症例への影響を明らかにすることを目的に検討した.方法:2020年3月11日に世界保健機関よりCPが宣言された.その前後約2年間の計1,460日間(2018年3月12日から2022年3月10日)に当院で急性虫垂炎に対して緊急手術を行った症例を,CP前(n=213)およびCP後(n=248)に分類し比較検討を行った.結果:当院来院から手術開始までの時間はCP前651±468分,CP後732±426分でありCP後で有意に長かった(P=0.005).壊疽性虫垂炎と診断された症例はCP前43.7%からCP後66.9%と有意に増加したが(P<0.001),術後合併症発生率に有意差は認めなかった.結語:CP後からの院内の徹底した感染症対策により,手術開始の遅れおよび壊疽性症例の増加を認めたが,術後転帰の悪化は認めなかった.待機可能な急性虫垂炎症例に対しては,院内感染対策による診療の遅れは許容可能と考えられた.

症例報告
  • 佐藤 和秀, 増田 隆洋, 高橋 慶太, 谷島 雄一郎, 藤崎 宗春, 宇野 耕平, 坂下 裕紀, 原 圭吾, 矢野 文章, 衛藤 謙
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 56 巻 10 号 p. 527-535
    発行日: 2023/10/01
    公開日: 2023/10/26
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    症例は24歳の男性で,健診の胸部X線検査で縦隔腫瘍が疑われ,当院を紹介受診した.CT所見上,胸部食道から腹部食道までを全周性にとり囲む最大横径8 cmの腫瘍を認めた.また,上部消化管内視鏡検査で胸部上部食道から下部食道にかけて全周性に伸展する粘膜下腫瘍を認め,ボーリング生検で平滑筋腫と診断された.腫瘍が食道を圧排・牽引することによる胸やけとつかえ感に悩まされており,腹腔鏡下・胸腔鏡下に腫瘍核出術を行った.腫瘍は食道長軸方向に約17 cmに渡って亜全周性に伸展しており,核出術後には胸部中部食道から腹部食道まで筋層は欠損し粘膜層のみが残った.胃食道逆流予防に噴門形成術を付加した.術後は順調に経過し,術後19日目に退院した.巨大食道粘膜下腫瘍に対する核出術の報告はこれまでにほとんどない.今回,我々は巨大亜全周性食道平滑筋腫に対して腹腔鏡下・胸腔鏡下に核出術を行った1例を経験したので報告する.

  • 柳沢 直恵, 内川 裕司, 髙山 寛人, 島田 良, 岩谷 舞
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 56 巻 10 号 p. 536-546
    発行日: 2023/10/01
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    症例はBMI 34の56歳の女性で,既往に2型糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患が指摘されていた.胃癌の術前精査で肝障害と高アンモニア血症を指摘された.CTでは左胃静脈と左腎静脈を短絡する太い異常血管が認められた.シャント血管の瘤化はなく径は均一で,先天性門脈体循環シャントが示唆された.幽門側胃切除術中に門脈圧を測定したが門脈圧亢進はなく,シャント血管の一時的クランプの前後で圧の大きな上昇を認めなかったため,一期的にシャント血管を切除した.高アンモニア血症は速やかに改善し,術後16日目に退院した.術後2年経過したが,術前に異常値を示していたトランスアミナーゼ,血清アンモニア値,BTR,M2BPGiは全て正常化,肝の脂肪化も著明に改善し,肝障害は軽快している.胃癌手術およびシャント血管切除術を行い,術前の肝障害の改善を得た先天性門脈体循環シャントの成人1症例を経験したので報告する.

  • 田井 優太, 森田 剛文, 牧野 光将, 井田 進也, 村木 隆太, 北嶋 諒, 武田 真, 菊池 寛利, 平松 良浩, 竹内 裕也
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 56 巻 10 号 p. 547-559
    発行日: 2023/10/01
    公開日: 2023/10/26
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    切除困難な巨大肝細胞癌に対する術前治療として分子標的薬を用いた報告はいまだ少数である.今回,巨大肝細胞癌に対し術前にlenvatinibの投与により腫瘍が縮小し,切除後の残肝容積を温存できた症例を経験した.症例は78歳の男性で,肝S5・S6から肝外に突出する19 cm大の肝細胞癌ならびに肝S8の肝内転移を認めた.腫瘍はG7にも近接し,根治切除には拡大後区域切除+肝S8部分切除(31.9%切除)が想定されたが,ICG停滞率が28.3%と高値かつ,術後の早期再発も危惧されたため,lenvatinibを投与した後に切除する方針とした.投与開始後6週間で主腫瘍は縮小し,肝内転移も消失した.肝下区域切除(10.7%切除)を施行し,残肝容積を保つことが可能となった.Lenvatinibは巨大肝細胞癌の術前治療の選択肢になりうると思われた.

  • 渡部 嘉文, 鈴木 玲, 木下 満, 広田 将司, 鳥井 郁子, 福地 成晃
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 56 巻 10 号 p. 560-568
    発行日: 2023/10/01
    公開日: 2023/10/26
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    症例は50歳の男性で,切除不能多発肝転移を伴う横行結腸癌に化学療法を開始した.発熱と腹部膨満が出現し,CTで腸管拡張と終末回腸の壁肥厚を認め,横行結腸癌による腸閉塞,閉塞性腸炎と診断した.緊急結腸亜全摘術を施行し,壁肥厚した回腸も術中触診で同定し切除した.盲腸に裂傷や閉塞性腸炎の病理組織像を認めた.壁肥厚した回腸には潰瘍が多発し,盲腸と同様の虚血性変化と判断した.術後に化学療法を継続したが,熱源不明の発熱が続き,回腸の潰瘍性病変を再検討した.粘膜下層にCD3,CD4,CD5陽性,CD8,CD20,CD56陰性の中型から大型の異型細胞を認め,回腸原発T細胞リンパ腫と確定診断した.重複した横行結腸癌による閉塞性腸炎のため回腸悪性リンパ腫の診断に難渋した症例を今回経験した.大腸癌と回腸悪性リンパ腫の重複はまれであるが,回腸の潰瘍性病変では悪性リンパ腫の可能性を常に念頭に置く必要がある.

  • 竹上 智浩, 大西 貴久, 金丸 隆幸, 井上 和人, 国村 利明
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 56 巻 10 号 p. 569-575
    発行日: 2023/10/01
    公開日: 2023/10/26
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    症例は71歳の女性で,下血,下腹部痛にて来院,入院となった.大腸内視鏡にてS状結腸癌と診断(生検にて高分化管状腺癌),術前CTでは腫瘍の左卵巣囊胞浸潤が考えられた.手術所見にてS状結腸癌漿膜面に囊胞が存在,腸管に固着しており隣接して左卵巣も存在,癌の卵巣囊胞浸潤の可能性を考え開腹S状結腸切除,左付属器切除術を施行した.術後経過良好にて術後10日目に退院した.病理所見は高~中分化管状腺癌でありpStage II(T3N0M0),術前術中卵巣囊胞と考えた囊胞はS状結腸癌が漿膜下で囊胞形成性に増殖していたことが判明した.卵巣,卵管に悪性所見は認めなかった.通常の分化型腺癌の大腸癌が漿膜下に囊胞形成する事例は珍しく,本邦での文献報告は3例のみである.本症例は左付属器浸潤との鑑別も問題となった1例であった.

編集後記
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