日本消化器外科学会雑誌
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46 巻, 12 号
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原著
  • 小野寺 浩, 宮田 剛, 市川 宏文, 亀井 尚, 中野 徹, 里見 進
    原稿種別: 原著
    2013 年 46 巻 12 号 p. 877-884
    発行日: 2013/12/01
    公開日: 2013/12/20
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     目的:近年Stage II–III食道癌に対しては術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;以下,NACと略記)が標準治療となっている.当科のNACの治療成績を検討した.方法:2008~2011年のStage II–III(T4を除く)食道癌のうち十分耐術能がある症例を対象とした.化学療法はcisplatin 80 mg/m2 day 1,22および5-fluorouracil 800 mg/m2 day 1~5,22~26を行い,3~5週の後手術を行った.手術は胸腔鏡下食道切除,胃管再建,頸部吻合(縦隔および腹部リンパ節郭清)を標準とした.結果:NAC群の平均年齢は65歳,ステージ別ではIIA 12例,IIB 13例,III 44例で合計69例であった.化学療法の完遂率は81%であり,非完遂の理由は効果なし,腎機能低下などであった.手術に関して縫合不全発生率は2.8%であり,反回神経麻痺や心肺合併症の頻度も通常手術と比べて高くなく,化学療法の影響は少なかった.組織学的grade 3を2例(2.9%)に認めた.NAC群の3年生存率は62%で手術群の56%と比較して有意差は認めなかった.結語:NAC群で周術期合併症の増加は認めず,手術は比較的安全に施行可能であった.cStage IIでは生存率の改善を認めるものの,cStage IIIでは改善を認めなかった.
  • 髙見 秀樹, 横山 裕之, 橋本 良二, 渡邊 卓哉, 望月 良成, 上平 修, 谷口 健次, 末永 裕之
    原稿種別: 原著
    2013 年 46 巻 12 号 p. 885-893
    発行日: 2013/12/01
    公開日: 2013/12/20
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     目的:高度に膀胱浸潤を伴う大腸癌に対して膀胱全摘を行った場合の尿路変向術としては回腸導管を用いることが一般的である.しかし,このウロストーマは患者のQOL低下を招くことがあり,ボディーイメージも損なうために精神的苦痛を伴う.近年,当院泌尿器科では膀胱癌に対する膀胱全摘後に回腸を用いた自然排尿型代用膀胱の一つであるHautmann法を改変した尿路変向術を積極的に行っている.そこで,我々も高度膀胱浸潤を伴う大腸癌に対する根治切除後の尿路変向術としてこの方法を選択的に採用してきた.方法:2009年1月から2011年12月までにこの再建法を行った5例を対象とし,手術の安全性,術後アウトカムについて評価した.結果:術後平均観察期間は29か月で平均手術時間は635分,出血量の中央値は999 gで,輸血は2症例で必要とした.術後平均在院日数は33.4日,術後に重篤な合併症は認めなかった.5例中4例で完全立位自排尿が可能であった.1例で肺再発を認めて切除したが,5例とも生存中である.結語:我々の行った尿路変向術は重篤な術後合併症もなく安全に施行できた.QOLや長期の合併症,予後についての評価は不十分であるものの,ボディーイメージを損なわない点において患者の受け入れが良いため,適応を十分考慮すれば有用な再建方法の一つになりえる可能性が示唆された.
症例報告
  • 松澤 文彦, 蔵谷 大輔, 濱口 純, 阿部 厚憲, 廣方 玄太郎, 水上 達三, 及能 健一, 近藤 信夫
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 46 巻 12 号 p. 894-900
    発行日: 2013/12/01
    公開日: 2013/12/20
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     症例は32歳の男性で,心窩部痛,嘔吐を主訴に近医を受診し,精査を行うも異常所見を認めなかった.その後腹痛が増強し,腹部X線検査で小腸niveau像を認めたため当科に紹介,入院となった.初診時,WBC 12,350/μl(好中球78%),CRP陰性であった.第4病日,保存的治療での症状の改善を認めなかったため,原因不明の腸閉塞の診断で試験開腹術を施行した.術中所見では後腹膜から小腸間膜に向かう炎症性の索状物を認め,回盲弁から約1 m口側の回腸が陥入していた.索状物は硬結を伴っていた.硬結を含め索状物を切除し,通過障害を解除した.病理組織学的検査所見で広範な好中球浸潤を伴う壊死組織の内部にアニサキス虫体を認め,消化管外アニサキス症による癒着性イレウスと考えられた.本症の報告はまれとされる.本症の術前診断は容易でないが,腸閉塞の一因として念頭に置く必要がある.
  • 藤井 研介, 田中 亮, 井上 善博, 米田 浩二, 朝隈 光弘, 廣川 文鋭, 宮本 好晴, 林 道廣, 内山 和久
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 46 巻 12 号 p. 901-906
    発行日: 2013/12/01
    公開日: 2013/12/20
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     症例は80歳の男性で,幽門側胃切除術,Billroth-II法再建の手術歴があり,また79歳時,総胆管結石に対し内視鏡的切石術の既往歴がある.発熱,腹痛のため入院となり,腹部造影CTにて十二指腸憩室および膿瘍形成を伴う遊離ガス像を認めたため,十二指腸憩室穿孔と診断し緊急開腹術を施行した.手術所見にて十二指腸下行脚後壁の憩室内に結石を伴う穿孔部を認め,縫合閉鎖・大網被覆術・腹腔ドレナージ術,さらに胆囊摘出術,胆道ドレナージ術を施行した.Billroth-II法再建術後の輸入脚内では腸管内圧上昇や憩室内腸石形成および憩室炎から十二指腸憩室は穿孔を合併しやすく,Billroth-II法再建時に十二指腸憩室を認める場合は,穿孔予防目的で翻転術などの付加を考慮すべきであると考えられた.つまり,十二指腸憩室を伴う幽門側胃切除時の再建術としては,Billroth-I法やRoux-Y法が望ましいといえる.
  • 北村 祥貴, 黒川 勝, 丹羽 秀樹, 奥出 輝夫, 森山 秀樹, 小竹 優範, 稲木 紀幸, 伴登 宏行, 山田 哲司
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 46 巻 12 号 p. 907-914
    発行日: 2013/12/01
    公開日: 2013/12/20
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     患者は60歳の女性で,右季肋部痛と発熱を主訴に受診した.CTで肝右葉後区を主座とする最大径16.6 cmの充実性腫瘍を認めた.内部は多結節癒合状で一部出血壊死を伴っており,結節の辺縁部は後期相で濃染した.MRIではT2強調像で不均一な高信号,T1強調像で低信号を呈した.肝肉腫もしくは肉腫様変性を来した肝細胞癌と診断し,肝右葉切除術を施行した.病理組織学的検査所見では,紡錘形細胞が増殖しており,核異型が強く,細胞質内にperiodic acid-Schiff(PAS)陽性顆粒状胞体を有する細胞を認めた.免疫組織学的にα smooth muscle actin(αSMA)とdesminのみ一部の細胞で陽性であり,肝未分化肉腫と診断した.本症は主に小児に発生する悪性間葉系腫瘍で,成人の発症は極めてまれな予後不良な疾患であり,外科的切除が第一選択となる.確立した化学療法はないが集学的治療での長期生存例もあり,症例の集積と検討が必要である.
  • 大黒 聖二, 奈良 聡, 近藤 俊輔, 堀 周太郎, 岸 庸二, 江崎 稔, 島田 和明, 小菅 智男, 奥坂 拓志, 尾島 英知
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 46 巻 12 号 p. 915-923
    発行日: 2013/12/01
    公開日: 2013/12/20
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     ソラフェニブを含む治療による腫瘍の縮小後に肝切除が行われた進行肝細胞癌症例の報告は少ない.今回,我々はソラフェニブとシスプラチン肝動注療法の併用療法後,根治目的に切除を行った進行肝細胞癌症例を経験したので報告する.症例はアルコール性肝障害を有する56歳の男性で,門脈本幹腫瘍栓と下大静脈腫瘍栓を伴う9 cm大の肝細胞癌(Child-Pugh分類A)に対してソラフェニブ(800 mg/日,連日)とシスプラチン肝動注(65 mg/m2,4~6週毎)の併用療法を6コース施行した.治療効果判定はRECIST基準では安定,modified RECIST基準では部分奏効であったが,腫瘍栓が縮小したため,ソラフェニブ内服終了後41日目に右葉切除術を施行した.病理組織学的検査所見ではviableな肝細胞癌成分を認めず,併用療法による病理学的完全奏効と診断した.術後経過は良好で,現在2年無再発生存中である.
  • 金谷 信彦, 田中屋 宏爾, 武田 正, 森廣 俊昭, 二宮 卓之, 清田 正之, 荒田 尚, 勝田 浩, 青木 秀樹, 竹内 仁司
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 46 巻 12 号 p. 924-928
    発行日: 2013/12/01
    公開日: 2013/12/20
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     Lynch症候群はミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患で,大腸,子宮内膜などの関連癌を若年で高率に発症する.症例は42歳の女性で,皮下腫瘤を主訴に当科紹介となった.精査にて未分化胆管癌の皮下転移,多発肝転移(T3N0M(+):Stage IVb)と診断した.29歳で大腸癌の既往があり,第2近親者内に若年大腸癌,子宮内膜癌,脳腫瘍の発がん患者を6名認めており,改訂ベセスダガイドラインに合致した.Microsatellite instability(以下,MSIと略記)検査でMSI-Hと判定し,遺伝子検査にてMLH-1のExon6のintron領域の病的変異を認めた.得られた遺伝情報をもとに,3名の変異保持者を確認した.Lynch症候群は患者本人だけでなく,家系全体も関連腫瘍に対するサーベイランスの対象となるため,確定診断は意義があると思われた.
  • 鈴木 茂貴, 唐崎 秀則, 藤原 康博, 松坂 俊, 新居 利英, 今井 浩二, 谷口 雅彦, 古川 博之, 及川 賢輔
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 46 巻 12 号 p. 929-937
    発行日: 2013/12/01
    公開日: 2013/12/20
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     症例は72歳の女性で,多数のリンパ節腫大を伴う4 cm大の膵頭部腫瘍に対し幽門輪温存膵頭十二指腸切除を施行した.病理組織学的検査所見ではリンパ節転移陽性の多形細胞型膵退形成癌と診断されたが,術後4年経過後も無再発生存中である.膵退形成癌は予後不良とされているが,長期生存例も報告されている.その特徴は不明であるが,過去の報告からは免疫応答の関与が長期生存に寄与する可能性が示唆されている.本例も間質に好中球とCD8陽性リンパ球の顕著な浸潤を認め,同様の機序が推察された.治療は切除が第一選択で,報告された長期生存例も全て切除例である.本例は多数の腫大リンパ節を認めたものの,画像所見から通常型膵管癌以外の特殊な組織型を想定して切除し長期生存が得られている貴重な症例である.本疾患の治療戦略を明らかにするためには,欧米と分類を統一して複雑な用語を整理し,多数例での解析を行うことが重要であると考えられた.
  • 小澤 博嗣, 岡田 尚也, 中村 透, 高田 実, 安保 義恭, 中村 文隆, 樫村 暢一
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 46 巻 12 号 p. 938-944
    発行日: 2013/12/01
    公開日: 2013/12/20
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     症例は71歳の男性で,敗血症性ショックの状態で当施設へ搬送された.同日,試験開腹を施行したが,炎症性腹水のみの手術所見であった.術後も敗血症性ショックが遷延したため,感染源の検索として造影CTを行い,大腸全域にわたる壁肥厚を認めた.Clostridium difficle(以下,CDと略記)腸炎の既往と高度な白血球増多を認め,さらに下部消化管内視鏡検査では偽膜形成を認めたため,CD腸炎による敗血症性ショックの診断に至った.入院4日目に双口式回腸瘻造設+大腸洗浄を施行し,術後は回腸瘻から大腸側へのバンコマイシン投与を14日間継続した.術後経過は良好で,術後27日目にICUを退室し,術後56日目にリハビリ継続目的で転院した.CD腸炎に対する外科的治療は大腸亜全摘+回腸瘻造設が標準であるが,今回,我々は双口式回腸瘻造設+大腸洗浄を施行し,大腸亜全摘を回避しえたので,報告する.
  • 宮永 克也, 多保 孝典, 林 秀樹, 稲井 邦博, 内木 宏延
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 46 巻 12 号 p. 945-951
    発行日: 2013/12/01
    公開日: 2013/12/20
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     症例は72歳の男性で,左下腹部痛にて当院受診し,腹部CTにて直腸S状部に全周性腫瘍を認め,周囲(下行結腸,小腸)への浸潤,および多発性肝転移,腹部大動脈周囲リンパ節転移が疑われた.大腸内視鏡では,肛門縁より18 cmに白苔に被われた全周性の潰瘍を伴う腫瘍性病変を認めた.同部よりの術前生検では病理学的確定診断は得られなかった.開腹所見で腫瘍は直腸S状部を主座に壁外発育し,下行結腸と小腸へ直接浸潤していたため,直腸低位前方切除術,小腸合併切除術を施行した.切除標本の免疫染色検査にて,腫瘍細胞に特定の分化傾向は認められず,分類不能な大腸腫瘍と診断された.術後経過は良好であったが,1年後に肝転移巣,ならびに肝門部~腹部大動脈周囲リンパ節転移巣の増大,さらには脳転移も出現し,術後1年3か月で死亡した.病理組織学的検査所見で分類不能な大腸腫瘍は極めてまれなことから,報告する.
特別報告
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