日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
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39 巻, 3 号
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  • 森脇 義弘, 豊田 洋, 小菅 宇之, 杉山 貢
    2006 年 39 巻 3 号 p. 277-282
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    義歯誤飲の多くは容易な摘出や自然排泄が期待できるが, 蟹爪状の鈎(クラスプ)を有した大型有鈎義歯は咽頭食道粘膜を損傷しやすい. 症例は64歳の男性で, 近医で義歯誤飲, 食道穿孔, 縦隔炎, 胸腔穿破と診断され, 発症29時間後に当センターへ転送された. 食道切除を前提とし, 吻合部となる頸部食道や再建臓器となる胃の観察のため上部消化管内視鏡を施行したが, 頸部食道や胃には問題となる異常はなかった. 右開胸で, 膿性胸水, 縦隔膿瘍, 胸膜炎を認め, 胸部食道切除, ドレナージ, 大彎側胃管による胸骨後経路再建を施行した. 摘出標本では, 義歯の鈎が食道を縦方向に移動して擦過, 刺入部で水平方向に回転し穿孔しており, 内視鏡的摘出時には水平方向回転も試みるべきことを示唆していた. 術後は, 第8病日まで人工呼吸管理を要したが, 20病日に紹介元病院へ再転院としえた.
  • 早田 啓治, 岩橋 誠, 中村 公紀, 中森 幹人, 中谷 佳弘, 石田 興一郎, 中 禎二, 飯田 武, 森 一郎, 山上 裕機
    2006 年 39 巻 3 号 p. 283-288
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は64歳の男性で, 嚥下困難を主訴に当科を受診した. 術前診断は胸部下部食道癌で生検ではkeratin pearl形成を伴う扁平上皮癌と診断された. 右開胸開腹食道亜全摘, 3領域リンパ節郭清を施行した. 病理組織学的検査では原発巣は高分化型扁平上皮癌であり, リンパ節は#3,#7,#106recR, L,#101R, L,#104R, Lで転移陽性であった. 胸腹部転移リンパ節は中分化型扁平上皮癌であり, 頸部転移リンパ節は低分化型扁平上皮癌と非小細胞型未分化癌が混在していた. また, 頸部転移リンパ節の免疫組織学的検査ではAE1/3, EMAは陽性, chromo-granin A, synaptophysin, NSE, vimentinはいずれも陰性であることから上皮細胞由来と考えられた. 食道非小細胞型未分化癌は非常にまれであり, 本例はその発生において扁平上皮癌の脱分化が関与することを示唆する極めて興味深い症例である.
  • 大原 利章, 津村 眞, 内海 方嗣, 山崎 泰源, 國土 泰孝, 村岡 篤, 立本 昭彦, 香川 茂雄, 鶴野 正基
    2006 年 39 巻 3 号 p. 289-293
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は66歳の男性で, 胸部食道癌に対し食道亜全摘胸壁前胃管再建術を行い, 外来通院中, 再建胃管前面に発赤を伴う胃管皮膚瘻を形成した. 抗潰瘍療法を行うも増悪し, 局麻下に胃管部分切除術を施行した. 以後, 2回の再発を認め原因精査を行った. 再度の問診にて, 肩関節周囲炎でのNSAID, ステロイドの長期投与が判明し, 誘因と考えられた. Zollinger-Ellison症候群の可能性も考え, セクレチン負荷テストを行った. 血中ガストリン値は1,210~1,620pg/mlと持続高値で, paradoxical responseは認められず否定的であった. 血中ガストリン値は本邦報告例に比べて著しく高く, 原因を検索した. 血中壁細胞抗体検査は陰性で, Helicobacter pyloriとの関連は, 抗体測定法で血中, 尿中は陽性だが, 切除標本からは菌は検出されず, 原因は不明であった. 今後は食道癌術後長期生存に伴い, 胃管潰瘍防止のために患者教育の必要性が示唆された.
  • 高瀬 恒信, 原田 明生, 矢口 豊久, 梶川 真樹, 中山 茂樹, 城田 高, 岡村 行泰, 菅江 崇, 猪川 祥邦, 中村 隆昭
    2006 年 39 巻 3 号 p. 294-299
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    胃癌肉腫はまれな疾患であり, なかでも肉腫成分が特定の非上皮系細胞への分化を認める胃原発真性癌肉腫の報告は少ない. 症例は74歳の男性で, 心窩部痛と食思不振を主訴に当院を受診した. 胃内視鏡による生検にて軟骨肉腫への分化を伴う胃原発癌肉腫と診断した. 肝外側区域, 横隔膜に直接浸潤しており浸潤部を合併切除し, 胃全摘術を施行した. 病理学的検索では原発巣において低分化から中分化な腺癌, 軟骨肉腫像の混在と小細胞癌様細胞, 紡錐形細胞など多彩な形態の細胞増殖を認めたのに対し転移リンパ節では腺癌像のみ認めた. 患者は術後5か月目に多発肝転移を生じ死亡, 剖検が施行された. 多発肝転移巣では原発巣同様の病理像を認め肉腫成分の肝転移のポテンシャルが示唆された. 胃原発真性癌肉腫の報告は自験例を含めても10例に満たないことより症例の蓄積が必要と考え報告した.
  • 田浦 康二朗, 猪飼 伊和夫, 霜田 雅之, 濱州 晋哉, 波多野 悦朗, 藤井 英明, 足立 由香里, 中嶋 安彬, 嶌原 康行
    2006 年 39 巻 3 号 p. 300-305
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は53歳の男性で, 腹痛を主訴として来院し, 精査にて十二指腸乳頭部に腫瘍を認め, 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した. 病理組織学的に腫瘍細胞は小型で細胞質に乏しく核異型が目立ち, 核分裂像が多数見られた. 神経内分泌腫瘍のマーカーであるchromogranin Aが陽性であり, 神経内分泌癌(小細胞癌)と診断した. 術後2か月で多発肝転移を生じ, 肺小細胞癌に準じCDDP/CPT-11による肝動注化学療法を行い, 奏功した. しかし2か月後に再燃した後は非常に急速な経過をたどり術後約13か月で死亡した. 消化管原発の神経内分泌癌はまれな疾患であり予後不良であるとされる. 化学療法については十分な検討はなされていないが, 肺小細胞癌に準じた化学療法は有効な治療の選択肢であると考えられた.
  • 谷 安弘, 中川 隆公, 神山 俊哉, 中西 一彰, 福森 大介, 蒲池 浩文, 植村 一仁, 松下 通明, 椎谷 紀彦, 藤堂 省
    2006 年 39 巻 3 号 p. 306-311
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    右心房に腫瘍栓が達している肝細胞癌に対する手術適応は限られていたが, 手術手技の向上により, 長期予後を期待するほか, 腫瘍栓による肺梗塞や心不全による突然死を回避する目的で手術が行われている. 今回, 右心房に腫瘍栓が達した右肺全摘後の症例に対し人工心肺を併用することにより安定した血行動態の下, 腫瘍を切除しえた症例を経験した. 症例は68歳の男性で, 腫瘍は肝右葉全体を占め, 腫瘍栓が右肝静脈より右心房に達していた. 手術は肝門部処理後anterior approachで肝実質を切離し, 右肝静脈を処理すれば肝右葉を摘出できる状態にした後, 人工心肺を稼動させた. 右肝静脈を切開し腫瘍塞栓とともに切除肝を摘出した. 右心房に腫瘍栓が達しても人工心肺併用により安全に切除することができると考えられる.
  • 赤本 伸太郎, 出石 邦彦, 谷内田 真一, 岡野 圭一, 合田 文則, 若林 久男, 臼杵 尚志, 前田 肇
    2006 年 39 巻 3 号 p. 312-316
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    我々は肝細胞癌術後の大動脈孤立性リンパ節再発に対し, 切除を行い比較的良好な経過を得た症例を経験したので報告する. 症例は77歳の女性で, 平成13年に肝細胞癌にてS8部分切除術とリンパ節郭清(No.12, 13)を施行し, No.12に転移リンパ節を指摘されていた. 外来経過観察中に, 平成15年4月のCTで大動脈周囲リンパ節腫大を指摘され, 転移を疑われた. 他臓器に転移再発を認めず, 平成15年5月リンパ節摘出術を施行した. 病理では低分化型肝細胞癌の所見であった. 術後1年10か月のCTで多発肝転移を指摘されたが, 術後2年の現在生存中である. 肝細胞癌のリンパ節転移は剖検例で30%前後と決してまれではないが, 肝切除症例では1.6%と少ない. さらに, 孤立性リンパ節再発の報告は肝十二指腸間膜, 膵頭後部リンパ節再発では散見されるが, 大動脈周囲リンパ節再発の報告は非常にまれである.
  • 星 光世, 齋藤 雄康, 安西 良一, 丹野 弘晃
    2006 年 39 巻 3 号 p. 317-322
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    胆管原発悪性黒色腫はまれな疾患で, 悪性度が高く術後早期に再発を来し死亡に至る症例が報告されている. 症例は55歳の男性で, 全身倦怠感と黄疸で発症した. 腹部のUS, CTやMRCPおよびERCPとPTBDからの同時造影で中部胆管に約3cmの腫瘍性病変を認めた. 中部胆管癌を疑い胆管切除とリンパ節郭清を施行した. 標本は黒色の隆起性腫瘍で, 病理組織学的に悪性黒色腫の診断を得た. 術後, 全身の皮膚検索とF-18fluorodeoxyglucose positron emission tomography (以下, FDG-PETと略記) を行い, 他に原発となる病変がないことから胆管原発と診断した. また, 肝臓に一致した多発性の高集積像を認め, 腹部CTでも術前に見られなかった多発腫瘍があり肝転移と診断した. DAV療法を施行したが効果なく, 術後4か月で死亡した.胆管悪性黒色腫は本症例を含め12例の報告のみで, 診断や治療は確立しておらず, 今後の検討が重要である.
  • 松本 逸平, 味木 徹夫, 沢 秀博, 藤田 恒憲, 上田 隆, 藤野 泰宏, 鈴木 康之, 黒田 嘉和
    2006 年 39 巻 3 号 p. 323-328
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    先天性胆道拡張症・膵胆管合流異常症はしばしば急性膵炎で発症するが, そのほとんどは軽症例である. 今回, 我々は重症急性膵炎で発症した戸谷IV-A型先天性胆道拡張症の1例を経験したので報告する. 症例は68歳の女性で, 生来健康であったが, 2004年12月突然上腹部痛・嘔吐が出現し近医へ救急搬送された. 精査にて重症急性膵炎 (厚労省重症度スコアー6点, Stage2) と診断され治療が開始されるも軽快傾向認めず, 第2病日に当院へ紹介となり, 膵炎に対する保存的治療を行った. 膵炎軽快後のmagnetic resonance cholangiopancreatographyおよびERCPにて戸谷IV-A型先天性胆道拡張症と診断した. 膵炎発症後44日目に嚢腫胆管切除, 肝管空腸吻合術を施行した. 手術時, 膵炎の影響のため膵内胆管の剥離が困難で膵側胆管切離は膵上縁のレベルで行った. 重症急性膵炎の成因として本症は念頭におくべき疾患であり, 悪性病変の合併を認めない場合は, 嚢腫胆管の完全切除のためには膵炎の影響が十分消退してから手術を行うのが望ましいと考えられた.
  • 深見 保之, 寺崎 正起, 坂口 憲史, 村田 透, 大久保 雅之, 西前 香寿, 北山 康彦, 星 昭二
    2006 年 39 巻 3 号 p. 329-333
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は79歳の女性で, 発熱と右上腹部痛を主訴に当院を受診した. 腹部超音波検査で, 胆嚢壁の肥厚と胆石を認め胆石胆嚢炎の診断にて入院した. 腹部CTで主膵管の拡張を認めたが, 明らかな腫瘤像は認めなかった. ERPでは膵体部主膵管に狭窄があり, それより尾側膵管は拡張していた. 膵液細胞診はclass IIIであった. 小膵癌を否定できず膵体尾部・脾合併切除, 胆嚢摘出術を施行した. 病理所見では狭窄部の主膵管壁が線維性に肥厚し, 周囲の膵実質は腺房の萎縮を認めた. 限局性慢性膵炎による主膵管狭窄と判断した. また, 狭窄部より約5cm尾側膵管内にpancreatic intraepithelial neoplasia (PanIN) 病変の合併を認めた.
  • 三澤 一成, 清水 泰博, 安井 健三
    2006 年 39 巻 3 号 p. 334-339
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は59歳の女性で, 既往歴は1998年に左肺癌に対し左下葉切除術, 同時性脳転移に対して化学放射線療法, 2002年に骨転移に対して放射線療法を施行した. 外来経過観察中に血清CEA値の上昇を認め, 2003年10月の腹部CTで膵頭部に径3.5cmの腫瘍を認めた. EUSで低エコー, 辺縁不整な腫瘍が描出され, EUS下穿刺細胞診および免疫組織学検査にて肺癌膵転移と診断した. 肺原発巣, 脳・骨転移が制御されていることから, 2004年1月, 膵頭十二指腸切除術を施行した. 病理診断は, 中分化型腺癌で肺癌の膵転移として矛盾のない所見であった.現在, 再発の兆候はなく術後15か月生存中である. 転移性膵腫瘍は一般に予後不良であるが, 切除により予後改善が期待できる症例もある. 腫瘍の悪性度, 他臓器転移の有無, 患者のQOLなどを考え, 症例によっては外科的切除を考慮すべきである.
  • 沖野 秀宣, 廣吉 元正, 北浦 良樹, 鬼塚 幸治, 庄野 正規, 品川 裕治, 島田 和生, 吉冨 聰一, 渡辺 次郎, 武田 成彰
    2006 年 39 巻 3 号 p. 340-346
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    歳の女性で, 膵Solid-pseudopapillary tumor (以下, PSPT) の診断で膵体尾部脾合併切除術を施行後, 2年5か月後に多発肝転移を認め肝前区域切除術, ラジオ波焼灼術を施行した. PSPTは若い女性に好発する予後良好な腫瘍と認識されているが, 肝転移を伴う症例での死亡報告例が集積し必ずしも予後良好な腫瘍とは言いがたい. 本邦における肝転移症例50例を通常のPSPTと比較すると, 平均年齢は約15歳高齢で, 原発巣は膵頭部に少なく, 約15mm腫瘍径が大きかった. 肝転移まで平均6.8年を要し, 転移は多発する傾向にあり, 手術施行群が未施行群に対し生存率が高く, 化学療法は無効であった. したがって, 術後長期のフォローアップが必要で肝転移を認めた場合は積極的に手術を行うべきである. 通常の膵管癌とPSPTは発癌の機序が異なり, これが性差や予後の違いを反映することが近年分子生物学的に徐々に解明されつつある.
  • 渡辺 一輝, 窪田 徹, 久保田 香, 上田 倫夫, 三浦 靖彦, 遠藤 格, 渡會 伸治, 嶋田 紘, 佐々木 毅
    2006 年 39 巻 3 号 p. 347-351
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は41歳の男性で, 心窩部痛を主訴に, CTで膵体尾部の. 胞性腫瘤を指摘された. CT・MRCP からsolid pseudo-papillary tumor (以下, SPTと略記) が疑われ, 膵体尾部脾切除術を施行した. 腫瘍は4.7×3.0×4.3cmで線維性被膜を有し, 被膜外に石灰化がみられ, 腫瘍内部では出血や壊死を伴う充実性部分と. 胞部分が混在していた. 組織学的には被膜外の充実性部分に軽度異型性の腫瘍細胞が充実性に増殖しており, 内部の充実性部分にも同様の細胞が偽乳頭状・小胞巣状に増殖していた. 軽度のリンパ管浸潤と神経周囲浸潤がありmalignant potentialをもつSPTと診断した. SPTは比較的良好な経過をたどる腫瘍であるが, その10~20%に悪性例を認め治療の原則は外科的切除である. 若年女性に多いことで知られる疾患であるが, 本症例のごとく成人男性にも発症することがあるので注意が必要である.
  • 岡村 行泰, 石榑 清, 石川 忠雄, 猪川 祥邦, 菅江 崇, 高瀬 恒信, 中山 茂樹, 矢口 豊久, 原田 明生, 中村 隆昭
    2006 年 39 巻 3 号 p. 352-357
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    膵腺房細胞癌の発生頻度は膵外分泌腫瘍の約1%とまれな腫瘍で, 特に皮下結節脂肪壊死を伴った報告例は本邦で過去2例のみである. 症例は75歳の男性で, 主訴は食欲低下で, 左上腹部には10cm大の弾性硬な腫瘤を認め, 両下腿に皮下結節を認めた. 血液生化学検査ではリパーゼ, エラスターゼIで高値を認め, CEA, CA19-9は基準値範囲内であった. 腹部CTで左上腹部に充実成分と液体成分の混在する巨大な腫瘍を認めた. 膵原発の腫瘍を疑い, 膵尾部切除術を行った. 病理組織検査の結果, 膵腺房細胞癌と診断された. 術前高値を示したリパーゼ, エラスターゼIは正常値となり下腿の皮下結節も消失した. 術後, 4年経過した現在, 再発の兆候なく経過観察中である.
  • 鈴木 直人, 中尾 健太郎, 成田 和広, 山崎 勝雄, 田中 啓貴, 松田 和広, 角田 明良, 草野 満夫
    2006 年 39 巻 3 号 p. 358-362
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は61歳の女性で, 右側腹部痛を主訴にて当院を受診した. 特記すべき既往歴はなく来院時軽度の貧血を認めた. 右側腹部全体に筋性防御をともなう圧痛と, 著しい反跳痛を認めた.CTでは右後腹膜腔を中心に, 十二指腸から総腸骨動脈分岐部まで連続したlow~iso density areaを認めた. 上部内視鏡検査では上部消化管穿孔の所見は認めなかった. 以上の所見より, 後腹膜血腫をともなう下部消化管穿孔を否定できず同日緊急手術を施行した. 開腹にて右側中心に後腹膜血腫を確認したが, 腹腔内は淡々血性の腹水が少量のみであった. 後腹膜は開放せず, 洗浄ドレナージのみとした. 術後の3D-CT angiographyでは, 血管性病変は指摘できなかった. 第10病日に血腫による十二指腸狭窄を認めたが保存的に軽快し, 第31病日に軽快退院となった. その後, 再発は認められていない. 原因不明の後腹膜疾患を認めた場合, 後腹膜血腫も念頭に入れる必要がある.
  • 道免 寛充, 松本 譲, 児嶋 哲文, 平口 悦郎, 小西 和哉, 村上 貴久
    2006 年 39 巻 3 号 p. 363-366
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    大網裂孔ヘルニアはまれな疾患であり, 特徴的な臨床所見に乏しく術前診断は困難といわれる. 診断の遅れから開腹時すでに腸壊死を来し腸切除を必要とすることも多い. 今回, 我々は大網裂孔ヘルニアの診断と治療に腹腔鏡が有用であった1例を経験したので報告する. 症例は16歳の女性で, 開腹歴はない. 腹痛を主訴に救急外来を受診し, 臍周囲に強い圧痛を認めた.腹部CTでは特記すべき異常所見を認めなかった. 原因不明の急性腹症と診断され当科入院となった. 4時間後, 疼痛が増強し腸液混じりの嘔吐が出現したため, 内ヘルニア嵌頓を疑い緊急手術を施行した. 腹腔鏡検査を施行し, 大網に生じた異常裂孔に小腸が嵌頓しているのが発見された. 大網を切離し裂孔を開放した. 小腸に壊死所見を認めなかったため, 腸切除は施行しなかった. 術後3日目に退院した. 我々が検索しえた範囲では, 腹腔鏡下で診断し整復しえた大網裂孔ヘルニア症例は本症例が本邦初の報告である.
  • 嶋村 和彦, 山崎 俊幸, 桑原 史郎, 片柳 憲雄, 山本 睦生, 斉藤 英樹
    2006 年 39 巻 3 号 p. 367-372
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は44歳の男性で, 上腹部痛を主訴として近医を受診, 腹部CTを施行し後腹膜腫瘍を指摘され当院に紹介, 入院した. 入院時右上腹部に巨大腫瘤を触知し, CTでは肝下面に接する巨大な腫瘤を認めた. 血管造影検査では門脈は腫瘍により圧排されていたが, 浸潤像は認めなかった. 下大静脈には右腎静脈より頭側に浸潤像を認めた. 後腹膜腫瘍の診断で開腹手術を施行した. 肝下面, 右腎静脈, 右副腎に接する巨大な腫瘍を認めた. 下大静脈には約10cmにわたり浸潤しており, 浸潤部を合併切除し腫瘍を摘出した. 下大静脈切除部は連続縫合により閉鎖した.腫瘍は大きさ19×14×12cm, 組織診断で平滑筋肉腫と診断された. 平滑筋肉腫に対する治療は外科的完全摘出が第1選択である. 特に, 後腹膜原発の場合, 大血管との関係を画像診断により十分に明らかにしておく必要がある. また, 術後再発も念頭におき, 画像所見による早期診断, 治療が求められる.
  • 平能 康充, 野澤 寛, 平野 誠, 原 拓央, 中田 浩一, 尾山 佳永子, 太田 尚宏, 羽田 匡宏, 高木 剛, 丹羽 秀樹
    2006 年 39 巻 3 号 p. 373-376
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    今回, 我々は極めてまれとされている虫垂原発印環細胞癌の1例を経験した. 症例は66歳の男性で, 右下腹部腹痛を主訴に来院した. 右下腹部にBlumberg徴候を伴う圧痛を認めた. 白血球数16,500/μl, CRP18.9mg/dlと炎症所見が高度であり, 腹部超音波検査で腫大した虫垂を認めたため, 急性虫垂炎と診断し, 虫垂切除術を施行した. 切除標本の病理組織学的検査で, 印環細胞癌と診断されたため, 第53病日に腹腔鏡補助下回盲部切除術 (D3郭清) を施行した.術後化学療法を施行しつつ外来にて経過観察中であるが, 22か月経過した現在も無再発生存中である. 急性虫垂炎では, 切除標本の病理組織的検査を含めて粘膜面を詳細に検索し, 虫垂腫瘍の見逃しを防ぐことが重要と考えられた.
  • 宮本 英雄, 沖田 浩一, 草間 律, 藤森 芳郎, 山岸 喜代文, 西村 博行, 篠原 直宏
    2006 年 39 巻 3 号 p. 377-383
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    腹膜偽粘液腫はlow grade malignancyの腫瘍細胞による腹膜播腫性病変であるが, 遠隔転移は非常にまれである. 我々は脾転移を伴った虫垂原発の粘液. 胞腺癌による腹膜偽粘液腫を経験したので報告する. 症例は61歳の男性で, 1999年から脾. 胞を指摘されていた. 2003年, 鼠径ヘルニアの手術時に, 腹膜に結節病変を認め腹膜偽粘液腫が疑われた. 腹部CTで脾臓に13×11×16cmの多房性腫瘤を認め, 2004年2月手術を行った. 脾臓は小児頭大であり, 腹腔内に多量のゼリー状の粘液物質が貯留し, 腸管, 腸間膜および大網に無数の粘液結節の播種を認めた. 虫垂は軽度腫大していた. 脾摘, 大網部分切除, 虫垂切除を行い, 粘液物質を可及的に除去した. また, 腹腔内を温生食および蒸留水で洗浄した. 病理組織学的には虫垂の粘液性.胞腺癌で, 脾病変は転移と診断された. 脾. 胞を認めた場合には本疾患の可能性も念頭に置き, 虫垂病変の有無を検索する必要があると考えられた.
  • 高井 真紀, 橋本 健吉, 蓮田 正太, 梶山 潔, 立石 雅宏, 前川 宗一郎
    2006 年 39 巻 3 号 p. 384-389
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    虫垂癌は術前確定診断は極めて困難である. 今回. 我々は検査所見と理学所見の乖離から虫垂癌を疑い. 術前大腸内視鏡検査 (total colonoscopy; 以下. TCF) を行うことで診断しえた2症例を経験した. 症例1は右下腹部痛と発熱を主訴に近医受診したところ. 白血球35,800/mm3.CRP7.1mg/dlを示し穿孔性急性虫垂炎の診断にて紹介となった. しかし. 理学所見上の圧痛は軽度で腹膜刺激症状は認めなかった. 症例2は発熱と下腹部痛を主訴に近医を受診し. CTにて急性虫垂炎穿孔による膿瘍と診断され紹介となった. 理学所見は症例1と同様であった. 検査所見と理学所見の乖離から虫垂癌を疑い. TCFを施行した. 2例ともTCFにて虫垂開口部に異常所見を認め. 虫垂癌と術前確定診断が可能であった. 検査所見と理学所見の間に乖離がある場合. 虫垂癌の可能性を念頭におき術前TCFを行う必要があると考えられた.
  • 名和 正人, 土屋 十次, 浅野 雅嘉, 立花 進, 川越 肇, 熊沢 伊和生
    2006 年 39 巻 3 号 p. 390-394
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は63歳の女性で, 腎硬化症による慢性腎不全にて4年前より携帯式持続性腹膜透析 (以下, continuous ambulatory peritoneal dialysis: CAPD) を施行中であった. 下血を伴う腹痛にて本院受診した. 当初はCAPD腹膜炎と診断し保存的治療を開始したが症状の改善がないため, 消化管穿孔を疑い腹部CTを施行した. 同検査にて腹腔内free airや腹水貯留を認めるもCAPD液交換の際に流入したものとの鑑別ができず, また腹部所見も比較的乏しかったことから穿孔性腹膜炎の確定診断には至らなかった. しかし, 翌日のCAPD排液中に食物残査混入を認めたため, 穿孔性腹膜炎と確定診断され緊急開腹術を施行した. 開腹すると, 横行結腸に穿孔を認め汎発性腹膜炎を呈していた. 穿孔部結腸部分切除および人工肛門造設術を施行した.術後は敗血症から重度多臓器機能障害へ陥ったが, エンドトキシン吸着, 持続濾過透析, 血漿交換, ビリルビン吸着などを施行し救命しえた.
  • 五本木 武志, 小形 岳三郎, 飯田 浩行, 軍司 直人, 中井 玲子, 折居 和雄
    2006 年 39 巻 3 号 p. 395-400
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は狭心症を有する78歳の女性で, 2002年6月頃より下腹部痛を自覚し, 同年10月当院紹介入院となった.注腸造影X線検査および大腸内視鏡検査にて, 直腸を除く結腸に非連続性の大小不同卵円形の潰瘍性病変を認めた.保存的治療にていったん軽快したが, 2003年3月, 39℃台の発熱と腹痛が出現し, 腹膜炎を認めたため, 結腸亜全摘, 回腸直腸吻合術を施行した.術後, 全身カンジダ感染症を併発し, 抗真菌剤を投与したが, 術後第131病日, 残存直腸に潰瘍を形成, 心不全と腎不全が出現し, 全身状態が悪化, 術後275病日死去した.切除結腸の病理学的検索にて, 虚血性潰瘍と疑われた.虚血性潰瘍が結腸全域にわたって多発した症例の報告例は少なく, 本例は診断に困難を来した.今後, 高齢者動脈硬化症例が増加すると考えられるので, 本例のような症例も診断上考慮すべきと考える.
  • 西口 慶子, 小野山 裕彦
    2006 年 39 巻 3 号 p. 401-405
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は31歳の男性で, 4歳時より先天性免疫不全症候群と診断されていた. 家族歴では, 母方の3名の叔父が幼少時に感染症で死亡し, 兄にも同疾患が指摘されている. 細胞性免疫能は正常であるが, 液性免疫能低下のため免疫グロブリン製剤補充にて加療されていた. 下血と腹痛のため近医を受診し, 大腸内視鏡検査で直腸からS状結腸にかけての3個の癌が診断された. 他に5mm大の3個の腺腫も存在した. 手術は低位前方切除術を施行した. 切除標本の病理組織学的検査所見では深達度はss, 高から中分化型腺癌, n0, stage IIであった. 術後は免疫グロブリン製剤の補充療法を追加した. 術後4日目にβ-Dグルカンが114.2pg/ml と上昇したが臨床的には問題なく経過した. 家族歴とメチルピロニン染色よりX連鎖性無γグロブリン血症と考えたが, 先天性免疫不全症候群に合併する大腸癌は極めてまれであり, 興味ある1例を経験したので報告した.
  • 淀縄 聡, 小川 功, 後藤 行延, 伊藤 博道, 北原 美由紀, 浅越 辰男
    2006 年 39 巻 3 号 p. 406-411
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は34歳の男性で, 下血と腹部腫瘤を主訴に近医を受診, 大腸癌を疑われ当科に紹介入院となった. 腹部CT・MRIにて左上腹部に不整形の巨大腫瘤を認め, 横行結腸間膜に発生し膵, 横行結腸に浸潤する間葉系腫瘍が疑われた. 結腸左半切除および膵体尾部・脾合併切除にて巨大腫瘍を一塊に切除した. 切除標本は17×11×8cm, 1,500gの充実性腫瘍で, 組織学的には好酸性細胞質をもつ核異型の強い多角形の腫瘍細胞が索状・シート状に密に増殖していた. 免疫染色にてsynaptophysin, chromogranin A, NSEが陽性のため内分泌細胞癌と診断された. 術後CDDPおよびCPT-11による化学療法を行ったが術後7か月目に局所再発, 肝転移, 癌性腹膜炎のため死亡した. 大腸原発内分泌細胞癌の術後成績は極めて不良であり, 術前化学療法や術前照射を含めた集学的治療の確立が望まれる.
  • 番場 嘉子, 中野 達也, 冨松 裕明, 亀岡 信悟
    2006 年 39 巻 3 号 p. 412-416
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    S状結腸有茎性腺腫に起因する成人逆行性腸重積の1例を経験したので報告する. 症例は72歳の男性で, 左下腹部痛を主訴とし緊急入院となった. 左下腹部には約7cm大の弾性硬な腫瘤を認めた. 腹部単純X線検査では小腸から脾彎曲部までのガス像を, 腹部CTでは下行結腸にtarget signを認め, その口側に拡張腸管を, その肛門側に腸間膜の腸管内に陥入する像を認めた. 注腸造影X線検査では, 鳥の嘴状の完全狭窄を認めた. 以上の所見より, 逆行性腸重積と診断し開腹手術を施行した. S状結腸が口側に陥入し, 下行結腸に先進部を触知する逆行性の腸重積であり, S状結腸切除術を施行した. S状結腸に35×21×16mmの有茎性腫瘍を認め, 病理組織診断は腺腫であった. 成人逆行性腸重積は極めてまれであり, 文献的考察を加えて報告する.
  • 松本 欣也, 小田原 一哉, 豊田 剛, 渡辺 英生, 串畑 史樹
    2006 年 39 巻 3 号 p. 417-421
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は57歳の女性で, 排便困難, 残尿感を主訴に当院を受診した. 直腸前壁から膣後壁に及ぶ大きさ約4cm大の粘膜下腫瘍を認め, CT, MRIの所見より直腸のgastrointestinal stromaltumor (以下, GISTと略記) を疑い, 経肛門的に腫瘍摘出術を行った. 腫瘍は大きさ4.5×4.0×3.6cmで, HE染色では紡錘形の腫瘍細胞が錯綜し密に増生していた. 免疫組織学的検査ではc-kit, CD34は陽性, desmin, S-100蛋白は陰性で直腸GIST, borderline~low grade malignancyと診断された. 術後経過は良好で術後10日目に退院となった. 現在, 術後1年4か月目で再発は認めていない. 直腸GISTの外科的切除術としては直腸切断術がなされる場合が多いが, 自験例のように腫瘍径が小さく, 経肛門的に切除可能な例もあり, 症例に応じた術式の選択が必要と思われた.
  • 宮本 勝文, 楠本 長正, 川畑 康成
    2006 年 39 巻 3 号 p. 422-427
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    はじめに: 難治性腹水に対する腹腔静脈シャントの有用性とJordiらが考案した腹腔静脈シャント後の予後予測式prognostic index (以下, PI) の有用性について検討を行った. 方法: 1999年10月から2003年10月までに腹腔静脈シャントを施行した15例を対象に, 腹囲, 体重, 腎機能, 凝固能, 経口摂取量およびperformance status (以下, PS) の術前後の変化と平均生存期間について検討し, PIと予後との相関を検討した. 結果: 体重と腹囲は有意に減少し, 腎機能は有意に改善した. 凝固能は術前後で有意に変化し, 経口摂取量は術後有意に増加した.手術後のPS低下は認めなかった. 平均生存期間は165日で, PIと予後とは相関を示した.
    考察: 難治性腹水症例のquality of life改善において, 腹腔静脈シャントは有用な治療手段であり, その症例選択においてPIは有用な指標となる事が示唆された.
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