症例は60歳の男性で,B型慢性肝炎の既往がある.造影CTにて尾状葉下大静脈部を中心とする2.7×2.5 cmの結節を認め,肝細胞癌と診断された.経肝アプローチによる尾状葉切除術を選択した.拡大視効果でより精緻な手術ができる腹腔鏡下手術を選択した.肝右葉と肝左葉を授動した後,下大静脈前面で右,中・左肝静脈以外の静脈枝を全て切離した.Cantlie線で肝切離を開始した.中肝静脈の右縁から背側をまわって,Arantius管まで肝切離を行った.次に右肝静脈の左縁から背側を露出するように頭側から肝切離を行った.肝門部で尾状葉に分岐するGlisson枝を全て処理した.尾状葉突起部右縁の変色域に沿って尾側から肝切離を行った.最後に残った尾状葉下大静脈部と後区域の間の肝実質を切離して標本を摘出した.本術式は肝門部や下大静脈周囲で特に良好な視野が得られた.しかし,手術時間や出血量については今後改善の余地がある.

症例は76歳の女性で,心窩部の違和感を主訴に近医を受診し,肝腫瘍の疑いで当科紹介となった.腹部エコー,腹部CT,PET-CTにて肝内腫瘍と肝左葉および尾状葉の肝内胆管の拡張を認めた.肝内胆管癌の診断で拡大左肝切除術を行った.腫瘍は肝外胆管から肝実質内に進展するように存在していた.腫瘍の総胆管側には中~低分化型管状腺癌の像を認めたが,充実性成分のほとんどに大型の卵円形核を有するシート状に増生した細胞が認められた.免疫組織染色検査の結果,肝外胆管より発生した腺癌成分との混在を認める大細胞神経内分泌癌(large cell neuroendocrine carcinoma)と診断された.
症例は63歳の男性で,肝S2/4を主座とする肝内胆管癌(intrahepatic cholangiocarcinoma;以下,ICCと略記)に対し左肝葉切除術を施行した.病理学的腫瘍進行度はT3,N0,M0,Stage IIIであった.術後,S-1を1年内服しフォローしていたが,2年半後の腹部造影CTで胃小彎リンパ節の腫大を認めた.半年間経過観察後,リンパ節郭清術(No. 1,3,7~9)を施行,術後ゲムシタビンを8か月投与した.さらに,初回手術から5年後の胸部CTで右肺S8に小結節影が出現し,12か月間で緩徐な増大傾向を示したため胸腔鏡下右肺部分切除術を施行,病理組織学的検査でICCの肺転移再発と診断した.肺切除術後S-1を1年内服し,肝切除から8年経過した現在,非担癌生存中である.ICCの肝外転移再発に対する治療方針は確立していない.自験例は2度の異時性肝外再発に対し外科的切除と補助化学療法を行い,初回手術から8年の長期生存がえられている稀有な症例であり報告する.
今回,主膵管内の結節状腫瘍として観察され,膵管内管状乳頭腫瘍(intraductal tubulopapillary neoplasm;以下,ITPNと略記)との術前鑑別が困難であった乏粘液性の膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary-mucinous neoplasm;以下,IPMNと略記)の1例を経験したため報告する.症例は71歳の女性で,急性膵炎後の精査で膵管内粘液を伴わない膵頭部主膵管内の結節状腫瘍を認めた.ITPNもしくはIPMNとの術前診断で,リンパ節郭清を伴う膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本の膵頭部主膵管内に15 mm大の有茎性隆起結節を認めたが,肉眼的に膵管内粘液を認めなかった.病理組織学的検査で,主膵管内結節は少量の粘液を含む胃幽門腺類似の管状異型腺管からなり,結節周囲の膵管上皮に乳頭状増殖を認めたため,胃型IPMNと診断した.
症例は47歳の男性で,アルコール性の慢性膵炎の急性増悪とそれに伴う十二指腸狭窄に対して当院内科で保存的加療を行い改善した.その後も禁酒を守れず再増悪に対して入院加療を要し,ERCPでは胆管狭窄も認めるようになった.また,左胸腔には膵管胸腔瘻による膵性胸水の貯留も認めるようになり胸腔ドレーン留置による加療を行った.内視鏡的膵管減圧は困難であり,胆管狭窄と膵性胸水の改善を認めなかったため手術の方針とした.慢性膵炎および胆管狭窄に対しては亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.膵体部の膵管胸腔瘻は肉眼的には同定が困難であったが,主膵管断端から残膵の術中造影と色素の注入を行い瘻孔を同定し瘻孔のみの切除が可能であった.慢性膵炎に対する外科治療は根治性と機能温存の両立が重要であるが,本症例では術中造影と色素注入により瘻孔を同定することで瘻孔の切除と残膵の可及的な温存が可能となり有用であった.
Littoral cell angioma(以下,LCAと略記)は免疫染色検査にて脾内皮細胞と組織球細胞両方の表現型を併せ持つlittoral cellの存在でのみ診断しえる脾原発のまれな疾患であり,画像上の特徴は他の脾腫瘍と比べて認めず,術前診断は困難であるとされている.症例は68歳の女性で,他院にて胸部大動脈瘤ステント留置後のフォローCTにて脾腫を認めたために当院紹介受診予定となっていた.腹痛を主訴に受診し脾臓破裂による腹腔内出血の診断にて脾臓摘出を施行した.最終病理診断はLCAであり悪性所見は認めなかった.当院で施行したCTでは前医で施行したときには認めなかった多血性腫瘤を認め,組織学的に証明することは困難であるが他の内臓疾患からの転移などは否定的でありLCAの肝転移が疑われた.LCAは非常にまれではあるが破裂する可能性があり,LCAを疑う脾腫や結節を認めた場合には積極的な外科的治療を考慮すべきである.
症例は42歳の男性で,S状結腸癌に対し腹腔鏡補助下左半結腸切除術を施行した.病理組織学的検査は中分化型管状腺癌でpSE,ly1,v0,pN2,sH0,cP0,cM0,stage IIIbであった.本人の意向にて術後補助化学療法は行わなかった.術後2年の腹部CTにて膵背側の軟部組織陰影,およびこれと連続する脾静脈内の腫瘍栓を認めた.18FDG-PET-CT所見でもFDG集積亢進を認め,また門脈本幹への急激な腫瘍進展を来したため,大腸癌再発もしくは原発性膵癌を疑い膵体尾部切除術を施行した.膵体尾部背側の腫瘍が十二指腸上行部に浸潤し,また脾静脈から門脈内まで腫瘍栓が充満していたため,門脈および十二指腸も合併切除した.腫瘍は中分化型腺癌であり原発巣に類似していた.播種再発から脾静脈に直接浸潤し門脈腫瘍栓を形成した極めてまれな1例を経験した.
症例は58歳の男性で,近医において50歳時に潰瘍性大腸炎と診断され,アミノサリチル酸製剤,ステロイドで治療が開始された.ステロイド依存例であり免疫調節薬,インフリキシマブ,血球成分除去療法が導入されたが寛解に至らず外科的治療が検討されていた.今回,直腸穿孔による汎発性腹膜炎を発症し緊急手術を施行した.直腸Ra前壁に穿孔を認めHartmann手術を施行した.切除腸管の病理検査で異型リンパ球の全層性浸潤像と腸管壁全層の線維化を認めた.免疫染色検査の結果,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断された.切除腸管の粘膜部分に活動性の潰瘍性大腸炎を示唆する所見は目立たず,悪性リンパ腫に起因する直腸穿孔が示唆された.潰瘍性大腸炎と悪性リンパ腫の合併はまれであり,潰瘍性大腸炎治療薬によるEpstein-Barr(以下,EBと略記)ウイルス感染の合併と悪性リンパ腫の発生の関連が報告されている.本症例でも病変部へのEBウイルス感染を認め,その関連が示唆された.
30歳未満で難治性直腸肛門病変に対して直腸切断術を施行したクローン病17例の臨床経過と予後を検討した.適応となった病態はのべ症例数で,直腸肛門狭窄12例,難治性痔瘻9例,直腸瘻4例,直腸膣瘻2例,骨盤内膿瘍2例,直腸尿道瘻1例,直腸周囲膿瘍1例,aggressive ulceration 1例,痔瘻癌1例であった.これらの病変により,全例,日常生活や就労・就学に支障を来していた.術後は前述の症状は全例で改善し,術前から未就労であった2例は未就労のままであったが,15例(88%)が就労,就学が可能となった.術後合併症は14例(82%)に認め,のべ症例数で人工肛門関連合併症8例,正中創SSI 5例,会陰創治癒遅延3例,性機能障害(術直後)2例,癒着性イレウス2例であった.クローン病の難治性直腸肛門病変に対する直腸切断術は術後合併症があるものの,自覚症状の改善とQOLの向上に有効であり,若年者に対しても考慮すべき治療の選択肢と考えられた.