日本消化器外科学会雑誌
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53 巻, 12 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
原著
  • 田中 俊道, 小澤 平太, 宮川 哲平, 中西 宏貴, 平田 玲, 佐藤 恵理, 藤田 伸
    原稿種別: 原著
    2020 年 53 巻 12 号 p. 945-951
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/26
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    目的:人工肛門閉鎖術(stoma closure;以下,SCと略記)において,環状皮膚縫合と局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy;以下,NPWTと略記)を組み合わせることで,創感染減少が期待されている.本研究では,SCにおけるNPWTの有用性を明らかにすることを目的とした.方法:対象は2015年8月から2018年7月にSCを施行した52例とした.環状皮膚縫合20例(以下,K群と略記),環状皮膚縫合とPICO®併用群32例(以下,KP群と略記)に分類し,術後短期成績を比較した.結果:Superficial incisional SSIは2群間で有意差を認め,K群10%,KP群0%であった(P=0.047).手術時間,出血量,および術後在院日数は2群間に有意な差は認めなかった.創感染の因子分析では,K群が独立した創感染の危険因子であった(P=0.047).結語:SCにおいて,環状皮膚縫合とPICO®の併用によって創感染を減少できる可能性があり,本法は有用である.

症例報告
  • 加藤 宏周, 石田 隆, 池田 佳史, 大山 隆史, 似鳥 修弘, 加藤 厚, 羽鳥 隆, 高橋 芳久, 宮崎 勝, 板野 理
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 12 号 p. 952-959
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/26
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    症例は71歳の男性で,アルコール性肝硬変を背景とする肝細胞癌治療中に黒色便を認め,上部消化管内視鏡検査で幽門前庭部のびらんより出血を認めた.腹部造影CTと腹部血管造影検査で,肝内門脈まで及ぶ門脈本幹の腫瘍栓と小網内の求肝性側副血行路の発達を認め,門脈圧亢進症性胃症(portal hypertensive gastropathy;以下,PHGと略記)による胃出血の診断に至った.内視鏡では完全止血は得られず,頻回の輸血を要した.他に出血源となりうる食道胃静脈瘤は認めず,出血部は幽門前庭部に限局していたため手術の方針とした.側副血行動態を変化させないよう胃壁に沿って血管処理し,出血部を含めた幽門側胃切除術を施行した.術後6か月現在,再出血は認めていない.PHGによる胃出血に対して手術が奏効した報告は検索しえた範囲ではなく,極めてまれな症例と考えられたため報告した.

  • 川島 圭, 佐藤 渉, 石部 敦士, 小坂 隆司, 土屋 伸広, 佐藤 圭, 宮本 洋, 國崎 主税, 秋山 浩利, 遠藤 格
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 12 号 p. 960-967
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/26
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    患者は62歳の男性で,5日前からの発熱,嘔吐,下痢を主訴に来院した.腹部造影CTで,十二指腸周囲の遊離ガス像と,十二指腸背側から骨盤内に及ぶ広範な液体貯留を認めた.十二指腸潰瘍穿通による後腹膜膿瘍と診断し,加療目的に入院となった.抗菌薬投与および経皮的ドレナージによる治療の方針とし,第3病日に右骨盤背側の膿瘍腔にCTガイド下にドレーンを挿入した.膿瘍腔が広範に及んでいたため,約1週間ごとのドレーン交換を必要としたが,ドレナージにより血液検査所見の改善および膿瘍腔の著明な縮小を認めた.第21病日に上部消化管造影検査により穿孔部の閉鎖を確認し,経口摂取を開始した.第42病日に施行したドレーン造影により膿瘍腔の消失を確認できたため,同日ドレーンを抜去し,第45病日に軽快退院した.十二指腸潰瘍穿通による後腹膜膿瘍は経皮的ドレナージによる保存的治療が奏効する場合もあり,治療選択肢の一つとなりうる.

  • 日暮 一貴, 井手 貴雄, 能城 浩和
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 12 号 p. 968-975
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/26
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    症例は49歳の男性で,肝細胞癌(hepatocellular carcinoma;以下,HCCと略記)に対して前医で経皮的ラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation;以下,RFAと略記),および肝動脈化学塞栓療法を複数回施行されていた.経過中に黄疸(T-bil 16.2 mg/dl)および肝右葉に多発する腫瘤性病変を認め,精査加療目的に当科紹介となった.胸腹部造影CTにおいて,再発HCC以外に萎縮・変形した肝右葉は胆囊および横行結腸,十二指腸とともに右胸腔内に脱出し,横隔膜ヘルニアを認めた.また,肝内胆管拡張を認めたため閉塞性黄疸と診断し,内視鏡的経鼻胆道ドレナージにより減黄を行った.減黄後に右横隔膜ヘルニア,再発HCCに対して肝右葉切除術,ヘルニア修復術を同時施行した.RFA後に横隔膜ヘルニアを来し,閉塞性黄疸を来すほどの肝臓嵌頓は極めてまれである.

  • 北條 雄大, 白潟 義晴, 泉 愛, 松井 淳, 山下 徳之, 青木 光, 栗本 信, 平田 真章, 合田 直樹, 伊藤 寛朗, 田村 淳
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 12 号 p. 976-984
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/26
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    症例は45歳の女性で,偶発的に腹部造影CTにて20 mm大の虫垂腫瘤を指摘され,FDG-PET/CTで同部位に異常集積を認めた.下部消化管内視鏡検査では虫垂開口部に隆起性病変を認め,生検を施行したが,腫瘍性変化を認めなかった.画像検査所見から虫垂癌を疑い,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.病理組織学的検査では,病変部に線維化とリンパ球や形質細胞主体の炎症細胞浸潤を認め,IgG4/IgG陽性細胞比は78.3%,IgG4陽性形質細胞数は112/HPFであり,IgG4関連虫垂偽腫瘍が疑われた.しかしながら,本症例では炎症細胞浸潤が巣状にしか認められなかったこと,好中球浸潤や肉芽組織増生を伴っていたこと,高IgG4血症や他臓器病変を認めなかったことがIgG4関連疾患として非典型的であった.本症例のような虫垂病変が真にIgG4関連疾患であるか否かを決定するには類似症例の蓄積によるさらなる解析が必要である.

  • 植田 隆太, 今 裕史, 和久井 洋佑, 阪田 敏聖, 蔵谷 大輔, 武田 圭佐, 小池 雅彦, 鈴木 昭
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 12 号 p. 985-991
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/26
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    症例は63歳の男性で,糖尿病性腎症による末期腎不全で血液透析を19年間施行し,高カリウム血症のためポリスチレンスルホン酸カルシウム(calcium polystyrene sulfonate;以下,CPSと略記 商品名:カリメート散)を内服していた.進行する貧血と黒色便に対する精査で下行結腸癌の診断となり,腹腔鏡下結腸部分切除術(下行結腸),D3郭清を施行した.術後経過は良好で第11病日に退院したが,その後も貧血の進行と血便を認めたため,第43病日に下部消化管内視鏡検査を施行した.吻合部に全周性の出血する潰瘍を認め,その他に縦走潰瘍を1か所認めた.潰瘍からの生検では,潰瘍底に好塩基性多菱形の沈着物を認め,CPSの関与が疑われた.そのためCPSの内服を中止したところ,貧血の進行は止まり,その後の下部消化管内視鏡検査でも潰瘍は改善していた.それ以降3年間,癌および潰瘍の再発なく生存中である.

  • 村瀬 佑介, 松橋 延壽, 高橋 孝夫, 岩田 至紀, 棚橋 利行, 松井 聡, 今井 寿, 田中 善宏, 山口 和也, 吉田 和弘
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 12 号 p. 992-1001
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/26
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    症例は57歳の女性で,肛門右側の紅班を主訴に当院を受診した.皮膚生検で表皮にPaget細胞を認め,免疫組織化学染色で肛門管癌のPagetoid spreadと診断された.大腸内視鏡検査で直腸に腫瘤性病変を認めず,step biopsyでも陰性であった一方,直視下での肛門粘膜マッピング生検では陽性を示し,根治切除には肛門近傍の皮膚を含めた病変の切除が必要と考えた.深部浸潤を疑う所見はなく,粘膜下層での切除で根治性の確保と肛門温存が可能と考え,消化器外科・消化器内科・皮膚科合同で内視鏡的粘膜下層剥離術,経肛門的粘膜下層切除術,皮膚悪性腫瘍切除術を施行した.術後は順調に17病日に退院した.今回,我々はPagetoid spreadを伴う肛門管癌に対して腹会陰式直腸切断術を回避し肛門温存が可能であった症例を経験した.比較的まれな症例のため我々が行った術式および経過概要を含め報告する.

  • 塚原 哲夫, 林 英司, 河原 健夫, 青山 広希, 加藤 哲朗, 山本 泰資, 吉野 将平
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 12 号 p. 1002-1008
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/26
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    症例は87歳の開腹歴のない女性で,頻回な嘔吐を認め,当院を受診した.腹部CTでは著明な胃拡張,十二指腸水平脚への逆行性腸重積およびTreitz靭帯周囲に一塊となった小腸を認めたため,逆行性腸重積を伴った内ヘルニアの診断で,緊急手術を施行した.術中所見では,横行結腸間膜窩に2 cmのヘルニア門を認め,15 cmの空腸が陥入し,さらに逆行性に十二指腸へ重積していた.用手的に整復したところ,脱出腸管には壊死は認めず,また術中内視鏡で腫瘍性病変は認めなかったため,ヘルニア門を縫縮して手術を終了した.術後経過は良好で,術後第14病日に退院した.横行結腸間膜窩ヘルニアに十二指腸への逆行性腸重積を合併した極めてまれな1例を経験したので報告する.

特別報告
  • 日比 泰造
    原稿種別: 特別報告
    2020 年 53 巻 12 号 p. 1009-1015
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    手術こそが患者を治そうとする外科医の本質である.外科医は科学者であり,その証として正確に手術を記録する責務がある.難治がんの多い肝胆膵・移植外科では必然的に高難度手術が多く,手術記録の意義は単に手術を再現するために留まらない.大きく進歩した画像診断やシミュレーション・ナヴィゲーション,集学的治療により,現在の外科的介入は患者ごとに個別化される.手術記録では術前の適応評価と術中所見を踏まえた最終的な術式決定までを述べ,実際の手術工程を豊富なスケッチとともに克明に記す必要がある.手術の度に正確な記録を残すことで初めて,術前情報・術中所見・最終病理診断が繋がり首尾一貫した治療が行われる.これを繰り返すことで次の臨床課題が詳らかとなり,手術によってかつては治癒不能だった病が治癒可能となる.正確な手術記録が患者と医学の未来を拓く.

  • 清松 知充
    原稿種別: 特別報告
    2020 年 53 巻 12 号 p. 1016-1025
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    手術記録はいかにして必要十分な情報を端的に相手に伝えられるかが重要である.癌の根治手術であれば,腫瘍の肉眼的な広がりの評価,および血管処理や切除臓器の情報が重要である.一方で大腸癌の腹膜転移に対する完全減量切除という術式は,通常の術式に比べて多くの外科医にとってある意味でブラックボックス的なものに感じられるかもしれない.しかし,基本は同じであり,腹膜転移の広がりを正確に記録し,拡大した局所として根治切除可能と判断し,そして系統的に切除を行った経過を明解に記述することが重要となる.本邦ではごく限られた専門施設でのみ行われている術式ゆえにどのような切除が行われ,最終的に患者がどのような結果になったのかを正確に記録することが求められる.ゆえに手術記録においてはシェーマを多用してこのようなポイントが一目で理解できることを最も重要視している.

編集後記
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