日本消化器外科学会雑誌
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27 巻, 9 号
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  • 大原 毅
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2063-2072
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    胃癌の組織発生母地として胃潰瘍・腸上皮化生・再生上皮を実験的・臨床的に検討した.この3者の関係は, 胃粘膜の再生が起こると, いったん幼若な腸上皮 (preintestinalization) となるが, このpreintestinahzationが発癌と深く関係することであった.臨床面では分化度・深達度別の治療としては, 早期胃癌には縮小手術, 進行癌には術中に分化度に応じた化学療法が有効であった.
    大腸癌の組織発生・進展からみると, 腺腫を経由する癌はポリープ状に隆起し, 腺腫成分は認められず深部進展は遅いが, denovo癌では平坦型が多く腺腫成分はなく深部進展はきわめて早かった.このことは治療上極めて重要で, de novo癌は小さいうちから非常に早く深部進展するので大多数の進行癌のルーツであること, 組織学的にはde novo癌, 肉眼的には平坦型の大腸癌をさがすことが非常に大切であること, さらにポリープだけを切除していたのでは大腸癌の予防は出来ないことが指摘できる.
  • 北村 正次, 荒井 邦佳, 岩崎 善毅
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2073-2078
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    胃癌大動脈周囲リンパ節 (No.16) 郭清例の臨床病理学的特徴について検討した.No.16郭清333例のうち67例 (20.1%) に転移を認めた.この率は深達度とともに高く, 3型・4型で高く, 低分化型で高かった.癌の局在とNo.16の転移部位との関係では郭清部位を特定出来なかった.No.16 (+) 例のうち第3群リンパ節転移が明らかな61例では, n3 (-) 群の予後はn3 (+) 群より有意に良好であり (p<0.05), No.16郭清の意義を認めた.No.16郭清とQOLとの関係では, No.16郭清群では出血量が有意に多く (p<0.05), 手術時間も長かった.アルブミン値の変動では, No.16郭清群は術後1, 2週目で有意に低値を示したが, 3か月後では両群ともに術前値以上の回復を示した.体重の変動では郭清群の減少率が大きいものの有意差はなかった.術後の合併症は両群に大きな差を認めなかった.以上より, 郭清の適応と術前のリスク判定を厳密に行えば大きなデメリットはないと考える.
  • 広瀬 忠次, 生田目 公夫
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2079-2086
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    胃癌組織からのCEA, CA19-9の末梢血移行機序を解明する目的で, 術中に末梢血, 腫瘍還流静脈血 (以下, 還流血と略記), 門脈血の両腫瘍関連抗原を測定し, さらに原発巣, リンパ節の免疫組織化学的検討を行い以下の結果を得た.1) CEAは末梢血に比べ還流血, 門脈血で高値を示し, 特に肝転移陽性例では有意差 (p<0.05) を認めた.2) CEAは静脈侵襲と, CA19-9はリンパ管侵襲, リンパ節転移との関連性が推測された.3) 原発巣の局在様式がStromal typeにおいてCEA値は, 有意差はないものの末梢血に比べ還流血, 門脈血で高い傾向がみられた.4) リンパ節転移巣の染色陽性率は, CEAに比べCA19-9で高い染色性を認め, さらに末梢血CA19-9は, リンパ節転移巣の染色陽性例が陰性例に比べ, 有意 (p<0.05) に高値であった.以上より, CEAは還流血を介しての経門脈経路が, CA19-9はリンパ行性での胸管経路による末梢血移行機序が考えられた.
  • 森脇 義弘, 山中 研, 小金井 一隆, 呉 宏幸, 工藤 琢也, 森田 修平
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2087-2092
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    過去10年間の治癒切除胃癌317例のうち, 初回切除時に組織学的に切除断端陽性で, 同手術中に追加切除を行った14例 (追加切除群) について臨床的検討を行った.対照には, 追加切除群と同様の浸潤型で, 初回切除断端陰性であったか, 切除断端陽性と判断し追加切除を行ったが組織学的には陰性であった197例 (対照群) を用いた.追加切除群の予後的漿膜因子 (PS) 陰性例4例では, 再発例や癌死例はなかった.追加切除群PS陽性例10例の5年生存率, 5年無症候率 (無症候期間から生存率に準じて算出) は33.3%, 13.0%で対照群PS陽性例の30.6%, 23.2%と差は認められず, リンパ節転移別にみても両群間で差は認められなかった.ステージ別に生存率, 無症候率を比較しても差は認められなかった.初回切除断端陽性となりen bloc切除がなしえず, 同手術中に追加切除を行っても生存率の低下や再発率の増加はなく, 術中追加切除は根治性からみて, 意義のある手技であることを確認した.
  • 足立 信也, 河島 孝彦, 石川 智義, 尾崎 梓
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2093-2098
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    胃全摘術後患者の愁訴の大部分をしめる胸やけ, 食事摂取量の不足, 体重減少を解決する目的で空腸嚢を用いたpouch-Y吻合法を12例に施行した.従来のρ-Roux-Y吻合法を施行した15例を対照として, 術後の愁訴, 食事摂取量, 体重の変動, 赤血球数, total protein (TP), albumin (ALB), cholesterol (CHO), triglyceride (TG) の変化を比較検討した.その結果, pouch-Y法では対照群に比べて胸やけ, 動悸や下痢が少なく, 1回食事量が多く, 術後の体重の回復が有意に良好であった.赤血球数, TP, ALB, CHO, TGの諸検査値には有意差がなかった.経過観察期間は術後18か月であり, 術後早期においてpouch-Y法は栄養学的に, また患者のquality of lifeにおいても満足できる再建法であることが確認された.
  • 保谷 芳行, 藤田 哲二, 桜井 健司
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2099-2106
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    フィンガーピース法を用いて健常肝10例, 肝硬変10例, 閉塞性黄疸5例および転移性肝癌広範囲切除例5例に対して, 血中のindocyanine green (ICG) 消失曲線を求め波形の特徴と病態との因果関係を検討した.初期ピークの高さ (a) は機能的肝容量を反映し, 血清アルブミン (Alb) およびコリンエステラーゼ値 (ChE) と正の相関があった (Alb: r=0.341, p<0.05, ChE: r=0.715, p<0.005).再増加ピーク (b) は門脈大循環シャントの有無を表現すると思われ, γ-グロブリンと正の相関があった (r=0.413, p<0.025).減少部分の波形 (d/c) は血中ICGの減少率を表現し, 採血法で求めたR15と正の相関があった (r=0.378, p<0.025).また鋭い初期多峰性ピークと直線的な減少部分 (a≧4, b≧0.05, d/c≧0, 5) を有する波形の出現率は肝硬変で有意に高かった (p<0.001).以上のようにフィンガーピース法で求めたICG消失曲線の波形を解析すると, 肝障害症例における病態の質的診断が可能であった.
  • 瀧島 常雅, 浅利 靖, 平田 光博, 柿田 章
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2107-2112
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    自験例59例について, 鈍的膵損傷の腹部理学所見に影響を及ぼす因子を, 腹部合併損傷の有無や膵損傷型分類に関して比較検討した.腹痛を59例中56例 (94.9%) で認め, 膵損傷単独群の22例中20例 (90.9%), 膵および腹部他臓器損傷合併群の37例中36例 (97.3%) で認めた.腹痛を有した56例中, 心窩部痛が33例 (58.9%) であり, この傾向は単独群 (80.0%) が合併群 (47.2%) に比較して有意に高率であった.腹膜刺激症状は59例中33例 (55.9%) に認められ, 1型 (膵挫傷) では, II型 (主膵管損傷を伴わない膵裂傷) やIII型 (主膵管損傷) に比較して有意に低率であった.単独群I型の腹膜刺激症状発現率は単独群III型や合併群I型に比較して有意に低率であった.以上から, 鈍的膵損傷における腹痛部位は基本的に心窩部であり, 腹部合併損傷によって腹痛部位が著明に修飾された.腹膜刺激症状発現には主膵管損傷や腹部他臓器損傷の存在が強く影響を及ぼした.
  • 斉藤 善広, 椎葉 健一, 溝井 賢幸, 安西 良一, 鈴木 幸正, 浅沼 拓, 佐藤 正幸, 佐々木 巌, 松野 正紀
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2113-2118
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    大腸癌の血行性転移再発の組織学的予知因子の検索を行った.進行大腸癌の治癒切除症例で, 術後の血行性転移再発症例 (A群) 25例, 非再発症例 (B群) 32例の合計57例を対象とし, 浸潤に伴う, より低い分化程度への形態変化の有無, 癌深部での先進部における低分化腺癌の要素 (以下, por compo.) の有無, 粘液成分 (以下, muc compo.) の有無の点より検討した.形態変化は, A群では25例中16例64.0%にみられ, B群の32例中8例25.0%に比べ有意に高頻度であった.またpor compo-もA群では21例84.0%にみられ, B群の13例40.6%に比べ有意に高頻度であった.しかし, muc compo-に関しては両群間に有意差を認めなかった.以上より, 癌組織内で浸潤につれ低い分化形態への形態変化を認める症例, 特に癌先進部において低分化腺癌の要素を認める症例は, 血行性転移再発の可能性が高く, 組織学的予知因子となるものと考えられた.
  • 山田 一隆, 長谷 茂也, 丹羽 清志, 鮫島 隆志, 鮫島 淳一郎, 有村 耕一, 中馬 豊, 竹林 勇二, 松下 兼裕, 木之下 藤郎, ...
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2119-2125
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    骨盤内浸潤形式から直腸癌局所再発46例を側方浸潤型 (29例;63%), 仙骨浸潤型 (8例;17%) および限局型 (9例;20%) に分類した.各浸潤型の再発期間に差異はなかったが, 限局型における再発時の血清CEAは38% (3/8例) に陽性であったのに対し, 他の2型では全例が陽性を示した.限局型症例の診断では, 初発徴候としての臓器浸潤症状と定期的画像検査が発見動機となっていた.各浸潤型における切除率および根治的切除率は, 側方浸潤型でそれぞれ40%, 0%, 仙骨浸潤型で75%, 50%, 限局型で100%, 100%であり, 各型の根治的切除率に有意差が認められた.各浸潤型における生存期間は, 限局型が他の2型に比べて有意の延長を認めた.また, 根治的切除13例では, 非根治的切除13例に比べて生存期間に有意の延長が認められた.局所再発の浸潤形式により再発後の予後に相違がみられ, とくに側方浸潤型における再発腫瘍の切除は予後の向上に貢献しなかった.
  • 上野 秀樹, 望月 英隆, 長谷 和生, 横山 幸生, 吉村 一克, 山本 哲久, 玉熊 正悦, 寺畑 信太郎, 玉井 誠一
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2126-2134
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    直腸癌治癒切除285症例についての切除病理標本から神経侵襲 (neural invasion: ni) の臨床的意義を検討した.niは80例, 28.1%に認められ, 固有筋層にとどまるもの (S-ni) 8.1%, より深層に認めるもの (D-ni) 20.0%であった.S-ni (+) とni (-) の間に生存率曲線に差はなく, D-ni (+) はこれらと比べ不良であった (p<0.001).またD-niの程度が高くなるにつれ生存率曲線は不良となった.D-ni (+) 群はD-ni (-) 群に比べ再発率は高く, 局所再発率が特に高率であった (35%: 8%, p<0.001).D-ni (-) 症例では側方郭清の有無と局所再発の間に関連を認めなかったが, D-ni (+) 症例では完全側方郭清により局所再発率は低下した.また多変量解析により, D-niには独立した予後規定因子としての意義が示された.D-niの有無は術後予後を占ううえで重要であり, D-niを認める症例においては特に骨盤神経切除を含めた側方郭清の必要性が示唆された.
  • 新井 利幸, 蜂須賀 喜多男, 山口 晃弘, 磯谷 正敏, 堀 明洋, 青野 景也, 森 直治, 前田 敦行, 河合 正巳, 高野 学, 山 ...
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2135-2140
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    最近10年間に経験した消化器外科手術後に発症した急性肺塞栓症例8例を臨床的に検討した.それらは同期間の手術例の0.07%に相当し, 平均年齢65, 5歳 (55~75), 1例が男性, 7例が女性, また7例が悪性疾患, 1例が胆石症であった.術後の安静解除の時期に呼吸困難, 胸痛, 胸部不快感あるいは急性循環不全の症状がみられ, 心エコーで右心の拡張が認められれば急性肺塞栓症が強く疑われる.肺動脈造影は診断のもっとも確実な方法であり, これを施行した5例全例で塞栓が証明された.8例中5例は線溶・抗凝固療法で軽快したが, 3例は死亡した.そのうち2例は発症後数時間で失ったが, 1例は補助循環下に線溶・抗凝固療法を行い11日間の生存が得られた.
    急性肺塞栓症に対しては, 必要なら補助循環を併施し, 強力な循環管理下に線溶・抗凝固療法をまず行うのがよいと思われる.
  • 半羽 宏之, 山崎 修, 李 光春, 木下 博明, 広橋 一裕
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2141-2145
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は胆嚢摘出術の既往を有する65歳の男性.肝膿瘍を繰り返すため胆道疾患の合併を疑い入院した.精査の結果, 総胆管結石症の他に早期胃癌を偶然発見し, 総胆管切開, 切石術と胃亜全摘術を施行した.その際尾状葉の肉眼所見, 術中胆道造影および超音波検査により尾状葉に限局する原発性肝内結石症を発見したため尾状葉切除術も追加した.結石成分は肝内・総胆管内ともコレステロール100%であった.尾状葉に限局する肝内結石症はまれな疾患であり, 術前診断は困難であったが, 尾状葉胆管の拡張と結石充満を反映する索状低吸収域を術前のCT像上看過していたことが判明した.一方, 術中超音波検査は簡便で結石の描出能に優れ, 部位診断にも有用であるため, 肝内病変の疑われる症例には励行されるべきである.
  • 三輪 史郎, 橋倉 泰彦, 北村 宏, 池上 俊彦, 嘉数 徹, 松波 英寿, 野口 徹, 川崎 誠治, 幕内 雅敏, 太田 浩良
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2146-2150
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    良性肝内胆管狭窄はまれな疾患とされている.我々は肝内胆管癌による悪性肝内胆管狭窄を疑って手術を施行し, 術後に良性肝内胆管狭窄と診断された3例を経験したので報告した.症例1;61歳の男性, 右前上亜区域胆管の狭窄を認め同区域の動脈にencasementを認めたため, 悪性病変を疑い肝右葉切除を施行した.症例2;58歳の男性, 左外側区域胆管の不整な狭窄像を認め, 悪性を否定できず肝左葉切除を施行した.症例3;45歳の女性, 肝左葉外側区域胆管に完全閉塞を認め, 胆管癌を疑い左葉切除を施行した.術後経過はいずれも良好であり, 症例1, 2では腫瘍マーカーの正常化, 症例3では症状の改善が得られた.肝内胆管狭窄の治療方針の選択においては, 悪性を否定しえない症例や胆管炎を繰り返す症例に対しては肝切除も考慮すべきと考えられる.
  • 安部 要蔵, 古川 正人, 中田 俊則, 酒井 敦, 古井 純一郎, 三根 義和, 山田 雅史, 近藤 敏, 城野 英利, 伊佐 勉, 八坂 ...
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2151-2155
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は4か月の女児 (在胎29週, 出生時体重1,432g) で, 発熱と痙攣発作にて, 平成2年6月29日入院した.入院後徐々に腹部が膨隆しするために, 腹部エコーを施行, 右上腹部, 肝下部にcystic mass (5×5×5cm) を認め, 腹部CT, 胆道シンチ所見と併せ総胆管嚢腫と診断, 開腹した.嚢胞壁は肥厚し, 周囲との癒着が強く剥離が困難なため嚢胞を切開したところ, 嚢胞底部に径約1mmの小孔を認めた.同部より術中造影を行うと, 最大径4mmと拡張のない, ほぼ正常の胆管が描出され, 総胆管の穿孔と診断した.精査を目的に, 胆管を縦に約1cm切部, 総胆管内に径約1mmのビ系石を2個認めた.手術は, 胆嚢とともに嚢胞を摘出, 胆管の切開部よりretrograde transhepatic biliary drainage-tube (RTBD-tube) を挿入した後4-0バイクリル6針にてprimaryに縫合閉鎖した.術後経過は良好で, 第53日目にRTBD-tubeを抜去, 術後1年8か月の現在, 胆石再発の徴もなく健在である.
  • 尾関 豊, 松原 長樹, 小久保 光治, 石川 健二, 内山 隆, 澤田 傑
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2156-2160
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は67歳の男性.閉塞性黄疸のため当科に入院した.胆管造影で総肝管は不整な閉塞像を呈し, 上流側への狭窄は右側では前枝および後枝に, 左側では外側区域枝の根部に達した.減黄後のindocyanine green 15分停滞率は38.8~60.4%と異常値を示した.肝門部胆管癌の診断で尾状葉合併肝左葉内側区域切除術を施行した.外側下亜区域 (segment S3) の動脈枝は左肝管のGlisson鞘内に入り込んでいたため結紮切離した.組織学的に腫瘍は中分化型管状腺癌であった.術後第6病日に肝逸脱酵素が再上昇し, 第10病日から高熱をきたした.第15病日に施行した造影computed tomographyでS3にほぼ一致した低吸収域を認め, 肝梗塞と診断した.第18病日にショックとなったため緊急手術を施行し, S3に一致した肝壊死を認めた.結紮した肝動脈の支配領域に一致した肝梗塞を生じ, 肝動脈結紮と肝梗塞との関連につき示唆に富む症例と思われたので報告した.
  • 斎藤 智裕, 中村 潔, 小西 義男, 沢田石 勝, 藤巻 雅夫
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2161-2165
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    十二指腸球部原発進行癌の1例を経験した.患者は69歳の女性.心窩部痛, 食欲不振を主訴に来院.上部消化管造影, 上部消化管内視鏡検査にて十二指腸球部に潰瘍を伴う腫瘤性病変を認めた.生検にて原発性十二指腸球部癌と診断し, リンパ節郭清を伴う幽門側胃切除術, 十二指腸球部切除術を施行しBillroth-II法にて再建を行った.切除標本で腫瘍は幽門直下の十二指腸球部前壁に位置し, 2.8×2.5cm大でBorrmann2型様の外観を呈し, 組織学的には漿膜浸潤を伴う中分化型管状腺癌であった.自験例を含む十二指腸球部進行癌の本邦報告40例の検討では, 男女比2: 3で60歳以上の高齢者に多く, 潰瘍形成型の肉眼形態を示すものが約7割を占めた.また8割以上が乳頭腺癌, 管状腺癌など, 比較的分化度の高い組織型を呈したが, 本症診断時すでに約2/3の症例で漿膜浸潤をきたしており, さらに約1/3の症例で他臓器浸潤が認められ, 本症の深部浸潤傾向の強さがうかがわれた.
  • 松井 寛, 安藤 重満, 榊原 堅式, 辻 秀樹, 浦上 年彦, 柄松 章司, 小林 徹
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2166-2170
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    悪性リンパ腫を基礎疾患とした脾破裂の1例を報告する.症例は64歳の女性で, 不明熱にて近医入院, 既往歴・外傷歴に特記すべきことなし.入院時LDHの著増, 血小板減少, 脾腫を認めた.約1週間後左側腹部痛出現しHbの低下も認め, 脾腫の増大および腹腔内出血を疑われ, 当院紹介受診となった.腹部CTにて多量の腹腔内出血を認めるとともに脾臓は著明に腫大し内部に断裂を認め, 造影CTにて脾断裂部より造影剤の漏出を認めた.貧血が進行したため, 開腹術を施行した.開腹すると, 大量の凝血塊と暗赤色の巨大脾腫を認め, 脾臓は非常に脆弱で下極部分で被膜とともに実質の破裂を認め, 脾臓を摘出した.外見上, 他の臓器には異常は認めなかった.摘出脾臓は大きさ19.5×13.0×5.0cm, 重さ760gで, 病理検査でnon-HodgkinB型リンパ腫, diffuse large cell typeと診断された.術後化学療法を施行したが, 4か月後に死亡した.
  • 谷崎 裕志, 竜 崇正, 島村 善行, 木下 平, 河野 至明, 小西 大, 新井 仁秀
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2171-2175
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    肝右葉を占拠し, 右下横隔動脈から豊富な血流を受ける巨大肝細胞癌に対し, 広範な横隔膜合併切除を伴う肝3区域切除を行い, ほぼ欠損し右横隔膜を右外腹斜筋を用いて安全に再建しえた1例を報告する.術後経過も良好で, 再建前後で呼吸機能を比較しても著しい呼吸機能の低下は認められなかった.肝細胞癌手術に際して横隔膜浸潤のため合併切除を余儀なくされることが多い.切除後の欠損の多くは単純閉鎖が可能であり, 再建が必要になるのはかなり大きな欠損の場合のみである.再建に使用される材料としてはテフロンメッシュなどの人工材料と外腹斜筋, 広背筋などの生体材料があり, おのおの欠点と利点がある.われわれが行った外腹斜筋による再建は肝切除と同じ体位, 皮切で比較的簡単に行え, 術後, 胆汁漏などの感染の可能性のあることを考慮すると, 感染に弱い人工材料による再建に比較して安全性も高く, 有用な再建術式であると考えられた.
  • 柿坂 明俊, 唐崎 秀則, 山本 康弘, 伊藤 久美子, 河野 透, 葛西 眞一, 水戸 廸郎, 中島 芳雄, 中島 康雄
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2176-2180
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    クローン病と診断されてから11年を経て, 回腸から横行結腸にかけて巨大な炎症性腫瘤を形成し, 腹痛が改善せずに腹膜炎の診断のもとに手術を施行した症例を経験した.
    症例は39歳の男性.1981年に下痢, 腹痛を主訴として近医受診.腸閉塞にて回腸切除術を受けクローン病と診断された.術後の内服薬治療と成分栄養療法 (elemental diet: ED) により一時軽快したが5年後に悪心, 嘔吐, 発熱を主訴に同院に再入院.Total parenteral nutrition (TPN) とEDで管理していたが, 寛解, 増悪をくり返し, 巨大腫瘤を形成したため, 1993年に当科に入院後手術を施行した.術式は一塊となった結腸と回腸の切除で, 結腸右半切除術と小腸部分切除術を施行した.腫瘤の大きさは, 27-5×14-5×12cmであった.術後は結腸栄養および食事療法の組み合わせによる内科的治療で寛解を維持し, 順調に経過している.
  • 久米 真, 米沢 圭, 東 久弥, 森 茂, 米山 哲司, 二村 学, 山本 秀和, 白子 隆志, 岡本 亮爾, 横尾 直樹
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2181-2185
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    小腸ポリープ107個中2個に悪性化を認めたPeutz-Jeghers症候群 (以下, PJ症候群) の1例を経験したので報告する.症例は25歳の男性.7歳時, 口唇指趾の色素沈着と直腸ポリープを認めPJ症候群と診断された.1990年7月4日腸重積発作を起こし, 緊急開腹術を施行し小腸のほぼ全長にわたるポリープの存在を確認した.1991年2月19日開腹下内視鏡的ポリープ切除術を施行した.小腸の2箇所より内視鏡を挿入し径約5mm以上のポリープ107個をすべて摘出した (このうち1個のみ小腸切開下に摘出).組織学的にその大部分はPeutz-Jeghers Polypの典型像を呈していたが, 内2個 (径26mm, 7mm) の表層に一部癌化を認めた.PJ症候群は悪性化の危険性を有する.自験例からポリープの径にかかわらず予防的にすべてのポリープを摘出すべきであることが示唆された.摘出には開腹下内視鏡的ポリープ切除術が有用であった.
  • 安達 和仁, 工藤 俊, 森 洋幸, 堀内 義美, 亀山 仁一, 塚本 長
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2186-2190
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    腸重積症を呈したvon Recklinghausen病に随伴しない大腸神経線維腫の1例を報告する.症例は80歳の女性で, 血便と間歇性腹痛を主訴とし来院.精査目的で入院となった.注腸, 内視鏡, CT検査より, 盲腸・上行結腸に, 管腔内に突出する5cmを超える腫瘍を認め, これが先進部となり上行結腸が横行結腸に重積している状態であることが判明した.また, 腫瘍は非上皮性であると考えられたが, 生検では確定診断には至らなかった.右半結腸切除術を施行した.術後の病理組織学的検査にて神経線維腫と診断した.
    神経線維腫の診断には, 筋原性腫瘍との鑑別, 他の神経原性腫瘍との鑑別が必要であるが, ヘマトキシリン・エオジン染色に加え, 抗ミオグロビン抗体, 抗S-100抗体などの免疫染色を行うことで鑑別は可能である.
    本症例は報告例としては本邦5例目と思われる.
  • 植田 治昌, 平川 久, 標葉 隆三郎, 佐山 淳造, 西平 哲郎, 森 昌造
    1994 年 27 巻 9 号 p. 2191
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
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