日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
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54 巻, 5 号
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原著
  • 大倉 啓輔, 成田 匡大, 後藤 健太郎, 岡田 はるか, 山岡 竜也, 松末 亮, 畑 啓昭, 山口 高史, 大谷 哲之, 猪飼 伊和夫
    原稿種別: 原著
    2021 年 54 巻 5 号 p. 303-312
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/29
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    目的:当院の鼠径ヘルニア術後患者を調査し,鼠径ヘルニア術後慢性疼痛(chronic postoperative inguinal pain;以下,CPIPと略記)の発症率,治療希望患者について検討することを目的とした.方法:2010年4月~2016年3月に成人鼠径ヘルニア修復術を施行した592症例(617病変)に対して術後疼痛に関するアンケートを郵送し,CPIP症例には電話・外来で調査を追加した.疼痛は0~5のnumerical rating scale(以下,NRSと略記)を用いて患者報告アウトカムに基づき評価した.本研究では術後3か月目のNRS≥3の疼痛をCPIPと定義した.結果:427症例(72.9%;450/617病変)から回答を得た.CPIPの発症率は7.6%(34/450病変)で,術後1週目のNRS≥3の疼痛はリスク因子であった(P<0.001).10病変(うち9病変がCPIP)を治療し,CPIP 5病変では疼痛治療のため外来通院を継続した.他のCPIP 4病変・残り1病変(術後3か月目のNRS=2)はアンケートを契機に再受診した.治療介入した全病変でCPIPは消失もしくは改善した.結語:CPIP症例は本邦にも少なからず存在し,術後早期の疼痛管理が重要である可能性が示唆された.積極的な治療介入によりCPIPの改善が見込めるため,術後3か月間のフォローアップが必要である.

症例報告
  • 香西 純, 岸野 貴賢, 隈元 謙介, 上村 淳, 須藤 広誠, 浅野 栄介, 大島 稔, 岡野 圭一, 臼杵 尚志, 鈴木 康之
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 5 号 p. 313-320
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/29
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    症例は57歳の女性で,主訴は背部・四肢の紅斑,発熱,関節痛であった.血液検査で好中球優位の白血球増加,血清CRPとフェリチン値の著明な上昇を認め,抗核抗体やリウマトイド因子,各種感染症は陰性であった.成人Still病(adult-onset Still’s disease;以下,ASDと略記)が疑われたが,精査により進行食道癌(cT3N2M0,cStage III)を認め,腫瘍随伴症候群と診断し,食道癌の治療を行う方針とした.発熱による消耗,低Alb血症を認めていたため,術前化学療法は施行せず手術を先行した.術後合併症は認められず,術後早期に炎症反応所見や発熱の改善が認められた.また,紅斑は術後6か月,関節痛は術後1年でほぼ消失した.現在,術後2年経過し無再発生存中である.腫瘍随伴症候群としてASD様の症状を呈し食道癌の根治切除にて症状の改善が得られた報告例は極めてまれであると考えられた.

  • 楠 誓子, 西川 和宏, 浜川 卓也, 三代 雅明, 高橋 佑典, 三宅 正和, 濱 直樹, 宮本 敦史, 加藤 健志, 平尾 素宏
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 5 号 p. 321-327
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/29
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    胃癌術後の吻合部出血の頻度は約1%程度と比較的まれな合併症であり,吻合部以外の部位からの出血はさらにまれである.症例は77歳の男性で,冠動脈疾患精査中に抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy;DAPT)施行後の貧血を契機として胃癌と診断された.幽門側胃切除術,D2郭清を施行したが,術後14日目に残胃出血を認めたため,上部消化管内視鏡検査を施行した.胃内は血液で充満しており出血源の同定は困難であり,内視鏡的止血は施行できなかった.造影CTにて吻合部や縫合部から離れた部位での短胃動脈から胃内への血管外漏出像を認め術後22日目にTAEを施行し止血を得た.TAE施行後残胃虚血を認めたが,保存的加療にて血流は改善し術後65日目で経口摂取可能となり,術後89日目に退院した.

  • 和田 敬, 旭吉 雅秀, 清水 一晃, 長友 謙三, 濵田 朗子, 北村 英嗣, 濵田 剛臣, 矢野 公一, 今村 直哉, 七島 篤志
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 5 号 p. 328-336
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/29
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    症例は50歳の男性で,腹痛に対して腹部造影CTを受け,膵尾部に17 mm大の単房性囊胞性病変を認めた.尾側の主膵管は拡張しており,膵実質は腫大し,周囲の脂肪織濃度の上昇を伴っており急性膵炎の所見であった.MRCPで囊胞性病変と主膵管に明らかな交通はなく,超音波内視鏡検査で囊胞性病変は単房性で,内部に壁在結節や隔壁構造を認めなかった.急性膵炎とそれにともなう貯留囊胞と診断し経過観察としたが,膵炎が再燃し,囊胞性病変による主膵管の狭窄が原因の可能性もあり腹腔鏡補助下膵体尾部切除術を行った.摘出標本の病理学的所見では,卵巣様間質を伴う円柱状の上皮からなる二房性の囊胞性病変で,膵粘液性囊胞性腫瘍(mucinous cystic neoplasm;以下,MCNと略記)と診断した.男性発症の膵MCNは女性例と比較すると頻度は少ないが,画像検査で疑わしい所見を認めた場合は,鑑別疾患の一つとして考慮すべきと思われた.

  • 水上 奨一朗, 重原 健吾, 鈴木 達也, 賀来 亨, 山本 康弘
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 5 号 p. 337-343
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/29
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    Klinefelter症候群に伴うトランスジェンダー女性(male to female;以下,MtFと略記)に発症した急性上腸間膜静脈血栓症の1例を経験した.症例は50歳のMtFで,1週間持続する心窩部痛が増悪し,嘔吐・血便も出現し救急搬送された.既往に性同一性障害,Klinefelter症候群を有し,エストロゲン筋肉内注射を8年前より受けていた.腹部単純CTで限局性小腸壁肥厚,周囲腸間膜脂肪織濃度上昇を認め,急性腸炎と診断し保存的加療を開始した.入院3日目に血性腹水が採取され緊急手術を施行した.空腸が15 cm壊死し,術後病理組織検査で上腸間膜静脈血栓症に伴う出血性梗塞壊死の診断となった.術後4日目に抗凝固療法を開始し再燃なく経過している.本症例ではMtFに対する長期エストロゲン投与に加え,Klinefelter症候群自体の二大因子により急性上腸間膜脈静脈血栓症が発症したと考えられた.

  • 伊藤 量吾, 吉原 基, 有元 淳記, 青葉 太郎, 柴田 佳久, 平松 和洋, 加藤 岳人
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 5 号 p. 344-350
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/29
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    症例は70歳の男性で,右季肋部痛のため近医を受診し,腹部エコー検査で胆囊炎の診断であった.症状軽快傾向であったため,後日治療目的に当院に紹介された.腹部造影CTを施行したところ,小腸間膜根部に約4 cm大の腫瘤影を認め,上腸間膜動脈,下腸間膜静脈に近接していた.腫瘤は脂肪濃度主体であり,一部軟部組織濃度であったため,奇形腫や脂肪肉腫が疑われた.胆囊摘出と同時に腸間膜腫瘍を摘出する方針とした.腸間膜腫瘍は悪性の可能性もあったため,周囲組織とともに摘出した.摘出後,腫瘍を切開すると内部に毛髪を認め,術後病理学的検査にて,成熟囊胞性奇形腫の診断であった.経過は良好であり,術後8日目に退院した.腸間膜由来の成熟囊胞性奇形腫は比較的まれな症例のため,報告する.

  • 河井 邦彦, 荻野 崇之, 松井 崇浩, 藤野 志季, 三吉 範克, 高橋 秀和, 植村 守, 松田 宙, 九嶋 亮治, 水島 恒和, 土岐 ...
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 5 号 p. 351-358
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/29
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    症例は60歳の女性で,52歳時に潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;以下,UCと略記)(左側大腸炎型)と診断された.59歳時に施行したサーベイランス目的の下部消化管内視鏡検査にて肛門管に隆起性病変を認め,生検にて扁平上皮癌と診断された.肛門管扁平上皮癌に対する治療の第一選択は化学放射線療法であるが,直腸肛門部粘膜の炎症増悪が懸念されたため手術の方針となった.腹腔鏡下大腸全摘術(内肛門括約筋合併切除を伴う),回腸囊肛門吻合術,回腸瘻造設術を施行した.病理組織診断にてpT2N1bM0,Stage IIIAであったため,術後補助化学療法としてFOLFOXを12クール施行し,術後8か月現在まで無再発生存中である.UCに合併した肛門管扁平上皮癌の1例を経験したので報告する.

  • 木村 大, 野竹 剛, 清水 明, 本山 博章, 福島 健太郎, 細田 清孝, 坂井 紘紀, 池原 智彦, 小林 聡, 玉田 恒, 副島 雄 ...
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 5 号 p. 359-366
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/29
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    症例は65歳の男性で,外傷の精査目的に施行した腹部CTで膵頭部背側に8 cm大の境界明瞭な腫瘍を指摘され,当院に紹介された.腫瘍は造影CTにて漸増性に不均一な造影効果を示し,内部に変性壊死を示唆する低濃度域を認めた.腫瘍近傍に腫大したリンパ節を二つ認めたが,癒合はなかった.超音波内視鏡検査では,境界明瞭な低エコーの充実性病変として描出され,一部で十二指腸固有筋層との連続性が疑われた.以上の画像所見から,十二指腸筋層由来の間葉系悪性腫瘍と診断し,膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的診断はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫で,腫瘍内部に壊死や線維化を伴い,辺縁では膵頭神経叢への浸潤を認めた.悪性リンパ腫は,腫瘍内部が均一に造影されるなどの典型的な画像所見により他疾患との鑑別が可能とされるが,自験例のように,線維化や内部の壊死により典型像を呈さない可能性も念頭に置き,術前検査を行う必要がある.

編集後記
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