日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
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42 巻, 12 号
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原著
  • 永野 剛志, 田中 寿明, 田中 優一, 的野 吾, 津福 達二, 西村 光平, 藤田 博正, 白水 和雄, 井上 要二郎
    原稿種別: 原著
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1755-1761
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     はじめに:食道手術における結腸再建術は,従来より高率に発生する縫合不全が問題となっていた.我々はこの克服のため1989年以来血管吻合を付加した結腸再建術を行ってきたので,その治療成績を報告する.対象と方法:1981年から2007年までに当科で施行した結腸再建例86例(食道癌;77例,良性;9例)を対象とし,1988年までの血管吻合を付加しない結腸再建術24例(以下,通常群)と1989年以降の血管吻合を付加した62例(以下,血管吻合群)の2群に分け,その手術成績を比較検討した.結果:主な合併症は通常群,血管吻合群ともに縫合不全で,発生率を比較すると通常群は63%(15例),血管吻合群は23%(14例)と血管吻合群が有意に少なかった(p=0.0003).また,通常群では食道結腸吻合部の縫合不全は13例(54%)に認め,そのうち7例で再手術を要したのに対し,血管吻合群では同部の縫合不全は6例(10%)で,全例保存的に治癒した.手術関連死亡率は通常群が17%(4例),血管吻合群が2%(1例)と血管吻合群が少なかった(p=0.007).また,血管吻合群を動静脈とも吻合した症例(動静脈群)51例,静脈吻合のみの症例(静脈群)11例に分け縫合不全発生率を比較すると,動静脈群が6%(3例),静脈群が27%(3例)と動静脈群が良好な成績だった(p=0.03).考察:血管吻合付加により結腸再建例の治療成績は向上し,その有用性が示された.また,血管吻合法は,動静脈双方の吻合が静脈のみの吻合に比べより有効である可能性が示唆された.
症例報告
  • 的野 吾, 田中 寿明, 田中 優一, 西村 光平, 村田 一貴, 笹原 弘子, 末吉 晋, 白水 和雄, 藤田 博正
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1762-1767
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     顆粒細胞腫の表面に併存した食道表在癌を経験したので報告する.症例は50歳の男性で,表在型食道癌の診断で当院紹介となった.上部消化管内視鏡検査で,長径12 mm大の粘膜下腫瘍様の病変で,頂部にヨード不染を示すびらんを認め,生検で高分化型扁平上皮癌と診断された.超音波内視鏡検査では,sm3の診断であった.食道癌Lt,0-Isep,T1bN0M0 Stage Iと診断し,根治的化学放射線療法を施行した.治療後,頂部のルゴール不染は消失したが,粘膜下腫瘍様の腫瘤は,丈は低くなったものの残存した.超音波内視鏡検査にて残存腫瘤は粘膜下層主体の粘膜下腫瘍と診断し,内視鏡的粘膜切除術を施行した.病理組織学的検査より食道顆粒細胞腫と診断された.最終的に顆粒細胞腫の表面に0-IIc型食道癌を合併したものと診断した.
  • 長谷川 聡, 鈴木 喜裕, 廣島 幸彦, 山崎 安信, 池 秀之
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1768-1772
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     横隔膜ヘルニアの一型である傍裂孔ヘルニアに胃軸捻転症を合併した1例を経験したので報告する.症例は86歳の女性で,以前より横隔膜ヘルニアを指摘されていたが,外傷の既往はない.平成18年11月上旬左胸背部から心窩部の痛みが出現し救急車で当院受診となった.胸部X線検査およびCTでは胸腔内にガス像を認めた.胃管を挿入し減圧すると症状は軽快した.上部消化管造影検査により胃軸捻転を伴う傍食道型食道裂孔ヘルニアと診断した.開腹し,胸腔内に入り込んでいた胃前庭部を整復したところ,ヘルニア門は左横隔膜にあり食道裂孔との間に横隔膜脚が存在しており,横隔膜傍裂孔ヘルニアと診断した.これまで逆流症状がなかったため,ヘルニア門を縫縮し手術を終えた.術後上部消化管造影検査では胃は正常な位置にあり,術後20日目に退院し,現在再発はない.
  • 北村 祥貴, 竹原 朗, 島田 雅也, 森山 秀樹, 斉藤 健一郎, 羽田 匡宏, 芝原 一繁, 佐々木 正寿, 小西 孝司, 前田 宜延
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1773-1778
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     極めてまれな胃壁原発calcifying fibrous tumorの1例を経験した.症例は44歳の女性で,検診の上部消化管造影検査で胃体下部前壁に隆起性病変を指摘された.上部消化管内視鏡検査で同部位は硬い粘膜下腫瘍であり,腹部CTでは胃壁壁外に突出し内部に石灰化を伴っていた.Gastrointestinal stromal tumor疑いと診断し,腹腔鏡下胃部分切除術を施行した.病理組織学的検査では,成熟した線維組織の増生が主体で硝子様の変化と一部に石灰化巣を伴っていた.線維組織間には異型性の目立たない紡錘形細胞が疎に増殖しており,形質細胞を主体とした小円形細胞の浸潤を認めた.紡錘形細胞は免疫組織染色検査でVimentin陽性も,CD34,c-kit,α-smooth muscle actin,Desmin,S-100,NSEすべて陰性であり,calcifying fibrous tumorと診断した.胃壁原発のcalcifying fibrous tumorの報告は極めてまれであり,文献的考察を含めて報告する.
  • 高橋 玄, 佐藤 雅彦, 渡部 英, 根上 直樹, 齋藤 徹也, 石戸 保典, 玉崎 秀次, 山田 正樹
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1779-1784
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     Stage IA早期胃癌の術後に,原発性大腸癌を疑う形態を呈した大腸転移の1例を経験した.症例は69歳の男性で,平成19年3月に胃癌にて幽門側胃切除を施行した.病理組織学的検査所見では癌細胞の異型が強く,por1 with sig,pT1(SM2),pN0,sH0,sP0,sM0でStage IAであった.術後CEAは徐々に上昇し,8か月後に9.4 ng/mlまで上昇したためpositron emission tomographyを施行したところ上行結腸に集積が認められた.大腸内視鏡検査を施行すると上行結腸に潰瘍性病変が認められ,生検では低分化腺癌であった.原発性の上行結腸癌の診断で平成20年1月に右結腸切除術を施行した.病理組織学的検査所見およびCytokeratinによる免疫組織化学染色検査から胃癌の転移と診断した.Stage IA早期胃癌からの大腸転移は極めてまれで本邦では他に例を見ない.早期胃癌であっても癌細胞の異型が強いと悪性度が高く転移を起こすことがあり,示唆に富む症例と思われたため文献的考察を加え報告する.
  • 二村 浩史, 高橋 直人, 渡部 篤史, 山下 重雄, 大平 寛典, 篠原 寿彦, 小林 克敏, 三森 教雄, 柏木 秀幸, 矢永 勝彦
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1785-1790
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     9 cm大のplatelet derived growth factor receptor alpha(以下,PDGFRα)変異胃gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)を経験したので報告する.症例は64歳の男性で,健診にてSMTを指摘され上部内視鏡検査を行ったところ,胃幽門前庭部小彎後壁に9 cm大のSMTを認めた.生検の結果,c-kit,CD34,αSMA,S100すべて陰性であったがGISTを強く疑い手術を施行した.CT,拡散強調MRIにて壁内外発育型であったが肝転移,腹膜播種は認められなかった.幽門側胃切除を施行した.紡錘形~類上皮細胞が不正な結節を形成し,CD34のみ陽性で,c-kit,αSMA,S100染色は陰性であった.術後遺伝子検索にて,KIT遺伝子の変異は認めずPDGFRα exson 18のD842V変異によるGISTであった.核分裂像指数は50視野中2個であり,中リスク群であった.根治手術であり,PDGFRα exson 18 D842V変異GISTはイマチニブ抵抗性のため経過観察とした.術後の治療方針に,GISTの遺伝子検索は有用と考えられた.
  • 浅海 吉傑, 酒徳 光明, 金子 真美, 野崎 善成, 大和 太郎, 田畑 敏, 家接 健一, 清原 薫, 中島 久幸, 寺畑 信太郎
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1791-1794
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     Micropapillary carcinomaは乳腺,肺,膀胱領域において悪性度が高い組織型とされ,その消化管領域での報告は少ない.今回,我々はmicropapillary carcinomaを伴った早期胃癌を経験したため報告する.症例は56歳の男性で,2000年に早期胃癌に対し噴門側胃切除術を施行されている.2006年に検診胃透視で異常を指摘され当科を受診した.胃内視鏡検査では残胃前庭部大彎に0-IIa+IIc病変を認め生検で中分化型腺癌と診断された.腹部CTでは1群リンパ節転移が疑われ,残胃全摘を施行した.切除標本の病理組織学的検査にて深達度はsm1であったが腫瘍深部にmicropapillary carcinomaを認めリンパ節転移巣にも同様の所見を認めた.胃癌でもmicropapillary carcinomaは悪性度が高いことが示唆された.
  • 中川 直哉, 佐々木 秀, 小林 健, 内藤 浩之, 橋詰 淳司, 越智 誠, 立本 直邦, 國安 弘基, 村上 義昭, 末田 泰二郎
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1795-1801
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     Choledochoceleは先天性胆道拡張症のなかでもまれな疾患である.症例は81歳の男性で,心窩部痛を主訴に当院紹介となった.腹部CT,MRCPで下部胆管に嚢胞状拡張を認め,上部消化管内視鏡検査で乳頭口側に20 mm大の半球状隆起と乳頭に顆粒状変化を認めた.乳頭の生検ではtubular adenomaが検出され,十二指腸乳頭腺腫を合併したcholedochoceleの診断にて,経十二指腸的乳頭切除術,総胆管嚢腫切除術を施行した.Choledochoceleの治療においては嚢腫内の胆汁うっ滞の解除を目的に内視鏡的乳頭切開などの非手術的治療がまず考慮される場合が多いが,本例では十二指腸乳頭部腺腫を合併しており乳頭部腺腫の切除と嚢腫の開放を確実に行う目的で開腹手術を選択した.Choledochoceleにおいても少数ながら癌合併例も報告されており,手術的または非手術的な治療後も定期的な経過観察が必要と考えられた.
  • 前田 真一, 小倉 芳人, 内倉 敬一郎, 前村 公成, 新地 洋之, 高尾 尊身, 夏越 祥次
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1802-1807
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     完全内臓逆位を伴った胆管癌の1例を経験したので報告する.症例は75歳の女性で,前医にて閉塞性黄疸を指摘され,当院へ紹介入院した.腹部CTで完全内臓逆位および胆管腫瘍による閉塞所見を認め,経皮経肝胆道造影検査にて肝門部胆管から中部胆管に隆起性の腫瘍性病変が認められた.以上より,胆管癌の診断にて,手術を施行した.開腹時,肝門部より膵内胆管まで広がる比較的やわらかい腫瘍が認められたため,胆管切除・リンパ節郭清術・胆管空腸吻合術を施行した.腫瘍は表層拡大進展を伴った乳頭型の早期胆管癌であり,病理組織学的には中分化型腺癌であった.完全内臓逆位に伴った胆管癌の本邦での報告は自験例を含め7例目であり報告した.
  • 橋爪 健太郎, 進藤 幸治, 藤井 圭, 笹月 朋成, 冨永 洋平, 廣田 伊千夫, 江口 徹, 河野 眞司, 相島 慎一
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1808-1813
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は87歳の男性で,表在性膀胱癌のため当院泌尿器科で経尿道的腫瘍切除が行われ,経過観察されていた.2007年1月の腹部造影CTで肝S6に15 mmの腫瘤性病変が指摘されたが,血管腫と診断し経過観察されていた.2007年9月の腹部造影CTで肝S6の腫瘤性病変は30 mmに増大しており,胆管細胞癌(cholangiocellular carcinoma;以下,CCC)が疑われた.肝腫瘍生検にて中分化型のCCCと診断され,肝S6部分切除を行った.病理組織学的診断では,小型均一な癌細胞が索状から小管腔を形成し互いに癒合しながら増殖する像を呈しており,細胆管細胞癌(cholangiolocellular carcinoma;以下,CoCC)と診断された.術後12か月が経過したが無再発生存中である.極めてまれなCoCCの切除例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 西田 司, 川崎 浩資, 三好 和裕, 梅本 健司, 田代 圭太郎, 石橋 孝嗣
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1814-1818
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     Left-sided portal hypertension(以下,LSPH)は脾静脈の還流障害をもとに,慢性肝疾患を伴わない症例に,胃静脈瘤や脾腫などの門脈圧亢進を呈するまれな病態である.また,LSPHに随伴する胃静脈瘤は,脾摘で根治可能となり,治療法の選択に注意を要すると考えられる.今回,LSPHを契機に発見された膵悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する.症例は57歳の女性で,2006年5月吐血を主訴に来院した.内視鏡検査で孤立性胃静脈瘤を認め入院精査を進めた.術前画像診断で短胃静脈の拡張と脾腫を認めたが明らかな肝硬変の所見はなく,また脾門部には腫瘍性病変がありLSPHと診断し脾摘および腫瘍摘出を行った.術後胃静脈は消失し,摘出腫瘍は病理組織学的に膵悪性リンパ腫と診断した.肝硬変を伴わない胃静脈瘤や脾腫を有する症例には,LSPHを念頭に診断および治療を進めていく必要があると考えられる.
  • 宮本 茂樹, 高杉 憲三, 秦 史壮, 池田 慎一郎, 齋藤 慶太, 伊東 竜哉, 平田 公一, 高木 芳武
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1819-1825
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は35歳の女性で,2007年9月中旬頃から38℃前後の発熱,筋肉痛,関節痛を繰り返すため,同年10月上旬当院内科を受診した.血液生化学的検査で軽度の肝機能異常を認めたためCTを施行したところ,最大径約3 cm大の脾臓腫瘍を認めた.入院後,全身精査で他臓器に悪性腫瘍を指摘しえず,原発性脾臓腫瘍を疑い,同年11月腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した.手術時間は80分,出血量は20 mlであった.脾臓摘出のための創部を最小限に収めるために,Endocatch IITMに収納したうえで3分割後体外に摘出した.肉眼検査所見では被膜を有さない比較的境界明瞭な3×2.5 cmの結節性病変であった.病理組織学的検査において,腫瘍は赤脾髄の脾索性毛細血管の増殖からなり,その形態学的特徴と免疫組織学的検索での特徴としてCD34陽性,CD8陰性,第VIII因子関連抗原(以下,Factor VIII)陰性の増殖内皮細胞の性状であったことから,過誤腫に包括されているsplenic cord capillary hemangiomaと診断した.本症は過誤腫の中でも非常にまれと推察され,自験例が本邦1例目であり報告する.
  • 平光 高久, 橋本 昌司, 中西 賢一, 大西 英二, 大屋 久晴, 西 鉄生, 間瀬 隆弘, 永田 二郎, 川崎 晋吾
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1826-1830
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     原発性小腸腫瘍は胃癌や大腸癌に比べ極めて少なく,未分化癌の報告はほとんど認められない.症例は88歳の男性で,発熱,腹部全体の痛みを認めた.血液生化学検査にて炎症所見を認めた.腹部造影CTにて回盲部辺りに小腸壁肥厚を伴う腫瘤性病変を認め,腹水の貯留を認めたがfree airは認めなかった.小腸腫瘍に伴う腹膜炎の診断にて緊急手術となった.開腹すると,濁った腹水を認め,Treitz靭帯から20 cmの空腸に腫瘍を認め,Bauhin弁から10 cmの回腸に浸潤していた.明らかな穿孔部位は特定できなかった.主病巣と考えられた空腸と一塊となった回腸をそれぞれ切除した.病理組織学的には未分化細胞を認め,免疫染色検査ではCAM 5.2,p63陽性で小腸原発未分化癌と診断した.軽快して退院となったが約3か月後,多発性脳転移にて死亡した.原発性小腸未分化癌はまれであり,自験例を含む本邦論文報告14例の検討を行った.
  • 小松 昇平, 福本 巧, 堀 裕一, 村上 昌雄, 菱川 良夫, 具 英成
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1831-1836
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は74歳の男性で,S状結腸癌の同時性多発肝転移に対してS状結腸切除術および拡大肝左葉切除術を施行した.14か月後,下大静脈腫瘍栓を伴う肝転移および腹膜播種を認めた.化学療法を開始するも効果なく,肺線維症を併発したため化学療法の継続を断念した.腹膜播種および肝転移に対する粒子線治療を希望し来院した.腫瘍は胃と近接しており粒子線による直接治療は不可能であったためスペーサー留置術+粒子線照射による2段階治療を勧めた.まず,開腹下にスペーサーを留置し腫瘍と近接消化管の間に最低1.0 cmの距離を確保した.術後CT画像において安全な照射が可能であったため,手術1か月後より陽子線治療64 GyE/8 Frを施行した.治療後12か月時点で照射部腫瘍の再発は認めず,下大静脈腫瘍栓は消失した.本法は従来治療不能と考えられていた転移性肝癌に対して新たな治療手段になると考え報告した.
  • 浅野 賢道, 岩井 和浩, 狭間 一明, 川崎 亮輔, 妻鹿 成治
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 12 号 p. 1837-1842
    発行日: 2009/12/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は56歳の男性で,1999年に腎細胞癌にて左腎部分切除術,2005年に肺転移に対し肺部分切除術を受けている.2006年6月上旬,上腹部痛を主訴に近医に入院した.入院後,急性心筋梗塞を発症し当院に紹介となる.血清アミラーゼの高値(1,883 IU/L)を呈し,腹部造影CT上,膵臓の腫大と網嚢腔および左腎周囲への液体貯留を認め,重症急性膵炎と診断した.ただちに,メシル酸ナファモスタットとイミペネムの動注を行った.症状が改善した後,精査を行ったところ腹部造影CTにて膵頭部に良好に造影される3 cm大の腫瘍を認めた.以上より,腎細胞癌膵転移を疑い,8月下旬,膵頭十二指腸切除術およびnecrosectomyを施行した.病理組織学的検査の結果,膵頭部腫瘍は腎細胞癌膵転移であった.術後2年が経過しているが,現在までのところ再発は認めていない.腎細胞癌の膵転移により重症急性膵炎を呈することは極めてまれである.文献的考察を加え報告する.
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