日本消化器外科学会雑誌
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25 巻, 5 号
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  • Coxの比例ハザード法を用いて
    遠藤 健
    1992 年25 巻5 号 p. 1191-1200
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    食道癌は予後不良な消化器癌であり, 治療成績を向上させるためには, 予後因子を正しく把握する必要があり, 食道癌の予後因子に関して検討した. 対象は胸部食道癌右開胸治癒切除例410例であり, 解析方法は予後因子を宿主要因, 食道癌取扱い規約に基づく腫瘍要因, 治療要因の3要因に大別し, Coxの比例ハザード法により行い, 以下の結果を得た. 宿主要因は予後因子ではなく, 腫瘍要因ではn因子, 脈管侵襲度, 細胞異型度, 構造異型度, 浸潤度, 壁内転移が予後因子であり, なかでもn因子は最大の予後因子であり, 総転移個数, 転移状況, 転移部位も予後と関係した. 治療因子では, 頸部郭清を含む3領域郭清を伴う拡大手術が2領域を主とした手術より予後良好であり, n (-) およびn3 (+) 以上の症例で特に有効であった. また今回の検討では化学療法, 放射線療法などの補助療法の効果は認められなかった.
  • Indocyanine green15分値による検討
    大田 準二, 藤田 博正, 南 泰三, 白水 玄山, 山名 秀明, 掛川 暉夫
    1992 年25 巻5 号 p. 1201-1205
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    食道癌手術の術前肝機能評価の中で, indocyanine green負荷による15分停滞率 (以下R15ICG) に着目し, その値と術式, 術後合併症および予後にっき比較検討した. R151CGが15%以上の胸部食道癌手術症例40例を対象にその値が15%以上20%未満をA群 (21例), 20%以上25%未満をB群 (10例), 25%以上をC群 (9例) に分けた. 術式はA, C群で右開胸1期手術が多かった. 術後合併症の発症率はA群で71% (15/21), B群で80% (8/10), C群では全症例であり, その主なものは後出血, 縫合不全, 膿胸, 敗血症であった, 死因はB, C群では術後合併症によるものが多く, 直接死亡例もB, C群で多かった. C群の姑息切除症例はすべて在院死亡であり. その75% (3/4) は術後合併症によるものであった. R15ICGが20%以上では重篤な合併症や在院死亡が多く, 手術適応, 術式の選択には慎重な考慮が必要である. 特に25%以上では姑息切除の適応は再考すべきである.
  • 竹内 成子
    1992 年25 巻5 号 p. 1206-1215
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃全摘術後症例の骨代謝障害の病態を明らかにすることを目的として, 胃全摘術後の54例を対象として, 血液生化学的検査および, multiple scanning X-ray photodensitometry (MD/MS) 法と, quantitative computed tomography (QCT) 法を用いて骨の定量的測定を行った. 胃全摘待後症例では, 対照群と比べ血清Ca値の低下, 血清A1-P活性値の上昇を認めた (p<0.05). 血清P値は有意差はなかった. QCT法による第3腰椎骨塩量は, 60歳以上の女性の87.5%で健常例に比べ低下していた. MD/MS法による骨評価の結果, 骨塩量は, 男性では健常例とほぼ等しかったが, 60歳以上の女性の88.9%が健常例よりも低値を示し, 皮質骨密度は男女とも高値を示した. 以上より, 60歳以上の女性の胃全摘術後症例では, 生理的な骨萎縮が加速され, しかも, その病態は, 骨軟化症よりも骨粗霧症に近いことが示唆された.
  • 山崎 信保, 高木 健太郎, 長谷川 正樹, 真部 一彦, 尾池 文隆, 小山 高宣
    1992 年25 巻5 号 p. 1216-1221
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    過去12年間の漿膜下浸潤胃癌237例について, 臨床病理学的諸因子と予後との関連について検討した. 記号・略語は胃癌取扱い規約に準じた. 亜分類では, ssaが11例, ssβが109例, ssγが117例であり, これらを同時期のpm癌153例・se癌159例と比較した. n (+) (69%), ly (+) (83%), v (+)(30%), 5生率 (56%) などはすべて, pm癌とse癌の中間に位置した. 組織型はpor-sigが49%と多く, なかでもssγ (62%) に多かった. ss癌の治癒切除率は78%で, 治癒切除例の5生率は68%であった. 非治癒因子としては, H (+) がssβ に多くP (+) と断端陽性がssγに多かった. また再発形式にも同じ傾向がみられた. ssβとssγの生存率は, 4年までは同じでそれ以降ssγが悪くなる傾向が得られた. その原因としては, 4年以降の遅発再発形成として局所またはリンパ節再発と腹膜播種が多くみられるなかで, ssγが約90%を占めており, 微小転移巣を形成しやすいことが推測された.
  • 山下 好人, 鄭 容錫, 横松 秀明, 仲田 文造, 澤田 鉄二, 金銅 康之, 金 光司, 曽和 融生
    1992 年25 巻5 号 p. 1222-1227
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腫瘤形成性膵炎 (tumor-forming pancreatitis: TFP) は各種画像診断を用いても膵癌との鑑別が困難なことが多い. 今回, 両者の鑑別診断における腫瘍マーカーの意義について検討した. 対象は, 膵癌82例, 慢性膵炎46例 (TFP19例) であった. SPan-1抗原, CA19.9, DU-PAN-2, CEAの膵癌における陽性率はそれぞれ93.0%, 85.4%, 63.0%, 63.8%で, 慢性膵炎における偽陽性率はそれぞれ28.0%, 42.9%, 11.1%, 20.0%, TFPにおいてはそれぞれ36.8%, 50.0%, 20.0%, 25.0%であった.次にTFPと膵癌の鑑別における正診率はSPan-1抗原: 86.7%, CA19-9: 78.1%, DU-PAN-2: 66.7%, CEA: 66.7%とSPan-1抗原およびCAI9-9が高かった. またSPan-1抗原, CA19-9, CEAの値を初診時および約1か月後に測定すると膵癌症例では上昇傾向を示すのに対し, TFP症例では上昇傾向は示さず, これらの経時的な測定の有用性が示唆された.
  • 絞扼性イレウスと対比して
    近森 文夫, 青柳 啓之, 高瀬 靖広, 渋谷 進, Niranjan Sharma, 岩崎 洋治
    1992 年25 巻5 号 p. 1228-1233
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腸間膜動脈閉塞症の早期診断ならびに治療方針の確立を目的として, 診断, 治療ならびに予後について, 本症と絞扼性イレウスを対比検討した. 対象は, 腸間膜動脈閉塞症 (1群) 12例と絞扼性イレウス (II群) 27例である. 背景因子としては, 年齢 (1群69±9歳, II群54±21歳), 開腹術の既往 (各17%, 74%), 心疾患の併存 (各75%, 22%), 身体所見では腹部圧痛 (各58%, 96%), 反跳痛 (各25%, 78%), 筋性防御 (各8%, 70%), 検査所見ではLDH≧5001U/l (各92%, 26%), 治療では, 広範囲腸管切除率 (各70%, 11%), 予後では, 死亡率 (各50%, 4%) において1群とII群間に有意差 (p<0.01) が認められた. 腸間膜動脈閉塞症は絞掩性イレウスに比べて, 広範囲腸管切除率は高く, 死亡率も高い. したがって, 高齢で, 開腹術の既往がなく, 心疾患の併存があり, 腹部所見が軽く, LDH≧5001U/lを呈すイレウス症例については, 腸間膜動脈閉塞症を積極的に疑い, 早期に血管造影検査を施行すべきである.
  • 泉 公成
    1992 年25 巻5 号 p. 1234-1242
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    大腸癌症例154例の末梢血および49例の灌流血中の血清laminin濃度を測定し, 異時性肝転移予知因子としての血清laminin濃度を評価検討し, 以下の結果を得た. 1) 肝転移症例の血清laminin濃度は非肝転移症例と比較して有意 (p<0.001) に高値を示した. 2) 壁深達度ss (a1) 以上の症例の血清1aminin濃度は, pm以下の症例と比較して有意 (p<0.001) に高値を示した. 3) リンパ管侵襲1y1~3症例の血清laminin濃度は, ly0症例と比較して有意 (p<0.001) に高値を示した. 4) 静脈侵襲程度に相関して血清laminin濃度は有意 (p<0.001) に上昇した. 5) 肝転移症例, 高度静脈侵襲 (v2v3) 症例において灌流静脈血中laminin濃度が末梢血よりも高い傾向がみられた. 6) 肝転移再発の予測を目的とする血清laminin濃度は, 現時点においては, 静脈侵襲による判別区分点1.44U/ml以上とするのが適当と考えられた.
  • 渡辺 文明, 野水 整, 安藤 善郎, 吉田 典行, 土屋 敦雄, 阿部 力哉
    1992 年25 巻5 号 p. 1243-1247
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    教室における大腸癌手術症例224例のうち, 大腸癌家族歴陽性例は14例, 6.7%, 他癌家族歴陽性例は35例, 35%で, 癌家族歴陰性例は174例, 77.7%であった. 診断時年齢は大腸癌家族歴陽性群が平均53.6歳と他の2群に比べ若年性であり, 発生部位についても結腸の割合が高かった. 異時性多発癌を含む重複癌の頻度は大腸癌家族歴陽性群で7.1%と他の2群より高い傾向にあった.
    これらの結果から大腸癌家族歴陽性例は, 家族性大腸癌と類似の臨床的特徴を持っているように思われた. 5年生存率も大腸癌家族歴陽性群で70.5%と良好であり, 家族歴は癌の早期発見, 早期治療のための有用なマーカーの一つである.
  • 分類および内分泌細胞癌との関連について
    大塚 正彦, 加藤 洋
    1992 年25 巻5 号 p. 1248-1256
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    1946~1988年の43年間に癌研病院で手術された大腸癌2,656例のうち, 低分化腺癌あるいは未分化癌と診断されたのは64例であり, 全切除大腸癌の2.4%である. 平均年齢および男女比は通常の大腸癌と大差なかったが, 発生部位別頻度は右側結腸29例, 直腸24例, 左側結腸10例, 肛門管1例であり, 通常の大腸癌に比べ右側結腸の頻度が高かった. この64例を癌間質が少ない順にmedullary (med), intemlediate (int), scirrhous (sci) に分類すると, med群に比べて後2者でリンパ管侵襲, リンパ節転移, 腹膜播種が多く, 予後は有意に不良であった. int群とsci群の間に有意差は認めなかった. また, Grimelius反応, NSE染色さらに電顕により64例中6例 (9.4%) に内分泌細胞癌が認められ, 非常に予後不良であった. 大腸の低・未分化癌は,(1) 内分泌細胞癌 (予後不良),(2) 内分泌細胞癌以外のmed群 (予後良好),(3) int群+sci群 (予後不良) に分類することが可能で, 臨床的に有意義であると思われる.
  • 船橋 公彦, 辻田 和紀, 辻本 志朗, 渡辺 正志, 永澤 康滋, 大谷 忠久, 小林 一雄, 柳田 謙蔵, 吉雄 敏文
    1992 年25 巻5 号 p. 1257-1262
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    大腸癌103例についてDNA ploidy patternと免疫組織学的にras p21の発現を検索し, 病理学的所見および予後との関係について検討を行った. Ras p21の陽性率は癌の進行に伴い増加し, 大腸癌の進展にras p21の関与が考えられた. Ras p21の発現とDNA ploidy pattemとの間に相関は認められなかった. Ras p21陽性でaneuploidyの癌は, ras p21陰性でdiploidyの癌に比べ壁深達度, リンパ節転移およびリンパ管侵襲所見において進行した症例が多かった (p<0.05). 予後の検討では, aneuploidyの癌はdiploidyの癌に比べ予後不良で (p<0.01), 予後判定にDNA ploidyの検索が有用と考えられた. また同じDNA ploidyの癌でもras p21の発現によって予後が異なり, ras p21の発現が大腸癌の予後の良悪を示す指標の1つになりうる可能性が示唆された.
  • 袖山 治嗣, 黒田 孝井, 小林 信や, 小松 誠, 飯田 太
    1992 年25 巻5 号 p. 1263-1267
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    多発性内分泌腺腫症I型 (MEN type I) 2例および原発性上皮小体機能亢進症 (HPT) 10例において, 上皮小体摘除の血清ガストリン値に及ぼす影響, 病変を認めた上皮小体の抗ガストリン抗体染色態度を検討した.
    MEN type I症例において, 上皮小体摘除後血清ガストリン値は著明な低下を示した. HPT症例において, 上皮小体摘除後血清ガストリン値は10例中7例で低下し, 平均値は216, 1±228.3pg/mlから113.1±51.1pg/mlと低下傾向を示したが, 有意差はなかった.
    MEN type I症例2例中1例が, HPT症例10例中6例の上皮小体が抗ガストリン抗体弱陽性に染色された. 抗ガストリン抗体染色態度と, 上皮小体病変の組織型, 術前後の血清ガストリン値との関係を検討したが有意な相関は認められなかった.
  • 酒井 敬介, 関川 敬義, 小河原 忠彦, 野口 明宏, 松本 由朗
    1992 年25 巻5 号 p. 1268-1272
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    食道癌は頭頸部癌, 胃癌など他臓器癌を併存することは知られているが, 食道, 胃の同時性早期癌は比較的まれであり, 本邦において過去に19例の報告があるだけである. 今回われわれが経験した症例は, 66歳の男性で, 胸やけを主訴に来院した. 上部消化管検査の結果, 胸部中部食道のIIa+IIb型早期癌と胃角部のIIc型早期癌と診断された. 食道, 胃同時性早期重複癌として, 胸部食道全摘術, 幽門側胃亜全摘術, 左側結腸による胸骨後再建術施行し, 結腸胃吻合には器械吻合器を用いた.
    胃中部または胃下部の早期癌と食道との同時性早期重複癌の術式は, 文献的にはほとんどの症例で胃全摘術がなされており, 本例のように胃亜全摘術が施行されたのは本例を含めて2例のみであり, 手術術式に重点をおいて文献的考察を加え報告する.
  • 鳥谷 裕, 吉村 茂昭, 真栄城 兼清, 多胡 卓治, 白井 善太郎, 有馬 純孝, 古川 浩, 久原 克彦, 中岡 幸一, 小山 洋一, ...
    1992 年25 巻5 号 p. 1273-1277
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃穹窿部静脈瘤 (fmdic varices;FV) 破裂17例の治療成績を検討した. 内視鏡所見では腫瘤状FV12例, 結節状FV4例, 扁平状FV1例であった. 初回治療は内視鏡的硬化療法 (endoscopic injectionsclerotherapy;EIS) を4例, 経回結腸静脈的塞栓術 (transileocolic obliteration;TIO) を7例, Hassab手術 (HB) を6例に施行し, 止血率は25%, 43%, 100%であった. 初回治療後10例 (59%) で止血がえられた. 止血不能7例に対しEISを1例, TIOを4例, HBを2例に施行し, 止血率は0%, 50%, 100%であった. 7例中4例 (57%) で止血がえられ, 止血不能3例に対しEISを1例, HBを1例に施行し止血しえた. 延べ止血率はEIS33%, TIO45%, HB100%であった. HB施行例では治療後FVからの再出血は認めなかった. 今後, 特に腫瘤状または結節状FVに対し予防的手術療法を積極的に行うことが肝要と思われた. 同時に手術不能例に対する治療として, 確実な塞栓効果を有する硬化剤や治療手技の開発が必要と思われた.
  • 森浦 滋明, 池田 修平, 平井 正文, 内木 研一, 横地 潔
    1992 年25 巻5 号 p. 1278-1281
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は大球性貧血のために入院した73歳男性で, 3年前に胃体上部の胃平滑筋肉腫 (最大径11cm) のため胃全摘術, 1群リンパ節郭清が行われていた. 腹部computed tomographyで膵尾部から脾門部腹側に造影剤で増強する7cm径の腫瘤を認め, 平滑筋肉腫の再発と診断した. 手術は左第8肋間の胸腹連続切開下に脾, 膵体尾部横隔膜, 横行結腸, 肝外側区域, 再建空腸と食道下部を合併切除し, 再発巣を切除した. 食道空腸吻合部には, 術前診断できなかった1.5cm大の再発巣を認めた. 再発の原因として, 膵尾部から脾門部のものは剥離面に腫瘍が遺残したための局所再発であると考えた. また, 吻合部の再発は切除再建時の腫瘍細胞の散布, implantationが原因である可能性もあると推察した.
  • 大塚 眞哉, 渡辺 良平, 舟木 真人, 柚木 茂, 西原 幸一, 大森 克介, 北本 忠, 宮田 信熈, 大朏 祐治
    1992 年25 巻5 号 p. 1282-1286
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝臓の腫瘍類似病変の1つである, focal nodular hyperplasia (FNH) の1切除例を経験したので報告する. 症例は24歳女性, 腹部超音波検査にて肝内腫瘤を指摘された. Ultrasonographyにて肝外側区域にhypoechoic lesionを認め, dynamic computed tomographyでは動脈相で高濃度域, 門脈相で低濃度域として認められた. 肝動脈造影にて腫瘤中心部より放射状に走る異常血管像を伴うhypervascular areaが認められた. 以上よりFNHを疑うもHCCも否定しきれず動注療法後, 肝左葉切除術を施行した. 術後の病理組織検査では, 治療による修飾も加味してFNHと最終診断した. FNHは比較的まれな疾患とされていたが, 最近は報告例も増えてきている. 最近の本邦報告30例を集計し, 特にその術前診断を中心に文献的考察を加えて検討した.
  • 田村 勝洋, 矢野 誠司, 橋本 幸直, 長見 晴彦, 板倉 正幸, 石田 徹, 井上 康, 中川 正久, 中瀬 明
    1992 年25 巻5 号 p. 1287-1291
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    中肝静脈を巻き込み, 左右肝静脈と大きな肝内門脈枝にはさまれた内側区域から前区域にまたがる腫瘍に対し, 比較的出血の少なくてすむ右3区域切除を行い, 摘出した右3区域を冷却臓器保存液中に浸漬して体外手術により内側および前区域を切除し, 後区域を同所性に自家移植した.本法は前・後区域間の広範囲な肝実質切離を無血下に行うので通常の中央2区域切除より出血は少なく, 無肝期はないので安全に行える術式である.本症例では術中術後の総輸血量3,600mlであった.自家移植肝の血流再開直後より動脈血中ケトン体比は危険域を脱し術翌日からは安全域に入った.肝細胞障害は術後4日目に正常化したがそれ以後も高ビリルビン血症は数日間遷延した.移植肝の胆管ドレナージの胆汁排出や胆汁中直接型ビリルビン濃度はその生着機能の確認に有用であった.術後3か月の現在, 肝機能のすべての指標は正常値を保っている.
  • 尾関 豊, 松原 長樹, 雑賀 俊夫, 鬼島 宏
    1992 年25 巻5 号 p. 1292-1295
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は70歳, 女性.右下腹部腫瘤のため当科を受診した.超音波検査で胆石と胆嚢体底部の不規則な粘膜肥厚を認め, 広範囲のIIa様隆起性病変と考えられた.横行結腸癌と胆石症およびIIa型早期胆嚢癌の疑いで, 右半結腸切除および単純胆嚢摘出術を施行した.切除標本では胆嚢底部を中心に最大径7mmまでのIIa様の顆粒状ないし小結節状隆起性病変を多数認め, 肉眼的に表層拡大型早期胆嚢癌と考えられた.胆石は混合石であった.組織学的には胆嚢全体の粘膜固有層内に無数の偽幽門腺が形成され, 軽度の杯細胞化生やPaneth細胞もみられる典型的な化生性胆嚢炎の所見であった.底部の一部では偽幽門腺が嚢胞状に拡張し, 粘膜の肥厚がみられた.
    臨床的に捉えられた化生性胆嚢炎の報告は極めてまれであるが, IIa様の軽度の隆起性病変の鑑別診断の1つとして念頭におく必要がある.
  • 小倉 修, 前田 昭三郎, 高尾 尊身, 福元 俊孝, 愛甲 孝, 島津 久明
    1992 年25 巻5 号 p. 1296-1299
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は51歳の男性で, 心窩部痛と右背部痛を訴えて来院した.Endoscopic retrograde cholangiopancreatography (以下ERCP) により術前に胆石症を合併した重複胆嚢と診断し, 手術を施行した.
    重複胆嚢はまれな疾患である.本邦では自験例を含めて48例の報告がみられ, 最近の報告ではERCPなどにより, 術前に診断される症例が多くなっている.
    自験例では片側胆嚢に胆石を合併していたが, 両側に胆石を合併している報告例が多いので, 手時には両側胆嚢摘除を行うべきである.
  • 熊沢 健一, 大石 俊典, 大東 誠司, 窪田 公一, 清水 忠夫, 芳賀 駿介, 梶原 哲郎, 菊池 友允
    1992 年25 巻5 号 p. 1300-1304
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    近年, 進行胆嚢癌に対し肝膵同時切除が行われるようになってきた.しかし, その予後はきびしく長期生存例はきわめて少ないのが現状である.そのなかでわれわれは最近肝膵同時切除兼右半結腸切除を行い5年の生存を得た症例を経験した.症例は54歳, 男性.1986年5月, 右季肋部痛出現し6月2日当科入院.肝, 十二指腸, 結腸へ直接浸潤のみられる進行胆嚢癌と診断された.6月18日拡大肝右葉切除兼膵頭十二指腸切除兼右半結腸切除を施行した.進展様式は胆道癌取扱い規約に準じるとpat-Gbfn, por, int, INFβ, si, hinf3, binf0, n (-), P0, H0でR3絶対治癒切除であった.術後大きな合併症はなく第84病日に退院.44kgであった体重は現在51kgまで回復している.CTで脂肪肝は認めるが再発徴候はなく生存中である.本症例が長期生存できたのは進行癌にも関わらず肝十二指腸靱帯への浸潤とリンパ節転移のながったことが大きな要因と考えられる.
  • 松原 充徳, 検見崎 博樹, 池田 義毅, 木内 立男, 茂木 瑞弘, 立川 勲, 北島 政樹
    1992 年25 巻5 号 p. 1305-1309
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    頻回にわたる大量吐下血を主訴として来院した51歳女性.内視鏡検査では, 十二指腸下行脚内側に巨大な易出血性腫瘤を認めた.生検の結果, 平滑筋肉腫の診断を得た.吐下血が断続的に続き, 黄疸も同時に出現し増強傾向にあったので外科的治療が必要と判断し開腹手術を施行した.下大静脈, 上腸間膜動脈を圧迫していたが, 腫瘤は遊離可能であり, 膵頭十二指腸切除術を施行した.手術後, 病理組織学的検索では, 膵管上皮から発生した腺癌と, 間質は平滑筋肉腫が混在し, 膵癌肉腫との診断を得た.腹部腫瘤触知, 吐下血, 黄疸と臨床的にも興味深い経過を示し, ごくまれな膵鉤部より発生した癌肉腫を経験した.いわゆる癌肉腫について本邦報告例の3例を含め, 若干の文献的考察を加え報告する.
  • 西森 武雄, 坂崎 庄平, 吉井 友季子, 前川 仁, 梅山 馨
    1992 年25 巻5 号 p. 1310-1314
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は72歳の男性.タール便を主訴に入院.上部消化管内視鏡検査を行ったところ, 十二指腸下行脚のVater乳頭の対側の前壁よりに, 辺縁が不整な陥凹性病変を認めた.同部位の生検で腺癌を認めたため, 膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本では, 病変は1.6×1.0cm大の辺縁不整な, 浅い陥凹性で, Vater乳頭との連続性は認められなかった.病理組織学的には, 深達度smの中分化型腺癌で脈管侵襲およびリンパ節転移はみられなかった.陥凹型早期十二指腸癌の報告はまれで, 本邦報告例としては自験例は14例目にあたるものと思われる.
  • 井関 俊彦, 國友 一史, 三好 康敬, 矢田 清吾, 松村 敏信, 高井 茂治, 古味 信彦, 佐野 壽昭
    1992 年25 巻5 号 p. 1315-1319
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    家族性大腸腺腫症 (familial polyposis coli: FPC) に十二指腸乳頭部癌の発生を認め全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術 (pyloric preserving pancreaticoduodenectomy: PPPD) により根治できた1症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例は68歳女性.3年前にFPCによる大腸多発癌のため結腸全摘出術を施行した.術後経過中に上腹部痛の訴えがあり, 上部消化管内視鏡検査を施行したところ十二指腸乳頭部に潰瘍をともなう腫瘤を認めた.病理組織診断にて腺癌の診断を得たため, PPPDによる根治手術を施行した.摘出標本の病理組織学的検索では中分化型管状腺癌であり, これにほぼ接する形で腺腫の併存も認められた.胆道癌取扱い規約 (第2版) によるP0H0d0panc0n (-) M (-), stage Iであった.FPCに十二指腸乳頭部癌の発生を認めた症例報告は本邦では自験例を含め22例と少なく, 今後検討を要すると考えられた.
  • 外川 明, 志村 賢範, 鈴木 秀, 塚本 剛, 真田 正雄, 加藤 厚, 平田 正雄, 今野 暁男
    1992 年25 巻5 号 p. 1320-1324
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は49歳男性.以前より肝硬変および脾腫を指摘され近医通院中であったが, 1987年3月左側胸部痛を訴え当院受診した.超音波検査, computed tomography検査, Gaシンチグラフィーなどにて, 脾原発悪性リンパ腫を疑い脾摘出術を行った.脾割面では充実性・弾性硬, 境界明瞭の最大7cm最小3cmの腫瘍を3個認めた.組織診断はmalignant lymphoma, diffuse large cell type (Bcell) であった.術後, CHOP療法を6クール施行し退院した.外来にて経過観察中, 2年1か月後肝細胞癌を指摘され, 経皮的エタノール注入療法を行った.脾摘後4年を経過した現在, 悪性リンパ腫は再発の徴候なく肝細胞癌は縮小している.
  • 田中 満, 宇都宮 裕文, 松谷 泰男, 中山 裕行, 胡 興柏, 横山 正, 野口 雅滋, 辻 雅衛, 向原 純雄, 上山 泰男
    1992 年25 巻5 号 p. 1325-1328
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    メッケル憩室はその多くが無症状に経過し, 一部が穿孔などの合併症により, 偶然発見される比較的まれな疾患である.穿孔の原因は, 迷入組織の存在, 異物, 腫瘍やクローン病などであるが, 異物によるメッケル憩室穿孔はまれである.今回われわれは, 魚骨によるメッケル憩室穿孔のきわめてまれな1例を経験したので, 本邦報告例4例とともに報告する.症例は4歳男児で, 長さ1.8cmの魚骨の両端が憩室壁を穿破していた.他に異常を認めず憩室切除を施行した.病理組織検査の結果, 迷入組織は認めなかった
  • 射場 敏明, 福永 哲, 杉山 和義, 福永 正氣, 木所 昭夫, 八木 義弘
    1992 年25 巻5 号 p. 1329-1333
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃亜全摘, 結腸切除術後, 第2病日に胃管排液量の増加, 麻痺性イレウス症状で発症し, 通常の治療に抵抗して比較的急激な転帰をとったメチシリン・セフェム耐性黄色ブドウ球菌 (methicillinresis. tant staphylococcus aureus;MRSA) 腸炎を経験した.本症例では下痢症状が認められず, 第4病日にはショック症状を呈し, 急速輸液, カテコールアミン類の投与を行ったが十分な反応がみられなかった.その後, 腎不全, 肝不全, DICが進行性に増悪し, 持続的血液濾過, 血漿交換をはじめとする集中治療を行ったが第10病日に死亡した.術後MRSA腸炎の治療上のポイントはいかに早期に診断し治療を開始するかということであるが, 術後早期には腹部所見から麻痺性イレウスの診断は困難である場合も多く, 胃管排液量の増加に十分注意し, 下痢症状がみられなくとも本症を考慮する必要があると考えられた.
  • 折田 泰造, 原藤 和泉, 松本 三明, 笠原 潤治, 折田 洋二郎, 中井 肇, 小林 直哉, 田中屋 宏爾
    1992 年25 巻5 号 p. 1334-1338
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は28歳男性で, 腸閉塞の症状にて入院した.Von Recklinghausen病を認めたが, 開腹術の既往はなかった.消化管造影にて, 十二指腸球部からトライツ靱帯にかけて異常な拡張像を認めた.保存的治療にて, 症状改善しないため, 原因不明のまま開腹術を施行したが, 腸閉塞の原因となる病変部は確認できなかった.手術所見臨床経過より, 慢性特発性偽性腸閉塞症の診断に至った.初回手術施行後も腸閉塞症状持続し, 約8か月後, 消化管バイパス手術を施行した.(jejuno-jejunostomy, jejuno-cecostomy, jejunostomy).術後腸閉塞症状を再発することなく, 社会復帰し日常生活も可能となった.治療法が確立されていない難治性の本疾患において外科的療法は批判的であるが, 消化管バイパス手術は有用な治療法になるのではないかと期待している.自験例を含め本邦報告例は48例を数え, 文献的考察を交えて検討した.
  • 岩崎 誠, 山際 健太郎, 中村 菊洋, 野口 孝
    1992 年25 巻5 号 p. 1339-1343
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は70歳, 男性, 肝腫瘤の精査目的で入院.ultrasonographyで肝S6, S7に高エコーの腫瘤を認め, computed tomographyで低吸収域として描出され, 血管造影にてS6, S7以外にS3にも濃染される腫瘤を認め, 転移性肝腫瘍の診断で肝動脈塞栓術を施行した.原発巣の検索にて直腸肛門鏡で肛門輪より8cm, 6時方向の直腸に中心部が陥凹する扁平な腫瘍を認め, 経肛門的に局所切除した.腫瘍は7×6mmと小さく, 割面は黄白色調で, 組織学的にSogaらの分類でE型 (混合型) の直腸カルチノイドと診断され, 壁深達度smであったが, 静脈侵襲が高度陽性であった.肝以外に転移がなく, 肝部分切除を施行し, 組織学的に直腸カルチノイドの肝転移と診断された.術後2年3か月の現在健在である.腫瘍径1cm未満, 壁深達度smの直腸カルチノイドが転移することは極めてまれであるが, 自験例は静脈侵襲が陽性で肝転移を来しており, 直腸カルチノイドの悪性度と術式の決定には腫瘍径や壁深達度のみならず, 脈管侵襲の有無が重要と思われた.
  • 福岡 岳美, 小棚木 均, 柴田 裕, 吉岡 年明, 成澤 富雄, 小山 研二
    1992 年25 巻5 号 p. 1344-1348
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    放射線腸炎に合併した大腸癌の2例を経験したので報告する.症例1は74歳女, 症例2は76歳女性で, 2症例とも放射線腸炎として観察していたが, 大腸癌と診断した時には既に高度に進行していた.これは, 癌の合併を疑ったにもかかわらず, 放射線腸炎による狭窄のために, 内視鏡検査で癌の観察と生検ができなかったことが原因であった.狭窄を伴う放射線腸炎例には, 注腸造影上の変化や血清CEA値の上昇で大腸癌の合併を疑い, 治療と診断をかねた開腹術と術中迅速組織診を積極的に行うべきと考えられた.
  • 牧角 寛郎, 高尾 尊身, 石沢 隆, 愛甲 孝, 島津 久明, 田中 啓三, 今給黎 茂, 牧角 仙烝
    1992 年25 巻5 号 p. 1349-1353
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は68歳の男性である.1974年に血便を主訴として来院し, 当院においてS状結腸癌 (高分化型腺癌) の診断のもとにS状結腸切除術を施行した.15年後の1989年7月, 左手背部の腫瘤を主訴として来院し, 径2×2cm大の腫瘤の切除を行ったところ, 腫瘤は病理組織学的に扁平上皮癌であった.さらに2か月後の1989年9月, 背部痛を主訴として来院した.Computed tomography, endoscopic retrograde pancreatogram, ultrasonographyなどによって膵癌と診断し, 膵頭十二指腸切除術を施行した.この腫瘍はいわゆる粘液産生膵癌であった.
    外科的に切除された3重複癌は極めてまれである.今回の症例の詳細に文献的考察を加えて報告した.
  • 大崎 敏弘, 安藤 幸史, 磯部 潔, 宮田 潤一, 森 俊治
    1992 年25 巻5 号 p. 1354-1357
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
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    肛門管に発生した乳頭状増殖の著明な高分化型腺癌と粘液結節の見られる粘液癌が衝突した衝突腫瘍の1例を経験した.症例は58歳男性.主訴は肛門からの粘液分泌.大腸内視鏡検査で肛門管にBorrmann1型の腫瘤を認め, 同部位の生検により高分化型腺癌の診断を得たため, 腹会陰式直腸切断術を施行した, 切除標本では, 癌腫は歯状線に接して口側にポリープとしての病巣と扁平隆起する部分を認め, 組織学的に粘液内にatypical cellが浮遊した状態の粘液癌と腺管構造を呈する高分化腺癌が衝突したものと考えられた.重複癌のうち衝突腫瘍は特異な存在であり, 特に大腸における腫突腫瘍は非常にまれなものであり, 興味ある1例なので報告する.
  • 花上 仁, 菅野 公司, 奥村 輝, 田島 知郎, 三富 利夫, 小川 暢也
    1992 年25 巻5 号 p. 1358
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
  • 固武 健二郎, 小山 靖夫
    1992 年25 巻5 号 p. 1359
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
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