症例は51歳の男性で,遺伝性出血性末梢血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia;以下,HHTと略記)のため経過観察されていた.貧血の精査のため上部消化管内視鏡検査が行われ,十二指腸に多発するポリープを指摘された.そのうち十二指腸乳頭対側の病変より生検で腺癌が検出された.また,下部消化管内視鏡検査で回盲部と下行結腸にポリープを認めた.いずれも内視鏡治療が困難であったため,十二指腸癌に対して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を,結腸ポリープ2病変に対して回盲部・下行結腸の部分切除を行った.HHTのためと考えられる肝動脈の著しい拡張を認めたが合併症なく経過した.摘出病理所見では,十二指腸・結腸ともに若年性ポリープを散在性に認め,十二指腸病変は術前生検の通り高分化腺癌であった.非常にまれな若年性ポリポーシス/遺伝性出血性末梢血管拡張症複合症候群が考えられ,膵頭十二指腸切除を施行した例は本邦では認めず,関連する文献を用いて考察し報告する.
症例は40歳の男性で,人間ドックの腹部超音波検査で胆囊内腫瘤を指摘され当院を受診した.採血では腫瘍マーカー(CEA,CA19-9,DUPAN-2)の上昇は認めなかった.腹部超音波検査では胆囊頸部に12 mm大の不整形隆起性病変を認め,造影CTでも胆囊頸部に造影効果を伴う腫瘤性病変と胆囊壁の肥厚を認めた.胆囊腫瘍と診断し,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.病理組織検査は,10 mm大のIp型ポリープで,類円形核と顆粒状・両染性の細胞質からなる均一な細胞が粘膜固有層内の細胞胞巣内で増殖していた.免疫染色検査ではCD56陽性,chromogranin A陽性,synaptophysin陽性であり神経内分泌腫瘍と診断した.Ki67 index <1.0%であり2010 WHO分類でG1であった.
症例は49歳の女性で,子宮頸癌IVB期の診断に対して術前化学療法後,開腹広汎子宮全摘および骨盤内リンパ節郭清を施行された.術後放射線化学療法を施行中に腹痛が出現し,腹部造影CTで右外腸骨動脈による絞扼性イレウスの診断となり緊急開腹手術を施行した.術中所見では骨盤内リンパ節郭清によって露出された右外腸骨動静脈,臍動脈,尿管によって形成される間隙に終末回腸が迷入/嵌頓し,絞扼されていた.嵌頓腸管は不可逆的な血流障害を来していたため,絞扼の原因となった脈管を損傷することなく小腸部分切除術を施行し吻合再建した.骨盤内リンパ節郭清時の露出脈管が原因となった絞扼性イレウスの1例を経験したので報告する.
症例は62歳の男性で,肺癌検診で右上葉肺癌(T2N2M1 stage IV,肺内転移,脳転移)と診断され,他院でCDDP+S-1療法,脳転移の放射線治療に続き,ニボルマブ治療中であった.投与の度に腹痛や黒色便を生じ,治療開始後63日目の夜に強い腹痛を生じ,救急搬送され当院救急外来を受診した.CTで腹腔内遊離ガスが認められ穿孔性腹膜炎と診断された.ニボルマブの副作用に対してステロイドによる保存的治療が有効であったが,小腸穿孔に伴う狭窄性病変から腸閉塞症状を来し,第35病日に小腸部分切除術を施行した.経過は良好で術後11日目に退院した.ニボルマブの副作用は,免疫チェックポイント阻害による過剰な免疫反応による.皮膚,消化管,肝臓,内分泌器官の順に多く,あらゆる時期に発生しうるため早期治療には細やかな経過観察が必要である.
症例は91歳の男性で,腹痛を主訴に当院紹介となり,造影CTでイレウス,腹腔内膿瘍,free airを認め,穿孔性腹膜炎として手術となった.術中所見で充実性腫瘍を伴うMeckel憩室を認め,先端は穿孔し周囲に膿瘍を形成しており,骨盤底に癒着しイレウスを来していた.手術はMeckel憩室の切除と膿瘍の洗浄ドレナージを施行した.腫瘍は病理組織学的には未分化癌であり,周囲には異所性膵組織を認め,その組織学的連続性や免疫染色検査により癌の発生母地であることが示唆された.Meckel憩室内に発生する癌腫は,本邦では15例の報告のみであり,その発生母地に関して免疫染色検査を用いて考察した症例は極めてまれである.今回,我々は病理組織学的に異所性膵組織が発生母地であることを確認したMeckel憩室癌の1切除例を経験したので,本邦報告の集計を加えて報告する.
症例は74歳の男性で,腹痛を主訴に来院した.右下腹部に圧痛および筋性防御を認め,血液検査では著明な炎症反応の上昇を認めた.腹部CTでは右下腹部の小腸に壁肥厚,周囲脂肪織濃度の上昇および膿瘍形成を認めた.小腸憩室穿孔による腹膜炎と診断し,同日緊急腹腔鏡手術を施行した.回腸末端より30 cm口側の回腸の腸間膜付着側に憩室を認め,先端が穿孔していた.憩室を含む小腸部分切除術を施行した.病理組織学的検査所見では憩室と回腸は連続した粘膜および筋層構造を認め,回腸重複腸管と診断した.穿孔を来した重複腸管のまれな1例を経験した.
症例は72歳の男性で,真性多血症にて血液内科に通院中,定期血液検査でC-reactive protein高値を示し精査を行った結果,上行結腸癌およびそれによる腸閉塞症と診断された.全身状態の安定を図ったが腸閉塞は改善せず緊急手術を施行し右半結腸切除を行った.術直後より創部および腹腔ドレーンから血性排液を認めた.血液検査所見で汎血球減少,凝固機能異常およびFDP高値を認め,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation;以下,DICと略記)の状態であった.周術期を通して頻回の輸血を必要とし,また感染症を併発しそれにたいする治療を並行し行った.集学的治療を行ったが奏効せず術後37日目に全身出血傾向,多臓器不全のため死亡した.真性多血症合併症例の手術成績は特に緊急手術例では不良であり,手術術式の選択,DIC対策などについて配慮が必要である.
症例は66歳の男性で,S状結腸癌腹壁浸潤の診断にて手術予定となったが,入院数日前より腹部膨満および左下腹部の発赤・緊満が出現し,入院時にはS状結腸腹壁浸潤部を中心に腹壁膿瘍を形成し,広範な皮下気腫を認め,さらに閉塞性イレウスを来していた.まず人工肛門造設術および切開排膿術を施行した.全身状態の改善を待って,初回手術から42日目に腹壁合併切除を伴うS状結腸切除を施行した.腹壁の欠損部は13×17 cmとなり,有茎大腿筋膜張筋皮弁を用いて腹壁を再建した.腹壁膿瘍を伴う大腸癌症例では,局所の浸潤傾向に比べて遠隔転移は比較的少ないという報告もあり,切除可能であれば必ずしも予後不良ではないと考えられる.広範な腹壁合併切除を要しても,筋皮弁による腹壁再建を行うことで切除可能となるならば,切除を行う意義は十分にあると考えられた.
上部消化管術後の縫合不全は比較的頻度の高い合併症であり,治療はドレナージと栄養管理が主だが,肉芽組織が増生して完治するには長期間を要する場合もあることが難点である.近年,over the scope clip(以下,OTSCと略記)を用いて消化管壁を全層で閉鎖することにより,外科手術後の瘻孔をより早期に閉鎖できる可能性が知られ始めた.我々は,上部消化管術後の穿孔や縫合不全に対しOTSCを用いて瘻孔閉鎖が得られた2例を経験した.症例1ではOTSC施行直後から,症例2では施行後3日で完全閉鎖が得られた.OTSCは,内視鏡で縫合不全部を閉鎖するという従来の治療法とは異なる積極的な治療であり,肉芽組織の増生を待つ時間が大きく短縮され,結果として入院期間の短縮や患者負担の軽減につながることが期待される.OTSCによる瘻孔閉鎖は術後合併症に対する治療法として新たな選択肢となりうると考えられた.
