日本農村医学会雑誌
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73 巻, 2 号
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原著
  • 三浦 崇則, 稲垣 久美子, 犬塚 斉, 藤永 一弥
    2024 年 73 巻 2 号 p. 61-70
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
    ジャーナル フリー
     医療統計は臨床で得られた結果の有意性を評価するために,その正しい理解と使用が必要である。しかしながら,当院では医療スタッフの医療統計に対する理解について,客観的評価で確認したことはない。そこで,本研究ではスタッフが医学統計を理解しているかどうかを明確にするため,客観的評価による質問調査を実施した。
     当院のスタッフ1,498名中464名(回答率31.0%)が回答した。調査表の内容は,職種,研究経験の有無,論文作成経験の有無,および医療統計を評価したり使用するうえで重要と考えられる以下の項目,すなわち,p値の解釈,t検定とMann-WhitneyのU検定を使い分ける理由(以下,検定の使い分け),Mann-WhitneyのU検定の結果の示し方(以下,結果の示し方),独立性を評価指標とする統計手法の選択(以下,統計の選択)である。
     p値の解釈,検定の使い分け,結果の示し方,および統計の選択の正解率は,それぞれ20.5%,16.2%,6.3%および15.1%であった。正解率および正解数は,研究経験「有」および論文作成経験「有」の方が,それらの経験「無」に比べて,有意に高かった。また,正解数は研究経験,論文作成経験および職種(医師・研修医および薬剤師)と関連づけられた(R2=0.430)。
     客観的評価に基づくスタッフの医療統計に対する理解度は低く,その理解度に影響する要因の一部を確認できた。今後,医療統計の理解を進めるために,臨床研究や論文作成の経験から学ぶことの重要性を示唆するものである。
研究報告
  • 古田 知香, 三好 陽子
    2024 年 73 巻 2 号 p. 71-85
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
    ジャーナル フリー
     地域包括ケア病棟は生活復帰を目指した認知症ケアに取り組むことが多く,看護職は倫理観を養い,ケアの力を高めることが求められる。本研究では,地域包括ケア病棟の看護職を対象に道徳的感受性と認知症に関する知識・態度の実態を調査し,関連要因を検討した。2県9施設の地域包括ケア病棟の看護職208名を対象に質問紙調査を行ない,97名を分析対象とした。結果について基本統計量を求めた後,Spearmanの順位相関係数,Mann-Whitney U検定,Kruskal-Wallis検定,Bonferroniの多重比較を用いて分析した。分析の結果,道徳的感受性と認知症に関する知識・態度との間には関連はみられず,実務通算経験年数と認知症看護に関する研修受講経験において弱い関連を認めた。道徳的感受性の下位尺度では,【高齢者の尊厳を守る体制づくり】と看護教育の最終学歴・認知症高齢者との共同活動経験,【その人らしい生活を支える】と年齢・実務通算経験年数,【高齢者の能力を活かす】と実務通算経験年数,【栄養摂取法の意思決定】と認知症看護に関する研修受講経験,【高齢者の尊厳を守る体制づくり】と【その人らしい生活を支える】【高齢者の能力を活かす】で弱い相関がみられ,尊厳を守る意識が高いほどその人らしい生活や能力を活かす意識が高い可能性があると明らかとなった。道徳的感受性を高めるには,認知症看護や倫理に関する研修と倫理カンファンレンスの継続的な開催,倫理的気づきを促す環境づくりの必要性が示唆された。
  • 鮫島 由紀子, 緒方 久美子, 大田 博
    2024 年 73 巻 2 号 p. 86-94
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
    ジャーナル フリー
     クリティカルケア領域における代理意思決定支援は,緊急性があることや家族が危機的状況にあることからも困難性の高い支援である。このような中,現代社会の特徴である家族の多様化は,代理意思決定支援に関わる看護師にさらなる困難感をもたらすと考える。そこで本研究では,クリティカルケア領域において熟練看護師が行なった多様な家族に対する代理意思決定支援の内容を明らかにすることを目的とした。熟練看護師9名に半構成的面接を実施し,得られたデータを質的帰納的に分析した。その結果,熟練看護師が行なった多様な家族に対する代理意思決定支援として,5つのカテゴリーが抽出された。熟練看護師は,クリティカルケア領域での時間的猶予のない中でも,【家族の満足する代理意思決定に向け基盤を作る】ことを通して,家族の関係性や価値観は多様であることを前提とし,【先入観にとらわれず家族関係を俯瞰して判断する】ことによって,【家族の特性を踏まえ代理意思決定者の役割を調整する】という個別的な支援を見出していた。対応に苦慮する事例では,【社会規範に従った家族対応を行なう】ことや,【医療チームを巻き込み困難事例を解決へ導く】力を発揮しながら支援を実践していた。
症例報告
  • 鮎澤 萌, 中村 佳子, 飯場 萌絵, 藤木 豊
    2024 年 73 巻 2 号 p. 95-100
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
    ジャーナル フリー
     妊婦の廃用症候群について妊娠悪阻に起因した報告はない。今回我々は遷延した重症妊娠悪阻で廃用症候群をきたし長期リハビリテーション(以下,リハビリ)を必要とした症例を経験したので報告する。症例は28歳1妊0産。妊娠9週に妊娠悪阻で前医入院したが症状改善なく妊娠13週に当院へ母体搬送となった。低栄養に対して中心静脈栄養を開始した。著明な下肢筋力低下を認め廃用症候群と診断しリハビリを開始した。日常生活動作(Activities Daily Living:ADL)は緩やかに向上し経口摂取量も増加したため妊娠27週に自宅退院,妊娠38週5日に2,856gの児を経腟分娩した。妊娠悪阻では活動性の低下に伴い廃用症候群をきたす可能性がある。また,低栄養状態はリハビリの帰結と負の相関がある。妊娠悪阻の治療としてのみならず,廃用症候群の予防や有効なリハビリを実施するためにも,栄養管理は重要である。
  • 寒河江 純平, 箱守 正樹, 豊田 和典, 冨滿 弘之
    2024 年 73 巻 2 号 p. 101-109
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
    ジャーナル フリー
     脊髄小脳変性症の重症度分類(以下SCD重症度分類)Ⅳ度の脊髄小脳変性症(以下SCD)に対する歩行練習の効果を検討したものは見あたらない。SCD重症度分類Ⅳ度の42歳男性に対する歩行練習の効果を検討した。理学療法開始時(以下X日)のScale for the Assessment and Rating Ataxia(以下SARA)は20点,Berg Balance Scale(以下BBS)は27点であった。歩行は運動失調により下肢が予期できない方向にステップアウトするために転倒の危険性が高く2人介助が必要であった。Functional Ambulation Categories(以下FAC)は0だった。通常の立位・バランス機能練習では改善が得られず,オージー技研製サドル付き歩行器セーフティーウォーカーGB・500(以下SW)を用いた歩行練習を中心とした理学療法に変更したところ,X+24日でSARAは15点に,BBSは35点に改善した。歩行は1人介助で可能になり,手すり使用で10m歩行速度12秒,連続歩行距離は60mとなった。FACも2に改善し,リハビリ継続目的に転院した。SCD重症度分類Ⅳ度のSCDにおいて,SWを用いた集中的な歩行練習により,歩行能力の向上が得られた。
  • 齋藤 僚太, 鈴木 哲, 熊谷 洋, 駒場 福雄, 木佐 健悟
    2024 年 73 巻 2 号 p. 110-115
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
    ジャーナル フリー
     感染性腸炎は起炎菌により罹患部位が異なっておりその特徴を踏まえる事で,起炎菌を推定する事が可能とされているが,十二指腸を主体とした感染性腸炎の報告は少ない。今回レジオネラ感染との関連が疑われた十二指腸炎の症例を経験した。
     症例は66歳,男性。入院5日前より発熱が出現,3日前より水様性の下痢を認め,その後症状改善なく当院を受診した。来院時より低酸素血症を呈し,入院時のCT検査では両肺野に非区域性のすりガラス陰影ならびに十二指腸を主体とした腸管壁肥厚を認めた。採血結果や胸部画像所見などから,レジオネラ肺炎を疑って尿中レジオネラ抗原を提出したところ陽性となり,診断に至った。その後抗菌薬治療により下痢症状や十二指腸の腸管壁肥厚の改善を認め,入院19日目に退院となった。
     レジオネラ肺炎は腹部症状が主訴となりうる事があり,十二指腸炎を認めた場合はレジオネラ肺炎を想起する事も必要であると考えた。
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