モミヂノワタカヒガラムシ(Pulvinaria horii Kuw.)の介殻はフヂツボカヒガラムシと同樣蛋白質,無機成分,蝋質物,纖維素,及木質等より構成せらる.
本報に於ては上の成分中蛋白質並に無機成分のみに就きて報告し,殘餘主成分に就きては後報せんとす.
蛋白質は所謂硬蛋白に屬し分離せるアミノ酸類並に含窒物はTyrosin, Histidin, Arginin, Glutaminsäure, Leucin, Prolin, Serin, Tryptophan及びCholinなり.
中Tyrosinの含量最も豐富なることは絹糸を想はしむる處なり.本昆虫が樹面に寄生し,卵嚢が漸次肥大するに至れば,虫體は樹面より次第に離れると同時に絹糸状の纖維を分泌し,卵嚢を保護し,依然として関節に樹面に密着する.その經過習性を見ればTyrosinの多量の存在が貢定せらるゝ所以のものと信ず.Cholin以外のアミノ酸類は何れも絹糸中に發見されし例なるも,只Tryptophanは比較的最近平塚氏, (1925), Demianowsky氏(1928)等に由りて追加せられし絹糸の成分なり.絹以外の昆虫成分に就きては,以上の如き各種アミノ酸類を分離せし記載を見ず
(9).
無機成分はフヂツボカヒガラムシと同樣主成分は無水硅酸にして,又アルミニウムの含量の比較的大なることは,何れも特異なる例と云はざるべからず.
稿を終るに當り御指導と御校閲を賜ふ恩即鈴木文助教授に謹みに感謝を捧ぐと共に,便宜と鞭韃を蒙りし工場長伊庭野薫氏,出張所長高橋清氏に厚く謝意を表す。
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