単離した菌は,主としてBergey's Manual
(25)の第7版に従って,
Protaminobacter ruberと同定された.どころが,最近出版された同書の第8版
(30)では,
Protaminobacterの項は削除されて
Pseudomonasの一員に加えられ,
Pseudomonas AM 1によく似た菌として分類されている.この種のメタノール資化性細菌は,まだ分類学的にはっきりとは定まっていない現状であり,分類が確立するまで本菌を
Protaminobacter ruber NR-1株と呼ぶことにしたい.
本菌の特徴として, (1) 凝集しやすいこと, (2) メタノール以外の炭素源,すなわち1, 2-プロパンジオール,フルクトース,アルキルアミン類などにも良好な生育を示すこと(Table III), (3) かなり多量のPHBを作ること, (4) ビタミンB
12,カロチノイドの含有量が高いこと(Table VIII)などがあげられる.本菌の利用をはかるうえで,この凝集しやすいという性質は集菌が容易になるため大きな長所となるであろう.
また,ビタミンB
12含有量の高いことも,本菌のもつきわめて望ましい性質の一つといえる.炭化水素資化性酵母の蛋白質の飼料化の研究は,わが国でも農林省畜産試験場などでかなり大規模に実験が行なわれ,いくつかの問題点を除くとおおむね良好な結果が得られている.その問題点の一つとして,酵母蛋白にはビタミンB
12がほとんど含まれていないため,そのままでは飼料効果の激減することがあげられている
(31).この点,本菌はビタミンB
12をかなり多量に生産するので,そのままで利用に供しうる利点を有している.しかしながら,ビタミンB
12の生成量は培養液1
l当り100~330μg程度(Table XI, Table XII, Fig. 4)であり,ビタミンB
12のみの工業生産を目的とするに1は,現状では無理である.ちなみに,著者らは,本菌におけるビタミンB
12の形態が,主としてメチル-B
12とアデノシル-B
12であり
(32),それらの関与する酵素反応は,それぞれB
12関与メチオニン合成酵素系
(32)とメチルマロニルCoAムターゼ系
(33)であることを見出している.
また,本菌の生産するカロチノイドは
(34),ふつうに知られているカロチノイドに比し,より長波長側に吸収をもち(クロロホルムーメタノール(1:1)での粗抽出液の主吸収位置が505nm付近),極性も非常に高いので興味深いが,その構造については現在検討中である.
PHBは,多くの細菌において貯蔵物質として作られることが知られており,それ自体特に本菌を特徴づけるものとはいい難いが,本菌のPHB生成量が,フルクトースを炭素源とした場含に,かなり高いことは注目に値する. PHB含量と菌の凝集性との間の関連性が指摘されているが
(35),その関連性に疑問を持つ報告
(36)もあり,本研究においても,メタノールを炭素源にして培養した菌はもっとも凝集しやすいにもかかわらずPHB含量が少ないという結果が得られているので, PHBと凝集性とを直接関係づけることは困難なように思われる.
本菌において比較的含有量の高いものについては上述のとおりであるが,蛋白質含量やそのアミノ酸組成をはじめ各種含有成分も他のSCP材料と比べてそれほど見劣りしないし,著者らの溶存酸素を指標とする制御培養法によると菌体量が約20倍と飛躍的に増大する
(7)ことから,応用的な目的にも十分期待がもてるといってよいであろう.
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