乾燥菊芋(春季探集)の蒸煮液及び酸糖化液につき窒素物,無機物等の榮養を補給することなく直接醗酵原料とする酒精醗酵試験を行つた.
試料:水或は試料:酸液は凡て1:5の割にて實験す.この條件にて全糖分13%内外の糖化液を得,又酸は硫酸05%液,鹽酸0.3%液を用ふ.結果を要約すれば次の如くである。
(1) 菊芋の酸糖化液は中和することなく直接醗酵に供し得る.
(2) 酸糖化の分解壓力は40lb (139~141°C)を適當とす.
(3) 加壓401b完全酸糖化液に各種の酵母を加へ醗酵せしめたるに,醗酵時間70時間で最高82.3%の醗酵歩合を得た(酒精酵母M. 1,硫酸糖化液).
(4) 加壓401b不完全酸糖化液に各種の酵母を加へ醗酵せしめたるに醗酵時間85時間で最高73.6%の醗酵歩合を得た(酒精酵母M. 1,及び酒精酵母T.1鹽酸化液).
(5) 加壓酸糖化の程度が醗酵に及ぼす影響を試驗した結果は,完全糖化を示めす最短の分解時間に於て醗酵歩合は最もよく,それより長ければ糖化成績の上では同じく100%を示しても醗酵速度,醗酵歩合は劣る.寧ろ少しく不完全のところで分解を止めた方が成績がよい.
(6) 菊芋の單なる常壓蒸煮液に種々の酵母を加へ醗酵せしめたるに,醗酵時間168時間で最高76.1%の醗酵歩合を得た.(林檎酒酵母W. No. 4).
(7) 菊芋の無酸加壓煮液を醗酵せしめたるに醗酵時間88時間で最高79.4%の醗酵歩合を得た(40 1b 30分分解).
(8) 醗酵時間は完全酸糖化液に於て最も短かく不完全酸糖化液,單なる蒸煮液となるに從つて長くなる.醗酵歩合は完全酸糖化液に於て最も良し.
(9) 使用せる18種の酵母は純イヌリンを醗酵せず.然れども醗酵歩合は常に還元糖に對する理論數を遙かに突破する.その理由として實験結果からイヌリンの蒸煮による非還元醗酵性炭水化物への轉移及び試料菊芋中の非還元醗酵性炭水化物の存在によるものと考察した.
要するに菊芋は酸糖化法による場合は少量の酸にて足り,且つ中和を行はすして直接醗酵に供し得る利點を有し又單なる蒸煮液でも相當に醗酵する事實(醗酵歩合76.1%)より考へて榮養物質の添加其他の條件を附加するならば醗酵時間の短縮醗酵歩合の向上を更に期待し得るものと信する.
終りに本研究費に援助を與へられたる日本學術振興會及び服部報公會に對し深謝し,又實驗に助力されたる雪ノ浦哲夫,菊池進兩君の勞を謝す.
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