(1)強度の耐塩性を持つ醤油酵母の菌体脂肪酸は,主として炭素数16または18の直鎖の飽和または不飽和脂肪酸(パルミチン酸,パルミトオレイン酸,ステアリン酸,オンイン酸)などより構成され,通常の非耐塩性酵母の菌体脂肪酸と比較して,特別差異はなかった.
(2)醤油諸味において発酵期に活動する
S. rouxii菌群と,発酵期から熟成期にかけて存在し,熟成に関与する
Torulopsis属菌群を比較すると,前者はリノール酸を多量に含有するが長鎖脂肪酸(24:0)を含まず,後者はリノール酸をほとんど含まないが長鎖脂肪酸(24:0)のを含むという,脂肪酸組成上の差異がみられた.従って両者の脂肪酸組成の差が,分類の一指標となり得ることが認められる.
(3)仕込初期に存在する醤油雑酵母のうち,
Pichiafarinosaと
Trichosporon behrendiiの菌体脂肪酸は,パルミトオレイン酸含量が他の醤油酵母に比較して少なく,また
Torulopsis famataは他の
Torutopsis属菌群と異なり,リノール酸と長鎖脂肪酸(24:0)をともに著量に含有する点に特長があった.
(4)分離起原を異にするが,醤油諸味に存在することも報告されている
Torulopsis属菌の脂肪酸組成は,いずれも醤油諸味起原の
Torulopsis属菌のそれと一致するパターンを示した.
醤油諸味以外の蜂蜜,濃縮ブドウ果汁などから分離された
S. rouxiiの脂肪酸組成は,
Z. gracilisを除き醤油酵母の
S. rouxiiと類似していた.
(5)菌体脂肪酸組成に対する培地食塩の影響をみると,
S. rouxiiではその影響が比較的大きく, NaCl 18%含有培地で培養した場合,パルミトオレイン酸,リノール酸の顕著な減少がみられた.しかし熟成型
Torulopsis属菌群では,食塩濃度による脂肪酸組成の大きな変動はみられず,両者の菌体脂肪酸組成は,食塩濃度に対する挙動の点でも明確な差があった.
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