(1) 團栗のアセトン・ブタノール醗酵を行ふに先立ち,醪中に含まれる單寧の毒性が醗酵に及ぼす影響を觀察する爲,玉蜀黍に局方單寧酸を添加して實験した.その結果5%玉蜀黍醪に對し,玉蜀黍の0.5%以内の單寧含量に於ては餘り影響がなかつた.單寧の含量が増加するに從ひ,醗酵状態の惡化が認められ, 1.5%以上の單寧を含有する時はその影響が頗ぶる大きくなる事が判明した.
(2) 團栗を細粉しPROCTER氏法抽出装置を利用して抽出液の種類及び濃度を變化させて單寧抽出試驗を行つた所,抽出温度50~60°で, 0.2%苛性曹達を使用した結果が良好であり,團栗粕の單寧含量は水分12.7%で0.532%あつた.
(3) 單寧含量0.532%の團栗粕を使用してアセトン・ブタノール醗酵に於ける最適條件を探究した.
(4) 蒸煮條件試験に於ては301bs, 60分間が最適であつた.
(5) pHは一般の澱粉質原料に比して幾分高くpH=6.8~7.0が最適であつた.この際中和調節劑として苛性曹達と消石灰を使用したが,この程度の單寧含有量では苛性曹達の方が好結果を示した.
(6) 菌株は試驗管培養で成績の良いもの6種を選んだが, 314號が斷然よく,最高收量を示し次に86號が單寧の毒性に幾分耐え得ることが判明した.
(7) 窒素源試驗では大豆粕が最も良く,麩及びカゼイン粕も充分利用出來る目安がついた.
(8) 醪の濃度は團栗粕として7~8%は完全醗酵を行ふ事がわかつた.但し, 10%の高い濃度でも醗酵し,相當の收量を示した.
(9) 團栗粕に對する窒素源の量はやはり大豆粕として1割が適當であつた.
(10) 以上實驗的研究の結果より油分の生産量を示せば次の通りである.
アセトン8.72~9.45%.ブタノール17.29~19.09%.エタノール3.27~3.54%.
(11) 單寧1.57%含有團栗に單寧と結合する藥品を添加して醗醗せしめそのうちカルシウム鹽添加の効果著しきことを實證した.
終に臨み本研究を行ふに當り,終始御懇切なる御指導を賜つた恩師坂口謹一郎先生並びに朝井勇宣先生に謹んで感謝の意を捧げる.又種々御教示を頂いた小島隆吉,麻生和衛兩氏に深甚の謝意を表する.尚,本研究の遂行は日清製粉株式會社會長正田貞一郎氏,同研究所長田中安治氏及び岡崎滉氏の御助力に依る所多き事を併記して感謝の意を表する.
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