(1) C
7H
12O
5を稀硫酸で加熱すると1モルの炭酸ガス,ほぼ1モルのα-オキシらく酸及び酢酸,さらに好収量のアセチルブチジルを生成する.この結果からC
7H
12O
5の構造式を前報で推定可能としたものの中から第9図中I式だけが可能であると結論した.
(2) C
7H
12O
5の香気は,それ本来の強い薬味香の他にさらにそれが容易に分解して生ずるアセチルブチリル及びα-ケトらく酸の強い香気の綜合である.
(3) 醤油加熱に際しジアセチルの他にアセチルブチリルの生成が認められ,さらに同系列のα-ジケト化合物の存在が推定される.アセチルブチリルはジアセチルと全く異る食品香料としての効果を示し,醤油,合成酒その他に対する添加適量は原液1に対し10
-6~10
-8程度である.
(4) 醤油の酸溜分を分劃しα-ケトらく酸の存在を確認し,さらにそれはC
7H
12O
5を添加した醤油を加熱するとその分解で増加することを認めた.しかし醤油中のα-ケトらく酸の成因についてはC
7H
12O
5物質の分解の他に多くの経路が考えられる.
(5) 4C~8Cのα-ジケトン類とグリオキザール類を合成し,それらの食品添加香料としての価値, 2, 4-DNPの融点,紫外吸収,赤外吸収,呈色反応等を検討した.
(6) アセチルブチリルは従来醤油成分としてケトンアルデヒド化合物と推定された多くのC
nH
2n-
2O
2或いはC
nH
2n-
4O
2なる分子式を有する物質に近似する点が多い.就中小玉が古く報告し3種の不飽和ケトンアルデヒドの構造式のいずれかであると推定した物質に多くの点で一致し,また中島等が分離しCH
3COC(CH
3)=CHCHOと推定した物質はアセチルブチリルとアセチルプロピオニルの両者に近似した点を有している.
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