(1) 主要醤油香気成分35種(合成品)に就き醤油白かび発育阻止力を検しTable 1の結果を得たが,その中で最も強いものは1-hydroxy-2-methoxy-4-ethyl-benzeneと
n-caproic acidで,何れも約0.02%で等量水稀釈醤油中の発育を阻止した.
(2) 生醤油及び火入醤油の防黴力を支配する物質はその酸性部に存在する.而して火入醤油は生醤油より著しくかび難いが,これは火入により増加するphenol物質に原因する.
(3) イオン交換樹脂で酸性部を除去してかび易くなつた火入醤油合90°, 3時間加熱すると前と同様の防黴性が生ずる.之は醤油中に加熱により防黴成分を生ずるprecursorの存在する事を示す.
(4) 醤油中の遊離酸性物質を検索しTable 3の結果を得たが,この中で香気的に重要なものはisovaleric acid,
n-caproic acid, 1-hydroxy-2-methoxy-4-ethylbenzeneの他に新しく見出された2種のphenol物質であるが,その1つは
RF値よりyanillinと思われる.
(5) 醤油火入による防黴力の増加は70~80°の加熱5~6時間, 90°ならば1時間で顕著に現われて来るが一方生醤油中のphenol含量0.014%(1-hydroxy-2-methoxy-4-ethylbenzeneとして比色定量す)は80°, 6時間の加熱で0.048%に増加した.この数値はTable 1より生醤油はかび易いが火入醤油はかび難い事をよく説明する.
(6) 醤油加熱により明らかに増加する酸性物質はacetic acid, 1-hydroxy-2-methoxy-4-ethylbenzene, 1種の不明phenol (vanillinと同一
RF値)であるから,これ等は醤油火香の重要な成分であるが,火入醤油の防黴性に関与するものは此の中の1-hydroxy-2-methoxy-4-ethylbenzeneであると考えられる.
(7) 生醤油加熱に際し揮発酸(醋酸を主体とす)と上記のphenol類が増加する事は,筆者が第10報に於て推論したように,これ等の間のphenolesterが火入に際して分解する事を証明するものである.
抄録全体を表示