1, どんぐり單寧はRh. javaniusの成長を著しく阻害するのでどんぐりそのものの蒸煮醪に直接アミロ法を適用することは出來ない.そこでRh. javanicusを甘藷醪に培養し,そのamylaseを利用してどんぐり澱粉を糖化せしめその儘酒精醗酵に導けば如何と考へたので,最初にTaka-dia-staseの糖化力に及ぼす單寧(藥局方)の影響に就て調べた處, 0.2%の單寧(藥局方)はdiastaseの糖化力を減少し始め, 0.4%で25%の糖化力を減じ, 0.6%で45%を, 1%では實に75%の糖化力を削減するのを見た.
2, どんぐり(全,中,無)の蒸煮條件を選擇する爲にTaka-diastaseによる最高糖化歩合と,蒸煮醪の粘度から推して次のものを最適條件として撰んだ.即ち,
lb m HCl 倍量
ごんぐり(全)30-60-0.03% 5
ごんぐり(中)40-60-0.03% 5
ごんぐり(無)40-60-0.05% 7
3, 甘藷の蒸煮醪にRh. javanciusを培養し,之にどんぐり(全,中,無)の各蒸煮醪を加へて其の糖化状態を調べたのに,骨藷の加工4, 5, 6, 7割に對して,どんぐり(全)は混合原料として60~70%の糖化率を示し,どんぐり(中)は70-80%,どんぐり(無)は何れも80%以上の糖化率を示した.即ち醪掛法によるどんぐりの糖化率は單寧の増大につれて減少するのである.
4, 次に各混合物の酒精醗酵試験に於てどんぐり(全)は54~64%の醗酵歩合を,どんぐり(中)は57~80%を,どんぐり(無)はいづれも80%以上の醗酵歩合を示した.此の時Controlの甘藷及び無單寧どんぐり(5%米糠加工)は84%代の醗酵歩合を示した.
5, 殼斗科種實中栃の實の酒精醗酵に就ては既に佐藤喜吉氏が報告されたが,それによるとアミロ法による栃の實の酒精醗酵試験で72%の醗酵歩合を得てゐる.斯くの如く栃の實で可能のものが何故どんぐりでは不可能であるのか,その原因は全く原料成分中の單寧の有無か,或はその含有量の多少によると云ひ得る.即ち「どんぐり」も單寧を除去することに依つて立派にアミロ法による酒精原料となり得るのである.
終りに臨み,本實驗の御指導を賜つた坂口謹一郎先生並びに朝井勇宣先生に深甚の謝意を捧ぐ.實驗に際して多大の御助力を得た今村長俊氏に厚く感謝の意を表す.尚本研究は農村工業協會並びに三井報愚會の御援助に依るもので記して厚く謝意を表する次第である.
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