(1) 麥酒(Carlsberg Unterhefe Nr. 2 Hansen),酒精(臺灣中央研究所396號),オリエンタル(Saccharomyces Carlsbergensis)及日本酒酵母(釀造試驗所No. 5)の4種の酵母を用ひ静置並に通氣に於てビタミン缺乏人工培養液中に培養し,それ等のビタミンB
6, B
1, B
2の合成能を檢し更に各酵母の化學成分に就て實驗した.
(2) 通氣人工培養液としてはReader氏3倍濃度液を,静置人工培養液としては蔗糖200g, (NH
4)
2SO
4 10g, KH
2PO
4 10g, MgSO
4・7 H
20 5g,蒸溜水lLの配合の液を用ひた.
(3) 先づ麥酒,酒精,オリエンタル及び日本酒各酵母を20代上記静置ビタミン缺乏人工培養液に累代移植培養してビタミンの存在しない状態にて得,次に20代移植培養酵母を上記各培養液に培養し供試酵母を得た.
(4) ビタミンB
6合成能に關する實驗はB
6缺乏症に罹れる白鼠に1日0.5g宛給與し,缺乏症状の治癒状態及び體重の増加を檢した結果殆んど通氣,静置培養の各酵母とも0.5g給與にて約1ケ月半の後體重平均増量70gとなりB
6缺乏症状は完全に治癒を見たが通氣培養麥酒酵母のみは體重平均増量53gで増加してゐるが缺乏症状は完全に治癒しなかつた.これは合成能力の稍劣る爲ではないかと考へる.
(5) 以上の結果より供試各酵母ともビタミンB
6合成能を有し通氣培養にても,静置培養にても又酵母の種類にてもビタミンB
6合成能力には大差無く,乾燥物1gに就て約20γ以上のB
6を合成し得ることを知つた(白鼠のB
61日必要量約10γとして).
(6) 一方動物試驗のみでなく呈色反應に就ても試驗しその存在を推測し得た.
(7) ビタミンB
1合成能に關する實驗に就ては各供試酵母をパラアミノアセトフエノンに依る比色定量法にて定量し更に鳩及び白鼠による動物試驗法にて合成能を推測した.
(8) 比色定量法の結果より供試各酵母ともB
1を合成し静置培養せるものの方が稍比較的多く合成するを認めた.乾燥物lgに就き14~25γ程度のB
1を合成し得るものである.
(9) 鳩及び白鼠を用ふる動物試驗にてB
1の存在を確めたるに5~10γ相當量給與にて症状の治癒並びに體重の急激なる増加を見た,即ち鳩試驗及び白鼻試驗にてもB
1の存在を推測し得た.
(10) ビタミンB
2合成能に關する實驗に就ては各供試酵母をルミフラビン法にて定量した結果通氣培養日本酒酵母は他の酵母よりフラビン量多く乾物100gに就て2220γでフラビン合成能は培養状熊にては大差無いが酵母の種類に依つて稍差異がある様であつた.即ちフラビン合成量は大體乾燥酵母100gに就て800~2000γ程度であつた.
(11) 化學成分に關する實驗に就ては各供試酵母を常法に依つて一般分析を行ひ各酵母間の差異を見た結果,静置並びに通氣培養に依る差異は認められないが,種類に依つて稍異る様であつた.終りに臨み御指導を賜りし鈴木梅太郎先生,御援助を戴きたる明糖研究所長稻見忠氏,清水正雄氏並びに御助言を與へられたる理研櫻井芳人氏に感謝し,又本稿發表の自由を許されたる相馬社長に敬意を表す(本報告の大要は昭和16年10月25日東京支部講演會に於て講演した).
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