私達は普段,様々なシステムを利用しながら業務を行っています。これらシステムは単体で動作するものも多いですが,システム間で連携するものや,データの再利用を前提としたものも一般的になってきました。
学術情報の業界を考えてみると,論文を始めとする様々な知識・情報を効率よく,それも世界中に流通させることが大きな課題の一つです。昔から多くの取り組みが行われており,例えば図書館ではカード目録を整備したり,図書館間の協力関係を強化したりしてきました。とくに最近では,先述の背景もありwebベースのシステムを用いた取り組みが加速しています。
効率よく情報を流通させるためには,標準的な技術の利用が欠かせません。開発者が別々の仕様でシステムを構築し,運用者がバラバラのルールでデータを整備している状況での不利益を想像してみてください。例えば図書館員の立場では,コピーカタロギングのようなデータの再利用には個々のサービスのデータ構造を理解する必要があります。webサービス提供側の立場では,データの再利用を促すための緻密なドキュメント整備が必要です。開発者の立場では,要件をゼロから考える必要があるため開発効率が上がらず,開発したものが顧客の要求とどれほど合致するかは開発が進まないと確定しません。
本特集では,現在一般的に使用されている,もしくは利用が見込まれる,学術情報流通システムの標準化技術を主に紹介しています。まずは吉本龍司氏に本特集の総論として,標準化技術をどのように捉えているかシステム開発者の目線でご執筆いただくとともに,webの一般的な技術を広く紹介していただきました。そのうえで具体的なシステムを個別に見ていく構成としております。
主に図書館情報システムで用いられる標準化技術については大向一輝氏,飯野勝則氏,片岡真氏,塩崎亮氏,村上遥氏にご執筆頂きました。耳馴染みのある技術も多いですが,海外の状況や学術情報流に親和性の高い一般的な技術も合わせて広くご紹介頂いております。
機関リポジトリシステムで用いられる標準化技術については林正治氏にご執筆頂きました。ユースケースを交えて非常にイメージしやすくご紹介頂いております。また,機関リポジトリへデータ登録する際の“SWORD”の日本語解説は,他誌やインターネット上でもあまり無く,大変参考になります。
デジタルアーカイブ関連では,近年話題のIIIFだけでなく,UnicodeやTEIについて永崎研宣氏にご執筆いただきました。また,時実象一氏には論文出版システムの標準化技術としてJATSを中心にご紹介頂いております。これらの2記事は標準化技術の紹介はもちろんですが,国際的な標準化技術の改善に貢献したり,日本独自の要件を追加したりすることの重要性も,経験を交えてご執筆頂けております。
学術情報流通システムは,様々な技術の連携によって構成されています。単体のシステムに留まらないこの複雑さは,学術情報流通システム全体への理解を妨げる要因であり,一方で多くの理想を実現するための興味深い技術でもあります。本特集が,学術情報流通を支えるシステムへの理解を深め,仕様を策定する際の参考資料としてや,4月からシステムを担当される方の入門書としてご活用いただけますと幸いです。
(会誌編集担当委員:今満亨崇(主査),光森奈美子,中川紗央里,野村紀匡,李東真)
学術情報や図書館を取り巻く情報環境は,もはやインターネットとの接続が前提となり,組織内や図書館内に存在する情報のみならず,世界中の情報を扱うことが当然となった。学術情報流通システムにおいては,各組織が保有する情報資源を相互に共有する必要があるため,効率化の観点からも技術の標準化は欠かせない。本稿では,図書館の蔵書検索サイト「カーリル」を開発する筆者の経験から,ウェブサービスを中心として情報システムを開発する際に,標準化された技術を取り入れることのメリットとデメリット(注意するべき点)を整理する。また,いくつかの標準化技術を紹介しながら,インフォプロにとっての標準化を提案する。
学術情報流通はその性質上,複数の機関による連携を必要とするため,これを支える情報システムは,相互運用性を高めるべく策定された技術標準を参照して開発されている。また学術情報流通に関する業務は多岐に渡ることから,包括的な単一の標準ではなく,役割や機能に応じて関連するコミュニティが主導する形でさまざまな標準が作られてきた。本稿では,図書館の業務・サービスに関連する技術標準を,書誌情報,相互貸借と貸出管理,検索とデータ連携,利用統計とユーザ認証に分類して概説する。
機関リポジトリとは「機関の構成員が作成した学術資料についてのオープンなウェブベースのアーカイブ」である。情報システムとしてみると,ウェブサーバとデータベースから構成される所謂ウェブアプリケーションであるが,そこには機関リポジトリならではの技術が存在する。本稿では,機関リポジトリに関係する標準化された技術について,メタデータ流通,アイテム登録,ユーザ認証という視点から説明する。また,その技術が登場した背景,特徴,課題について解説する。
デジタルアーカイブシステムにおける標準化技術には様々なものがある。技術に対応する規格も存在し,それぞれに標準化団体が活動を継続している。本稿では,Unicode,IIIF,TEIを採り上げてそれらの特徴を概観した。国際標準はただ従うのみでなく,自らの固有性が消されてしまうことがないような検証が必要であり,場合によっては国際標準の側を修正すべきこともある。デジタルアーカイブの取り組みの全体の中では,国際標準化活動にそのような観点から積極的に関与することも重要である。
JATSは学術記事のデータを要素化・構造化するためのXMLである。JATSの歴史,現状,多言語化の支援など,日本のグループの貢献と学術情報XML推進協議会(XSPA)の活動について紹介し,JATSの可能性,利用の方法などについて解説した。
企業の調査部門は,事業部門から依頼を受け,情報を収集することがある。そして収集した情報を整理し,可視化して依頼者へ提供する。そこで,依頼者(事業部門)が新しい事業を探索すると仮定し,そのための事前調査として,調査部門が新事業の未来を予想し,事業化における課題を可視化する手法を模索した。
研究データ管理(RDM)は,オープンサイエンスにおける研究データ共有や公開を支える重要なプロセスとして位置づけられる。機関リポジトリ推進委員会,及びその後継となるオープンアクセスリポジトリ推進協会は,国内でRDMを推進するための方策として,2015年から研究支援者向けのRDM教材開発に取り組んできた。本稿では,開発した2つの教材「RDMトレーニングツール」及び「研究データ管理サービスの設計と実践」の開発経緯について紹介する。また,開発した教材の活用事例として,国立情報学研究所と共同で作成した動画教材についても触れる。