本誌では,昨年「特許情報と人工知能(AI)」(Vol.67 No7)という特集を発行し,システム開発者やユーザの視点から,特許情報と人工知能の関係について,それぞれ論じていただきましたが,その後の1年間で,各社より人工知能を使用した新サービス(システム)が発表されたことも追い風となって,特許情報の分析に人工知能を利用するユーザが増加しているようです。また,以前は漠然としていた「人工知能をどのように利用するのか?」ということについても,情報担当者(サーチャー・アナリスト)の要求に適合する文献を抽出するため,あるいは技術者や開発者が不要な(ノイズ)情報をフィルタリングするために導入する,など,利用者の層や利用目的も明確になってきた状況です。
一方で,人工知能を搭載したツールやサービスを利用することによって,業務が改善される可能性があることは理解していても,自社の特許情報活動へ応用する場面がイメージできない,あるいは,現在行っている特許情報の管理方法との結果の差や費用対効果が分かりにくいということもあり,導入することを迷っている方も多いと思います。
そこで,今号では前回に引き続き「特許情報と人工知能(AI)-Ⅱ」というテーマで,人工知能という技術を特許情報に利用することについて,前回とは別の観点から考察する特集を企画しました。
はじめに,野崎篤志氏の総論人工知能と特許情報業務の関わりやツールを使用する際の心得などを,パテントアナリストの視点から論じていただきました。つづく,那須川哲哉氏にはテキストアナリティクスの概要や動向,特許情報分析にテキストアナリティクスを用いることについて論じていただき,野守耕爾氏には複数の人工知能技術を組み合わせた特許情報分析から導く技術戦略の検討を,具体的な事例で論じていただきました。
富永泰規氏と久々宇篤志氏には特許文献への分類付与における付与根拠箇所推定に関して,特許庁の最新の取り組み状況を,坂元徹氏には市販ツールを使用した分析の手順と結果の考察を,田畑文也氏には海外の特許情報と人工知能という観点から,中国の政策や特許出願などについて,それぞれ解説をいただきました。
今回の特集も,「人工知能」というツールを理解し,特許情報へ人工知能を適用することの可能性を考えるきっかけとなっていただければ幸いです。
(パテントドキュメンテーション委員会)
新聞・雑誌やニュース等で人工知能というキーワードをほぼ毎日見かけるようになってから久しい。2015年以降各種ベンダーからリリースされたAI搭載型特許調査・分析ツールの限界を知る上でも,AIの基礎知識について知ることは重要である。本稿では本特集号の各論を理解するための基礎として,AI・ディープラーニングの概要と各種統計データから見る第3次AIブームの振り返り,最近のAI搭載型特許調査・分析ツールのまとめと最近リリースされたツールの概要紹介,そして個別の特許情報業務におけるAIツールの今後の進化と利用・活用方法やAIツールとの付き合い方について述べた。
個々のテキストに目を通しただけでは得られない有用な知見を大量のテキストデータから獲得するためのテキストアナリティクスの技術について,概要と仕組みと動向を紹介した上で,その要素技術である自然言語処理における深層学習の影響について考察する。さらに,特許情報分析に対するこれらの技術の影響と方向性を考察する。
テキストマイニングにPLSA(確率的潜在意味解析)とベイジアンネットワークという2つの人工知能技術を応用した新たなテキスト分析技術とそれを特許文書データに適用した分析事例を紹介する。風や空気に関連する約3万件の特許公報の要約文を対象とし,PLSAの実行でその要約内容を数十個のトピックに集約して全体像をシンプルに理解可能にした。またそのトピックを軸に,技術のトレンドを把握したり,各出願人のポジショニングを可視化することで提携戦略や競争戦略の検討について考察した。さらにベイジアンネットワークにより用途と技術のトピック間の確率的因果関係をモデル化することで,企業が保有する技術の新たな用途展開の着想を検討した。
特許庁では,人工知能(AI)技術の活用に向けた検討を進めており,その一つのテーマとして,特許文献への分類付与が挙げられている。特許文献への特許分類(Fターム)付与においては,特許文献の一部の記載を根拠として分類が付与されることがあり,分類付与の根拠となる箇所を機械的に推定することにより,付与精度の向上,及び,付与支援システムへの活用に有効である可能性がある。そこで,各種の機械学習モデルを用い,特許文献に付与すべき特許分類(Fターム)や,その分類に対する明細書中の付与根拠箇所(段落)を機械推定し,その精度を比較評価した。
知的財産を取り巻く環境は劇的に変化しており,膨大な特許情報をグローバル視点で迅速かつ的確に概要・要点を分析することが求められている。このような状況の下,多くのAI技術を活用した特許調査・解析ツールが開発されており,「Xlpat」もその1つである。本稿では「Xlpat」の基本的機能や使用例について簡単に報告する。
AI(人工知能)について,日本では新聞などのメディアで毎日目にしないことはないぐらいホットな話題であり,すでに実生活においても至る所で使われている。これに対して中国はどうかと言うと,“日本より,すでにより広く,より深く使われている”のが,実感である。これらの中国のAI動向を調べる上では,単に正攻法的に分析するだけでなく,政策,規制,ビジネスの進め方など,中国独特の情況を理解して解析しないと,正しく情況を捉えることができない場合もある。本稿では,中国AI動向を例に,中国情報をより正確に理解する上での注意点を紹介する。
昨今,産業分野を問わず多くのM & Aが活用されており,知財デューディリジェンス(DD)の重要性が高まっている。そこで我々は,知財DD実務対応力を向上させることを目的に,過去のM&A事例を用いて,調査分析実務のケーススタディに取り組んだ。調査分析のシナリオとして,①M&Aや出資の必要性②T社への出資による課題解決の可能性③他候補に対するT社への出資の優先度の3つの論点を押さえて事業部長への回答を作成する方針とし,分析結果から第三者特許権クリアランスや主要発明者の活躍状況等を留意点として指摘した。最後に,ケーススタディに取り組んだ経験から,効率的に知財DD業務を進めるためのポイントを整理した。
教科書LODは,国立教育政策研究所教育図書館や教科書研究センター附属教科書図書館が長年かけて組織化してきた書誌情報をまとめてLOD化したものである。1992年施行の学習指導要領以降の検定教科書を対象として,書誌事項と教科等の関連情報をLOD化し,2018年3月現在,7,257タイトルの教科書情報,RDFデータとして157,297トリプルを公開している。本稿では教科書LODの開発および公開を通して得た知見を紹介する。
欧州特許庁(EPO)ウィーン支局が毎年開催している,アジア特許情報についてのフォーラムである,「East Meets West」に参加した。この会議は,アジア圏の特許情報の流通と利用を目的としており,情報の発信源となる各国特許庁の関係者や,データ提供事業者,サーチャーなど,世界中から特許情報のユーザが集まってくる。近年は日本・中国・韓国だけでなく,インドや中東圏の特許情報を有効活用したいというニーズが広がってきているため,それらの地域の特許情報について紹介するプレゼンテーションも行われるなど,より広範囲の特許情報の発信と収集が行われるイベントとなっている。本稿では今年のEast Meets Westへ参加した内容,及び,前日にオーストリア特許庁へ訪問した時の内容を報告する。
In the first half of this report, the summary of the PIUG 2018 Annual Conference was described by an ordinal participant who performed one presentation in the session of the second-day primary conference. In the second half of this report, the details of IPI-Award 2018 ceremony was described by an IPI-Award 2018 recipient himself while using many photos that were kindly given from the secretariat of IPI-Award Institute.