研究評価は,過去には研究者個人の研究業績や研究プロジェクトをピア(同分野の専門家)が科学的知識の妥当性から評価することが中心であった。しかし,研究活動自体が多様化するとともに,機関や組織による研究マネジメントの重要性が増し,研究成果による社会・経済的効果も期待されるようになる中で,研究評価の対象は拡大し,評価指標は多様化している。本稿では,研究評価の現状を概観することを目的に,研究評価の種類,大学等の機関の研究評価が導入された政策的背景,研究評価の方法の考え方,指標の多様性の必要性,インパクト評価の導入と課題,研究マネジメントへの活用について説明する。
本稿では,公的研究資金の選択的配分の前提としておこなわれる研究評価事業によってもたらされる意図せざる結果について検討する。英国の研究評価事業を事例として取り上げ,同事業が研究活動テーマや方法論の均質化に結びついていく可能性について見ていく。焦点をあてて検討するのは,商学・経営学の領域における論文化の傾向である。この領域では,研究評価事業に際して提出される研究成果においてジャーナル論文の占める比率が急速に増加していった。これは,同領域が偏狭な業績主義によって席捲され,「ジャーナル駆動型リサーチ」が優勢になってしまう可能性を示唆するものである。
大学等研究機関の研究力分析・評価には,抄録・引用文献データベース,研究力分析・評価ツール,研究者プロファイリングツールという,大きく分けて3つにカテゴライズされるサービスが利用されている。これら3つのカテゴリに属する各種サービスについての比較紹介を行い,3者の関係性について説明する。また研究力分析・評価を行うにあたっての実質的な課題や可能性,今後必要な機能などについて考える。最後に,研究力分析・評価結果を活用し研究力強化を進めるための,機関内での情報の整備や研究力強化施策への展開について論じる。
研究開発や資金獲得における世界的な競争激化を背景に,国,研究機関,研究者個人等さまざまなレベルで,研究成果の定量的な評価が行われている。そのためにインパクトファクター,h-index,分野標準化した指標など多様なビブリオメトリックス指標が開発され,世界中で広く利用されている。一方,ICTの著しい発展により情報流通形態が大きく変化し,論文のダウンロード数やソーシャルメディアでの取り上げられ方等によって研究の影響度を指標化するオルトメトリックスへの注目と期待が高まっている。本稿では,いくつかのビブリオメトリックス指標と利用時の注意点を紹介した後,オルトメトリックスとその問題点について考察する。
横浜国立大学は理工系,人文社会系,教育系及びその融合型の学部・大学院で構成される医学系部局を持たない中規模総合大学(学生数約1万人,教員数約600人)である。URAが設置されて以来,研究IRへの取り組みも活発に行われ,引用文献データベースを用いた大学の強み・特徴の分析が行われてきた。一方,横浜国立大学の研究活動には,引用文献データベースでは見えづらい分野も多々含まれているため,そういった分野も含めた分析を可能とする視点が求められていた。本稿では,この課題への取り組みとして,広い研究分野を網羅し,他機関の動向も知ることができる科研費の採択状況に着目した分析事例を紹介し,その有効性と限界を論じる。
大学等の研究力を強化するためには,研究者の能力の強化や育成に加えて,研究施設や設備の拡充と研究支援体制の強化,十分な研究資金の獲得,さらには産業界との共同研究を通じた技術移転など,研究体制や研究環境の整備,および研究マネジメントの改革が不可欠である。本論文では,電気通信大学の経営理念や基本方針等に基づき,大学のミッションを果たすために取り組んでいる“研究力評価システム”の構築について報告する。まず,研究システムをモデル化し,研究力は将来への期待値である“研究遂行力”と,過去の実績である“研究成果”の相乗効果で表現されることを提案した。それぞれの構成要素を可能な限り定量的に評価することで,組織全体の研究力を明確化することが可能となる。
商品開発ではニーズの把握が非常に重要である。そのため,将来のニーズ(例えば次のブーム)を予測する手法が今後益々必要とされる。そこで,本研究では,次世代商品ニーズの予測手法を確立することを目的とした。題材には身近な商品であるシャンプーを選択し,次に来るシャンプーブームを予測した。今回,各年代に発生したブームについて,出願件数の経年変化の数値に対して統計処理を行なう手法を試みた。その結果,いずれのブームにもブーム発生以前に前兆となるシグナルが確認された。この手法を用いて,種々の手法により抽出したニーズ候補を評価し,次世代商品ニーズ群の選定を試みた。
全米デジタル新聞プログラム(National Digital Newspaper Program: NDNP)は米国議会図書館(Library of Congress: LC)と全米人文科学基金(National Endowment for the Humanities: NEH)との共同プロジェクトで,1836から1922年までに発行された米国の新聞1070万ページをデジタル化し,Chronicling Americaという検索サイトから提供している。全米40州と自治区が参加している。NDNPの仕組み,記述,Chronicling Americaの検索例,活用例について述べた。またオーストラリア国立図書館が構築したAutralian Newspapers Onineについても述べた。
本稿の目的は,図書館のレファレンス調査における発想の技法に焦点を当て,その本質について考察することである。その手掛かりとして,G. ポリアによる,数学の問題を解く際に有用な発想のリストを利用した。これによって以下の2点が明らかになった。第一に,ポリアのリストがレファレンスの問題を考える上でも有効であること。第二に,レファレンス調査の技法はポリアのリストに還元可能であり,その調査技法の核は<類似性>と<変形>という発想の技法に帰着することである。最後に,ポリアのリストによって図書館レファレンスのみならず,広くインフォプロの調査技法の全体を包括的に理解できる可能性があることを示唆した。