情報の科学と技術
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74 巻, 1 号
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特集:イノベーション創出における人材育成
  • 尾城 友視
    2024 年 74 巻 1 号 p. 1
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル フリー

    近年,日本のイノベーション創出の落ち込みが指摘されている。一方で,大学における研究者の研究時間の確保や学術論文数の減少,博士人材の不足といった課題も表面化して久しい。

    20世紀にシュンペーターが提唱したイノベーション理論は,新たな価値を社会にもたらすものであるとよく説明される。しかしながら,その言葉の範疇を正しく理解することは容易ではなく,ましてやそれを一様に測ることにも様々な障壁がある。だが,それを成しえるのは「人」であり,その大きな源泉を,博士人材やその育成の場である大学院に見出すことは,イノベーションの創出を考える上での一つの方法であるだろう。

    本特集では,イノベーションを生み出す人材として博士人材に注目し,そのキャリアパスや育成環境について考えることを目指した。同時に,博士人材を育成・輩出する場である大学において,従来とは異なる形で研究や教育を支援する人材についても見渡すことを試みた。

    まず,鈴木潤氏(政策研究大学院大学)には,日本のイノベーション・システムが停滞している現状を豊富なデータと共に解説いただき,その背景にある社会構造や大学における研究環境の変化を活写いただいた。続いて長根(齋藤)裕美氏(千葉大学)には,博士人材育成機関としての日本の大学院に焦点を絞り,制度的な問題点を指摘するにとどまらず,博士人材の活用の可能性を示していただいた。これに加えて,川村真理氏(科学技術・学術政策研究所)には,博士人材追跡調査等の結果を通して,博士人材のキャリア形成の問題を掘り下げ,分野に応じた支援の必要性を提示していただいた。以上三つの論考により,日本のイノベーション・システムと大学院や博士人材についての理解を深めることができる。

    さらに,伊藤健雄氏(京都大学)には,大学における比較的新たな職種であるURA(リサーチ・アドミニストレーター)が,それぞれ独自の専門知識や経験を活かして大学経営や研究推進に携わることで,イノベーション創出に寄与することを事例と共に解説していただいた。また,木村弘志氏(一橋大学/東京大学)には,大学経営人材の育成という視座から,事務職員出身者と教育職員出身者の具体的な業務や必要とされる能力・資質を整理し,その課題や可能性を示していただいた。これら二つの論考は,大学における支援業務の最新の様相を理解する手助けになるだろう。

    本特集では,イノベーションの創出という大きな課題のごく一部しか照射できていないかもしれないが,博士人材をめぐる現状についての理解を深めること,その支援者の在り方について視野を広げることで,読者が自らの展望を描く一つのよすがになれば幸いである。最後に,特集の意図を最大限に汲みつつも,新たな視点を与えてくださった執筆者の皆さまに,深く御礼申し上げます。

    (会誌編集担当委員:尾城友視(主査),青野正太,池田貴儀,水野澄子)

  • 鈴木 潤
    2024 年 74 巻 1 号 p. 2-7
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
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    失われた30年の間に,日本のイノベーション・システムは徐々に劣化し,主要国の中で日本のみがイノベーションと経済発展の面でも,また研究開発の面でも停滞を続けている。日本の企業はいまだに莫大な額の研究開発投資を続けているが,それが売上や利益,雇用,賃金などに結びついていない。日本のアカデミアにおける研究開発については,研究者の高齢化や博士号取得者の減少,社会人学生の増加,研究資金配分の偏りなどが,論文生産にネガティブな影響を与えている可能性がある。また,競争的資金や外部資金の増加は,研究テーマの応用研究志向や短期成果志向,大企業による大学の研究成果の囲い込みなどの問題を生じさせている可能性がある。

  • 長根(齋藤) 裕美
    2024 年 74 巻 1 号 p. 8-14
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では日本の大学院,特に博士課程に焦点をあて,博士人材育成機関としての日本の大学院の現状と問題点を考察したうえで,今後の展望について論じる。日本では大学院を拡充して博士号取得者は増やしたものの,その雇用先のバラエティが確保できず,博士人材の就職難をもたらしてきた。しかし,現状では研究の現場に院生が不足しているとも言う。本稿では博士課程入学者数や博士号取得の現状をデータに基づき整理しながら,博士人材市場の不均衡をもたらした制度的背景,企業で博士人材の活用が進まない理由,米国などを例にした博士人材のキャリアパスの可能性,また人文・社会科学分野の博士人材の重要性についても論じる。

  • 川村 真理
    2024 年 74 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では,近年のOECDレポートや博士人材追跡調査等の結果を踏まえ,現在日本の博士人材がキャリア形成においてどのような問題を抱えているのか,また今後どのような支援が必要であるかについて考察した。主要国では2000年以降,博士号取得者の増加を背景にアカデミアにおける有期雇用が増加し,低賃金の有期雇用職を繰り返すResearch Precariatの問題が顕在化している。日本では博士号輩出数自体は減少傾向にあるが,人文系等一部の分野で同様の傾向が見られている。博士人材追跡調査の結果からは,博士人材のキャリアパスは研究分野による違いが大きいことが明らかになっており,今後は分野ごとの特性や課題に合わせた支援やプログラムが必要となるものと思われる。

  • 伊藤 健雄
    2024 年 74 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル オープンアクセス

    日本にリサーチ・アドミニストレーター(University Research Administrator: URA)と呼ばれる新しい高度専門人材が大学等の研究機関に配置されて以来,彼らは組織の経営企画支援や研究者の研究推進支援,産学連携のコーディネーション等の役割を担ってきた。最近では,URAは研究者としての学術的専門知識や特殊な経験やスキルを活かして,学術領域(知)の融合や研究環境の高度化から次世代人材育成等まで対応し,エビデンスや理論に基づく施策の提言や検証ができる人材として進化しており,複雑な社会課題解決やイノベーションの創出におけるキーパーソンとして期待されている。

  • 木村 弘志
    2024 年 74 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では,特に研究支援の分野において,大学経営人材が担うことが期待されている業務と,そのキャリア・育成について考察した。大学経営人材が担う研究支援業務の範囲は,URAの中核業務以外にもわたり,より幅広くなっている。そのような業務を遂行するうえでは,「多様な専門性が必要となる業務を遂行する能力」「研究そのものや,研究に関連する諸活動の理解」が必要となる。そして,そのような能力を身につけるためのキャリア・育成について,事務職員出身者と教育職員出身者という出自の異なる2つのルートに分けて考察し,それぞれがキャリア内で身につけうる能力と,各種教育プログラムで補うべき能力について論じた。

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