2021年2月号は「環境問題と情報」と題してお届けします。
「環境問題」という言葉には,地球環境の汚染や悪化にまつわる様々な問題が含まれています。おそらく読者の皆様も,それぞれに思い起こすものが異なるのではないでしょうか。大気汚染,オゾン層の破壊,地球温暖化はずいぶん前から問題視されてきました。近年はプラスチックごみの問題,とりわけ海洋プラスチックに対する関心が高まり,多数の図書が発行されています。こうした環境問題への対応は,国や地方自治体,企業といった組織体だけでなく,私たち一人一人にも行動が求められます。
地球環境を保全し,持続可能な社会を構築していくためには,過去や現在の状況を知り,未来のリスクを予想し,何よりも行動することが必要です。そのために活用できる情報・データは,国内外の様々な組織において,収集や作成,公開されています。今回の特集では,特定の問題にはフォーカスせず,「環境問題」と呼ばれる問題を幅広く取り上げました。各種の問題に関してどのような情報やデータがあるのか,そうした情報やデータはどのように作られており,どのような課題を抱えているのかを知ることで,公開されている様々な情報・データの利活用が広がるものと考えます。
毎年のように起こる極端な気象現象を目の当たりにして,多くの方が気候変動について関心をお持ちだと思います。国立環境研究所 真砂佳史氏,服部拓也氏に,気候変動適応を進めるための情報基盤である「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」をご紹介いただきました。生物多様性は環境の変化を受けると同時に,環境の変化を知る手がかりとなります。こうした生物多様性に関する情報として,国立科学博物館 細矢剛氏に「地球規模生物多様性情報機構(GBIF)」をご紹介いただきました。ごみのリサイクルは私たちの日常生活の中にあり,身近な問題の一つです。ごみのリサイクル率の把握方法と今後の課題・展望に関して,国立環境研究所 河井紘輔氏にご執筆いただきました。持続可能な社会を構築していくため,環境保全に関する技術開発も進んでいます。九州大学 藤井秀道氏には,特許情報を活用した環境保全技術の評価についてご執筆いただきました。
遠いように感じる問題も,すべて私たちの生活に繋がっています。様々な「環境問題」に対して情報の視点から構成したこの特集が,読者の皆様の環境問題に対する理解を深め,より主体的に関わっていく契機となることを期待しています。
(会誌編集担当委員:光森奈美子(主査),大橋拓真,池田貴儀,中川紗央里)
近年気候変動による影響が顕在化しており,その影響を低減あるいは活用する気候変動適応が求められている。日本では2018年に気候変動適応法が施行され,国,地方公共団体,事業者,国民等の適応主体の役割が明確化された。国立環境研究所は気候変動適応に関する情報提供や技術的支援が求められており,同年策定された国の気候変動適応計画をもとに情報基盤として気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)を運営している。本稿では,気候変動適応に関する国内の動向について解説し,国立環境研究所がA-PLAT等を通じどのように適応主体に対する情報提供や技術的支援を行っているかを紹介する。
どのような生物が,いつ,どこに存在したかを記述したオカレンスデータは,生物多様性情報の基盤である。オカレンスデータは,集積し,時間軸や空間軸に沿って解析されることによって大きな意味をもつ。オカレンスデータは,ダーウィンコアによって標準化されている。GBIF(地球規模生物多様性情報機構)は,世界スケールで標準化された生物多様性情報を集積・提供しており,その活動には日本も大きく貢献している。集積されたデータによって,気候変動,健康や経済に関する予想,保全生態学的知見などが得られる。データの追跡はDOIの利用によって可能となり,DOIは種概念の整理にも役立っている。
一般廃棄物のリサイクル率は2007年度以降停滞し,環境省が設定した目標を達成できていない。全国の市区町村及び一部事務組合を対象に毎年実施されている一般廃棄物処理実態調査について解説した後に,日本では中間処理後リサイクル量,EUでは中間処理仕向量がリサイクル量と定義されていることを述べた。日本がEU加盟国に比べてリサイクル率が低く,焼却処理の割合が高いことがリサイクル率の増加を妨げていること,日本とEUにおけるリサイクル量の定義は一長一短があり,それぞれの長所短所を理解した上で,リサイクル活動を適切に評価すべきことを主張した。
本論文では,近年の環境保全技術に関する学術的研究動向を踏まえながら,環境保全技術の開発を評価する際に特許情報がどのように活用されているかを紹介する。特に,経済協力開発機構において用いられている環境保全技術の評価方法について取り上げるとともに,環境保全技術の開発と普及のそれぞれの段階について代表的な論文に加えて最新の研究を紹介することで,特許情報の有用性を説明する。最後に,読者が自ら手を動かして学ぶ際に有用な事例研究について,データや計算過程を詳細に記載しながら解説するとともに,得られた分析結果からどのような情報を得ることが出来るかについて紹介する。
本研究は自転車部品業界で世界トップ企業のS社を選び,その知的財産戦略を明らかにすることを目的にした。S社は自転車部品業界で世界的に圧倒的なシェアを持つことと,自転車部品の組み合わせであるコンポーネントは独自のものを提供しながら,その外部インターフェースは公開されていることから「自転車界のインテル」と言われている。しかし調査するとビジネスモデルも知財戦略もインテル社とは異なる。また,自転車業界がEバイクに急速に移行する中,S社は後発でありながら,Eバイクのコンポーネントでも一定のシェアを確保している。そこでS社の自転車部品におけるトップシェア獲得と,Eバイク市場への参入における知財戦略の研究を行った。
リサーチ・アドミニストレーター(URA)による研究力分析の効率化・高度化を進めるには,実務担当者間の連携が不可欠である。近年,データ分析の現場では,プログラミング技術を用いた分析手法が,広く利用されるようになってきた。分析作業の効率化と高度化を目的に,Code for Research Administration (C4RA)が発足した。本稿では,論文書誌情報や科研費を用いた研究力分析において,PythonやR等により作業の効率化を図った事例を紹介する。最後に,C4RAの今後の活動の方向性及びURAの普及定着への貢献の可能性を探る。