明治期から現在まで,日々発行され情報を発信し続けている新聞は,身近な情報源として多くの購読者をかかえてきました。近年ではインターネットの普及とデジタル機器の発展の影響を大きく受け,読者,特に若年層の減少が多く指摘されています。新聞の情報は,速報性やアクセスのしやすさ・信頼性において,いまどのような位置づけにあるのでしょうか。新聞が今,デジタル情報の発展にどのように対応し,どのようにその情報は人々に届けられているのか,そしてそれらはどのように活きているのか,概観する特集を企画しました。
日本大学の石川徳幸氏には,各種メディアが普及しその重要性が高まっていく中で変化した国内の新聞の状況について総括していただきました。続いて,数多くある地方紙の現状や電子化への対応・課題について,武蔵大学の松本恭幸氏に報告していただきました。また,電子化された新聞として,個人向け契約の電子版と図書館等で機関契約する新聞記事データベースについて,それぞれ日本経済新聞社の江村亮一氏,読売新聞東京本社の徳毛貴文氏に解説していただきました。こうして提供される新聞の情報を活用している2つの事例として,図書館における専門紙の提供について図書館総合研究所の吉井潤氏に,神戸大学附属図書館デジタル版新聞記事文庫をその活用の傾向も含めて,神戸大学の末田真樹子氏・花﨑佳代子氏にご報告を頂きました。
新聞の情報がさらに活用されるきっかけとなれば幸いです。
(会誌編集担当委員:久松薫子(主査),當舎夕希子,長野裕恵,松本侑子)
情報通信技術の発達にともない,人びとの情報接触行動も次第に変化し,紙媒体を基軸とした新聞産業は明らかな衰退期に入っている。そのため,現在の新聞業界はビジネスモデルの転換を迫られているが,そうした議論の中で常に取り上げられるのが電子新聞をはじめとするデジタル化の問題である。本稿の目的は,新聞がこれまでに取り組んできたデジタルサービスの歴史的過程を概観するとともに,そうした中で変化してきた新聞のメディアとしての特性について検討することにある。さらに,現在の新聞を取り巻く環境を概観することによって,問題の本質を掴み,向かうべき方向性を示唆することを企図している。
地方紙のデジタル化の進捗状況は,個々の地方紙の抱える条件が大きく異なり,電子版の有料化についても違った対応をしている。だが今後,紙媒体の購読者が減少する中,単にニュース記事の課金ビジネスだけで乗り切ることは出来ないだろう。本稿では地方紙が今後もローカルジャーナリズムの担い手としての役割を維持していくため,ニュース配信以外にも様々なコンテンツやサービスの提供によるデジタル事業のマネタイズ化,合理化が求められる紙面づくりへの市民参加の可能性の追求,宅配網を維持するための販売店の多角化,地方紙のリソースを活かした新規事業開発等の必要性について,様々な先進的な取り組みの事例をもとに紹介する。
日本経済新聞電子版は2018年6月,有料会員60万人に到達した。2010年3月の創刊当初,月額4000円は「高すぎる」といわれたが,20代,女性層に有料会員のすそ野が広がり,創刊当初の予想を超える成長軌道を描いている。日経電子版は記事を提供するだけでなく,エンジニアと編集部門が一体となって「仕事に使えるツール」を目指し,改良を続けてきた。日経電子版のこれまでの歩みと今後の方向性,デジタルメディアの共通課題に触れながら,デジタルメディアの将来を展望したい。
「あの時,あの時代に何が起きたか」を調べるには,新聞記事データベースが有用だ。読売新聞の「ヨミダス歴史館」はその先駆けで,明治の創刊号から現代まで140年余りの記事を,図書館などで検索することができる。テキストデータがない活字時代の紙面も検索できるよう,1本1本の記事にキーワードをつけ,新聞広告や連載小説まで検索可能にした,近現代史のデジタル・アーカイブだ。ヨミダス歴史館は毎日,新たな紙面を追加収録すると共に,検索キーワードの見直しも続け,今も進化し続けている。SNSに雑多なニュースが流れ,消費される中,情報を的確に読み解くために新聞記事データベースが役立つことを期待したい。
専門紙・業界紙は,情報収集に役立つ優れたレファレンスツールである。その特徴として速報性・内容の深さに加え流通が限定的なことが挙げられるが,様々な人がアクセスできる公共図書館で専門紙・業界紙を提供することでより多くの人が手に取ることができる。どんな新聞があるのかを知ることのできる資料は限られており,長く続いているもの,第三種郵便物であること,発行母体を資料評価ポイントとして収集するとよい。レファレンスにおいては統計・人事情報を得る資料として活用できる。
神戸大学附属図書館デジタル版新聞記事文庫は,神戸大学経済経営研究所の所蔵する明治末~1970年の新聞記事切抜帳コレクション約3,200冊のうち,戦後までの記事約38万件の画像と本文テキストを対象に電子化公開を進めるデジタルアーカイブである。2000年のサービス開始以来コンテンツの公開を続け,現在約30万件を公開する。本稿では,新聞記事文庫の成り立ちとその独自の価値を再確認するとともに,デジタル版新聞記事文庫の利用傾向を,Google Analyticsでのアクセスログ調査や二次利用の具体例から分析する。最後に,今後のさらなる活用に向けた課題を述べる。
2016年度PLASDOCオンライン研究会では化学系の特許調査における人工知能(AI)の活用に関し,AIに学習させる文章(教師データ)に着目した,特許調査の効率性に関する研究を実施した。具体的には,無効資料調査における化学分野に特徴的な請求項の影響検討,及び先行技術調査における教師データの検討結果について報告する。さらに特許調査以外のAI活用方法として,分類既知の公報を教師データとした,分類未知の公報の仕分けについても合わせて検討結果を報告する。