多くの図書館では,○○文庫や○○コレクションと称する特定のテーマに基づいて収集された資料群を所蔵しています。これらは一般コレクションとの対比から特別コレクションと呼ばれます。資料的,学術的に価値のあるものや,オリジナルが一点しかなくて失われると二度と入手できない貴重な資料も含まれていることも多くあります。さらに個々の価値に加え,ひとまとまりの資料群として構築されたことで生まれる価値も大きいものです。
そこで本特集では,コレクションの成り立ち,寄贈資料の収集・整理,デジタル保存,連携・協力,資金調達・広報など,多角的な視点から特別コレクションについて取り上げることで,その意義,役割,価値,もたらす可能性について改めて考えてみたいと思います。
まず,牧野元紀氏(東洋文庫)には,モリソン文庫や岩崎文庫などを所蔵する東洋文庫の事例から,複数にわたるコレクションの成り立ちを紹介いただくとともに,特別コレクションの特色をさらに強化する収集方針,モリソン文庫受入時からの資料保存の理念,整理・利用について概説いただきました。
次に,森川嘉一郎氏(明治大学)には,寄贈資料の受入・整理・活用の観点から,大規模な個人コレクションを中核とした2館のマンガ専門図書館を並行して運営するに至るまでの流れと,マンガという資料の特性について,明治大学での教育研究の位置づけや施設構想にも触れながら解説いただきました。
続いて,瀬川結美氏(東京学芸大学)には,大学全体の教育デジタルコンテンツを収集・公開する東京学芸大学教育コンテンツアーカイブについて,学内他部署と連携して構築することの意義や背景,多様なコンテンツの共存による効果,システム面における対応についてご紹介いただきました。
次に,小嶋悦子氏(名古屋大学)には,名古屋大学附属図書館における特定基金やクラウドファンディングなどの外部資金獲得の取り組みを中心に,広報活動,外部資金を活用したコレクションの修復やデジタル化事業についてご紹介いただきました。
最後に,杉本重雄氏(筑波大学)には,図書館などにおける文化的資源の長期保存について,デジタルアーカイビングの重要な要素であるデジタル保存の観点から,基本的な特性,機能や要素などの技術的な側面,メタデータの役割や国際標準について解説いただきました。
今日,特別コレクションの資料群は,紙媒体,デジタルコンテンツ,そして両者の共存という状況にあります。今後さらなるデジタル化が進むと,資料の在り方とともに,収集,整理,保存などの在り方も変化していくのではないかと考えます。多種多様な取り組みを取り上げた本特集が,今後の特別コレクションについて考えるうえでの一助となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:池田貴儀(主査),安達修介,鈴木遼香,野村紀匡,水野澄子)
東洋文庫は東洋学・アジア研究の専門図書館として日本最古最大にして世界五指の一つに数えられ,国宝・重文を含むその蔵書は今日約100万冊を超える。1924年,岩崎久彌による財団法人としての創設以来,東洋文庫の蔵書は東洋学が包含する多種多様な学問領域にまたがる特別コレクションの集積である。それぞれの特別コレクションの成り立ちは創立から100年に及ぶ研究活動と密接な関係を有し,日本の東洋学・アジア研究の発展を映し出す鏡である。本稿ではモリソン文庫や岩崎文庫をはじめ各特別コレクションの紹介をした後,その整理・利用・保存修復に関して概要を述べる。
マンガの雑誌や単行本,個人出版の同人誌などからなる大規模なマンガ資料の個人コレクションの寄贈により,明治大学は2009年に「米沢嘉博記念図書館」をキャンパス内に設立するとともに,学外の既存の私設「現代マンガ図書館〈内記コレクション〉」の運営を引き継いだ。マンガ・アニメ・ゲームの複合アーカイブ施設の設置構想をもとに,その先行準備施設として2館のマンガ専門図書館を並行して同大学が運営するにいたった背景や経緯,ならびに資料の保存や目録整備,運用にまつわる両館の計41万点の蔵書の特殊性や規模への対応について述べる。
東京学芸大学は2022年5月に「東京学芸大学教育コンテンツアーカイブ」をリリースした。附属図書館が大学全体のデータベースとして構築し,他の学内部署との連携により多様なデジタルコンテンツを公開している。このことは最新かつ高機能なシステムリソースを大学内で共有することにつながり,大学にとって大きなメリットとなった。また附属図書館は,学内成果としてのデジタルコンテンツを蓄積する基盤を整えることができた。今後各種課題に対応しながら,連携部署の拡大を進めていきたい。
特別コレクションのデジタル化や維持管理には予算が必要となり,その一つの手段に外部資金の利用がある。名古屋大学附属図書館では,基金の設置や2回にわたるクラウドファンディングへの挑戦を経て,外部資金による所蔵コレクションの保存活用事業を行っている。本稿では,当館の所蔵コレクションの概要と外部資金獲得の取り組み,とくに2020年に実施した「高木家文書」の絵図修復のためのクラウドファンディングの取り組みを中心に,寄附募集活動,返礼と広報活動,外部資金によるコレクションの修復,デジタル化事業の概要などについて紹介する。
本稿では,図書館や美術館,博物館,文書館等(MLAと記す)における文化的資源のデジタルアーカイビングとその重要な要素であるデジタル資源の長期保存について概観する。はじめに背景と用語定義を述べた後,デジタルアーカイビングに関わる基本概念とモデル,MLAにおけるこれまでの取り組み,メタデータに関する紹介,そして収集対象の文化的資源の多様性に関する考察を示す。それに続いて,MLAにおけるこれまでのデジタル保存の取り組みとデジタル保存に対するいくつかの基本的な観点を示し,デジタル保存に関わるメタデータとPREMISやOAIS等の国際標準について述べる。最後に,将来に向けた考察を示す。
近年,AIなどの新技術の登場により新たなサービスや機能が多数リリースされており,特許調査の業界においても,ツールを取捨選択し,どう使いこなすかが重要になっている。また,ツールに淘汰されないようなサーチャーになるためには,自身の調査スキルを常に磨き続けることが必要となってくる。2013年より工業所有権協力センターが主催している特許検索競技大会は,実務者が上記のような動向の中でも必要となる知識・技能のスキルアップを支援する取り組みである。本稿では,大会の概要,及びAIツールとの関係について紹介,考察する。