情報の科学と技術
Online ISSN : 2189-8278
Print ISSN : 0913-3801
ISSN-L : 0913-3801
70 巻, 10 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
特集:カスタマーハラスメントと情報
  • 野村 紀匡
    2020 年 70 巻 10 号 p. 485
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー

    今月号の特集は,「カスタマーハラスメントと情報」と題してお届けします。

    昨今,カスタマーハラスメントが社会問題化しつつあり,対応が急務となっています。2018年3月に厚生労働省が発表した「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書は,顧客や取引先からの著しい迷惑行為について「カスタマーハラスメント」という用語を紹介しました。同報告書はパワーハラスメントとカスタマーハラスメントとでは対応策が異なるとしながらも,労働者の安全への配慮という観点からは類似性があり,事業主のみならず社会全体でカスタマーハラスメントに対応する機運の醸成が必要である,との意見を示しています。図書館など情報に関わる業界においても,利用者と接する場面でカスタマーハラスメントにあたる事案が起こり,無視できない問題となっています。

    本特集では,カスタマーハラスメントが発生する背景やその事例と対策を「情報」という切り口から紹介します。はじめに池内裕美氏(関西大学)に,カスタマーハラスメントとそれをめぐる諸問題について,心理学の知見や関連分野の先行研究を踏まえて概説いただきました。田代光輝氏(慶應義塾大学)には,インターネットの普及とカスタマーハラスメントとの関連という観点から,これまで発生した問題の構造を分析いただくとともに,悪意ある攻撃への対応方法を,事例を交えて説明いただきました。梅谷智弘氏(甲南大学)には,情報技術をいかしたカスタマーハラスメント対策の一例として,大学図書館における遠隔対応ロボットの事例を,その開発や運用実験の経緯も含めて紹介いただきました。加藤俊徳氏(株式会社脳の学校)には,脳科学の観点からカスタマーハラスメントを起こしやすいカスタマーの脳とその仕組みを解説いただきました。

    本特集が,カスタマーハラスメントについての理解を深め,その現状や今後の対応について考える契機となれば幸いです。

    (会誌編集担当委員:野村紀匡(主査),青野正太,大橋拓真,寺島久美子,南雲修司)

  • 池内 裕美
    2020 年 70 巻 10 号 p. 486-492
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー

    「カスタマーハラスメント」とは,簡単にいうと従業員に対する顧客からの嫌がらせであり,悪質クレームとほぼ同義である。近年,流通業の店員の約7割がこうした迷惑行為を受けていた事実が明らかとなり,世の中を震撼させた。では,なぜカスタマーハラスメントは生じるのであろうか。増加の背景には,いかなる心理的・社会的要因が関係しているのだろうか。また,被害を受けた場合,従業員はどのように対処すればよいのか。本稿では,こうしたカスタマーハラスメントをめぐる諸問題について,心理学の知見や関連分野の先行研究を基に概説する。そして最後に,従業員保護の観点から組織の在り方について私見を述べる。

  • 田代 光輝
    2020 年 70 巻 10 号 p. 493-498
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー

    情報社会となり顧客の情報発信が容易となった。顧客の意見をあつめ商品開発やサービス改善につなげる企業が多くなる一方で,90年代後半の通称:東芝クレーマー事件を転機として,顧客と企業の関係が変化し,ネットは企業にとってリスクの1つとなっている。本稿では,デマの公式を利用して,関心の高さと曖昧さの観点から,過去のネットトラブルの構造を分析する。最近では新型コロナウイルス感染症に関連したトイレットペーパー不足のデマが蔓延したが,「不足はデマである」というニュースが社会全体の関心を高め,デマを余計に流布したという事例がある。また,悪意ある顧客の攻撃があった場合の対応方法などを紹介する。

  • 梅谷 智弘
    2020 年 70 巻 10 号 p. 499-504
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー

    情報技術を生かしたカスタマーハラスメント対策として,大学図書館遠隔対応ロボットを例にして紹介する。レファレンスカウンター,ヘルプデスクなど専門知識を有する図書館職員が対応する場面においては,利用者への対応が重要な課題となっている。ヘルプデスク対応が行える職員は専門性が高く,書架,書庫や事務所など,受付から離れて業務を遂行することが多くある。そのため,受付は無人になることもあり利用者からの観点では機会損失につながり利便性を損なう。本稿では,現在大学図書館で稼働しているアンドロイド・ロボットを用いた遠隔対応システムを紹介する。長期間の運用実験による評価を通して本システムの有用性,本システム導入にあたっての受容性について述べる。

  • 加藤 俊徳
    2020 年 70 巻 10 号 p. 505-510
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー

    カスタマーハラスメントは,これまで,顧客からのセクシュアルハラスメントに主な焦点が当てられていた。近年,情報産業の発達に伴い,不特定多数の顧客から情報サービス従事者(接客・営業担当者を含む)へのハラスメントが問題となっている。本稿では,カスタマーハラスメントを起こしやすいカスタマーの脳について,1)睡眠,運動,食生活などの生活習慣,2)注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害などの発達障害,認知症やうつ病など脳機能に問題のある疾患,3)8つの脳番地の機能がそれぞれ低下または未熟である場合,の3つの観点から概観した。加えて,カスタマーハラスメントを予防するために必要な課題を述べた。

連載:情報科学技術に関する識別子 第6回
総説・解説
  • 李 慧瑛, 下髙原 理恵, 峰 和治, 田松 裕一, 緒方 重光
    2020 年 70 巻 10 号 p. 515-521
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー

    近年,医学系分野でテキストマイニングへの関心が高まっている。この手法は看護学領域においては,臨床で起こる現象を掴むための定性的調査手法として,アンケート調査の自由記述やインタビュー調査の逐語録分析に用いられることが多い。また,文献データベースから得られる情報を基に,研究動向を概観する研究にも使用される。本稿では,研究対象として医中誌Web上で検索可能なテキストマイニングを活用した全論文を例に挙げて,研究動向をテキストマイニングの手法を使って分析した。この過程を通して,具体的にどのような新知見が得られるかについて考究し,これをベースとして医学系分野におけるテキストマイニング全般の将来展望について概括する。

書評・新刊紹介
INFOSTA Forum
協会記事
feedback
Top