今月号の特集は「SNS時代の情報発信を考える」です。
本誌では2005年7号で「図書館の発信情報は効果的に伝わっているか?」と題した特集を組み,より効果的な広報の仕方を考察しました。しかし,その後急速に普及したのがスマートフォンです。『情報通信白書』によると,2010年には1割弱であったスマートフォンの世帯普及率は,2016年には7割を超えています。それと並行するようにSNSの利用が増え,全体の約7割の人が何らかのSNSを利用するようになりました。SNSは,情報を発信する側の敷居も下げました。低コストかつ簡単に個人へ情報を発信できるようになったからです。一方で,図書館には発信に値する魅力的なコンテンツやサービスが存在しています。SNSを通じてそれらを発信し,図書館をアピールしようとする動きが広がっています。
このような動きを踏まえ,本特集では以下のような構成でSNS時代の情報発信を検討しました。はじめに,岡嶋裕史氏にスマートフォンが普及した現代までの広報の変化を概観いただきました。続けて,ソーシャルメディア・マーケティングがご専門の小野寺翼氏に個々のSNSにおける特徴と使い分け方を紹介いただきました。
そのうえで5つの図書館における具体的な事例を寄稿いただきました。前半3例は,SNSを図書館がどのように使っているかをご報告いただきました。東京都立中央図書館では,Facebook,Twitterの特性を活かして使い分けを行っています。九州大学附属図書館では,広報対象を考慮したうえでプラットフォームとしてInstagramを選択し,新館移転の状況を発信しています。一方,鎌倉市図書館ではある1つのツイートがきっかけで注目されると同時に,課題も明らかになりました。後半2例は各図書館内部の力を活用した広報事例です。秋田県鹿角市立図書館では,職員それぞれの得意分野を活かしてLINEスタンプを作成し販売しています。早稲田大学図書館では,教員と協働して図書館所蔵の貴重資料をバーチャルリアリティ(VR)化し,YouTubeを使って発信しています。
情報を発信するプラットフォームや技術は変わりましたが,誰に向けて何を発信するのかを考えなければならないのは同じです。2005年の特集と併せ,本特集が新たなプラットフォームをどう活用できるのか,SNS時代にふさわしい情報発信とは何かを考える一助となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:長野裕恵(主査),小山信弥,田口忠祐,松本侑子,光森奈美子,南山泰之)
インターネットが登場して,広報活動にどのようなインパクトが与えられたかを概観した。従来型のマスメディアと,インターネットを基盤とするメディアの違いを明らかにし,それぞれにおける最適な広報の有り様が異なることを指摘した。どうして性質の違うメディアが台頭したのか,社会構造の変遷に着目して解説を行い,その変遷の延長線上で何が起こったのかについても整理した。また,同一視されがちなインターネット上のメディアでも,WebとSNSではネットワークの構成もユーザの接触態度にも差違がある。この差違を広報活動にどう組み込むべきかを議論した。
ソーシャルメディアの台頭によりインターネット上での生活者と情報との接点は大きく変化した。この変化にともない広報発信という視点でも従来のマスメディア以上に生活者視点の重要性が高まっている。本稿では,ソーシャルメディア普及のきっかけやメディア特性,Facebook,Twitter,Instagramといった代表的なプラットフォームの特性を紹介している。複数の企業に対しソーシャルメディア活用の支援をしてきた筆者の観点で,広報発信のあり方を紹介する。ソーシャルメディアにおける広報発信の根本となる考え方を理解いただけるのではと考える。
本稿では,東京都立図書館におけるSNS運用の現状とその分析結果について,Facebookを中心として報告する。前半では運用体制や投稿内容などの概要を記述する。後半ではFacebookのインサイトデータの分析により,閲覧者の傾向,記事に対する反応,Twitterにおける反応との相違点等について,分析結果を報告する。最後に,Facebookが有する独自のメリットやその活用例を指摘しながら,図書館がFacebookを運用する意義について考察し,Facebookの活用が広報に広がりをもたらす可能性について述べる。
九州大学附属図書館では,2018年10月にグランドオープン予定の新中央図書館に対する利用者の期待感創出等を目的として,2017年6月から附属図書館公式Instagramアカウントの運用を開始した。運用開始にあたっては,運用ガイドラインを定めると同時に,動作検証を重ねて投稿要領を作成した。情報の拡散のため,Instagramへの投稿内容は,附属図書館公式Twitter・Facebookアカウントとも連携させている。投稿前には,図書館広報室内で内容を精査し,適切かつ効果的な広報となるよう調整している。新中央図書館の建物等だけではなく,図書館移転全般に関わる内容をコンスタントに投稿することにより,2018年1月時点で約240人のフォロワーを獲得している。
鎌倉市図書館ツイッターでは,図書館の行事ばかりでなく,近隣の情報などもツイートするなどの工夫をしている。そのような中,平成27年8月,メッセージ性の高いツイートで全国的に認識されるようになった。それ自体は喜ばしいことではあるが,公的機関における情報発信には多方面への配慮が必要で,認知度の高いメッセージ性がある内容を発信することには限界がある。また,利用者の属性によってはSNS以外での情報発信が効果のある場合もある。制約のある中,いかに多くの市民,利用者に情報を見てもらうかが重要である。
本稿では,秋田県鹿角市立図書館で取り組んだLINEスタンプの活動について述べる。公共図書館でLINEスタンプを制作・発売したのは当館が初めてで,市内外から多くの注目を集めた。また,LINEスタンプの制作も外部に委託することなく,職員自ら行った。待つだけの図書館ではなく,積極的な活動や取り組みが話題になっている今日の図書館界であるが,当館は移転と指定管理者導入をきっかけに,新しい広報の手法を模索し,市民に親しまれる図書館を目指して当事業を進めてきた。本文は制作の裏側や運用などについて実務的なことも含め,LINEスタンプ制作にかけた想いをまとめたものである。
2016年は「VR元年」と謳われた年であり,マーケティングのトレンドも「ユーザー体験(UX)」が主流になると予想されている。大学図書館でも「どれだけリッチなユーザー体験を提供できるか」が今後の利用者サービスの柱となることが想起された。同年,開館25周年を迎えた早稲田大学中央図書館では,バーチャルリアリティー(VR)を活用した「夢の融合プロジェクト」が実施され,学内の部署間連携や教職員・学生の協働が織り成すチャレンジングかつエキサイティングなプロジェクトとなった。本稿は,その舞台裏を支えた図書館スタッフの魂のVR制作ストーリーである。
新製品・新事業探索は,企業が持続的な成長をしていく上で必要な取り組みであり,様々な方法が提案・実践されている。本研究では,この新しい手法として「段階的発想法」を考案し,その適用について検討した。段階的発想法とは,共出語を用いてキーワードを段階的につなげて,新製品・新事業につながる発想を広げていく方法である。本研究では,マイクロレンズ製造技術をコア技術として有する実在するK社を題材に,特許,学術文献,新聞,ソーシャルメディア,ウェブ情報から段階的発想法を用いて新製品・新事業の探索を試みた。段階的発想法は,従来法よりも発想を飛躍でき,広い範囲で新製品・新事業を探索できるものと期待される。
研究者SNSは,誕生当初は他研究者とのネットワーキングや自身のオンラインプロファイルとして活用されることが主流であったが,近年は論文共有の場として使われていることが幾つかの調査より明らかとなっている。これに伴い,新たな問題-研究者SNSで共有されている論文には,本来公開してはならない出版社版が多数アップされていること-が顕著化しており,学術出版業界が牽引して学術コミュニケーションの改善に取り組んでいる。図書館員は,研究ワークフローの各フェーズを支えている研究者SNSの機能・使われ方・問題などを理解し,研究者SNSが適切に利用されるよう支援活動に組み込む必要がある。本稿では,研究者SNSの概要と機能を確認した後,様々な調査報告に基づいて研究者SNSの利用実態・問題点を整理する。その上で,図書館は,研究者SNSに対してどのような取り組みが出来るのか・期待されるのかを考察する。
近年,医学学術雑誌や各種診療情報のデジタル化が進み,その利用環境は大きく変化している。本稿では,2013年から直近までの神奈川県立病院機構における医療情報の整備状況を報告し,病院における医学情報整備の課題を検討する。段階的にオンラインジャーナル等の契約改善に取り組んだ結果,オンラインジャーナルの契約誌数が約3倍に増加した。しかしながら,医師らへのアンケートでは,その満足度は十分とはいえない。その理由として一部を除いて,医学情報を管理する図書室は体系的に整備されていない。今後も価格高騰,病院向けの医学・学術情報の維持・管理,及びコンソーシアムを含めた包括的な議論が必要である。