日本消化器外科学会雑誌
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43 巻, 4 号
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原著
  • 信岡 大輔, 後藤田 直人, 小西 大, 中郡 聡夫, 高橋 進一郎, 木下 平
    原稿種別: 原著
    2010 年 43 巻 4 号 p. 351-358
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     はじめに:近年,膵頭十二指腸切除(pancreaticoduodenectomy;以下,PD)術後のドレーン早期抜去の有用性が示されたが,いまだ一般的ではない.そこで,我々は最適なドレーン抜去時期につき検討した.対象と方法:73例のPD症例の経過を解析し,膵液瘻(pancreatic fistula;以下,PF)とドレーン排液データの関係を検討した.PFの診断にはInternational Study Group on Pancreatic Fistulaの基準を用い,Grade B以上をPFとした.結果:全73例中20例(27%),soft pancreas 37例中18例(49%),hard pancreas 36例中2例(6%)にPFを認めた.Soft pancreasにおいてドレーン排液アミラーゼ濃度(drainage fluid amylase;以下,D-Amy値)とドレーン排液量の積を比較すると,術後第1病日(postoperative day;以下,POD1)およびPOD7ではPF(+)群が高値を示したが,POD3およびPOD5では両群間に有意差を認めなかった.考察:“真のアミラーゼ漏出量”の推移を検討したところ,術後早期に成立していた膵空腸吻合がPOD7前後で破綻しPFを起こす可能性が示唆された.よって,soft pancreas症例の中には早期抜去には注意を要する症例があると考えられた.
症例報告
  • 藍原 龍介, 大野 哲郎, 持木 彫人, 小磯 博美, 浅尾 高行, 桑野 博行
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 359-364
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は66歳の男性で,第13病日に胃切除後の縫合不全にて腹腔内膿瘍を形成した.CTガイド下ドレナージにて膿瘍は改善し経口摂取を開始したが,第35病日に再び発熱を認めた.敗血症(血液培養陽性:Stenotrophononas maltophilia)の診断で抗生剤治療を開始したが解熱を認めなかった.循環・呼吸状態が急速に悪化したため人工呼吸器管理を開始した.末梢血にて血球減少(Hb 7.8 g/dl,Plt 19×103 /μl),CTにて肝脾腫大を認めた.骨髄にて血球貧食像を認めたため,血球貧食症候群と診断し同日よりステロイドパルス治療(ソルメドロール1 g/日,全3日間)を開始した.翌日より呼吸状態の改善と解熱を認め,血球減少も著明に改善した.ステロイドパルス治療から1週間後には経口摂取を開始し第72病日には退院となった.退院から8か月,血球貧食症候群の再発兆候は認めない.
  • 戸田 孝祐, 柿原 直樹, ゆう 賢, 石井 亘, 山田 圭吾, 下村 克己, 松村 博臣, 大垣 雅晴, 宮田 圭悟, 竹中 温
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 365-369
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は59歳の女性で,0-IIc型の進行胃癌に対し幽門側胃切除術とリンパ節郭清を施行した.病理組織学的検査にてsignet ring cell carcinoma,pT2(MP),pN3(#3,#4d,#5,#6,#7,#8a,#8p),M0,stageIVであったため術後にTS-1(80 mg/day,3週投与2週休薬),TS-1投与1週間後にcisplatin(75 mg/day)を経静脈投与した.2コース目の開始後10日目に嘔気が出現し,その後に全身の強直性のけいれんを発症した.頭部MRIで,両側後頭葉から頭頂葉の白質にT2強調像で高信号領域を認めた.化学療法の中止と対症療法により神経症状および画像所見の改善を認めたため可逆性後部白質脳症症候群と診断した.抗悪性腫瘍薬や免疫抑制剤により可逆性後部白質脳症症候群を発症することはあるが,TS-1+cisplatin併用療法中に発症した報告はまれであり,その危険性も念頭におく必要があると考えられた.
  • 須浪 毅, 伏谷 英朗, 木村 賢太郎, 雪本 清隆, 澤田 隆吾, 阪本 一次, 山下 隆史
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 370-377
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は81歳の男性で,体動時の息切れを主訴に受診.著明な貧血を認め,精査目的にて入院.内視鏡検査にて胃前庭部およびS状結腸に2型腫瘍を認め,生検にてそれぞれ低分化腺癌,高分化腺癌と診断.腹部CTでは多発性の肝転移を疑うspace-occupying lesion(以下,SOL)を認めた.胃癌,S状結腸癌に対して幽門側胃切除術(D1+α),S状結腸切除術(D2)を施行した.進行度は,胃:T2(SS)N1P0M0,S状結腸:T2(SS)N0P0M0であった.肝SOLに対して術中肝生検を施行したが,異型細胞を認めず,術後1か月目のCTにて肝SOLの縮小を認めたため経過観察とした.その後,SOLの増大,白血球数の増多(28,700 /μl)を認め,肝膿瘍も否定できず再度肝生検を施行したところ,胃癌と同じ異型細胞を認めた.血清G-CSF濃度は256 pg/mlと高値,原発巣はG-CSF陽性でありG-CSF産生胃癌,肝転移と診断した.TS-1を投与するも奏効せず,術後7か月目に死亡した.
  • 田村 亮, 細谷 亮, 高田 真理子, 三木 明, 瓜生原 健嗣, 小林 裕之, 岡田 憲幸, 貝原 聡, 今井 幸弘
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 378-384
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     まれな症例である副乳頭カルチノイドの1例を経験したので報告する.症例は70歳の男性で,他疾患のフォローにて実施された上部消化管内視鏡検査にて十二指腸副乳頭部付近の不整隆起を指摘され当院へ紹介となった.上部消化管内視鏡検査,ERCP,生検などから副乳頭カルチノイドと診断し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を実施した.術前検査および術中所見からはリンパ節転移は否定的であったが,病理組織学的検索で#13リンパ節に転移を認めた.副乳頭カルチノイドはまれな疾患であり,過去の報告は本邦内外を含めて17例のみである.通常,カルチノイドのリンパ節転移は深達度および腫瘍径と相関関係にあるとされ,治療選択の際にもこの2点が重要とされるが,副乳頭カルチノイドでは他部位に生じたカルチノイドに比べてリンパ節転移の頻度が非常に高く,通常であれば局所切除が考慮されるような症例に対しても,系統的リンパ節郭清を伴った術式が必要と考えられた.
  • 矢田 一宏, 松本 敏文, 草野 徹, 増田 崇, 武内 秀也, 林 洋, 池田 陽一, 北野 正剛
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 385-390
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は77歳の男性で,17年前に食道癌にて食道亜全摘術・胸骨後胃管再建術を施行した.腹部CTにて認められた無症候性総胆管結石の精査中に十二指腸下行脚に隆起性病変を認め高分化腺癌の診断を得た.腫瘍は膵頭部主膵管内へ連続し,十二指腸癌膵浸潤もしくは膵管乳頭腺癌の十二指腸浸潤を考えた.手術は胃管血行を考慮し胃管温存膵頭十二指腸切除術を施行した.動脈系は胃十二指腸動脈—右胃大網動脈を,静脈系は右胃大網静脈—胃結腸静脈幹までをそれぞれ温存した.術後の胃管に虚血・うっ血はみられなかった.病理組織学的検査所見は原発性十二指腸癌であった.術後肺炎を発症したものの治癒,退院し術後1年6か月再発なく健在である.食道癌術後に発症した原発性十二指腸癌に対して胃管温存し根治手術をしえた報告はない.食道癌術後膵頭部領域病変に対し手術を要する場合,胃管血行の流入路・流出路を確実に温存することが重要である.
  • 内川 裕司, 中田 岳成, 三輪 史郎, 小林 聡, 上原 剛, 宮川 眞一
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 391-397
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     Vater乳頭部印環細胞癌の1切除例を経験したので報告する.症例は69歳の女性で,嘔吐を主訴に来院された.術前精査にて十二指腸下行部の著明な狭窄と総胆管,主膵管の拡張を認め,Vater乳頭部癌の診断にて膵頭十二指腸切除術が施行された.切除標本は十二指腸下降脚の高度な壁肥厚および内腔の狹小化を認めたが,十二指腸,胆管とも粘膜面の異常を認めず,またVater乳頭部は白色変化を認めるのみで腫瘤,潰瘍形成なく肉眼的には原発巣の同定は困難であった.病理組織学的にVater乳頭部に粘膜の脱落および密な印環細胞癌の増殖を認めVater乳頭部原発印環細胞癌と診断された.漿膜外浸潤,リンパ節転移を伴っており,術後補助化学療法として第42病日よりTS-1の投与を開始,術後37か月で無再発生存中である.Vater乳頭部印環細胞癌はまれな疾患で,国内外で自検例を含め26例の報告を認めるのみである.
  • 京兼 隆典, 弥政 晋輔, 澤崎 直規, 東島 由一郎, 後藤 秀成, 渡邉 博行, 高木 健裕, 松田 眞佐男
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 398-404
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は64歳の女性で,HBs抗原陽性のため経過観察中,2006年9月,肝S7に径15 mmの腫瘤が指摘されたが,患者が精査治療を拒否したため経過観察となっていた.2007年4月突然の呼吸困難で発症し,当院救急外来に搬送された.心USで右心系の拡大と右心房に腫瘤が指摘され,縦隔造影CTで右肺動脈に肺塞栓が認められた.血栓溶解療法後腹部精査を行い,肝S7の肝細胞癌が右肝静脈から右心房へ腫瘍栓を形成し,それによる血流障害で血栓が形成され,肺血栓塞栓症を発症したと考えた.肝右葉切除,腫瘍栓抜去術を施行.肝離断後,右葉を尾側に牽引することにより腫瘍栓も尾側へ移動し,心嚢内下大静脈でクランプが可能であったが,クランプにより血圧低下したためveno-venous bypassを併用した.術後経過は良好.12か月後に多発性肺転移を来した.術後24か月が経過したが,良好なquality of lifeのもと生存中である.肺血栓塞栓症で発症した下大静脈,右心房内腫瘍栓を有する肝細胞癌は,今までに報告例がない.
  • 荒川 悠佑, 島田 光生, 内山 秀昭, 居村 暁, 森根 裕二, 金村 普史, 花岡 潤, 金本 真美, 杉本 光司, 西 正暁
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 405-410
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     胆道狭窄は悪性疾患を疑う所見である.胆道は直接的診断が困難であり,間接的な画像診断が行われるため,偽性胆管狭窄の報告がみられる.症例は74歳の女性で,診断は胆嚢腫瘍および総肝管狭窄であった.超音波内視鏡検査では胆嚢腫瘍は最大径12 mmであり,また総肝管狭窄は胆嚢癌の総肝管浸潤や胆管癌による可能性が否定できなかったため開腹胆嚢摘出術および術中胆道造影検査を施行した.術中所見では総肝管は胆嚢動脈に圧排されており,狭窄の原因と考えられた.胆嚢動脈の切離後,総胆管を切開し狭窄部を確認するも病変は認められなかった.胆道造影検査でも狭窄像は認められなかった.胆嚢内には12 mm大の隆起性病変を認め,深達度mpの早期胆嚢癌であった.今回,我々は胆嚢動脈の圧排によって画像上偽性総肝管狭窄を生じた胆嚢癌の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 松本 拓, 味木 徹夫, 松本 逸平, 美田 良保, 藤田 恒憲, 森本 大樹, 岡崎 太郎, 具 英成
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 411-416
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は49歳の女性で,近医で肝機能異常とCA19-9の高値を認め腹部CT施行,胆嚢腫瘍と左卵巣腫瘍を指摘され精査加療目的に当科紹介された.腹部CT, MRIで胆嚢に不整な壁肥厚と乳頭状隆起を認め,骨盤腔内に14 cm大の多房性嚢胞を認めた.胆嚢と卵巣の重複癌の診断にて開腹手術を施行したが,胆嚢癌は腹膜転移を伴っており総肝動脈幹リンパ節のサンプリングと両側附属器切除のみを施行した.手術時に採取したリンパ節と左卵巣腫瘍はともに腺癌で,免疫組織染色検査にていずれもCA19-9陽性,cytokeratin 7陽性,cytokeratin 20陽性,p53陽性であり,一元的に胆嚢癌のリンパ節転移,卵巣転移と診断した.消化管腫瘍の卵巣転移のうち,胆嚢癌由来はまれである.本例はジェムシタビン,TS-1による化学療法を行い,術後21か月生存した.
  • 藤川 貴久, 田中 明, 安部 俊弘, 吉本 裕紀, 田中 宏和, 兼清 信介, 多田 誠一郎, 松本 好晴, 横田 忠明
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 417-423
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は76歳の男性で,超音波検査にて無症候性胆嚢腫大を指摘され当院紹介,CTにて胆嚢管から三管合流部に位置する腫瘤性病変および肝S3の単結節を指摘.胆道腫瘍および肝腫瘍の診断にて胆嚢胆管切除,肝S3部分切除,リンパ節郭清を施行した.病理組織学的検査では病変の主座は胆嚢管で,粘膜表層に一部管状腺癌を認めるが,大部分は小型の腫瘍細胞が充実性胞巣を形成しシナプトフィジン,クロモグラニンA陽性であり,胆嚢管原発腺内分泌細胞癌と診断,肝腫瘍は同腫瘍の肝転移と診断された.術後3か月目に多発肝転移にて再発,イリノテカンによる化学療法にて一時的に腫瘍の縮小を認めたが,術後9か月目に病変再燃し術後16か月目に永眠された.腺内分泌細胞癌は悪性度が高く,治癒切除が行われた場合でも再発し,急速に進行することが多く予後不良とされている.化学療法を含めた有用な集学的治療の確立のため今後さらなる症例の蓄積が必要と考えられた.
  • 丸山 晴司, 西崎 隆, 伊地知 秀樹, 寺師 貴啓, 島袋 林春, 武智 俊治, 上甲 康二, 吉岡 真二, 村田 繁利, 大城 由美
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 424-430
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は47歳の女性で,HBVキャリアーで当院肝胆膵センターにて経過観察中に腹部エコーで肝右葉に巨大肝腫瘤を指摘された.造影CT, SPIO-MRIで肝右葉から肝内側区域に10.0×9.0 cm大の肝腫瘍を認め,肝内胆管癌(intrahepatic cholangiocarcinoma;以下,ICC),混合型肝癌,胆管嚢胞腺癌の疑いで外科へ紹介となった.Child-Pugh Grade Aであり肝右3区域切除を施行した.病理組織学的検査所見で乳頭状に増殖したwell differentiated adenocarcinomaを認め,胆管内発育型ICCと診断された.No.12b, 12p, 12cリンパ節転移と胆嚢浸潤を認めた.術後経過は良好で,術後13日目に退院し術後7か月現在再発を認めていない.胆管内発育型ICCは腫瘤形成型や胆管浸潤型ICCと比較しまれである.ICCは肝炎との合併頻度が比較的高いとされているが,B型肝炎に合併した胆管内発育型ICCは,我々が調べえた範囲では3例報告があるのみと極めてまれであった.
  • 恩田 真二, 吉田 清哉, 梶本 徹也, 遠藤 泰彦, 矢永 勝彦
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 431-436
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は65歳の男性で,虚血性大腸炎のため入院中,腹部CTで膵尾部に4.5×3.5 cmの嚢胞性腫瘍を指摘された.膵管の拡張は伴わず,膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;以下,IPMN)の分枝型と診断して経過を観察した.当初は無症状であったが,次第に背部痛が出現し,2か月後の腹部CTで腫瘍は増大した.血清CA19-9が高値でもあることから,悪性腫瘍を否定できず,脾合併膵体尾部切除術を施行した.病理組織学的検査では,膵臓に発生したdermoid cystと診断された.膵臓の本疾患の報告は自験例を含め我々が検索しえた範囲で21例と非常にまれである.卵巣のdermoid cystでは悪性化が報告されており,注意深い経過観察が必要である.
  • 岩田 直樹, 井上 総一郎, 木村 保則, 中村 元俊, 伊藤 雅文
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 437-441
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は67歳の女性で,腹痛,下血を主訴に来院した.腹部CTでは上部直腸の内腔狭小化,壁肥厚像を認めた.大腸内視鏡検査でRa領域の全周性狭窄を認めた.注腸造影X線検査でRa~Rb領域にかけて全周性狭窄を認めた.生検結果は直腸癌との診断を得られなかったが,4型直腸癌を否定できず手術となった.病理組織学的検査の結果,直腸狭窄型虚血性大腸炎の診断であった.虚血性大腸炎の中で直腸狭窄型は比較的まれな病態であり,文献的考察を加えて報告する.
  • 森田 圭介, 荒瀬 光一, 田中 栄治, 飯坂 正義, 上村 眞一郎, 井上 克彦, 小川 道雄
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 442-447
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     早期胃癌に合併した虫垂胚細胞カルチノイドの1例を経験した.症例は77歳の女性で,早期胃癌の術前CTで骨盤右側に5 cm大の腫瘤を認めた.胃癌に対して腹腔鏡補助下幽門側胃切除術を行った.腹腔内の観察で限局性の虫垂嚢胞性腫瘤を確認し,腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.病理組織学的検査で胃癌は低分化型腺癌,深達度sm2,リンパ節転移を認めず,Stage IAであり,虫垂腫瘍は粘液性嚢胞腺腫を合併した胚細胞カルチノイドの診断で,深達度mp,脈管およびリンパ管浸襲を認めなかった.虫垂胚細胞カルチノイドはまれな腫瘍で,癌の一亜型とする報告もあるが,術式や治療方針,予後に対する一定の見解は得られていない.今後は慎重なフォローアップが必要であるが,腹腔鏡下虫垂切除術は選択肢の一つとなりうると考えられたので,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 山岸 庸太, 岡田 祐二, 石川 雅一, 水野 章, 片野 晃一
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 448-453
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は78歳の女性で,肛門周囲の掻痒感を主訴に皮膚科を受診した.肛門皮膚に同心円状(8×9 cm)でびらんを伴う隆起性病変を認め,皮膚生検にてPaget病と診断した.その後の精査にて直腸(Rb)にIsp型腫瘍を認め,生検にて高分化型腺癌,最終的にはPagetoid spreadを伴った肛門管癌との術前診断を得た.5 cmの健常皮膚を切除するために,有茎腹直筋皮弁を用いた会陰部再建術を付加した腹会陰式直腸切断術(D2)を施行した.病理組織学的検査所見はIsp型,sm2,ly2,v0,n1,stage IIIa,肛門周囲の皮膚病変部と肛門管腫瘍との間には約6 mmのびらんと約3 mmの再生非腫瘍性扁平上皮が介在し,粘膜面における異型細胞の連続性を認めなかった.よって,高分化腺癌が肛門周囲皮膚真皮にリンパ管侵襲を示し,さらに表皮内へ向かってPagetoid spreadを呈したものと推定した.このような,Paget細胞の進展形式は検索しえたかぎりでは自験例のみであった.
  • 中島 紳太郎, 諏訪 勝仁, 北川 和男, 山形 哲也, 岡本 友好, 矢永 勝彦
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 454-459
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は54歳の女性で,2001年9月に当院で右側スピーゲルヘルニアに対して修復術を施行した.2007年9月に左中腹部膨隆を主訴に当科を受診した.身体所見上,左中腹部に腹圧にて出現する膨隆を触知し圧痛は認めなかった.還納は容易であり,直径2 cm大のヘルニア門を触診した.前回手術痕は右側対称に認められた.CTでは左腹直筋外縁に腹腔内から皮下に脱出するヘルニア嚢を認めた.以上より,左側スピーゲルヘルニア異時性発症と診断し,待機的に全身麻酔下で手術を施行した.ヘルニア門は直径1.5×1.5cm大で,腹直筋と内外腹斜筋および腹横筋間の癒合が完全欠損したタイプであった.Composix® Kugel® patchを用いて修復を行った.術後経過は良好で,第8病日に退院した.術後15か月が経過し,再発は認めていない.今回,我々は非嵌頓異時性両側スピーゲルヘルニアの1例を経験したので,文献的考察を含め報告した.
  • 白畑 敦, 松原 猛人, 伊津野 久紀, 齋藤 充生, 石橋 一慶, 木川 岳, 根本 洋, 北村 直康, 真田 裕, 日比 健志
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 460-465
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は62歳の男性で,2001年2月に他院にて絞扼性腸閉塞の診断で小腸部分切除術を施行された.同年5月に腹壁瘢痕ヘルニアを発症し,コンポジックスメッシュを用いたヘルニア修復術が施行された.術後経過は良好であったが,2006年8月腹痛が出現し近医を受診した.腹部広範に圧痛,発赤を認め,また腹部CTにおいては腹壁直下に液体成分と思われる低吸収域を認めた.メッシュを温床とした腹腔内膿瘍と診断され,切開排膿,同部の洗浄に加え,抗生剤投与が開始された.しかし,2か月を経過しても感染が遷延するため手術目的で当院に紹介となった.同年10月に当院にてメッシュ除去術および洗浄ドレナージ術を施行した.術後第8病日に経過良好で退院した.術後,感染の再燃は認めていない.
  • 清水 智治, 龍田 健, 村田 聡, 山本 寛, 山口 智弘, 高島 明子, 樽本 祥子, 松原 亜季子, 九嶋 亮治, 谷 徹
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 466-471
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     26歳の女性で,4年前より子宮内膜症既往がある.1年前から左鼡径部に月経周期に伴い症状が変化する有痛性腫瘤を自覚していた.CT,MRIでは左鼡径部に辺縁に造影効果のある多房性嚢胞を認めた.左鼡径部の外性子宮内膜症を疑った.全身麻酔下に右卵巣内膜症性嚢胞に対して腹腔鏡下子宮内膜症病巣除去術と鼡径部腫瘤摘出手術を行った.腹腔内から左内鼡径輪開存を観察し,前方アプローチにて鼡径管を開放すると暗赤色の腫瘤をヘルニア嚢内に確認した.ヘルニア嚢を高位結紮し,Marcy法にてヘルニア門を閉鎖した.病理組織学的検査では,ヘルニア嚢内に子宮内膜症の組織像を認めた.術後12か月経過後も左鼡径部腫瘤の再発は認めていない.本邦での鼡径部外性子宮内膜症160例を集計したところ,ヘルニア嚢内に発生したのは34例であった.女性の鼡径部腫瘤の診断の際には,鼡径ヘルニアの鑑別診断の一つとして本症も考慮すべきであると思われた.
  • 塩見 明生, 絹笠 祐介, 齊藤 修治, 橋本 洋右, 富岡 寛行, 上坂 克彦, 寺島 雅典, 朝倉 弘郁, 佐々木 恵子
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 4 号 p. 472-478
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は65歳の男性で,貧血の精査でS状結腸癌とともに,左副腎に3 cm大の境界明瞭な充実性腫瘤を認めた.副腎腫瘤は造影CTで後期相まで造影効果が遷延し,MRIでT1強調・T2強調画像ともに等信号を呈した.また,positron emission tomography/computed tomographyで異常集積を認めた.以上から,S状結腸癌および副腎転移と診断し,S状結腸切除および左副腎摘出を施行した.副腎腫瘍の病理組織学的検査結果は,扁平~立方状の腫瘍細胞が大小の管腔を形成しており,免疫組織学的にAE1/AE3(+),Calretinin(+),Vimentin(+),CD31(−),D2-40(−),S-100蛋白(−)の中皮由来腫瘍で,副腎原発腺腫様腫瘍と診断した.副腎原発腺腫様腫瘍はまれで,28例の報告があるが,その画像的特徴を詳細に述べた報告は過去1編のみである.
臨床経験
  • 小金井 一隆, 杉田 昭, 木村 英明, 山田 恭子, 二木 了, 鬼頭 文彦, 福島 恒男
    原稿種別: 臨床経験
    2010 年 43 巻 4 号 p. 479-485
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     痔瘻,直腸膣瘻などの直腸肛門部病変が合併し大腸全摘術を要した潰瘍性大腸炎9例で臨床背景,術式,術後成績について検討した.全例が全大腸炎型,再燃緩解型,合併した病変は痔瘻5例,直腸膣瘻4例で,手術理由は難治5例,dysplasia2例,重症2例であった.全例に原発口を含めた肛門管までを切除する大腸全摘術を行い,回腸嚢肛門管吻合を7例,肛門吻合を2例に行った.術後,中央値23か月経過し,直腸膣瘻の1例で膣からの分泌があるものの,他の8例に直腸肛門部合併症の再発はなく,術後1年以上経過した8例の1日排便回数は平均6.4回で,漏便を1例,週に数回のspottingを2例に認めたが,全例が社会復帰していた.潰瘍性大腸炎に直腸肛門部病変を合併しても術前の肛門機能が保たれていれば,炎症の消褪を待って,自然肛門の温存と直腸肛門部病変の完治を両立した大腸全摘術が可能と考えられた.
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