1~3) 唐マツムシサウ群の植物, 從來唐マツムシサウと呼ばれてゐた植物が
Scabiosa Fischeri DC. でないことは既に原寛博士 (植•研•16, 1940) 北川政夫博士 (Rep. Inst. Manch. 4, 1940) 中井猛之進教授 (植•研•19, 1943) によつて指摘された。
Sc. Fischeri はダフリヤ區の植物であつて, 北支にはまだ産することが知られてゐない。唐マツムシサウは北川博士の言はれる通り
Sc tschiliensis である。本州産マツムシサウ, 北海道のエゾマツムシサウ, 共に此に連續すると思はれる。
Sc. Fischeri (=
Sc.
ccmosa) と
Sc. tschiliensis との關係より
Sc. tschiliensins と
Sc. japonica との關係の方が近いことを指摘したい。本州で亞高山帶以下の低い地に普通に見られる莖葉の裂片が鈍頭の傾向を有する植物を,
Sc. japonica の基準型と見做すと信濃, 甲斐地方の高山帶に葉の裂片が鋭頭になり少くとも外觀上
Sc.
tschiliensis に似て來る型が出現する。
Sc. tschiliensis で氣付かれるのは果實の内蕚小刺に長短兩型が見られることで,
Sc. japanica にも同樣の併行現象が知られてゐる。頭状花の大小, 葉の切込, 毛の多少にも相當著しい振幅を示し, 高山性植物が外觀上極端型を呈する? (頭上花の數が減じ, 屡 一個となり大型である) ことなども共通する。葉の形質に就いては
Scabiosa で種々の程度に季節による二型性 dimorphisinが知られてゐることは考慮すべきである。菊咲マツムシサウ
Scabiosa Togashiana Hurusawa として報告したものは
Sc. tschiliensis 群とはかなり隔る。Gruning の報告した
Sc. superba と比較して異る主な点は,
Sc. superba で總苞は周邊の舌状花冠よりも短く, 約半分の長さで2.5糎許, 披針形, 鋭尖頭であるのに對し, 本種の總苞は周邊舌状花の花冠と同長或はそれより長く2~3糎, 鈍頭, 箆形である。乙女マツムシサウ
Scabiosa austromongolica Hurusawa とした植物は, 莖葉の裂片が著しく細く深く切れ込む点で
Sc. comosa に似て來るが, ダフリヤ産の
Sc. comosa Fischer (Roemer & Schultes, Syst. Veg. の記相文に符合) と比較して, 頭状花が著しく小形で, 莖も葉も種内の變異の程度を越えて纖弱, 又
Sc. comosa の果實は外萼に長軟毛を密生するが, 本植物の外萼は殆ど無毛, 肋の脈上にのみ疎毛を生ずる。本種との此較に際し,
Sc. Fischeri の參考標本 (Glay-herbarium 所藏) の寫眞を貸與下さつた原寛博士に深謝の意を表する。
4) 五台柳葉シヤジン。柳葉シヤジン
Adenophora coronopifolia Fischer を含む一群の植物は相互に形質が交錯して各植物間の關係は最後的に把握されてゐるとはいへない。本植物
Ad. wutaiensis Hurusawa も此の一環を形成する未記載の一形である。
Adenophora 屬の近縁諸形間の関係を雜種説によつて説明した Korshinsky 氏の考へはそのまゝ受け容れ難い。ケ本列島に産する種類に大陸の二種類の持つ形質が組合されて現れるといふ如き例が屡見られる。
Ad. wutaiensis は
Ad. tricuspidata DC (=
Ad. denticulata Fischer),
Ad. Gmelini Fischer
Ad. stenophylla Kitagawa 等何れとも若干の形質で聯關するが亦全体として符合するものがない。(嘗て Ledebour が
Ad. poly morpha Ledeb. として合一した變異の幅の中には現在約5種類が區別されてゐる。)
A. wutaiensis の特徴は, 漏斗状をなす花冠の切込みが深くて, 鋭く尖つた裂片を有すること狹長な葯 (長さ7粍), 表面中肋に疎なる小棘状の剛毛を散布する以外全く無毛となる葉, 同樣に無毛の莖, 兩側に小鋸歯を具へた披針形の鋭い萼片, などに見られる。
5) 清涼シヤジン。四川省産の
Ad. Rockiana Diels への關聯が考へられる。花冠の深さはこれの約1.5倍, Diels 氏の原記載では “葉の基部淺く心藏形……” とあるに反し Nannfeldt 氏の掲げた同種の寫眞 (Act. Hort. Gotob. 5. p. 15) によると業が線状披針形で基部は漸次尖つており基準型から幾分摺れて本植物に近づくらしい。北支, 滿鮮にまだ見當らない要素で西方からの系統であらう。種名は北支植物の研究の際屡々御助言を頂いた舘脇操博士に dedicate する。
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