ブライトイエロー種のタバコ種子の暗発芽に対するグリシン, α-アラニン, L-アスパラギン酸, グルタミン酸, α-ケトグルタル酸の影響を, それらのpHを0.2間隔でHCl, KOH, NH4OHで調整して検討した. 10ppmのジベレリンは暗発芽をひきおこさないが上のアミノ酸などが共存すると, pH4.0より酸性の範囲ではさかんな発芽をひきおこす. しかしすでに問題とした7-9) pH4.7での発芽はグルタミン酸以外では認められなかった.
一方ジベレリンの存在しない発芽床のpHを上と同様にして調整したときには, グルタミン酸のみが広いpH域にわたって暗発芽をおこす作用をもつことが認められた. しかもすでに述べた
9)有機酸の場合と異なり, pHがNH
4OHだけでなく, KOHで調整されたものであってもよいことが特徴的である.
本実験結果およびすでに述べた諸実験
7-9)の結果から, タバコ種子の暗発芽はわれわれの実験条件ではpH4.7でおこるものと, さらに酸性の側(pH4.0以下)でおこるものとに区別されるが前者が発芽床のpHを調整する物質にかかわらず一般的であるので, ここではまずこれについて考察をした.
1) ジベレリンの存在するときは, 含窒素無機塩, 有機酸のアンモニウム塩またはカリウム塩のいずれかが共存することによって高い発芽が認められる. しかし, この現象は種子の貯蔵期間(生理的齢)が長くなるにつれて徐々に認められなくなる. また実験した範囲のアミノ酸では, NH
4OHのみならずKOHでpHを調整されたグルタミン酸も高い発芽をひき起こすが, この現象は種子の生理的齢の進行によってもおとろえない.
2) ジベレリンの存在しない発芽床上では, 有機酸とNH
4OHの存在によって生理的齢の若い種子の発芽がおこるがその際の発芽率は高くない. しかもこの現象は生理的齢の進行と共に急速に認められなくなる. グルタミン酸を与えたときは, 共存するものがNH
4OHでもKOHでもこの発芽誘起作用が認められるが, 生理的齢の進行によってその発芽率は徐々に低下する.
以上からpH4.7における暗発芽には少なくともジベレリン(様物質)とグルタミン酸(様物質)の両者が必要と思われる. 生理的齢の若い種子ではこの両物質とも含まれているが暗発芽をおこすのにはやや不足であり, とくにグルタミン酸の不足が著しい. したがってグルタミン酸を与えることによつて発芽をひきおこすことができる. 生理的齢の進むにつれて両物質の欠乏が大きくなり, 両者を同時に与えることによりはじめて暗発芽をおこさせることがでぎる. また生理的齢の若い種子は有機酸とNH
4OHとからグルタミン酸(様物質)を合成する能力をもつので, グルタミン酸のかわりに有機酸とNH
4OHを与えることによって暗発芽をおこすことができる. また若い種子はジベレリンの存在で上のグルタミン酸合成能力だけでなく, 含窒素無機塩を与えた場合(種子内の)有機酸を材料としてグルタミン酸を合成するはたらきが強められ暗発芽率が高められると考えられるが, これらグルタミン酸合成能力は種子の生理的齢の進行とともに失われ発芽率の低下をもたらすのである.
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