富栄養淡水池 (東京大学構内心字池) の植物プランクトンを用いて1年にわたり毎月光合成-光曲線および光合成-温度曲線をつくって, その季節的変化を調べた. この池の表面水温は8月に最高(約30°), 1月に最低 (約4°) を示した. 比較的珪藻の多いこの池のクロロフィル量は5月に最大(0,49mg/
l)となり, 8月に第2のピーク (0.39mg/
l) が見られた. 池の水 1
l あたりの一次生産力は5月 (4.1mgO
2/
l/hr.) および8月 (5.6mgO
2/
l/hr.) にピークが見られた. 光合成-光曲線では1年を通じて強光阻害が見られず, 湖沼や内湾の水の華の時期の植物プランクトンの光合成曲線と同じような傾向を示し, 外洋の植物プランクトンの光合成曲線とは著しい対照を示した. 光合成-光曲線の光飽和点は春から夏にむかって徐々に高くなり, その後冬にむかって低くなる傾向が得られた. また, I
k値 (光合成-光曲線の最初の立ちあがりの勾配を示す直線と光飽和になった時の光合成値を示す直線との交点の光の強さ) の変化もこれと同様の経過をたどり, 夏季には大きな値を, 冬季には小さな値を示し, 陽生型•陰生型の分化が認められた. 光合成-温度曲線は, 単種培養の材料で得られたようなシャープな山は見られず, 温度の上昇とともにゆるやかに上昇して最大を示した後, ゆるやかに低下する傾向を示した. これは異なった適温をもつ種々の植物プランクトンが混在していることによるものと考えられる. しかし, 池の水温の上昇とともに, 春から夏にかけて光合成の最適温度も上昇し, 8月に最高 (約30°) になり, その後ふたたび低下することが明らかになった. 夏季には池の水温と光合成の最適温度とは非常に近い値を示したが, 冬季の場合にはかなりの開きが認められた. 4月-11月には植物プランクトンの光合成の最適温度は池の水温と直線的な関係を示したが, 冬季の場合には1月の15°を除き, ほぼ20°のところで光合成の最適を示した. 一方, 植物プランクトンの種類組成の季節的変化にはあまりはっきりした傾向は認められず, 3月から6月にかけては珪藻 (
Synedra, Melosira など) が比較的多く, 9月•10月には藍藻が, 12月•1月には鞭毛藻(
Trachelomonas, Cryptomonas など) が多く見られたが, その他の種類もかなり混っており, とくに7月と11月には種々の緑藻•珪藻•藍藻•鞭毛藻がほぼ同じ程度に混っているのが見られた.このように光合成の最適温度の季節的変化は植物プランクトンの種類組成の変化とはそれ程緊密には関連しておらず, 第II報で報告する予定の培養した
Chlorella の光合成-温度曲線の変化からも推定されるように, 同一種類でも光合成の最適温度はある幅をもって変わりうることを示すものと考えられる.
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