山地河川生態系の主要な一次生産者は底生藻類である. 本研究は荒川上流の山地部に定点を設置し, 底生藻類群落のクロロフィル量と光合成特性の年変化を調べ, これらの資料を基礎に流水生態系における有機物生産の機構と代謝特性を明らかにしようとした. クロロフィル現存量は冬季に多く300mg/m
2から500mg/m
2, 夏季には 100mg/m
2から200mg/m
2の変動を示した. 底生藻類群落内における光の減衰(
I)とクロロフィル量(
M)との関係は
I0exp(-0.02M)で示され, また生産層中のクロロフィル量の最大値は200mg/m
2であることを実験的に確めた. 藻類の光合成-光曲線は著しい年変化を示すが代表的な陽生型は夏季に, 陰生型は冬季にみられた.光合成能力の年変化は湖沼植物プランクトンのそれとほぼ同じで, 夏季に最高値12mgO
2/chl.mg/hr.,冬季に2mgO
2/chl.mg/hr. の最低値を示した. 光合成-光曲線の特性を左右する主要因は河川では温度で光合成-温度係数はほぼ2.3であった. 山地河川生態系における藻類群落の有機物生産速度をクロロフィル法で求めると最高値は7月の11.3g O
2/m
2/day, 最低値は冬季の2.5Go
2/m
2/dayである. また年総生産量は2.2kg glucose/m
2である. 流水生態系における基礎生産速度は他の水界生態系に比してかなり大きいが,生態系内ではP/Rが常に1より小さいため, 系の代謝は従属栄養的と考えられる.
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