長野県霧ヶ峯のススキ型およびトダシバ型群落の年間純生産量を明らかにするため, 地上部•地下部現存量 (乾量) および植物遺体 (litter) 量の季節的変化をしらべ, また各種群落の生産構造を明らかにした.
1. ススキ型, トダシバ型, およびササ型群落の生産構造を層別刈取法により調査した (Fig. 1-A,B,C).ススキ型群落 (草丈 120cm) にはかなり明瞭な階層分化がみられ, ススキの葉は主として40cm以上の上層に, 他の草本類は下層にそれぞれ分布するのがみられた. 群落下層の相対照度は低く, 3-5% であった.
トダシバ型群落 (草丈 80cm) の生産構造には, ススキ型とことなって, 明瞭な階層分化はみられず, また最下層 (0-20cm) に大部分の葉が分布しているのがみられた.
2. ススキ型群落の地上部現存量は9月上旬に極大値 (約 380g/m
2) を示した (Fig. 2-B). 一方, トダシバ型群落の地上部は8月下旬に極大を示し, その現存量は約 270g/m
2 であった (Fig. 2-A).
生育期間中の地下部現存量は, ススキ型群落 487-717g/m
2, トダシバ型群落 402-502g/m
2で, 明瞭な季節的変化の傾向はみられなかった (Table 1). 冬季におけるススキ型群落の地下部平均現存量は 600g/m
2であった. また, 植物遺体量は, 夏季に少なく, 10月~11月に最大 (ススキ型: 434g/m
2,トダシバ型: 208g/m
2)となるような季節的変化を示した (Table 1).
3. 群落を構成する各植物の地上部現存量は, それぞれ特有の季節的変化を示した (Fig. 3-A,B).ススキ型群落では, ススキの地上部現存: 量は生育期間を通じて全体の 40-60% を占め, 9月上旬には極大
値 240g/m
2 を示した。キク科草本の現存量はススキに次いで大きく, その極大は8月下旬~9月上旬にみられた.
トダシバ型群落では, トダシバなどイネ科植物は8月下旬に地上部現存量の極大 (約180g/m
2) を示した.一方, ユリ科草本 (主としてニッコウキスゲ) は6月に, マツムシソウは8月に, それぞれ地上部現存量の極大を示した.
また各植物の地上部/(地上部+地下部)の乾量比も, それぞれ特有の季節的変化を示した. すなわち, ユリ科草本は6, 月下旬,キク科草本は7月下旬, マツムシソウは8月, そしてススキなどイネ科植物は8月下旬以降に, それぞれこの比の極大を示した (Fig. 4).
4. 霧ケ峯のススキ型およびトダシバ型群落の8月下旬における地上部現存量を大面積の坪刈によって測定し, これを日本各地域の山地草原, 大形多巡草原, 湿原などの地上部現存量と比較した(Table 3).
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