近年, 水道水のカビ臭, すなわち臭い水の問題が多発しており, 取水源である河川や湖水の富栄養化による藻類の異常発生とその代謝物であるジオスミンや2メチルイソボルネオール (2MIB) が主な着臭物質とされている.これらの物質は非常に低濃度で水中に存在することから分析には複雑な前処理を必要とする.本文ではまず, 簡単な活性炭抽出法によるGC, GC-MS分析について検討した.ついで, 三点比較法を適用した感覚的測定を行い, これらの着臭物質の水中および気中嗅閾値を測定した.さらに, 実際に臭い水の発生する時期には浄水工程で多量の塩素が添加されるために, 水中の塩素が水の臭気に影響を与えていると考えられることから, この点についても検討した.その結果, 着臭物質の水中での検知閾濃度はジオスミンで3ng, 2-MIBで1ngとなった.また, 今回用いた活性炭抽出法による臭着物質の回収率は約40%と非常に低く, 他の方法を開発することが必要と考えられた.
実際に, 臭い水の苦情が発生している時期の水道水中のジオスミンの濃度は京都市で0.183ug/l, 大津市で0.04ug/lを示し, 20℃での閾希釈倍数は前者で22倍, 後者で18倍となった.さらに, 水中の塩素は水の臭気の程度に大きく影響し, 水道水の残留塩素のみによる閾希釈倍数は京都市で19倍, 大津市で14倍を示し, これらの水中の塩素は着臭物質の臭気にたいしてマスキング作用をもつことが明らかになった.
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