内燃機関から排出される汚染物質のなかには, 市街地の大気中にみられるレベルでも健康上かなり明確な有害性をもつものが存在することが明らかにされてはいるものの未解決な問題が多く残されている.
このような影響が明らかになっていない汚染物質を数10年間も呼吸した場合の被害, すなわち長期的な曝露による影響にたいする知見がいちじるしく不足している.1940年に生れた市街地の居住者が2000年には肺気腫, あるいは肺癌に侵されるかどうかというような長期的な見通しについては今のところ何ともいえない.また, 空気中や肺の中に入った種々の汚染物質の相互作用についてはほとんど判っておらず, さらには閾値濃度に関する情報もいちじるしく不足している.このようなことから, 汚染物質の有害性の点に排気ガス制御の焦点をしぼるべきである.しかし, 有害物質に対する個人的な感受性には大きな差異があるから, もっとも抵抗力の弱い若年者, 老人, 病弱者の保護に重点を置くべきである.
自動車の排気ガスによる大気の汚染を減少するための手段を決定するに当っては, 一般の住民の健康保護にどちらがより有効かという観点と, 抵抗力の弱い人々にたいしてどちらの方法がより必要度が高いかという立場とでは非常に大きなへだりのあることを銘記するべきである.
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