水質分析はその目的, 対象によって提起される問題点が著しく異なる.水質汚濁の監視の立場からは, おのおのの規制項目について痕跡程度の極微量成分を高い感度, 精度, 正確さで定量できる方法が一応確立されてきた.また分析値に影響を与える共存成分とそれらを含む試料の前処理方法が, いろいろなケースについて細密な検討, 工夫がなされてきた.しかし正確な結果を得ようとすればする程, 細心な注意と複雑な分析操作を経なければならないため, 結果を得るまで長い時間がかる.
一方, 新しい原理の水質分析への応用, 例えば原子吸光法による金属成分の分析やガスクロマトグラフ法によるアルキル水銀, 農薬成分の分析などのように高感度, 高速度分析法が確立され, また各種水質項目について, いろいろな原理を利用した自動分析機器が登場し, 分析時間の短縮と省力化が図られてきた.
しかし, 水質汚濁の諸影響と関連して, 物質の存在状態, 水中化学種の分離及び分析方法, 微量有機化合物の分析方法などの探究は緒についたばかりである.
現状では過去の水質データは単に累積されているのみであり, データ収納のためのデータロガーが開発されてはきたが, さらにデータを水質マネージメントに積極的に活用するためのデータ処理を含むシステム開発がなされなければならない.
水質モニターとしても, 水処理プロセスの管理計器としても, 現在の水質自動測定機器には問題点が多い.管理分析の本質は迅速性にあり, 必ずしも正確さや, 厳密さを要求しない場合が多い.現在の水質自動測定機器は点測定を主眼にしたものであり, 面ないし立体的な広域測定には適しない.経済性を考慮すれば, 手動的要素を含めた半自動的水質計がより積極的に開発, 利用されるべきであろう.
超微量成分のモニターとして単位時間流量当りの濃縮方法及びその装置の開発が望まれる.
しかし, 当面の研究課題はLSI, 又はマイクロコンピュータを積極的に利用した水質分析計の開発であろう.分析値に影響を与える条件や干渉成分などの因子を自動的に読み取り, 複雑に交絡する相互干渉を自動補償するエレクトロニクス系を内臓した, 前処理を要しない, いろいろなマトリックスを含む試料用の自動分析機器が出現するであろう.
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