都市上水道施設のうちでも, とくに配水系統において, 短期の需要量予測ができないために, あるいは常時配水池を満杯にして目いっぱいの余裕をとろうとしたために, その運転操作を誤って, 給水量の不足あるいは浄水量の頻繁な変更など, 重大な支障をきたす例が多い.これらの原因のうち, 余裕をとり過ぎたために, 下流区域の給水量に支障が出たなどというのは論外であり, ここではとりあげない.残る問題は, 数時間先の需要量をできるだけ正確に予測することである.下水道においても, 分流式の汚水処理施設やコミュニティ・プラントでは, 上水道における配水池に相当する施設がないだけに, 汚水量の時間変動をまともに受けて, 処理上支障をきたすことが多く, 水量の時間的均等化とその予測が重要課題である.
このような短期の予測は, 10~20年先といった長期の予測と異なり, 需要を構成する諸要素, すなわち人口, 都市の性格あるいは平均家族構成といったものはその間一定と考えてよく, 現時点の給水量あるいは汚水量レベルにのみ支配される確率分布で, つぎの (1transition time) 水量が予測できると考えてみた.実際, 夏期の異常に給水量が多い日などは, そのピークより数時間前に徴候が現われていることが多い.
一般的マルコフ過程は遷移確率行列 (transition-probability matrix) が各遷移について一定で, いわば定常であるのに対し, 給水量や汚水量 (以下用水量という) の場合は1日をサイクルとして遷移確率行列が時間ごとに変化し, 非定常な現象となるのが大きな特徴である.
まず1日
m回のtransition (24時間を
m等分) に対応して, 用水量の起こりうる範囲を
n段階に分割する.そしてある時刻 (l transition後) の用水量が
j rangeにあるとき, l transitionでstate
jにあると定義する.そうすれば, ある基準時刻 (start) からl transition後の用水量
Qlは, 次式で表わすことができる.
Ql=π (0) ・
P1・
P2・・・・・・・…
Plただし, π (0) ; 基準時刻の状態確率 (state probability of start)
Pl; l transitonの遷移確率行列
過去の実績から各
Plを求めておけば, l transition後の用水量
Qlすなわち状態確率π (l) が,
P1・
P2・・・・
Plのrow vectorと用水量rangeの中央値 (以下用水量レベルという) との加重平均で求めることができる.
実際の予測作業ではπ (0) は既知であり, 基準時刻のそれぞれの状態について予測をすれば足りる.
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