日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
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45 巻, 1 号
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会告
Editorial
症例報告
  • 川勝 章司, 磯谷 正敏, 原田 徹, 金岡 祐次, 亀井 桂太郎, 前田 敦行, 高山 祐一
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 3-7
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     症例は55歳の女性で,2009年7月初旬に急性腸炎に罹患した際に施行した腹部造影CTで,偶然に肝内門脈枝分岐異常を認めた.門脈右枝から分岐した一つの大きなアーチ状の肝内門脈枝が左方へ転回し,肝左葉を還流していた.門脈本幹から直接に左葉へ向かう枝は認めず,門脈左右分岐部の欠如と診断した.この門脈枝異常はまれな先天奇形ではあるが,肝円索,胆嚢の位置を含め,肝臓に外観上の異常を伴わず,肝切除術,特に肝右葉切除術を施行すると致死的合併症を生じる可能性があるため注意が必要である.肝切除術を施行する際にはこのようにまれな先天奇形も念頭に置いて術前画像検査を詳細に検討することが重要であると考える.
  • 石川 奈美, 福山 時彦, 中島 洋, 田村 利尚, 皆川 紀剛, 八谷 泰孝, 佐古 達彦, 平野 豊, 濱田 哲夫
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 8-15
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     門脈左右分岐部の欠如は極めてまれな肝内血管の走行異常であり,この異常は重大な危険性を孕んでいる.肝右葉内を走行する右門脈と思われる血管が門脈本幹であり,肝右葉切除の際に,これを右門脈と誤認して結紮すると全肝の門脈血が遮断される.術前にこの血管異常を把握し,安全に肝切除術を施行しえた肝細胞癌の1例を経験したので報告する.症例は62歳の男性で,2003年に慢性C型肝炎を指摘され,2007年3月より当院内科にてインターフェロン治療を施行していた.9月腫瘍マーカーの上昇を認め,腹部CTにてS5に径6cm大の肝細胞癌を認めた.血管造影では門脈左右分岐は欠落しており,S5に6cm大の腫瘍濃染像を認めた.肝動脈造影では固有肝動脈が欠落する走行異常を認めたが,胆管系の走行は正常であった.術前肝動脈化学塞栓療法を施行した後,肝亜区域切除を行った.手術に際し,CTA再構築,術中USおよび色素注入が有用であった.
原著
  • 朴 秀吉, 福永 潔, 小林 昭彦, 小田 竜也, 村田 聡一郎, 佐々木 亮孝, 大河内 信弘
    原稿種別: 原著
    2012 年 45 巻 1 号 p. 16-22
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     はじめに : アルブミン製剤は術後患者や重症患者に広く使われているが,近年,適正使用が勧められている.そこでわれわれは肝細胞癌切除術後患者を対象にアルブミン製剤の使用指針を厳守し,術後経過に与える影響について検討を行った.方法 : 対象は2005年9月から2010年5月までに肝細胞癌に対して切除術を行った72例である.2008年9月以降,使用指針を厳守し,アルブミン製剤使用を制限した.症例を制限前の36例と制限後の36例に分け,患者背景因子,手術因子,術後アルブミン製剤使用量と術後血清アルブミン値,大量腹水発症率,在院死亡率,術後在院日数について比較検討を行った.結果 : 制限後群は男性が多く,ICG-R15が高値であったが,それ以外の患者背景因子,手術因子に有意差を認めなかった.術後1週間のアルブミン製剤使用量は制限後群で有意に少なく,それに伴い血清アルブミン値は有意に低値であった.大量腹水は制限前群に3例(8.3%),制限後群に5例(14%),在院死亡は制限後群に1例(2.8%)認めたが,これらの術後因子については術後在院日数を含めて両群間に有意差を認めなかった.考察 : 肝細胞癌切除術において術後にアルブミン製剤の使用を制限し,血清アルブミン値が低値であったが,術後経過に有意な悪影響を及ぼさなかった.さらなる検討が必要であるが,肝細胞癌切除術後にアルブミン製剤の使用量を節減できる可能性がある.
症例報告
  • 竹林 克士, 木ノ下 義宏, 小澤 毅士, 中川 正敏, 田中 毅, 小川 雅子, 江原 一尚, 上野 正紀, 宇田川 晴司
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     症例は43歳の男性で,平成21年6月ころより嚥下困難を自覚した.上部消化管内視鏡検査にて,下部食道に約5cmの隆起性病変を認め,生検にて顆粒細胞腫と診断された.造影CTにて,多発肝転移が疑われた.当院入院となり,消化管閉塞の改善のため,下部食道胃上部切除,間置空腸再建,肝生検を行った.病理組織学的検査では,リンパ節転移は認めなかったが,原発巣と同様の腫瘍成分を肝臓に認め,肝転移と診断した.転移巣を有することより,悪性食道顆粒細胞腫と診断した.術後,肝転移に対して化学療法を行ったが,転移巣は増大し術後14か月目に原病死した.食道顆粒細胞腫はそのほとんどが良性疾患であるが,悪性例もまれに報告されている.その良悪性の診断には苦慮する場合もあり,十分な検討が必要である.
  • 宮地 智洋, 土屋 誉, 本多 博, 及川 昌也, 柿田 徹也, 小山 淳, 佐藤 龍一郎, 矢澤 貴, 土屋 堯裕, 宮川 菊雄
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 30-37
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     Type 1胃カルチノイドの発生機序は,A型胃炎に伴う胃内低酸状態から幽門洞G細胞のガストリン産生が刺激され,このガストリンのtrophic actionにより胃底部から胃体上部に存在するEnterochromaffin-like(以下,ECLと略記)細胞が腫瘍化することによるとされている.今回,我々はType 1胃カルチノイドに対し幽門洞切除を行い,全腫瘍を消退しえた1例を経験したので報告する.症例は38歳の男性で,人間ドックの上部消化管内視鏡検査にて胃底部から胃体上部に,萎縮粘膜を背景に多発する小隆起性病変を認め,生検にてカルチノイドと診断された.抗胃壁細胞抗体陽性であり,高ガストリン血症も認め,Type 1胃カルチノイドと考え,胃機能温存を考慮し,幽門洞切除術を行った.術後血清ガストリン値は基準範囲内まで低下し,14か月目の上部内視鏡検査にて全腫瘍の消退を認め,その後も再発することなく4年間経過している.
  • 明石 諭, 山田 行重, 杉森 志穂, 伊藤 眞廣, 川崎 敬次郎, 尾原 伸作, 吉川 高志
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 38-45
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     症例は82歳の女性で,1週間持続する嘔吐で当院に入院となる.腹部CTにて上部空腸の狭窄・壁肥厚を認めた.小腸造影では十二指腸憩室および上部空腸に造影剤の貯留を伴う3cm大の陰影欠損を認め,小腸腫瘍によるイレウスと診断し,手術を施行した.手術所見では,トライツ靭帯から約20cmの空腸内に腫瘤を触知し,空腸部分切除術を施行した.切除腸管内には2.3cm大の腸石を認めた.この腸石は結石分析でデオキシコール酸が98%以上を占めており,真性腸石の一種の胆汁酸腸石であった.十二指腸憩室は比較的よくみられるが,治療を必要とすることは少ない.自験例のように憩室内からの腸石落下によると思われるイレウス発症の報告は少なく,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 林 真路, 竹田 伸, 藤井 努, 杉本 博行, 野本 周嗣, 宮原 良二, 丹羽 康正, 後藤 秀実, 中尾 昭公
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 46-53
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     症例は77歳の男性で,特に自覚症状はなかったが,他科疾患フォロー中に,スクリーニングの上部消化管内視鏡検査で十二指腸腫瘍を指摘された.十二指腸下行脚乳頭部側で乳頭部よりわずかに口側に10mm大の隆起性病変を認め,低緊張性十二指腸造影検査では,腫瘍の下縁と乳頭部上縁の距離は約2cmであった.生検で腺癌と診断され,超音波内視鏡検査で深達度MPと診断されたため,高齢で基礎疾患を多く有するが,手術の方針とした.十二指腸下行脚は膵頭部からの剥離がある程度可能であり,低侵襲手術として幽門側胃切除術を施行した.病理組織学的には,Brunner腺発生の腺癌であり,胃癌取扱い規約(第14版)に則ると,pT1pN0 H0 P0 CY0 M0 ly0 v0 pPM(-)pDM(-)pStage IAであった.術後1年経過するが,無再発生存中である.
  • 伊賀 徳周, 泉 貞言, 徳毛 誠樹, 鈴鹿 伊智雄, 塩田 邦彦
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 54-59
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     肝細胞癌における門脈腫瘍栓は不良な予後因子の一つである.組織学的な門脈浸潤を含めると5cm以下の肝癌においても比較的多くみられるが,2cm以下の肝癌で門脈本幹まで伸展する例は極めてまれである.今回,我々は原発巣12mmでありながら門脈本幹に伸展する肝細胞癌症例を経験した.症例は55歳の男性で,全身倦怠感,食欲低下を主訴に当院受診.腹部超音波検査,CTで左門脈内を中心に本幹へ及ぶ腫瘍塞栓を認めた.腹部血管造影検査では門脈左右分岐部の欠損と同部位の濃染像を認めた.肝左葉+左S1切除,門脈腫瘍栓除去術を施行し,病理結果はS4に12×8mmの肝細胞癌を認める以外には原発巣となり得る病変は認められなかった.術後肝動注FP療法を1年施行した.術後から16か月経過し肝S7,S8に新たな腫瘍性病変を認めてはいるが病勢コントロール良好に経過している.
  • 大橋 拓, 坂田 純, 金子 和弘, 若井 俊文, 白井 良夫, 味岡 洋一, 畠山 勝義
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 60-66
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     胆管癌が急性膵炎の原因となることはまれである.今回,急性膵炎で発症した下部胆管癌の1例を経験したので報告する.症例は65歳の女性で,急性膵炎を発症した.膵炎は保存的治療で軽快するものの,食事の再開で再燃を繰り返した.ERCPでは膵頭部主膵管と下部胆管とに狭窄を認めた.副乳頭からの造影剤の排出を認めなかった.CTでは膵体尾部に主膵管拡張と仮性嚢胞とを認めたが,膵頭部に腫瘤を認めなかった.以上より,主膵管,下部胆管の狭窄を伴う難治性の特発性膵炎と診断された.保存的に治癒が見込めず,小膵管癌による膵炎も否定できないため,膵頭十二指腸切除を施行した.病理組織学的検査で,主膵管浸潤を伴う下部胆管癌(2.4×2.0cm,深達度ss,pPanc2)と診断された.十二指腸主乳頭には異常を認めなかった.以上より,自験例における急性膵炎の原因は,下部胆管癌の主膵管浸潤による膵管内圧上昇と考えられた.
  • 下村 誠, 小倉 嘉文, 世古口 務, 谷口 健太郎, 佐藤 梨枝, 小林 基之
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 67-73
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     12年間の経過観察ののち,膵管出血を来した膵管内乳頭粘液性腫瘍由来浸潤癌の1例を経験した.患者は84歳の女性で,1998年より他院にて膵嚢胞性腫瘍の診断で経過観察されていた.2008年7月心窩部痛と下血を認め,当院内科を受診.膵管出血を伴う膵管内乳頭粘液性腺癌と診断されたが経過観察となった.2010年3月,下血を繰り返すようになったため,手術目的に当科紹介となった.CT所見では膵頭部から体部にかけて巨大な多房性嚢胞性腫瘍を認め,内部は造影効果をもつ乳頭状の隆起を多数認めた.十二指腸内視鏡所見ではVater乳頭からの凝血塊の排出を認めた.開腹時,膵頭体部に小児頭大の多房性嚢胞性腫瘍を認めた.腫瘍背側は硬く,門脈浸潤を認めたため門脈合併切除再建術兼膵全摘術を施行した.病理組織学的検査所見では腫瘍は膵管内乳頭粘液性腫瘍由来浸潤癌であり,粘液癌の形態をとり門脈や十二指腸に浸潤していた.
  • 加藤 健宏, 雄谷 慎吾, 加藤 岳人, 平松 和洋, 柴田 佳久, 吉原 基, 山田 英貴, 植村 則久, 夏目 誠治, 前多 松喜
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 74-80
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     症例は57歳の男性で,17歳時に特発性血小板減少性紫斑病で脾臓摘出の既往がある.自覚症状はなく,健診で膵尾部腫瘤を指摘された.血液検査上,血小板数・腫瘍マーカー・ホルモン値の異常は認めなかった.腹部造影CTにて,膵尾部に早期から造影効果を伴う直径約2.5cmの球状の腫瘤を認めた.MRIでは,T1強調画像・T2強調画像・拡散強調画像のいずれにおいても腫瘤は低信号を示した.腫瘍内部に変性を伴う非機能性膵内分泌腫瘍と術前診断し膵尾部切除を施行した.切除標本の病理組織学的検査にて,腫瘤は膵尾部に接する脾症と診断した.組織内にヘモジデリンが豊富に沈着しており,これによりMRIのT2強調画像で著明な低信号,拡散強調画像にて低信号を呈したと考えられた.
  • 垣本 佳士, 牛丸 裕貴, 渡辺 孝, 前田 哲生, 加藤 恭郎, 松田 康雄, 山下 憲一
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 81-85
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     症例は59歳の男性で,1か月前から持続する発熱および倦怠感を主訴に当院を受診した.血液検査ではHb 6.6g/dlと著明な貧血を認めた.腹部CTでは小腸に不整な壁肥厚を伴う腫瘍陰影が見られ,また,肝両葉にわたり多数の小結節陰影を認めた.上部下部消化管内視鏡検査では異常は認めなかった.小腸悪性腫瘍,多発肝転移の術前診断で開腹手術を施行した.術中所見では腫瘍は白色で硬く触れたが周囲への浸潤などなく,また腸間膜リンパ節の腫大もなかったため小腸部分切除を行った.術後病理組織学的診断にて未分化癌などが疑われたが,免疫組織染色検査にて悪性黒色腫(amelanotic melanoma)と診断した.全身皮膚および皮膚粘膜移行部などを詳細に検索したが悪性黒色腫は認めず,小腸原発と診断した.退院後dacarbazine(DTIC)にて化学療法を行った.小腸原発の悪性黒色腫は極めてまれであり,文献的考察を加えて報告する.
  • 北條 誠至, 中島 紳太郎, 諏訪 勝仁, 保谷 芳行, 岡本 友好, 矢永 勝彦
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 86-92
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     症例は72歳の女性で,心窩部痛と嘔気を主訴に当院を受診した.下腹部に圧痛を伴う可動性腫瘤を触知し,腹部CTで骨盤内に約10cm大の分葉状腫瘍を認め,巨大腹腔内腫瘍の診断で入院した.腹部造影CTとMRIで上腸間膜動脈を軸にした小腸捻転と小腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)の疑いと診断し待機的に手術を行った.トライツ靭帯から100cm肛門側空腸に壁外発育性の分葉状腫瘍を認め,腫瘍は茎部で約180度捻転していた.また小腸は腸間膜起始部で時計方向に約270度軸捻転していたが虚血は認めず,腫瘍を含めた空腸部分切除を施行した.病理組織学的検査の結果,high-grade malignancyの空腸GISTと診断した.小腸GISTによる小腸軸捻転の報告は散見されるが,検索した範囲でGIST自体の茎捻転を伴った報告は過去になく,非常にまれな病態であり報告した.
  • 上野 陽介, 矢野 公一, 多賀 聡, 秋元 寿文, 蒲池 健一, 島内 貴弘, 石田 慎悟, 衛藤 英一, 新島 奈津子
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 93-100
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     急性腹症を来す疾患に腸管結節形成症があり非常にまれとされ,そのうち回腸とS状結腸が結節を形成するものがileosigmoid knot(以下,ISKと略記)である.ISKでは小腸,S状結腸それぞれに通過障害,腸管虚血が生じ自然軽快は望めず,早期手術が必要である.我々はISKの2症例を経験した.症例1はS状結腸根部を回腸が時計方向に回旋し結節を形成するISK IA型であった.小腸切除を必要としたが,術後経過良好であった.症例2はS状結腸が小腸を時計方向に回旋し結節を形成しているISK IIA型であった.S状結腸の高度虚血性変化ありS状結腸切除を行うも,術後,敗血症性ショックにより,術後第1病日に死亡した.ISKは腸閉塞手術の約1%程度のまれな疾患ではあるが,造影CTでのwhirl sign,腸管のdouble closed loopといった特徴的所見を把握することで術前診断が可能であった.
  • 高野 公徳, 菊池 哲, 阿部 雄太, 石崎 哲央, 壽美 哲生, 島津 元秀
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 101-106
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     症例は69歳の男性で,直腸癌に対し腹腔鏡補助下前方切除術施行した.体位は砕石位で下肢の固定にはブーツタイプの固定具を用い,術中は右側に傾斜したTrendelenburg体位を保持した.覚醒直後より左腓腹部の自発痛と腫脹を認めた.翌朝には症状はさらに強くなり,踵部の知覚障害,足関節背屈障害がみられた.下肢造影CTでは左腓腹部に低吸収域がみられ,血清CKは56,604U/lと著明に上昇,コンパートメント圧は110mmHgと上昇を認め,左腓腹部コンパートメント症候群と診断した.同日筋膜切開を施行したが軽度の知覚障害が残存した.腹腔鏡補助下大腸手術は砕石位で行なわれることが多く,下腿圧迫により生じるコンパートメント症候群はまれであるが,重篤な機能障害を残す可能性のある合併症である.予防策を十分に行なうとともに発症した際には早期に適切な対処を行なう必要があるので若干の文献的考察を加え報告する.
  • 大塚 新平, 磯谷 正敏, 原田 徹, 金岡 祐次, 前田 敦行, 高橋 祐
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 107-112
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     症例は66歳の男性で,平成20年8月からの肛門部痛および肛門周囲の硬結を訴え,平成21年3月に当院を受診した.一時期は抗菌剤内服で軽快したが,再燃したため7月に精査入院となった.2~10時方向の肛門周囲皮下に馬蹄形の腫瘤形成を認め,11時の陰嚢付近に自潰口を認めた.骨盤CTでは肛門周囲に広がる12×28mmの腫瘤影を認め,MRIでも同部位はT1強調像で低信号,T2強調脂肪抑制像で高信号を呈していた.肛門周囲膿瘍の診断で手術を行うと,腫瘤内部に魚骨を認めたため,魚骨の直腸穿通による肛門周囲膿瘍と診断した.病理組織学的検査では放線菌を同定した.約1年の経過をたどり,手術によって治癒した魚骨による肛門周囲放線菌症の1例を経験したので報告する.
  • 柴尾 和徳, 日暮 愛一郎, 中本 充洋, 山口 幸二
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 1 号 p. 113-122
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     胃癌に対し,腹腔鏡下胃全摘Roux-en-Y(RY)再建術を施行した2症例で術後内ヘルニアを経験したので報告する.症例1は76歳の男性で腹痛を主訴に来院した.CT所見で空腸の捻転とY脚腸管の拡張を認め,緊急開腹術を施行した.術中所見では,空腸空腸吻合部の肛門側小腸がY脚間膜欠損部に嵌入しており,Y脚腸管が絞扼していた.虚血性変化は認めなかったため捻転を整復し,Y脚間膜を閉鎖して手術を終了した.症例2は74歳の男性で術後,腹痛を繰り返すようになり,審査腹腔鏡を施行した.術中所見では,挙上空腸が180度捻れ,Petersen's defectに小腸の大部分が陥入していた.小開腹下に捻転を解除し,ヘルニア門を閉鎖した.RY術後内ヘルニアは,時に重篤な経過を辿ることもあるため,腸間膜閉鎖などの予防に留意するとともに疑診例では審査腹腔鏡を検討するなど迅速かつ正確な診断と治療が必要と考えられた.
臨床経験
  • 山田 大輔, 笠 普一朗, 藤野 稔, 佐田 政史, 西中 秀和
    原稿種別: 臨床経験
    2012 年 45 巻 1 号 p. 123-129
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/01/21
    ジャーナル フリー
     単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術に特有の干渉は,術野の保持や繊細な操作を妨げ,安全性や術者ストレスに多大な影響を与えている.我々は,体内干渉を解消し,拡大視野を保持したまま,繊細な操作が行える術式を開発した.本手術の干渉は,近接したポートから3つの器具(切離デバイスと把持鉗子と腹腔鏡)がそれぞれ動くことに起因する.しかし切離デバイスと腹腔鏡を平行に一緒に動かすことで,疑似的に2つの器具で行う手術となる.術者が腹腔鏡と切離デバイスを並べて同時に動かし,助手が屈曲鉗子を術者と重ならないように用いることで,本手術における体内干渉は解消した.2009年12月から2010年8月までに41症例に対し本術式を行い,37例(90.2%)で完遂した.平均手術時間106分,平均出血量2.1mlであった.本術式によって,安全性の向上と術者ストレスの軽減がもたらされた.また本術式は,導入や適応拡大にも貢献できると考える.
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