葉内加里含度日變化の測定は, 時刻毎に比較する葉が別個の葉であつてはならないという著者の實験的及び理論的根據からして, 同一葉における諸時刻の加里含度測定によつて眞の日變化を把握しようと企て, トウゴマ・ワタ・キクイモ・サツマイモ・クワイ計5種植物の葉を用い, トウゴマの葉ではこれが掌状であることを利用し, かつ同一葉の各裂片の加里含度に差が無いことを確かめた上, 同一葉の各裂片を順次に異る時刻に採つてその加里含度日變化を測定し, 他の4種材料では葉の主脈の左右兩片の加里含度に差の無いことを確かめた上, 同一葉を此の兩片に分けて採ることによつて, 晝と夜の加里含度比較を行つた。但し, 何れの場合も, もし葉の一部を先に切取ることが其の葉の後の部分の加里含度に變化を與えるとすれば, 測定に誤差を生するので, 諸時刻又は書夜の採取順位を交替させてその平均値を探ることによつて, 誤差を相殺するよう考慮を拂つた。更に葉からの加里移動の方向及びその生理學的意義を推知するための一資料たらしめるべく, 葉以外の器官の加里含度の晝夜の比較をキクイモ植物において行つた。
かくて得られた結果の加里含度日變化の表示には, 從來試みられなかつた組織粉末容積Vに對する加里Kの含度K/Vを用い, 更に全灰分Aに對する%K/A及び乾物重量Tに對する%K/Tを用いて比較檢討を行つた。その結果を要約すれば次の如くである。
(1) K/V及びK/Aによれば, 葉内加里は確かに日中に増大し夜間に減少するものと判断される。K/Tによればその逆となる。
(2) 上記各表示法におけるKの對比基準値たるV・A・Tの3者それ自身の日變化度は, 幾多の文獻において, Tがきわめて大きく, VとAは遙かに小であることが立證されているから, 上記3表示法中K/VとK/Aとが加里含度日變化の眞の値に近い成績を與えているものと認められる。
(3) いすれの表示法でも, 葉内加里含度日變化の振幅は大きくない。
(4) トウゴマの葉内加里含度は, 3・7・11・25・19・23時の測定では, 3時に最低, 15時に最高であると認められた。
(5) キクイモの莖・根・塊莖の加里含度はK/V, K/A, K/Tいすれの表示法でも, 晝夜による差が殆ど見られなかつた。
(6) 特に貯藏器官の肥大生長に伴うT・Vの増大がさかんな時, K/T・K/Vの日夜の値が殆ど不變であることから見て, 葉から貯藏器官への同化物質の轉流蓄積には, 常に一定比率の加里が隨伴するとも考えられる。
(7) 前研究と本研究と對照して, 葉組織汗pH價と葉内加里含度との兩者の書夜の變化に座行關係が認められた。
(8) 葉内加里の日中の増加は, 加里と上騰水流, 加里と日光乃至同化作用との間の密接な關係の存在を示唆すると思われ, 他方夜間の減少は, 加里が同化物質の轉流に伴つて葉から移動することによると推定される。
(9) 加里の缺乏は, 葉から貯藏器官への同化物質の轉流を阻害し, 爲に葉の同化能率を低下せしめるとの前研究の見解が, 本研究の結果からも支持されると認められる。
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